リセット〜絶対寵愛者〜

まやまや

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第4章〜暗躍編〜

閑話:闇に堕ちる者

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ムルガside




一瞬の事だった。
この迷宮内で俺の目的である人間を俺達が見失ってしまったのは。
何とかボスモンスターを倒して俺達がその後を追った時には、その姿は消え失せていた。
すぐさま周囲を探させても、見つけ出せないその姿。


「・・ムルがさん、もう、あいつらは迷宮に設置されている転移装置で外へ出てしまったのでは?」


配下の1人である男がおずおず俺に意見する。
この迷宮内には、10階、20階、30階、40階とに魔力を流せば簡単に外へ出れる魔道具である転移装置が埋め込めれているのだ。
あの女は、その転移装置で迷宮の外へ出たとしか考えられない。


「っっ、くそっ、見失った!」


地団駄を踏む。
危険を犯してまで、こうして迷宮へ足を踏み入れたと言うのに、まだ俺は目的を達成出来ずにいた。
その姿を見失い、すごすごと迷宮から脱出した前回。
利益もねぇ女の姿を見失うと言う失態を、俺達は何度も繰り返している。


「チッ、」


どんどん薬代や、食料を買い込んだ負債だけが増えていく。
その事実が俺の神経を苛立たせる。


「・・・ムルガさん、もう、これ以上進むのは今の俺達では危険なんじゃないですか?」
「うるせぇな!グダグダ言ってねぇで、あの女の行方をさっさと探せ!」
「ひっ、は、はい!」


慌てて走り去る、俺の配下の奴等。
俺の言う事を聞くしか能のない無能な男達。


「けっ、どいつもこいつも、全く無能すぎて全然使えねぇ。」


もっと、ましな奴はいないのか。
苛立ちに爪を噛む。


「・・・絶対、あの女の事だけは手に入れる。」


欲しいのは、あの女だけ。
邪魔な男は金になるだろうからさっさと売り払い、女は俺が飽きるまで側に置いとくもの良いだろう。
飽きれば、売り払えば良い。


「くくっ、お前が俺の誘いを断るのがいけないんだぞ?」


醜悪に笑う。


『・・・はぁ、お断りしましす。あなた達とは遊びません。忙しいので。』


この俺の誘いを断り、冷めた目を向けてきた女。
儚げな容姿。
なのに、あの女がこちらへ向ける威圧は半端なかった。


「あの力、欲しくなるだろ。」


だが、あの女の側には常に誰かしらがいる為、1人になる事がない。
その為、あの女に近付くのは、そう容易ではないだろう。


「・・どう、するか。」


あの女を無理矢理に浚うとしても、無駄に抵抗されたら面倒だ。
こちらの被害も大きくなるだろう。
もう策がない。


「っっ、くそ、駒が足りねぇ!」


俺がギルド内でCランクの肩書きがあると言えど、駒として集められる人間は少ない事を痛感させられる。
金で雇うとしても、裏切られる可能性がある為、時間を要するだろう。


「ーー・・ほう、これは中々の上等な獲物ですね。」


その声が俺の運命を大きく変えた。
俺を闇に落とす声。
俺はまだ、その事実を知る由はなかった。


「なっ、だ、誰だ、ーーーー」


声のした後ろを振り返り、その姿を見て俺は驚愕に目を大きく見開く。


「っっ、なっ、魔族!?」


仄暗い迷宮内でも分かる、黒い髪に、瞳を光らせる男が魔族なのだと。
戦慄く口元。


「ど、どうして、魔族なんかがッ!?」


本能は逃げろと言っているのに、恐怖に固まってしまったかのように動かない足。
・・や、ヤバイ。
冷や汗がどっと湧き出る。


「っっ、」


ばくばくと鳴り止まない心音。
・・・俺は、このまま、ここで死ぬのか?
目の前の魔族によって。


「男、その強き望みを叶えたくないか?」
「・・何?」


魔族の言葉に止まる俺の思考。


「なに、私の手を取ると言うのなら、お前の望みを叶えようと言っているのだ。」


にたりと、目の前の魔族の男が笑った。


「お前の望みは何だ?」


望み?
俺の望みはーーー


「・・あの女の事を手に入れたい。」


屈服させたい女。
俺に従わせ、言う事を聞く様に調教し、心酔させたら、どんなに愉快だろう。


「ほう、お前の望みは、女を手に入れる事か。」


細まる、目の前の漆黒の瞳。
愉快だと言わんばかりに吊り上がる、その口元は、ゆっくりと弧を描いた。


「私なら、その願いを叶えられるぞ?」
「・・魔族が人間である俺の願いを叶えると言うのか?」


怪訝な眼差しを向ける。
一体、この目の前の魔族は、何を考えているんだ?


「ふっ、何、お前の願いを叶えてやろうと思ってな。お前は、その女の事が欲しいのだろう?」
「ーー・・欲しい。」


なぜか、頭がぼうっとする。
今俺が考えられるのは、あの女、ディアレンシア・ソウルの事だけ。


「その願い、この私が叶えよう。」
「・・・。」
「そう、何も考えず、欲しいものは力で手に入れれば良いのだ。」
「・・・力で・・。」


奪えば良い。
あの女、ディアレンシア・ソウルを。


「さぁ、こちらへ来い。」
「ーー・・。」


ふらりと、魔族の男へ足が向かう。
この魔族の男の手を取れば、あの女が自分のものになる。
纏わりつく黒い闇。


「何も考えることはない。私が全て上手く事を進めてやろう。」


誠か嘘か。
確かめる術もなく、俺は差し出された魔族の手を取る。
ーーー・・取ってしまった。


「くくっ、哀れな人間よ。お前の望みを叶える為に、その身体はこの私が貰い受けるぞ?」
「ーーーあ・・?」


その声を最後に途切れていく意識。
広がるのは闇。
男達は忽然と姿を消した。


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