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Internally Flawless
03 自嘲 04
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「スイさん。さ。それは、絶対にアキさんやユキに言ったらだめだよ?」
スイの言葉を聞いたナオは、不意に真面目な顔になって言った。
「ナオ君?」
「俺さ。別に恋愛経験豊富とか言うわけでもないしさ。アキさんの考えてることって正直よくわかんないけど、もし、自分の彼女がそんな風に思ってるって知ったら、まじでショックだと思う。『すてられてもいい』とか、『自分なんか好かれているわけない』とか……なんか、『あー俺信用されてないわー』って、思うよ」
よっ。と、声に出して手すりから離れて、ナオは屋上の階段に続くドアに歩きだす。
「も。ちょっと、自信もったら? あの傍若無人兄弟の両方に惚れてるって言わせるのって、すげーと思うよ?」
くると、振り返って、ナオは言った。
意外だった。きっと、ナオは自分のことをよくは思っていないと思っていた。でも、まるで励ますように言ってくれる彼は、にっこりと笑っていた。
「アキさんとユキの気持ちはなんとなく分かった。
セイジとシキさんって人と三人でさ。よく飲むんだ。二人とも、アキさんともユキとも知り合いで。その飲み会の時セイジがすんげー興奮してスイさんのこと話してたんだけど、セイジの話、聞いてたら、もっと女王様な感じかと思ってたんだよね。あの兄弟が全く逆らえないとか言ってたしさ。
けど、ちょっと、印象変わった。スイさんって、セイジふうに言ったら『綺麗め』で、『エロく』て、分別在りそうに見せかけて『ヤキモチ焼き』で、大人っぽく見せかけてすごく『カワイイ』人だね。シキさんにはそう伝えとく」
ひらひらと、手を振って、ナオはドアに消えた。
「綺麗め? エロい?」
その背中を見送って、彼の言っていた意味を考えてみる。最後のではなく、その前の言葉。
「信用してない……?」
アキやユキの言葉を信用してないわけではない。好きだと言ってくれた言葉が嘘だったなんて思わない。
ただ、未来がどうなるかは分からないのだ。
十代の殆どを一緒に過ごした人に手酷く裏切られたスイには、幸せな今が未来まで続いていくと無邪気に信じることができなかった。
もしも、二人のうちどちらかが、いや、両方であっても心変わりをした時に、裏切られたとは思いたくない。嫌いになりたくない。
彼らに好きだと言ってもらえたから、好きになったのではない。ただ、自分自身が彼らのことを好きになったのだ。だから、彼らが自分を好きでなくなったとしても、自分の気持ちは変わることはないと思う。
そんな日が来たときでも、ちゃんと話して、友達に戻ることのできる自分でいたかった。でも、それと同時にその時がどうしようもないほど怖い自分がいた。友達に戻ったとしても、ちゃんと笑いあえる自信なんてなかった。
アキとユキが、それが仕事のためであるにも関わらず、とても魅力的な女性といるだけで、怖くて堪らないのだ。その人の本当の美しさを見てしまったら、自分がかすんでしまうことなんて分かっていた。自分は一人を選ぶことすらできないくせに、自分は自分だけを見ていてほしいなんて、そんなことが言えるほど自分に価値があるとは到底思えなかった。
そのことが、アキやユキを信じていないということになるんだろうか。
自分が信じらないのは自分自身なのに。
手すりに背中を預けたまま、その場に座り込む。
いつの間にか吹きはじめた風が解いたままのスイの髪を弄んで、空へと帰って行った。
スイの言葉を聞いたナオは、不意に真面目な顔になって言った。
「ナオ君?」
「俺さ。別に恋愛経験豊富とか言うわけでもないしさ。アキさんの考えてることって正直よくわかんないけど、もし、自分の彼女がそんな風に思ってるって知ったら、まじでショックだと思う。『すてられてもいい』とか、『自分なんか好かれているわけない』とか……なんか、『あー俺信用されてないわー』って、思うよ」
よっ。と、声に出して手すりから離れて、ナオは屋上の階段に続くドアに歩きだす。
「も。ちょっと、自信もったら? あの傍若無人兄弟の両方に惚れてるって言わせるのって、すげーと思うよ?」
くると、振り返って、ナオは言った。
意外だった。きっと、ナオは自分のことをよくは思っていないと思っていた。でも、まるで励ますように言ってくれる彼は、にっこりと笑っていた。
「アキさんとユキの気持ちはなんとなく分かった。
セイジとシキさんって人と三人でさ。よく飲むんだ。二人とも、アキさんともユキとも知り合いで。その飲み会の時セイジがすんげー興奮してスイさんのこと話してたんだけど、セイジの話、聞いてたら、もっと女王様な感じかと思ってたんだよね。あの兄弟が全く逆らえないとか言ってたしさ。
けど、ちょっと、印象変わった。スイさんって、セイジふうに言ったら『綺麗め』で、『エロく』て、分別在りそうに見せかけて『ヤキモチ焼き』で、大人っぽく見せかけてすごく『カワイイ』人だね。シキさんにはそう伝えとく」
ひらひらと、手を振って、ナオはドアに消えた。
「綺麗め? エロい?」
その背中を見送って、彼の言っていた意味を考えてみる。最後のではなく、その前の言葉。
「信用してない……?」
アキやユキの言葉を信用してないわけではない。好きだと言ってくれた言葉が嘘だったなんて思わない。
ただ、未来がどうなるかは分からないのだ。
十代の殆どを一緒に過ごした人に手酷く裏切られたスイには、幸せな今が未来まで続いていくと無邪気に信じることができなかった。
もしも、二人のうちどちらかが、いや、両方であっても心変わりをした時に、裏切られたとは思いたくない。嫌いになりたくない。
彼らに好きだと言ってもらえたから、好きになったのではない。ただ、自分自身が彼らのことを好きになったのだ。だから、彼らが自分を好きでなくなったとしても、自分の気持ちは変わることはないと思う。
そんな日が来たときでも、ちゃんと話して、友達に戻ることのできる自分でいたかった。でも、それと同時にその時がどうしようもないほど怖い自分がいた。友達に戻ったとしても、ちゃんと笑いあえる自信なんてなかった。
アキとユキが、それが仕事のためであるにも関わらず、とても魅力的な女性といるだけで、怖くて堪らないのだ。その人の本当の美しさを見てしまったら、自分がかすんでしまうことなんて分かっていた。自分は一人を選ぶことすらできないくせに、自分は自分だけを見ていてほしいなんて、そんなことが言えるほど自分に価値があるとは到底思えなかった。
そのことが、アキやユキを信じていないということになるんだろうか。
自分が信じらないのは自分自身なのに。
手すりに背中を預けたまま、その場に座り込む。
いつの間にか吹きはじめた風が解いたままのスイの髪を弄んで、空へと帰って行った。
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