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第五章 祈りの王都ダナ
67.悪役令嬢は連行される
しおりを挟む暗闇での生活はそう長くは続かなかった。
というのも、暫く経つと兵士たちがゾロゾロと再びやって来て別の部屋へ連行されたので。暗い階段を一度上がってもと来た道とは反対方向へ進む。
王宮の敷地内を横切る際に外の空気を吸うことが出来たけれど、どうやら真夜中のようだった。秋の虫の声が寂しげにする中で、本殿からほど近い場所にある小さな建物へと兵士たちは入って行く。黙ってついて行ったら、それは塔のような作りになっていた。
「アリシア・ネイブリー、中へ入れ」
急勾配な階段を登ると、塔の頂上には部屋があった。どういうわけか囚人を収容するように設置された鉄格子の中を兵士は指差す。言われるがままにそろりとドレスの裾を持ち上げて足を踏み入れた。
「あの…エリオット様とお話したいのですが……」
「そのような希望は通らない」
「国王と言えども、こんな真似をして許されるのですか?」
「罪人が国王陛下を侮辱するか!」
バシンッと大きな破裂音がして、右頬に痺れるような痛みが走った。私は自分が叩かれたのだと理解するために少しの時間を要した。信じられない。仮にも伯爵令嬢のアシリアを、兵士がその手で叩くだなんて。
重厚な甲冑の中で虚ろな目をした兵士は、私を見下ろした状態で意地悪そうな顔を作った。僅かにめくれ上がった唇が動いて私を「魔女」と罵る。
「……陛下も貴方も大馬鹿者ですね」
「なんだと!?」
「あの時、階段から王妃を突き落としたのはリナリーです。その顔…国王もそうだったけど皆やけにぼんやりしてる。揃いも揃って魅了にでも掛かっているのでは?」
「リナリー様に罪をなすり付けるなど…!」
別の兵士が憤怒の様子で私の肩を壁に押さえ付けた。
どうしてこういう人たちって無駄に力だけは強いのだろう。兵士だから当たり前なのかもしれないけど、肩がもげそうなぐらい指先には力が込められている。ただのか弱い令嬢相手にやけに本気だ、と冷静に観察した。
国王を前にして感じた違和感を、この兵士たちからも感じる。怒っているのに心はどこか遠くにあるような。私を見ているのに、その瞳は私を映していない。
これが魅了だとして、いったいどうすれば解けるのか。
解除するにも魔力ゼロの私に出来ることなど限られている。真っ向から真実を語ったところで、彼らからするとそれは罪人の戯言のようで、取り合ってもくれないみたいだ。
エリオットはどうして魅了から抜け出すことが出来たのだろう。どういうわけか、最後に会ったときの彼はリナリーへの恋心を育てるのは止めたようだった。原因不明の動悸を医者に診てもらって「恋です」と言われるほど、彼はリナリーに傾倒していたというのに。
抵抗しない私に面白みを感じなくなったのか、はたまたこれ以上ここで時間を費やすことは無駄だと思ったのか、兵士たちは床に唾を吐いて部屋を出て行った。食事は三回、扉の下の隙間から差し入れされるらしい。有難いことに簡易的なシャワーとトイレは備え付けられている。
(……これから、どうしたら良いんだろう)
唯一ある小さな窓から手紙でも投げてみる?
紙もないのに無理な話だ。
エリオット・アイデンから逃げ遂せたら不要だと思っていた魔力だけど、やっぱりあった方が役には立つ。凡人と人並み以下の体力の今の私に残された策などあるのだろうか。
聖女の力に目覚めたリナリーのことを考える。あの細い指の上に乗っていたドーム型の指輪。彼女は「サラには勿体ない」と言っていた。その発言から推測できるのは、あれはサラのものだったということ。
なぜ、今はリナリーが持っているの?
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