【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ

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番外編

『溺愛以外お断りです!』4

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 その日の夕食はコーネリウス国王が狩りで捕まえて来た鹿肉をワインで煮たものだった。上に載ったサワークリームのさっぱりとした酸味がお肉とよく合う。

 チラリと横目にレナードの様子を見る。
 いつも通り。いたっていつも通り。

 覚悟を決めて息を吸い込み、口を開いた。


「あのね……レナード」
「どうしたの?」

 ラゴマリアの太陽が不思議そうに首を傾げる。
 私は机の下できつく拳を握りしめながら、あらかじめ用意していた言葉を頭の中で並べる。大丈夫、何度も練習したんだから大丈夫。

「その…グレイスが本を出すって話をしたでしょう?」
「ああ、この前話してくれたね。詳細を聞く時間が取れなくて申し訳ない。彼女の予定はどうだったかな?」
「その件なんだけど、」

 ヒック、と変なタイミングで王妃がしゃっくりをした。
 驚いた皆の視線が集まる先でフェリスは「ごめんあそばせ」と小さく笑う。頭の上の鳥の巣が少しだけ揺れた。

(しっかりして、イメルダ……!)

 レナードのエメラルド色の瞳を見つめる。
 べつに緊張するようなことではないはずだ。


「グレイスがね、出版する本の内容なんだけど…どうやら私たちの出会いに寄せているみたいでね」
「え?それはどういう……」
「いえ、べつに本名が出てるわけではないんだけど、パロディって言えば良いのかしら?少し私たちに似た人物が出て来たり…するような……」

 最後の方の言葉は小さくて聞き取りずらくなっていた。

 恐る恐る顔を上げてレナードの反応を見てみる。
 特に変化がないようだけど、見方によっては不機嫌な時の顔にも見えた。以前、デリックが処罰を軽くするように異議申し立てを送って来たときも、彼はこんな顔をして書面を読んでいたのだ。

「良いんじゃないか?気にしないよ」
「あ……そうよね。ごめんなさい、言っておきたくて」
「彼女の夢だったんだろう。俺からも祝福を伝えてほしい」
「ええ。伝えておくわ」

 私は口を噤むと、またもや食卓は静かな空気が流れた。
 時折、王妃の頭の上で雛鳥がさえずる以外はほぼ無音。

 先ほどから何度か目が合うコーネリウス国王が何か言いたそうにこちらを見るので、私は首を傾げた。というか、どうして今日はこんなに皆何も喋らないのだろう。


「そういえば!」

 気まずい食卓にデザートが並び始めた頃、思い出したようにフェリス王妃が声を発した。

「今日の夕方、セイハム大公から連絡があったの。明日王都へ来る予定があるそうで、一度挨拶に来たいって」
「挨拶………?」

 唸るように国王が聞き返す。

 それも無理はない。セイハム大公と呼ばれるアゴダ・セイハムは、私に以前薬を盛ったことがあるデリック・セイハムの父親だ。あの事件の後で大公本人から謝罪の手紙が届いたものの、実際に顔を合わしたことはない。

「イメルダと僕にも出席しろと?」
「大公はそう望んでいるみたいだけど」
「正気ですか?」

 明らかに気分を害したレナードの声音は正解だと思う。
 デリックはセイハム家から離縁されて現在は修道院で修行する日々にあると聞いたけれど、問題を起こした彼を追い出せば良いというセイハム大公の考えには私も疑問を覚えた。

「どういうおつもりでしょうね…今更」
「さぁね。彼って変わり者だから」

 国王の従兄弟にあたるセイハム大公の来訪は、ガストラ家的には明らかに歓迎されている風ではなかったが「もう了承済み」というフェリスの声を受けて、とりあえず迎え入れることになった。

 私は緊張する身体に意識が向かないように両手を擦る。
 隣に座るレナードもまた、堅い表情のままだった。

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