遠くて近い世界で

司書Y

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FiLwT

チロル 5

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 がちゃ。

 と、ドアが音を立てる。
 そこで、スイは、立ち止まった。

「……え?」

 玄関の外にはアキとユキがいた。

「……やっぱり……な」

 壁に背を預けたまま、アキが言った。

「どこ。いくつもり?」

 よ。と、声をかけながら立ち上がって、ユキが言う。

「……ど。して?」

 スイの部屋前で、二人は待っていた。
 多分、スイが部屋に入ってからずっとだ。部屋に入って着替えた様子がない。アキは上着を着ていないし、ユキの服の袖口は血で汚れたままだった。

「なんとなく。思いつめてるみたいだったから」

 答えたのはユキだった。ユキは妙に勘がいい。スイのちょっとした行動の変化を敏感に感じ取ったのだろうか。

「バカにすんなよ。あれだけ聞けば、何かに追われてるのも、それで俺たちに迷惑がかかるとか思ってるのも分かる。スイさんの性格考えたら、何にも言わないで消えようとしてるのも……な」

 壁に預けていた背を放して、アキは真っすぐにスイに向き合った。バカにしていたわけじゃない。ただ、スイが二人の元を離れると選択したとき、それを尊重してくれると思っていた。

「行かせないよ」

 アキの隣にユキが立つ。

「……泰斗さんは。怖い人だ」

 ぼそり。と、スイは呟いた。
 誰かの前ではっきりとその名前を呼んだのは、あの日以来だ。声に出したら、すぐにその男に見つかってしまいそうで口に出すことすらできなかった。

「あの人はきっと、俺を探し出すし。許してはくれない」

 その顔を思い出すと身体が震える。
 怖くて。怖くて。堪らない。

「俺たちが。信じられない?」

 一歩、前へ歩み出て、アキが言う。見上げるアキの顔は真剣だった。だから、スイは首を横に振る。
 二人を信じていないわけではない。多分、アキやユキならその男相手でも折れたりしない。けれど、問題はスイ自身にある。二人が危険な目に逢ってまで一緒にいる価値が自分にあるとは思えなかった。

「なにがあったって、どんな奴が来たって、俺たちが守るから……だから。どこかへ行ったりしないで」

 言葉の力強さとは裏腹にまるで捨て犬のような顔で、ユキが言った。その手が縋るようにスイの手を握る。

「スイさんがいなくなるなんて嫌だ」

 どんな危機的状況に会っても、いつもユキは笑っていた。何とかなると自信があるからだ。そのユキが泣きそうな顔で懇願している。なんだかとても悪いことをしてしまったような気持ちになる。

「もし、それでも出ていくっていうなら、俺だって絶対にスイさんを探しだすよ? タイト? ふざけんな。絶対にそいつより先に探し出してやる。スイさんが、俺たちのそばにいてくれるって約束するまで追いかける。逃がさない」

 アキの赤い瞳は炎のようだ。と、思う。本当に逃げられない。けれど、それを怖いとも、嫌だとも思わなかった。
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