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「魔法って言えばさ」
二人の会話をつまらなそうに聞いていたユキが、口をはさんでくる。
「スイさん。どうして、兄貴のいる場所が分かったんだ?」
それは、アキも不思議に思っていた。
「ああ。それは……別に魔法でも何でもないよ」
そう言ってから、スイは部屋の中を見回す。それから、目当ての物を見つけたのか、立ち上がり歩いて行って、襲撃当時アキが着ていた衣類を持ってきた。縫合の際、着替えたものを看護師が置いて行ってくれたものだった。
「よかった。捨てられてなかった」
確かに、銃弾で穴があいて、血だらけになってしまったので、捨てようと思っていた。そのジーンズのポケットに手を入れて、スイが取り出したのは、飴色の革のキーケースだった。
「これ」
スイがユキの誕生日プレゼントに贈ったものとよく似ている。ただ、ユキのプレゼントについていた黒曜石が、柘榴石になっている。
「アキ君に似合いそうだったから、一緒に買っちゃってたんだ。GPS信号が出てるって言っただろ? とっさにアキ君に持たせたのは褒めてくれる?」
そう言って、スイはアキにそれを手渡した。
「いや。でも、これのGPS反応ってどうやって特定したわけ? ふつうはスマートフォンに登録するんだろ?」
青い石のついたキーケースを眺めてアキはスイに問う。
「製造会社のPCハッキングして、販売店に送られたロット№から調べた。そもそも、それあんまり数作られてないから、特定はそんなに難しくなかったし」
こともなげにスイは言う。
それが、他の人間にとっては魔法なのだと、彼は知らない。
「えー? 結構いい感じなのに、これ、売れてないの?」
自分のポケットから、同じキーケースを出して、じっくり見てから、変な所に食いついたユキに、スイは笑いながら今日一の衝撃的な一言を発した。
「あ。それ、一つ70万するから」
「「っ!!!!!!」」
各々キーケースと、スイの顔を見比べる。
「ちょちょちょちょ……まって……冷静になれ!」
スイの肩に手を置いてアキが言う。
冷静でないのはお前だと突っ込まれたら弁解のしようがない。
「スイさん。おかしいって。絶対おかしいって」
さすがのユキも言葉を失っている。
70万円の宝飾品は、おそらく、男友達に送るもんじゃない。しかも、兄弟二人同時に、だ。
「……えと。やっぱり、誕生日以外に男にものあげるとか……恥ずかしかった?」
少しズレたスイの疑問に、頭が痛くなる。これは、世間知らずとかいう問題じゃない。大体、警察や暴力団の裏情報は知ってるし、近所のスーパーの特売日は知ってるくせに、男友達に送るプレゼントの限度額を知らなってどういうことだ。
「それとも、気に入らなかったんだったら……返してこようかな」
しゅんとして寂しそうに呟くスイに、こいつを放っておいては危険だ。と、アキは危機感を覚えた。
放っておいたら、自分で無駄遣いをしたくせに何かあったら、報復で日本の半社会組織の均衡を崩しかねない仕返しを思想で怖い。
「や。いいよ! 俺気に入ったし!」
そんな兄の葛藤をどこ吹く風と、ユキが軽く言う。こういうときに順応性の高いユキが、アキは心底うらやましいと思う。
「な。兄貴も気にいっただろ?」
少し寂しそう上目づかいで見上げるスイと、きらきらと無邪気な瞳で見つめるユキ。
なにこれ?
ここで、もらわないと、俺、悪役なわけ??
ため息を一つ。アキは降参した。
「はい。気に入りました。いただきます」
これは、教育が必要だな。と、多難な前途に苦笑する。
手の中に収まる赤い色の石がもつ意味が“愛を貫き通す”だと知るのはもう少し先のことだった。
二人の会話をつまらなそうに聞いていたユキが、口をはさんでくる。
「スイさん。どうして、兄貴のいる場所が分かったんだ?」
それは、アキも不思議に思っていた。
「ああ。それは……別に魔法でも何でもないよ」
そう言ってから、スイは部屋の中を見回す。それから、目当ての物を見つけたのか、立ち上がり歩いて行って、襲撃当時アキが着ていた衣類を持ってきた。縫合の際、着替えたものを看護師が置いて行ってくれたものだった。
「よかった。捨てられてなかった」
確かに、銃弾で穴があいて、血だらけになってしまったので、捨てようと思っていた。そのジーンズのポケットに手を入れて、スイが取り出したのは、飴色の革のキーケースだった。
「これ」
スイがユキの誕生日プレゼントに贈ったものとよく似ている。ただ、ユキのプレゼントについていた黒曜石が、柘榴石になっている。
「アキ君に似合いそうだったから、一緒に買っちゃってたんだ。GPS信号が出てるって言っただろ? とっさにアキ君に持たせたのは褒めてくれる?」
そう言って、スイはアキにそれを手渡した。
「いや。でも、これのGPS反応ってどうやって特定したわけ? ふつうはスマートフォンに登録するんだろ?」
青い石のついたキーケースを眺めてアキはスイに問う。
「製造会社のPCハッキングして、販売店に送られたロット№から調べた。そもそも、それあんまり数作られてないから、特定はそんなに難しくなかったし」
こともなげにスイは言う。
それが、他の人間にとっては魔法なのだと、彼は知らない。
「えー? 結構いい感じなのに、これ、売れてないの?」
自分のポケットから、同じキーケースを出して、じっくり見てから、変な所に食いついたユキに、スイは笑いながら今日一の衝撃的な一言を発した。
「あ。それ、一つ70万するから」
「「っ!!!!!!」」
各々キーケースと、スイの顔を見比べる。
「ちょちょちょちょ……まって……冷静になれ!」
スイの肩に手を置いてアキが言う。
冷静でないのはお前だと突っ込まれたら弁解のしようがない。
「スイさん。おかしいって。絶対おかしいって」
さすがのユキも言葉を失っている。
70万円の宝飾品は、おそらく、男友達に送るもんじゃない。しかも、兄弟二人同時に、だ。
「……えと。やっぱり、誕生日以外に男にものあげるとか……恥ずかしかった?」
少しズレたスイの疑問に、頭が痛くなる。これは、世間知らずとかいう問題じゃない。大体、警察や暴力団の裏情報は知ってるし、近所のスーパーの特売日は知ってるくせに、男友達に送るプレゼントの限度額を知らなってどういうことだ。
「それとも、気に入らなかったんだったら……返してこようかな」
しゅんとして寂しそうに呟くスイに、こいつを放っておいては危険だ。と、アキは危機感を覚えた。
放っておいたら、自分で無駄遣いをしたくせに何かあったら、報復で日本の半社会組織の均衡を崩しかねない仕返しを思想で怖い。
「や。いいよ! 俺気に入ったし!」
そんな兄の葛藤をどこ吹く風と、ユキが軽く言う。こういうときに順応性の高いユキが、アキは心底うらやましいと思う。
「な。兄貴も気にいっただろ?」
少し寂しそう上目づかいで見上げるスイと、きらきらと無邪気な瞳で見つめるユキ。
なにこれ?
ここで、もらわないと、俺、悪役なわけ??
ため息を一つ。アキは降参した。
「はい。気に入りました。いただきます」
これは、教育が必要だな。と、多難な前途に苦笑する。
手の中に収まる赤い色の石がもつ意味が“愛を貫き通す”だと知るのはもう少し先のことだった。
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