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プロローグ

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物心をついた時から、いつの間にかその記憶はいつも隣にいて、不自然さなんて子供の頃の俺は欠片も分からなくて、ただその記憶を心に留めるだけだった。



そんな俺も年月が経てば、嫌でも理解が出来る力が身についた。

それでも、その記憶がなんなのか理解するまで
何ヶ月もかかった。

理解した瞬間、視界がどんどんぼやけていった。
涙・・・いつの間にかとめどなく溢れてくる暖かいようでしょっぱい涙を拭うことなく、ただひたすらに、声をあげずに泣いた。


それは、前世の記憶だった。


夢にまで出てくるようになった記憶は、最初はあやふやだったのが、どんどん・・・どんどん鮮明に視えてきた。

時代はいつか分からない。
それでも分かることは沢山あった。


妖魔滅殺隊ようまめっさつたい


前世の自分が入隊していた。
前世の時代では、今では信じられないし、存在しない妖魔ようまという生物が存在していた。

人間を喰らい、その力をかてとする能力をもつ人間の形をした化け物。

俺はその妖魔バケモノ
右手に持った、青く、時に紫に輝く刀で、次々と殺していった。

昔も今も変わらず泣き虫なところがある俺は
当時の師にも数えきれないような迷惑をかけた。

うつわ

当時にもやはり上下関係というものがあり、
強い者が上、弱い者が下という、まさに実力がものをいう配列だった。

その中でも格別に強い10人の者だけが「器」という資格を手にすることが出来る。

・・・俺の師は「元器」だった。強力な妖魔に、仲間を殺されないように自分自身を代償にした結果、左目、右手、右耳を失った。

とても、痛々しかった。
当時の俺はその瞬間を目の前で見ていたのだから・・・

目の前で、何も出来ずにただ、あの人が倒れていくのを見るだけで・・・

そこには時間という概念が存在しないのではないかという程、あまりにも遅く、あまりにもハッキリとその光景は目に焼き付いた。

「あんなの見たくはなかった」

ポツリと、ただ小さく言葉を零す。
ここにあの人がいる訳ではないのに。

そこからは夢の中でも分からない。
いつの間にか妖魔は死んでいて、周りには他の器の人もいた。

器の人たちは言った。

『私たちが来た時には、妖魔は既に瀕死の状態だった』と

それからは早いもので、あの人は傷の大きさから器を引退し、俺たちの稽古にまわった。

稽古の途中で、あの人を見てみるとたまに
・・・とても悲しそうな顔をしている。

あの表情を見る度に、どんどん心が痛んで行った。




こんなに深い過去を自分は持ってることになる。

よく前世で生き残れたものだ。

夢であの人を見る度に、胸が締め付けられ、
とても言い難い感情が迫ってくる。

悲しくて、哀しくて、切ない。
だけど暖かい・・・そんな感情が。


俺はまだ、その感情の名前を知らない。

end


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