【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ

文字の大きさ
65 / 73
番外編

『溺愛以外お断りです!』9

しおりを挟む


「なるほどね、それでセイハム大公を疑っていると」

「ええ。証拠もなく人を悪人と決め付けるのは良くないけれど、大公が私に友好的ではないことは分かってる」

「私からしたらデリックの父というだけで十分疑うに値するわ。あの無法者を世に送り出したのは大罪よ」

「それは……」

「悪いが、ちょっと良いか?」

 返答に困る私の前にレナードが割って入った。
 綺麗な金色の髪が視界を横切る。

「なんで君がこの場に居るんだ?ミレーネ」

「あら。大切な友人たちの一大事に駆け付けるのは当然のことだと思うけれど。貴方はそう思わないの?」

「………帰国は来週だと伺っていたが」

「早めたのよ。それぐらいどうってことないでしょう」

 ねぇ?と同意を求められて私は曖昧に頷く。
 レナードとミレーネが蛇とマングース並みの仲であることは以前から知っていたけれど、彼女の留学を経て少しは関係が改善されることを願っていた。

 だけれど、どうやらそれも難しいようで。

 私は久しぶりに会う美しい友人の姿を眺める。腰まであった長い髪は胸元で切り揃えられ、両手には相変わらず高貴な輝きを放つ宝石たちが並んでいた。

 ふと、その中に見たことのない青い石を見つける。夏の夜のような少し明るいブルーの宝石は、彼女が新しく留学先で仕入れたものだろうか。ミレーネに問おうと口を開いた時、ラゴマリア王宮の来客用の部屋の扉が勢いよく開いた。


「すまない、門番に足止めを喰らった。君はどうしてそうも歩くのが速いんだ?俺と並んで歩くことが恥ずかしいのか?」

 バーンと姿を現したのは不機嫌そうな長身の男。
 黒髪の下の青い瞳が部屋に居座る面々を見て驚く。

 見たことのない人物の登場に、レナードに「知り合い?」と聞こうとしたところ、隣に座るミレーネが小さく舌打ちする音が聞こえた。気のせいだと思いたい。

「リゲル、ついて来て良いなんて言っていないわ。貴方が来ると面倒だからわざわざ夜中の便で帰ったのに」

「ああ。おかげでかなり寝不足だ、そんなに照れなくても俺の方から君の友人に話をしよう。みんな聞いてくれ、」

「照れているんじゃないわ……!」

 私は目を丸くして二人のやり取りを眺める。

 あのミレーネ・ファーロングが取り乱している。レナードと婚約破棄しても、私が大勢の前で糾弾されても、澄ました顔を崩さなかった公爵令嬢が。顔を赤くして、男を睨みながら地団駄を踏んでいる。


「………っふふ、」

「イメルダ?」

「ごめんなさい、貴女のそんな姿を初めて見たからビックリしてしまって。素敵なお友達を見つけたのね」

「友達じゃない。俺はリゲル・カローナ、この夏に俺たちは正式に夫婦になった」

「ふっ…夫婦……!?」

 素っ頓狂な声を後ろで上げたのはグレイス。
 私は振り返ったレナードと顔を見合わせた。

 リゲルと名乗る大柄な男はかなりワイルドで男っぽく、ミレーネとは対照的に見える。しかし、その手を払い除けながらも何処か嬉しそうなミレーネを見て、私は彼女もまたこの男のことを大切に思っているのだと理解した。

「待てよ、カローナというとクレサンバル王国の王族ですか…?すまない、連絡を受けていなかったから出迎える準備が、」

「いや、問題ない。妻の友人たちに挨拶をしたかっただけだ。君が元婚約者のレナードくんだな?噂では新しい婚約者を迎えたらしいが結婚はまだなのか?」

「………っ!」

 私は思ってもみない質問に身体が強張る。
 前に立つレナードはどんな顔をしているのだろう?

 コーネリウス国王とフェリス王妃からは「期待している」という言葉をもらったものの、肝心のレナードは一切そんな話を振って来ない。私から急かすのも気が引けるので様子見でここまで来てしまったのだけれど。

「申し訳ませんが……それはラゴマリアの問題なので、今この場でお答えすることは出来ません」

 なるほどね、と面白そうに口角を上げるリゲルの隣でミレーネが目を細めるのが見えた。

しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

嘘つきな貴方を捨てさせていただきます

梨丸
恋愛
断頭台に上がった公爵令嬢フレイアが最期に聞いた言葉は最愛の婚約者の残忍な言葉だった。 「さっさと死んでくれ」 フレイアを断頭台へと導いたのは最愛の婚約者だった。 愛していると言ってくれたのは嘘だったのね。 嘘つきな貴方なんて、要らない。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 11/27HOTランキング5位ありがとうございます。 ※短編と長編の狭間のような長さになりそうなので、短編にするかもしれません。 1/2累計ポイント100万突破、ありがとうございます。 完結小説ランキング恋愛部門8位ありがとうございます。

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。

私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。  読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。 「私は君を愛することはないだろう。  しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。  これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」  結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。  この人は何を言っているのかしら?  そんなことは言われなくても分かっている。  私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。  私も貴方を愛さない……  侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。  そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。  記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。  この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。  それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。  そんな私は初夜を迎えることになる。  その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……    よくある記憶喪失の話です。  誤字脱字、申し訳ありません。  ご都合主義です。  

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

処理中です...