【完結】家族に冷遇された姫は一人の騎士に愛を捧げる。貴方を愛してもいいですか?

たろ

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愛し子。③ 陛下編

 雨が降り続く中騎士達が帰って来た。

 ずぶ濡れになりまっ青な顔をして。

「何かあったのか?報告をしろ!」

 そしてーー

「セリーヌが死んだ………?」

 
 騎士は報告を嬉々として伝えた。
 誇らしそうに。

 その瞬間、わたしはその騎士に向かって剣を振り下ろした。

「ぐわあっ……」

 騎士は笑いながら死んだ。

 切られたこともわからないほどの一瞬だった。
 
 床には真っ赤な血が溢れていた。

「それをさっさと始末しろ」

 周りの者達に冷たい目で吐き捨てるように言うと、自室へと戻った。
 何も考えられなかった。

 
 どんなに愛していたのか……死んだと聞かされても信じられなかった。

 会うこともない日々を過ごして来た。

 冷遇してきたことは確かだ。

 側妃達と息子二人だけを可愛がった。

 娘を一度も抱いたことも話しかけたこともない。

 娘を殺そうとしたわたしをセリーヌはどんな気持ちで受け止めたのだろう。
 どんな気持ちで娘の代わりに死んだのだろう。

 わたしは部屋からベランダへと出た。

 雨が降り続く。

 この雨はセリーヌの命のおかげで降っている。

 娘を殺そうとしたくせに愛する妻が死ぬことは辛いなど許されるわけがない。

 雨はわたしの体をだんだん冷やしていく。

 このまま死ねればセリーヌの元へ行けるのだろうか。

 だがこの国の王としてまだやらなければいけないことは沢山ある。



 数日後、クリスティーナがどこにもいないことに気がついた。


「セリーヌの娘はどこへ行った?一人で離れで暮らしているのか?」

 セリーヌの死が受け入れられず娘のことなど忘れていた。

 ヴィルの姉はセリーヌの幼馴染でアニタと言う。わたしももちろん幼い頃から知っている。

 アニタの夫が財務相をしているジェラール・トレント公爵でありこの国では王家の次に財力も力も持っている。

 その公爵家で面倒をみてもらっていることがわかった。

「すぐに王城へと連れ戻せ」

「しかし側妃様達がいらっしゃいます。お二人がいるこの王城で、まだ6歳の王女様をどうするおつもりですか?」

「側妃達には手を出さないように伝えておく。騎士団長、お前が信頼のおける者数人にクリスティーナの面倒を見るように伝えろ。決してわたしが気にかけていることは誰にも悟られるな。あの子はこの城から絶対に出すな」

「し、しかし、それよりもトレント様のところにいた方がお幸せなのでは……」

「わたしに意見をするつもりか?」

「い、いえ、かしこまりました。陛下のご希望通り致します」





 ーーーーー


 クリスティーナが水の妖精に愛し子として選ばれた。

 水の妖精が目覚めたのはあの源泉にセリーヌが飛び込んだからだろう。

 セリーヌの命の代わりに雨を降らせた妖精。

 気まぐれな妖精はクリスティーナを気に入ったのだ。

 どうしてわたしがそのことを知ったのか。

 わたしには妖精は見えないが、王家に代々伝わる水晶がクリスティーナが愛し子に選ばれたことを知らせてきたのだ。

 とにかく早くクリスティーナを保護しなければならない。

 妖精は気まぐれで悪さもするし国を豊かにもしてくれる。

 妖精がいる国は繁栄をもたらすと言われている。

 もしクリスティーナが愛し子だと分かれば、あの子を利用しようとする者が現れるだろう。
 側妃達も何をしでかすかわからない。

 それに……もしもクリスティーナがこの国から出ていくことがあればまたこの国は深刻な水不足になるだろう。

 クリスティーナには可哀想だが、今まで通り離れで一人で暮らしてもらうつもりだ。

 側妃達もあの離れならなかなか行こうとはしない。

 息子達もまだ小さい。あそこには行くことはないだろう。






 そして愛し子であるクリスティーナは隠されて育った。

 週に一回アニタがクリスティーナに令嬢としての教育をするようになった。

 セリーヌの幼馴染だと告げずに。

 クリスティーナは高熱のせいなのか母親が目の前で死んだせいなのかその頃の記憶をなくしている。

 母親は病死だと思っている。


 会いにはいかないが時折遠くからクリスティーナを見る。
 セリーヌにますます似てきてとても美しい娘に育った。わたしには会う資格はない。それに今更なのだ。







「はっ?バートンがクリスティーナを襲った?」

 突然の騎士からの報告に呆然となった。

「血が繋がっているんだぞ?そんなことを……それにまだ13歳なんだ」

「それが………側妃様達が……」

「あの二人が唆したのか?」

「そのようです」

「クリスティーナの護衛達は?」

「ヴィルも団長も側妃について護衛に出ています。それにサムは非番です。それに他の騎士達では王子達の暴走を止めるだけの力はありません」

 報告を受けていたら、使用人達が騒ぎ始めた。

「水がなくなった!」
「井戸の水も貯めていた水もありません」
「厨房の水もなくなりました」


 王城全ての水が消えた。



 クリスティーナへの仕打ちに対して水の妖精が怒ったのだろう。

 その理由を知っている者はほとんどいない。


「バートンとルシウスを連れてこい」

「お前達はとんでもないことをしたな。姉を犯そうなどよくもそんな恐ろしいことが出来たものだ」

「父上、しかし閨教育は大切な事なのでしょう?姉に教わることが何故いけないのです?」

「そうです、あの女は父上にも見捨てられこの王宮では必要とされていないのです。俺たちのために役に立てるんだから喜んでその身体を差し出せばいいんですよ」

「それに母上が言っておりました。あの女はラーセン国の側室になると。そこの王は何人も側室がいてあの女もおもちゃのように犯されて抱き潰されて捨てられると言っておりました。
 だったらその前にこの国でしっかり経験しておいた方がいいと思います」

「お前達はなんてことを言うんだ!」

「父上はあの女の母親をそうして捨てたんでしょう?いいように抱いて犯して捨てたんでしょう?同じではないですか?」

 目の前にいる二人の息子は……わたしなのだ。

 わたしがセリーヌにしたことを実の姉にしようとしていたのだ。

 もう雨は降らないのかもしれない。

 この国は、人々はわたし達の愚かな行いのせいで死んでいくのだろうか。

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