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ここでの生活は。
ローズ夫人の旦那様、トレント公爵がその夜わたしに会いにきた。
「クリスティーナ様お久しぶりです」
「あっ……貴方は……」
離れで暮らしている時、たまにセリーヌ園の庭でお見かけした人だった。
かなり離れた場所からわたしの姿をチラッと見ては通り過ぎていく。話しかけられることもなく。
仕事でこの辺りを歩いて何処かへ移動しているのだろう。そう思っていた。
いつもたくさんの人に囲まれ忙しそうにしていたから。
ヴィーがわたしに「義兄上のジェラール・トレントです」と紹介してくれた。
「貴女のお姿を拝見しても何も出来ずにいて申し訳ありませんでした」
「時々わたしの様子を見にきてくださっていたんですね?ありがとうございます」
「義兄上がクリスティーナ様があそこで暮らせるように支えてくれていたんです」
「いや、でもあの王子達を止めることは難しかった。それに側妃達の嫌がらせも日に日に酷くなるのでこっそり助けるのも限界がありました。嫌な思い、辛い思いをさせて申し訳ありませんでした」
「ううん、ヴィーが以前言っていました。わたしを守ろうとしてくれている人達は沢山いる。出来るだけ被害がないように止めてはいるんだ……と」
思い出しながらトレント公爵に話を続けた。
「あの義弟がすることを止めるのは大変なことだと思います。幼い頃から自分の身分を振りかざして威張り散らすことしか出来ませんから。騎士の皆さんはいつも困って苦しそうなお顔をしていました」
「そう言っていただけるだけで嬉しく思います」
“ティーナ、この人いい人。僕知ってる。あの側妃達に命令された男達が、離れに火をつけようとした時止めに来ていたもん。ま、火なんてすぐ消してしまうから大丈夫なんだけどね”
ーーそんなことをしようとしていたの?
わたしは今頃になって恐ろしくなった。
それから少しだけ話をして
「今夜は遅い。また後日話をさせてください」
「わかりました」
「ヴィル、君は今夜はこちらに泊まるのかい?」
「はい、クリスティーナ様も突然ここにきて戸惑われると思いますのでしばらくはそばについていてあげたいと思っております」
「わかった、ではくれぐれも……わかっているな?」
トレント公爵はヴィーの肩をポンっと叩いた。
わたしがよくわからず二人をじっと見ているとヴィーが少し困った顔をして
「クリスティーナ様、隣の部屋の控え室で待機しています。何かありましたらベルを鳴らしてください」
と言って公爵と二人部屋を出て行った。
その夜メイドの二人がわたしの入浴を手伝ってくれようとした。
「あ、あの、一人で入れますので」
令嬢達が入浴の時にメイドが手伝ってくれると本で読んだことはあった。
でもわたしはいつも一人で入るのでかなり抵抗があった。
食事も入浴も着替えも全てメイド達が準備してくれて手伝ってくれる。
普段食べ慣れない豪華なお料理に驚きながらもしっかり美味しく頂いた。
ヴィーは時間が許す限り公爵家にいる間そばに居てくれた。屋敷の中を案内してくれたり図書室にも連れて行ってくれた。
「ここが図書室?すごいわ。たくさん本があるわ」
いつも差し入れで本を持ってきてくれた。
それはここの本だったのかしら?
「ここの本を持ってくることもありました。でもいつも持参していた本は僕の実家の侯爵家の本です」
「ヴィーのところも大きなお屋敷なの?みんな大きなお屋敷に住んでいるものなのね?」
感心していると
“ティーナ、街には小さなお家もいっぱいあっただろう?”
ーーそう言えばそうね。じゃあヴィーのお家もお金持ちなのね?
“美味しいものがいっぱいあると思うぞ”
ーーそうね、今度聞いてみるわ
アクアは甘いお菓子が大好き。だけどわたしの離れではあまり手に入らなかった。
ヴィーは差し入れで持ってきてくれるのでアクアはいつもヴィーが来るのを心待ちにしていた。
“ヴィーにいつものが食べたいと言っておいて”
わたしはアクアのお願いを一応伝えてみた。
「ヴィー、あのねアクアがいつも差し入れしてくれるチョコレートを食べたいと言ってるの……居候してご迷惑をかけているのに……我儘言ってごめんなさい」
「チョコレート?しばらく実家に帰っていないので公爵家の料理人に頼んでおきましょう」
「ありがとう、わたしは本を選んでもいいかしら」
ーーアクア、お強請りって言うの恥ずかしいわ。もう次は言わないからね。
“ええ?ヴィーはいい奴だから、僕の願いは叶えてくれるよ”
ーーそうだけど、伝えるのはわたしよ?知らない人が聞くとわたしが我儘言っているように思われるわ
“え?いいじゃん、ダメなの?”
ーー好きな人にはそんなこと言いたくないわ。
“ティーナの初恋の人だもんね”
ーー初恋は実らないらしいわ。本の受け売りだけどね?
