【完結】悪役令嬢に転生しましたが、聞いてた話と違います

おのまとぺ

文字の大きさ
35 / 95
第三章 南の楽園マリソル

33.悪役令嬢は酒場へ行く

しおりを挟む

 何が何だか分からなかった。

 しかし、ルイジアナはネイブリー家で料理長をしていただけなので、彼女がアリシアの恋愛事情に詳しいとは思えない。とは言っても完全に余所者の私よりは事情を理解していることは明白だし、彼女の意見を「そんなことはない」と一方的に突っぱねるのも気が引ける。

 エリオットが気移りするわけない?
 そんなことアリシアは何度も考えたはずだ。

 だけれど実際には、エリオットは錯乱したアリシアを邪魔者としてデズモンドの塔へ送ったし、それっきり会いになど来なかった。厄介払いが目的であることは目に見えている。今世でもデズモンドへの幽閉イベントは告知があったんだから、彼が変わったとも思い難い。

(エリオットを直接問い詰める……?)

 でも、それで逆に捕まってしまう可能性もある。せっかく逃れたバッドエンドにまた自分から飛び込んで行くなんて馬鹿げている。アリシアの気持ちは尊重したいけれど、エリオットが考えていることが分からない以上、下手に動くことは危険なのだ。容易に想像が付くこと。

 自分の心なのか、アリシアの身体なのか、どちらが出処か不明だけれど、とても焦りを感じる。正規ルートを外れた時点で予想できたはずなのに、保証のない人生はあまりに不安だ。元より何が起こるか分からないのは当然だけど、知った世界に転生したからと安心していた部分もあった。


 夕焼けに染まる石畳の道を歩いていたら、一際賑わいを見せる店を見つけた。中を覗くとどうやら酒場のようで老若男女が思い思いに酒の入ったグラスを傾けている。

 その楽しそうな雰囲気に惹き込まれるように、私は店の中に入った。アリシアも成人は迎えているし問題はない。アルコールが気分を紛らわせてくれると、少しだけ期待している面もあった。

「いらっしゃい!何にする?」

 元気いっぱいの若い女が厨房の中から声を掛けてくれる。私は曖昧な笑顔を浮かべて「おすすめのやつをください」と伝えた。この世界における酒の種類を知らない以上、そのようにオーダーするのが無難だろう。

 すぐに真っ黒なコーラのような発泡する液体の中に赤いサクランボが漬け込まれた酒が運ばれて来た。片手で包み込めるほどの小さなグラスに入ったそれを見つめる。

「マリソルは初めて?それね、黒い太陽って呼ばれてマリソルでは景気付けなんかで飲まれる祝い酒よ」
「祝い酒……?」
「貴女、なんだか落ち込んでるから。元気出してほしくて」
「ありがとうございます」

 礼を伝えると女はニカッと白い歯を見せて笑った。

 恐る恐る口を付けてみると、見た目に反してピリリと強めのアルコールが効いている。コーラが入っているのは間違いないけれど、この濃い感じはウォッカか何かを割っているのだろうか。シロップ漬けのサクランボの甘さと相まってなかなかのパンチだ。

 うーん、まさか異世界まできてお酒にやられるとは。これは飲み干すと私はまともに教会の宿舎に帰れるか分からない。というか今更だけど、礼拝者が泊まる宿舎に酔っ払って帰るのはめちゃくちゃ無礼に値するのでは。

 どうしよう、酔いを覚ませば大丈夫だろうか。
 フラフラしながらなんとか会計を終えて「ごめん強かったかしら?」と心配そうに声を掛ける先ほどの店員に、片手を上げて問題ないことを伝えた。

 外はもう少し薄暗くなっている。秋の涼しさを通り越して、やや肌寒い冬の気配が街の通りを包んでいるので、歩く人々も身を縮こませて帰路を急いでいた。

(酔い覚ましにはちょうど良い気温ね、)

 ブルッと震えて、教会の方へと足を踏み出す。下を向いていたせいか、前方から来た男にまともにぶつかった。分厚い肉の厚みを顔面で感じつつ、慌てて謝罪の言葉を述べる。

「ごめんなさい!見えてなくて…!」
「いやぁ、なに、良いんだ。俺たちがアンタに当たりに行ったんだから」
「へ……?」

 間抜けに聞き返した私の口を大柄な男の手が塞いだ。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

処理中です...