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鬼男と少女魔術師と不気味な魔物
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しおりを挟むアルゴとヒスイを含む十三人の冒険者が魔物の集団に向かって馬で走り寄って行く。
対する魔物は百近くいるだろうか。そのほとんどがゴブリンで構成されているが、ちらほらとオークの巨体も垣間見える。馬のヒズメの足音のせいか、冒険者の叫び声のせいか魔物たちは背後から迫っていた冒険者の存在にとっくに気づいていたようだ。
「オークに投げられた石に 当たればただではすまないから気をつけろ!」
今まで隊での行動中ヒスイ以外には一言も言葉を発しないでいたアルゴが野太い大声をあげる。その声の大きさと力強さに周りの人間全員がビクッと体を一瞬すくませた。アルゴと付き合いのあるヒスイさえもその例外ではなかった。
「声がでかいわよバカ!」
アルゴは並走しているヒスイからお叱りの言葉を受ける。ヒスイはアルゴを除くと一番近くでその声を聞いていたので耳に大きな被害を被ったようだ。
「うっ。すまない」
アルゴとしては一向に動く気配のない仲間へ、オークの危険性を伝えようとしただけだったのだが、大事なところで声量のさじ加減を間違えてしまったようだ。少し気まずそうに謝罪の言葉を告げる。
アルゴたちが馬に騎乗したまま魔物に近づくとやはり力の強いオークがかなり離れたところから石を投げてきた。しかし、真正面から魔物に近づくのではなく、回り込むように近づいていたので馬のスピードもあり当たることはない。
「このまま囲い込むように接近してまずは数の多いゴブリンを排除するぞ」
先頭を行く隊長がアルゴには劣るも十分に聞き取れる大声で指示を出す。
指示に従って冒険者たちが魔物に近づくなか、今まで慌てふためるように彼らを見ていた魔物たちがいきなり統率のとれた行動を取る。
密集するように集まっていたゴブリン達が急に散らばり、体を外側に向けた円形の陣、方円陣を組んだのだ。ゴブリンたちはそのまま円の外側に向かって構えて立つ。ぽっかりと空いた魔物の群れの中央には冒険者に石を投げる数匹のオークとオークと同じほどの大きさの見慣れない青い一体の魔物がいるのが見てとれた。
冒険者たちはまるで軍隊のように洗練された動きをとるゴブリン達を見てざわめき声をあげる。ヒスイと隊長は特に反応を示さなかったが、アルゴを含む他の面々は随分と動揺しているようだった。
「案ずるな。奇妙な動きを見せたが中心にいる魔物がゴブリンを盾にしようとしているだけだ。ゴブリンを倒してくれと言っているようなもんだ。飛んでくる石に気をつけてこのままいくぞ」
隊長と呼ばれるだけあった経験豊富なのか、先頭を行く男が落ち着かせるように声をあげる。その効果はてき面で冒険者達はすぐさま落ち着きを取り戻した。そして、そのまま散開して方円陣を組むゴブリンをさらに外側から取り囲むようにして位置どり、オークの投げる石を避けるように時計回りに馬で移動しながらその包囲を段々と縮めて行く。
「かかれ!」
隊長の合図とともにアルゴ達冒険者はそのままゴブリンに急接近し、殲滅にかかろうとした。
しかしその瞬間、またもやゴブリン達が一糸乱れぬ動きを披露する。急に、左手を添えながら右手の手のひらを前に突き出したのだ。
アルゴの背筋にゾッと悪寒が走った。彼にとってそれはとても見慣れた構えだった。ヒスイと知り合ってから頻繁に目にした構えだった。
そんなことがありえるのだろうか。
無意識のうちに加速させた思考の中でそんな言葉が浮かびあがる。
「逃げろ!!」
「逃げなさい!」
その場から離脱しようとするアルゴと、馬上で右手を突き出したまま魔物に突っ込もうとするヒスイが同時に声をあげた。二人の顔は真っ青だった。
次の瞬間、あたりは炎に包まれた。ゴブリンの手からは轟々と燃え盛る炎が吹き出ていた。
それは紛うことなく魔術だった。人間でも一部の者しか使えない魔術をその場の全てのゴブリンが使ったのだ。
その光景が続いたのは時間にしておよそ三秒足らず程度だったが、ギリギリで火の手から逃れたアルゴにとってはとてつもなく長く感じられた。
悪夢はそこでは終わらない。
魔術行使が終わると思いきや、方円陣を組んでいたゴブリンが急に走り出し、突撃してきたのだ。
ゴブリンが魔術を使ったことは驚くべき事態だが、彼らの本来の武器は骨をも砕いて食べるその強靭な歯と顎である。噛みつかれると決して離れず、体の部位欠損はおろか、その命も危機にさらされる。そんなゴブリンが一斉に走り寄ってくる恐怖がいかほどなものか言うまでもない。
普段戦っているといっても中級冒険者ですら数の理を活かして倒すのが基本なのだ。それが大挙して押し寄せるなど波の冒険者では太刀打ちできない。
「ぐあああぁぁぁっ」
「ぎゃぁぁぁぁぁっ」
誰かの叫び声が響き渡る。
その声を聞きアルゴは体が震えるほど全身に力が入り、歯を強く噛みしめる。ヒスイは無事だろうか、アルゴに付きあってくれる少女のことを考える。しかし自らも危険な状況なので周囲を確認する余裕はない。
早くこの場を切り抜けなくてはいけない。
「逃げろゼノ」
馬の脚を噛まれると落馬してそのままゴブリンの餌食となるだろう。そう判断したアルゴは声をかけながらゼノから飛び降りるとそのままゴブリンい向かって真正面から突っ込んでいった。
「おらああぁぁっっ」
アルゴは周囲に存在する魔物に威嚇するように吠えながら、大きな剣を横薙ぐように振りかぶり、押し寄せるゴブリンを力任せに斬り倒す。そしてまた斬り倒す。
巨大な剣を振り回すように扱い、ゴブリンを決して近づけずに目の前のゴブリンを殲滅して行く。
「「「がああぁぁぁぁ」」」
不意に眼前から魔物の雄叫びがあがる。アルゴを脅威と感じたのだろうか。円の中心にいたはずのオークが三体もいつのまにかアルゴのすぐそばまでやってきていた。
「またお前らか! そこをどけぇぇぇっ」
トチス村の時と同じ数の同じ相手に、アルゴは邪魔をするなと言わんばかりに新たな武器を構え飛びかかっていった。
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