ヴィーはわたしを大切にしてくれる。いつもわたしを一番に考えてくれる。
だけどそれは仕事だから。
もうこれからは公爵家の騎士団に入るからなかなか会えなくなるかもしれない。
そう思うとこの時間を大切にしておかないとと強く感じた。
それにわたしはこれからどうなるのだろう。
まだ説明は受けていないだけにこのゆっくりと流れる優しい時間がいつまで続くのかと思うと不安になってしまう。
「クリスティーナ様お久しぶりです」
「あっ……貴方は……」
離れで暮らしている時、たまにセリーヌ園の庭でお見かけした人だった。
かなり離れた場所からわたしの姿をチラッと見ては通り過ぎていく。話しかけられることもなく。
仕事でこの辺りを歩いて何処かへ移動しているのだろう。そう思っていた。
いつもたくさんの人に囲まれ忙しそうにしていたから。
ヴィーがわたしに「義兄上のジェラール・トレントです」と紹介してくれた。
「貴女のお姿を拝見しても何も出来ずにいて申し訳ありませんでした」
「時々わたしの様子を見にきてくださっていたんですね?ありがとうございます」
「義兄上がクリスティーナ様があそこで暮らせるように支えてくれていたんです」
「いや、でもあの王子達を止めることは難しかった。それに側妃達の嫌がらせも日に日に酷くなるのでこっそり助けるのも限界がありました。嫌な思い、辛い思いをさせて申し訳ありませんでした」
「ううん、ヴィーが以前言っていました。わたしを守ろうとしてくれている人達は沢山いる。出来るだけ被害がないように止めてはいるんだ……と」
思い出しながらトレント公爵に話を続けた。
「あの義弟がすることを止めるのは大変なことだと思います。幼い頃から自分の身分を振りかざして威張り散らすことしか出来ませんから。騎士の皆さんはいつも困って苦しそうなお顔をしていました」
「そう言っていただけるだけで嬉しく思います」
“ティーナ、この人いい人。僕知ってる。あの側妃達に命令された男達が、離れに火をつけようとした時止めに来ていたもん。ま、火なんてすぐ消してしまうから大丈夫なんだけどね”
ーーそんなことをしようとしていたの?
わたしは今頃になって恐ろしくなった。
それから少しだけ話をして
「今夜は遅い。また後日話をさせてください」
「わかりました」
「ヴィル、君は今夜はこちらに泊まるのかい?」
「はい、クリスティーナ様も突然ここにきて戸惑われると思いますのでしばらくはそばについていてあげたいと思っております」
「わかった、ではくれぐれも……わかっているな?」
トレント公爵はヴィーの肩をポンっと叩いた。
わたしがよくわからず二人をじっと見ているとヴィーが少し困った顔をして
「クリスティーナ様、隣の部屋の控え室で待機しています。何かありましたらベルを鳴らしてください」
と言って公爵と二人部屋を出て行った。
その夜メイドの二人がわたしの入浴を手伝ってくれようとした。
「あ、あの、一人で入れますので」
令嬢達が入浴の時にメイドが手伝ってくれると本で読んだことはあった。
でもわたしはいつも一人で入るのでかなり抵抗があった。
食事も入浴も着替えも全てメイド達が準備してくれて手伝ってくれる。
普段食べ慣れない豪華なお料理に驚きながらもしっかり美味しく頂いた。
ヴィーは時間が許す限り公爵家にいる間そばに居てくれた。屋敷の中を案内してくれたり図書室にも連れて行ってくれた。
「ここが図書室?すごいわ。たくさん本があるわ」
いつも差し入れで本を持ってきてくれた。
それはここの本だったのかしら?
「ここの本を持ってくることもありました。でもいつも持参していた本は僕の実家の侯爵家の本です」
「ヴィーのところも大きなお屋敷なの?みんな大きなお屋敷に住んでいるものなのね?」
感心していると
“ティーナ、街には小さなお家もいっぱいあっただろう?”
ーーそう言えばそうね。じゃあヴィーのお家もお金持ちなのね?
“美味しいものがいっぱいあると思うぞ”
ーーそうね、今度聞いてみるわ
アクアは甘いお菓子が大好き。だけどわたしの離れではあまり手に入らなかった。
ヴィーは差し入れで持ってきてくれるのでアクアはいつもヴィーが来るのを心待ちにしていた。
“ヴィーにいつものが食べたいと言っておいて”
わたしはアクアのお願いを一応伝えてみた。
「ヴィー、あのねアクアがいつも差し入れしてくれるチョコレートを食べたいと言ってるの……居候してご迷惑をかけているのに……我儘言ってごめんなさい」
「チョコレート?しばらく実家に帰っていないので公爵家の料理人に頼んでおきましょう」
「ありがとう、わたしは本を選んでもいいかしら」
ーーアクア、お強請りって言うの恥ずかしいわ。もう次は言わないからね。
“ええ?ヴィーはいい奴だから、僕の願いは叶えてくれるよ”
ーーそうだけど、伝えるのはわたしよ?知らない人が聞くとわたしが我儘言っているように思われるわ
“え?いいじゃん、ダメなの?”
ーー好きな人にはそんなこと言いたくないわ。
“ティーナの初恋の人だもんね”
ーー初恋は実らないらしいわ。本の受け売りだけどね?
ヴィーはわたしを大切にしてくれる。いつもわたしを一番に考えてくれる。
だけどそれは仕事だから。
もうこれからは公爵家の騎士団に入るからなかなか会えなくなるかもしれない。
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