【完結】悪役令嬢に転生しましたが、聞いてた話と違います

おのまとぺ

文字の大きさ
40 / 95
第三章 南の楽園マリソル

38.悪役令嬢は懺悔を聞く

しおりを挟む

 夕食を食べて、少し早い時間だったけれど礼拝堂へ向かった。夕方になると教会自体は礼拝者を受け付けていないようで、静まり返った敷地内に私の靴音だけが響く。

 ペコロスは例の如くまた眠ってしまっていたので、少しの間だけならばと思い、そのまま置いてきた。ニコライの話の内容は気になるけれど、早めに様子を見に帰らねば。

 等間隔に置かれた長椅子に座ってたら、後ろの扉が開いてニコライが入って来た。私の隣を通り過ぎた彼は、着いてくるように伝えて先を歩く。

 いつもの彼らしくない態度だ。私の方など一切振り向かないし、笑顔も見せない。ただ、切羽詰まったような、余裕のない顔は気掛かりだった。白いシャツに白いズボン。ニコライが歩く度に擦れる衣服の音を私は黙って聞いていた。


「この場所を知っている?」

 やがて辿り着いたのは、電話ボックスのような小さな一人用の空間が二つ並んだ場所だった。大人が一人やっと入れるぐらいの小部屋には、顔を隠すためか上半身を覆うぐらいの長さのカーテンが付いている。

「いいえ、これは……?」
「懺悔室だ。赦しの部屋と呼ばれることもある」

 その名前は聞いたことがあった。
 たしか一方の部屋に罪を告白したい人間が入って、誰にも話せないようなその話を神父様などの聖職者に聞いてもらうというものだったはず。

 あの便利なシステムはこの世界にもあるのね、と内心驚いていたらニコライはスッと片方の部屋に足を踏み入れた。

「え、どうしたの?何をする気?」
「君もそっち側に座って」
「こんな場所で話さなくても、」
「アリシア……お願いだ」

 有無を言わさぬ強い口調に、私は少し躊躇した後、大人しく身体を押し込んだ。清潔な教会だけれど、やはりこういった古いものからは年月を経た独特な匂いがする。理科室なんかがこういった匂いだったような……


「君がアリシア・ネイブリーだと聞いた時、すぐにはその名前にピンと来なかった。随分と日が経っていたから、忘れてはいけないと思いつつ、僕の頭は平和ボケしていたんだろうね」

 ニコライは自分に言い聞かせるように静かに言葉を紡ぐ。
 仕切られた壁の向こうにある表情は一切見えず、私はただその声音から彼の様子を想像した。力なく、落ち込んだ声。

「アリシア、君は以前僕の服装が暑そうだと言ったね」
「あ……えっと、そうね…」
「たしかに温暖なマリソルでこんな格好をしていたら、そう思われても仕方ないだろう。だけど軽装は出来ないんだ」
「聖職者だから?」
「背中から腕にかけて、大きな火傷の痕がある」
「………っ!」

 息を呑んだ音がニコライに伝わっていないことを祈った。

「もう十年も前に負ったものだ。忘れもしない。十年前、僕は神職を志すことに疲れて、家出をした。夜のうちにマリソルを出て王都へ向かったんだ」
「…………」
「十代前半で訪れた初めての王都はすごく魅力的だった。しかし同時に、残酷なまでに弱者には冷たかった。子供の家出だ、持ち金も限られている。すぐに食べ物に困って、細い路地裏に身を寄せるように何日か過ごしたよ」

 私なんかよりよっぽど辛い経験をしたのだろう。
 夜間に身を潜めて眠るときの不安は私も分かる。ネイブリー家を出てすぐは、行くアテもないので街角で眠った。たった数時間でも落ち着いて眠ることは出来ず、心は心配で震えたのだ。今の私よりもずっと幼いニコライがどんな気持ちだったかなんて、想像に難しくない。

 不安で不安で、先の見えない恐怖に襲われていたはず。

「そんな時だった。ある女が声を掛けて来たんだ」
「……?」
「簡単な仕事があると。パンを片手にチラつかせながら、子供でも出来るから大丈夫だと誘ってきた」
「その仕事は……」
「空腹で目が眩んでいたんだろうね。まともな判断なんか出来なかったよ。犬のように飛び付いて女の言われるがままに行動した。指定された場所に行って、間抜けに拘束されたんだ」
「なんですって?」
「与えられた役目は悪魔を降ろす器だった。女からは魔力の気配がしたが、微量だったから油断していたのもある」

 なんと声を掛ければ良いか分からない。
 語られた内容はあまりに酷く、悲惨だ。

 聖職者としての道を逃れるために向かった先で、あろうことか悪魔を呼ぶための道具に使われてしまうなんて。ニコライの境遇を憂いていたら「話はまだ終わりじゃない」と、震える細い声が聞こえた。


「女が呼んだ悪魔は下級のものじゃない。召喚した悪魔に対して術師の魔力は小さ過ぎた」
「…………」
「僕が痛みに苦しむ中で女は伝えた、より強い魔力を与える…だから、ある人間に取り憑いてほしいと」

 苦痛に歪むニコライの顔が、見える気がした。

「悪魔が取り憑いた人間の名前は、アリシア・ネイブリー。十年前の君を呪ったのは僕だ」

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

処理中です...