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第二章 ニケルトン侯爵家
19.悪役令嬢は手を振る
しおりを挟む普段着用のワンピースを三着、価値が付きそうな数点のアクセサリー、変装用に使える大判のスカーフ、少しのお化粧品をまとめた袋、指輪を換金したお金を入れた小さな巾着。そして、肌身離さず付けているこの分厚いメガネ。サラからもらったネックレスは修理して首に掛けている。
少ない荷物をまとめて、私は鞄の蓋を閉めた。
次にこの鞄を開く時、私はいったいどこに居るのだろう。最近夜は肌寒いし、どうか温かい寝床に有り付けていると良いけれど。
アリシア・ネイブリーとしての人生に多くは望まない。転生者としての大半がそうであるように、元の世界へ帰ることも絶望的だ。それならば、どうか、彼女が歩めなかった平和で小さな愛がある人生を手に入れたい。
「ねえ、ペコロス。貴方はどこへ行きたい?」
「ブフッ…ブフッフーブフ」
「うーん?分からないけれど、美味しい食べ物があれば貴方はきっと幸せよね」
「ブフッ!」
大きく頷いてペコロスは私の膝に飛び乗った。
重さでよろけながら、小さな巨体を受け止める。
運動不足なのか、ペコロスは大きさの割に肉がみっちりと詰まっていて結構重たい。ペットとしては愛くるしいのだけれど、持ち運ぶという観点からするとかなり腕と腰にくる。明日一日、抱き抱えたまま移動することを思うとある程度の覚悟は持った方が良いだろう。
「貴方、魔獣なんでしょう?明日だけ少し身体を軽くできない?」
「ブッフ?」
「このお屋敷とは今日でお別れなの。明日は新しいお家を探す必要があるから、きっとたくさん歩かなきゃいけなくて…」
「ブフッ!ブフッ!」
「まあ、無茶なお願いよね。大丈夫!なんとかするわ」
小さな魔獣は小首を傾げて私の周りを駆け回る。休憩しながら歩けばなんとかなるだろう。ペコロスを家族として受け入れたのは私。勝手な都合を押し付けずに、責任を持って守らなければいけない。
身軽さを重視して鞄にすべてを詰め込んでネイブリーの屋敷から出て来たけれど、キャスターの付いたトランクケースの方が良かったかもしれない。アリシアの細腕が明日は力を発揮してくれることを祈って、私はペコロスと共に布団へ入った。
◇◇◇
「ありあぁ~~~!!!」
「やだぁ~行っちゃやだ~~!!」
鼻水を垂らしながら、びえんびえんと涙を流す双子を強く抱き締めて私は最後に頭を撫でた。マグリタからはお昼に食べてとサンドイッチを受け取る。仕事で見送れなかったグレイも感謝を伝えていた、と彼女は残念そうに言った。
彼らの後ろでマスクをしたまま少し青い顔で微笑んでいるのは、体調不良から復活した乳母のルイサだ。まだ時折咳き込む姿を見せており、本調子ではない様子。
「私が不甲斐ないばかりに、奥様とアリア様にはご迷惑をお掛けしました。どうもありがとうございました…」
「ふふっ、ルイサったら畏まりすぎよ。貴女がまた休んでも次からはアリアに来てもらうようにするから安心して!」
ビシッと親指を立てるマグリタにルイサは「それでは私の仕事がなくなってしまいます!」と焦っている。その掛け合いを微笑ましく見ていると、ルイサの目が私の胸元を見て止まった。
「その首飾りは……」
「あ、これですか?大切な友人にもらったんです。なんでも彼女の故郷の御守りだとかで」
「ええ。それはアビゲイルの西に位置するサバスキア地方に伝わるものです。私の母が実はサバスキア出身でして」
「そうなの?知らなかったわ」
驚いたように目を丸くするマグリタに、ルイサは「私もあまり行ったことはないのです」と説明する。
サバスキアという地名は『エタニティ・ラブサイコ』の中には登場しない。自分の知っている物語の中に転生したのに、自分の知らない場所が次々に登場するのはとても不思議な感覚だった。
「中に入っているのはサバスキアで有名な蝶の羽から採取した特別な粉末です。貴重なもので、本物は初めて見ました」
興味深い目で小瓶の中を覗き込むマグリタとルイサの視線はくすぐったく、私は肩を竦めた。
「では、大切にしなくちゃいけませんね。そんなに大事なものを私に贈ってくれた友人には感謝しないと!」
サラは元気にしているだろうか。ネイブリー家はエリオットの追及に対してなんと返答したのだろう。今のところは彼がアリシアを探し回っている様子はない。
私は泣きじゃくる双子とそれを宥めるマグリタとルイサに手を振ってニケルトンの屋敷を出た。
◆お知らせ
お話が進んできたので登場人物紹介を追加しました。
ネタバレになるので時戻りなどのタグ追加していないのですが、した方が良いのでしょうか…?
またもやHOTランキング載れずに爆死ルートを突き進んでいますが、見つけて読んでいただいている皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます!
ファンタジー大賞に応募しているので応援していただけたら嬉しいです。HOTではない拙著ですがどうぞ宜しくお願いいたします。
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