鬼男と少女魔術師

上宮さん

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鬼男と少女魔術師の出会い

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 アルゴが吹き飛ばされてからかなり時間が経ち、あたりはすっかり日が暮れていた。

「うっ……」

 アルゴはうめき声をあげながらも目を覚ました。ぼんやりとした頭で必死に状況を考える。
 ここは死後の世界だろうか。暗くて周りが見えないのでそんなことを考えていると聞き覚えのある声がアルゴの耳に聞こえる。

「あら、起きたの」

 アルゴの隣から聞こえた声の持ち主は確か自称魔術師を名乗る少女だっただろうか。

「生きているのか? ここはどこだ?」

「心配しないでも地獄じゃないよ。ちゃんと生きてるわよ。私にも場所ははっきりとわからないけど村の端の方みたい。鬼に叩き飛ばされたけどそのおかげで生き延びれたようね。煙がひどかったし探すのは諦めてくれたのかしら。本当に殴りつぶされなくてよかったわ」

 状況が全く掴めないアルゴが繰り出した質問に対し、少女は少し疲れたような、それでいてとげとげしさのない声でゆっくりと答えてくれる。そんな少女の声を聞きながらアルゴはぼんやりとしていた意識を次第に覚醒させていく。

「軽く周囲を土で囲って置いたから魔物には見つかりにくいはずよ。まぁ私が起きてからも物音一つ聞こえないし、暗くなって寝床に帰ったのかもね」

「そうか」

 周囲を囲っているせいであたりは真っ暗なのかと納得して、返事をしたアルゴは何気なく上を見上げてみる。星でも出ていないかと思っての行動だったが、あいにくの曇り空なのか月明かりもまばゆい星々も見当たらない。
 ふとここで少女は一体どうやって土の壁を築いたのかという疑問がアルゴの頭に浮かび上がるが、彼女がアルゴには理解が及びもしない力を使役する魔術師という存在であったことを思い出す。もしかすると、あの鬼に吹き飛ばされて生きているのも彼女のおかげなのかもしれない。

「魔術ってのはすごいんだな」

 アルゴは少女が鬼にめがけて放った業火のごとき炎を思い出しながら無意識のうちに言葉を発する。

「最初はみんなそういうのよ。羨望の眼差しを向けながら『あなたは凄いね。あんなに強い魔物を一撃で倒すなんて』ってね。でもいつも次には周囲の視線が妬みの入り混じったものに変わる。そして最後にはまるで魔物、そう今日の鬼のような強大な相手を見る恐れの混じった目で私をみるのよ……。あなたもそうなのかしらね」

 少女は悲しみの入り混じる、もう諦めてしまったかのような声でアルゴのつぶやきに答えたあと、アルゴの方に目を向けた。

「俺も人間だから強い力に妬むことはあるかもしれないな。今日だって自分に力があればって鬼を見上げながら思ったよ。それでも自らに害意を向けてくることのない相手に恐れを抱くことはないだろうな。それがどんなに悲しいことかは自分がよく知っている。この顔のせいでまともに話してくれるやつなんて滅多といないんだよ。状況が状況とはいえこうやって見知らない子供と話すなんて軽い奇跡だ」

「ちょっと、誰が子供よ! 私はこれでも十六で立派な大人なのよ」
「成人は十八なんだから十六は立派な子供だろう。それにもう三十も半ばの俺からすればどちらにしろ子供だ」

 アルゴはしみじみと言葉を発していた。
 しかし、突然の子供呼ばわりに対し、慌てて飛びつくように少女が突っかかる。
 だがアルゴはそれを聞いて、背伸びしたい年頃なんだろうと生暖かい目で見守るかのように言葉を返す。

「それにしてもあなたの顔にはびっくりしたわ。人って言われてもしばらく信じられなかったもの。さっきの鬼の方がまだ優しい顔つきをしていた気がするわ。ふふっ」

 少女はアルゴの顔を思い出して、吹き出して笑いながらもそんなことを口にする。
 そんな少女に対しアルゴは暗闇の中、驚きの表情をしていた。顔をとやかく言われたからというわけではない。今まで怖い顔に怯えられることは数知れずとも、笑われたこととなるとほとんどなかった。冒険者ギルドのハイルさんのようにある程度仲良くなればそんなこともあるが、初対面のそれも女の子にそのような反応をされたのは初めてだった。

「そんな反応をされたのは初めてだ。いつも怯えられてばかりだからな。もしよかったらこれからも仲良くしてくれると嬉しい」

 今まで容姿のおかげで若い女性と話したことすらないアルゴは相手を子供と捉えているとはいえ、どう答えていいかわからずにいたが、心の内にあった自分でも驚くような言葉を口にする。
 この少女ならいつか一緒に冒険者業をすることもできるかもしれないなというアルゴの小さな期待も入り混じっての言葉だったのかもしれない。

「あなた私に子供って言ってたくせに仲良くって……もしかしてそうい趣味の人なのかしら?」
「いやっ、そういうわけじゃ」

 しかし、思いのまま言葉を紡いだ結果、まさかの誤解を受けたアルゴは驚いて慌てて訂正しようとする。

「ふふっ、冗談よ。まぁ仲良くしたいならちゃんとここから生きて帰らないとね。正直あなたの状態はかなり危険なはずよ。あの鬼の攻撃を生身で受けてそんなに喋れる状態なんてあまり信じらるものではないわ。頑丈そうなのは見た目だけではなかったのね」

 そう言って少女はなにやらごそごそ動き始めた。しばらくするとようやく暗闇に慣れてきたアルゴの目に少女から何か差し出されたのが見える。

「はいっ、これ。実は私魔術師でもあるんだけど本業は薬師なのよね。それは私が調合した痛み止めよ。そのままだと痛みで眠れないと思うから休むためにもちゃんと飲みなさい」

 少し棘のある口調でそう言いながら、少女はなぜか少し冷めた、目つきでアルゴに薬を渡す。
 暗闇の中でそんなことに気づくはずもないアルゴは悪いなと答えながらも薬を受け取り、ためらいなく口の中に入れてすぐにそれを飲み込んだ。

「ちょ、ちょっとあんた薬師って何かわかってるの?」

 アルゴがあっさりと薬を口にしたのを見て、信じられないと言わんばかりに目を丸くする少女は思わずそんなことを尋ねる。

「なにって薬を作る職業のことだろう。そんなに若いのに薬を作れて、魔術も使えるなんて感心するよ」

 アルゴはそんな少女に対して一体なぜそんなことを聞くのかと思いながらも、自らの考えを口に出す。

「はあっ、なんだか私がバカみたいだわ……。死にかけて興奮したからか、喋りすぎたわね。明日は大変だろうからもうしっかり休みなさいよ。おやすみなさい」

 少女はアルゴに聞こえないほど小さな声でなにかを呟いた後、恥ずかしさを誤魔化すように早口でアルゴにしっかり眠るように言って眠る前の挨拶する。

「あぁそうだな、おやすみ」

 そんな少女の心のうちを知る由もないアルゴは、おやすみ、なんて誰かに言ってもらえたのは一体いつぶりだろうかと小さな喜びを胸に抱きながらも挨拶を返す。

 こうして運悪く鬼に襲われたアルゴと名も知らぬ少女魔術師の一日がなんとか無事に終わるのだった。

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