【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ

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本編

【閑話】馬と鹿の頭

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 よく晴れた、夏の日だった。

 私は青いワンピースを着ていて夏の風がふわふわと足元を撫でていたのを覚えている。

 父親同士が同じようなビジネスを営むマルクスと私は昔からよく顔を合わす仲で、趣味や性格は異なるけれど、まぁ良き友人という関係にあった。マルクスには歳の離れた妹がいたけど、彼女は養子縁組で国外から引き取った貴族の娘らしく、その日は学校で居なかった。


「紹介したい友達が居るんだ」

 そう言ってマルクスが連れて来たのは、彼と同級だという貴族の男だった。金髪に碧眼という華やかな容姿をしたその人は頭を下げて自分をレナードと名乗った。

 いくら鈍い私でも、その名を聞いて思わず身を屈めた。

 レナード・ガストラ、それはラゴマリアの王太子の名前だったから。どういう経緯でマルクスとレナードが友達になったのか謎だけれど、素行や成績はどうであれ一応公爵家の人間であるマルクスが学園で知り合ったというのだから、彼は勉学には秀でていなくても社交の才はあったのだろう。

「レナード様…はじめまして、イメルダです」
「はじめまして。どうか畏まらないで」
「しかし、」
「マルクスの友人は俺の友人だ。彼に接するように俺にも接してくれると嬉しい」

 穏やかな笑顔に、私は王族の懐の深さを知った。
 現国王のコーネリウス・ガストラの評判の高さは歴代類を見ない程だという。その息子だというレナードもまた、父親の人の良さを継いでいるようだった。

 私は目を動かして、レナードが引き連れている小さな馬の方を見た。白い馬はまだ子供のようで、私たちの腰ほどの背丈しかない。

「可愛い……貴方の馬なの?」
「ああ。バーニーズっていうんだ。大人しいから触ってみる?」
「え、良いの?」
「俺は前に餌やりもさせてもらったんだぞ!羨ましいだろう?」

 隣で威張るマルクスに呆れながら、私は恐る恐る手を差し出してみる。艶々と光る白い毛にそっと触れると、仔馬はくすぐったそうに少し動いた。

 ビックリして思わず後ずさる私の背中をレナードが支える。

「大丈夫。怖がらないで」
「ごめんなさい、私初めてで…」
「イメルダ、名前を呼んであげて。安心するから」

 言われるままにバーニーズの名前を呼ぶ。
 そうやってそろそろと首筋を撫でたら、先ほどよりもゆっくりと瞬きを繰り返して、仔馬は目を閉じた。

 私は嬉しくなってレナードの方を見る。
 彼もまた、美しいエメラルド色の瞳をこちらに向けていた。

「ね?怖くないだろう?」
「本当ね…ありがとう、貴重な経験だったわ」

 その後は三人で餌をあげたり、草原の上で話し合ったりした。兄弟のいない一人っ子の私とレナードを相手に、マルクスが妹の可愛さを語って聞かせた時はムッとしたけれど、それも一瞬のことだった。

 話題がドット公爵家に新たに設置された鹿の頭に移っても、私はまだぼうっとしていた。その悪趣味なインテリアは公爵の趣味なのね、ぐらいの印象を持ったぐらい。

 意識はずっと雲のように遠くを漂っていた。
 初めて触れた仔馬の柔らかさ、長い睫毛、そして私に触れたレナードの大きな手は暫くの間何度も頭の中に浮かんでは消えてを繰り返した。

 あの時、宝石のような翠色の双眼を自分のものにしたいだなんて欲は、私の中には微塵も無かった。

 ただただ、眩しくてあたたかい。
 それが、初めて会ったレナードに私が抱いたイメージ。

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