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第三章 南の楽園マリソル
27.悪役令嬢は写真を見つける
しおりを挟む「えっと、どちら様かしら?料理教室の申し込み?」
「あ…いえ、私はただ、」
「ちょうどチーズケーキが焼けるの。良かったら一緒にお茶しながらお話しましょう!」
私の手を引いて家に上がるように促しつつ、にこやかに微笑むルイジアナの勢いに押されて小さく頷いた。ニコライもそうだけどマリソルに住む人は太陽のようだ。この温暖な気候のせいだろうか。
足を踏み入れた室内は、温かみのある色合いで統一されていて、ルイジアナのセンスの良さが光っていた。ところどころに掛けられた写真には、若き日のルイジアナとその家族、もしくは友人が映っている。並んだ写真を見るうちに、私は机の上に置かれた一枚の集合写真の前で立ち止まった。
写真の中では、誇らしげな顔をしたドイル・ネイブリーとモーガン・ネイブリーに挟まれるように、恥ずかしそうに笑うアリシアの姿があった。三人の傍には、コック帽を載せたルイジアナがケーキを持って立っている。これはアリシアの誕生日に撮ったものなのだろうか。
「ルイジアナさん」
キッチンで紅茶を淹れる後ろ姿に呼び掛ける。振り返らないままの背中から「なぁに?」と明るい声が返って来た。
「ある方に、貴女の場所を聞いてここまで来ました。アリシア・ネイブリーについて知っていることを教えてください」
「……アリシア?」
ハッとしたようにルイジアナは振り返った。薄い水色の瞳が大きく見開かれて私を捉える。私は頭を覆っていた大きなスカーフを解いて膝の上に置いた。金縁の丸眼鏡を外す。
ルイジアナは驚きの表情を顔に貼り付けて、よろよろとこちらに向かって歩いて来た。遠慮がちに伸びてきた右手が私の頬に触れる。
「アリシア…本当にアリシアお嬢様なのですか?」
「ええ。事情があって少し記憶を失っているの。貴方はネイブリー家で長い間料理長を務めていたと聞きました。よければ、知っていることを教えてくれませんか?」
「知っていること…?」
「なんでも良いんです。貴方が知っている私がどんな様子だったか、教えていただければ助かります」
ルイジアナの瞳を見つめて言い切ると、頭を下げた。慌てたように「顔を上げてください」と言ったルイジアナは、すぐに紅茶を淹れたカップとカットされたチーズケーキを盆に載せて戻って来る。
促されるままに席に着いた私の前で、困惑した顔をしていたルイジアナだったが、やがて意を決したように口を開いた。
「私が屋敷を去る頃…記憶にある最後のアリシアお嬢様は、まるで別人になってしまったようでした」
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