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以前のわたし。
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子供達は庭に遊具が出来てとても喜んでくれた。屋敷の使用人の子供達にも開放して、みんなの笑い声が絶えない日々は疲れた大人達の心を和ませてくれた。
ふふ、グレイ様、なかなかいい仕事をしてくださったわ。
ハンクスさんは子爵の爵位を持っていた。いまだに独身らしい。
だからグレイ様は「あまり近づくな!」と自分がわたしに紹介したくせに今では警戒してグレイ様がいる時しか会わせてもらえない。
おかげでドレスを選んだりサイズ合わせなどもグレイ様の都合に合わせるので時間がかかってしまう。これなら街に行きドレスを選んだほうが早い気がした。
「ティア、今度王城で舞踏会がある。参加しないといけないのだが……いいだろうか?ただ……その前にティアにはもう一つ話していないことがある」
真剣な顔でグレイ様が話す。
ーーなんだか嫌な予感しかしない。
「兄様が亡くなった……もう……十分受け止めることが出来ない事実を知ったのよ?それ以上何があるというの?」
ーーもうこれ以上聞きたくない!まだ実家にすら顔を出していないのに。現実を受け止める勇気がまだないのに……
思わず手で耳を塞いだ。
子供達はお昼寝中でわたしは二人のそばで刺繍をしながら過ごしていた。
「ティア……部屋を移動しよう。子供達が寝ているから隣の部屋へ行こう」
「わかったわ……」
子供部屋の隣はわたしの部屋になっている。
グレイ様がわたしの部屋に来ることはあまりない。彼はわたしの部屋に来て少し戸惑っていた。
ーー自分がここで話そうと言ったくせに、何動揺しているのかしら?
「君の部屋には……あまり物がないんだな」
「ああ、以前のわたしが必要としていなかったのかもしれませんね」
ーー確かにこの部屋は思った以上に物がない。
家具がひとつとテーブルと椅子。
クローゼットの中のドレスは数枚。
あとは屋敷で過ごす時用にシンプルなドレスやワンピースの方が多かった。
あまり外出を好まなかったのだろう。部屋から出ないと言っていたのはこの部屋にいればわかる。
「すまない、やはり新しく部屋を改装しよう」
「まだそんなことを言っているのですか?わたしはノエル君の母としてこの屋敷で過ごしているだけです。この屋敷で何かを必要としてはいません。ドレスだけは『今』のわたしのために作ってもらってはいますが、それで十分です」
「しかしっ………」グレイ様は唇を噛んで悔しそうにしていた。彼は彼なりにこの5年間のことを悔いているのかもしれない。
「はあーーー、ティア、必要な物があればすぐに言って欲しい。俺はこんなだから気が利かない……」
「ええ、もちろんその時はお願いしますね。それよりも……そろそろ実家に一度戻りたいのです……兄様のことも……ありますので」
ーー逃げてばかりではダメだわ。わたしは記憶をなくす前、逃げてばかりで向き合わなかった結果ノエル君達を不幸にしたのよ。
「そのことだが………君の父上のことだが、実は……数ヶ月前に亡くなっているんだ」
「……………………嘘」
「すまない、君が記憶をなくしたきっかけは……俺と別れたいと言われ、俺が嫌だと言うと部屋から廊下に飛び出して、「近づかないで!」と叫んで階段をおりて一階に行こうとして足を踏み外して大怪我をしたのがきっかけなんだ……
君は兄も父も亡くし、失望の中離縁を申し込んできた。俺はそれを何度も拒否した」
「お父様もこの世にいないの?そんな…………」
ーー嘘よ!だっていつもわたしの前であんなに笑ってだじゃない。お二人は「ティア」ってほんのこの前までわたしの名を呼んでくれていたわ………記憶をなくしたのは……現実から逃れるためだったの?
だったら知らなけばばよかった………
「あっ……ああっ………」
声を出して泣いた。
だって、受け止められない。
タバサが実家のことを聞くと困った顔をしていたわ。
だからノエル君達のことに目を向けて、兄様のことは考えないようにしていた。まさかお父様まで……
「……お父様は……どうして……亡くなったの?」
「肺の病気だった……君を嫁がせる前……かなりの借金で苦労されて身も心も疲弊していたのだろう……伯爵家がなんとか立ち直り始めた時、アンディ殿が馬車の事故で亡くなり、義父上は一人で伯爵家を守ろうと頑張ったんだ……」
「わたしは……その間……」
「君はノエルを産んで病んでいたんだ……実家には帰ろうとはしなかった……」
ーーわたしは捨てられたと思っていたと言ってたわ……
お二人が亡くなって……わたしの心は壊れたのね……グレイ様にも愛されていないと思っていたし政略結婚で嫁がされ、わたしには何もなかったのかもしれないわ。
ノエル君のことも愛することすらできなくて……
以前の自分に対して『辛かったのね』と問いかけた。
だけど……今は以前のわたしではないの。
「お父様と兄様に………会いに行きたいわ」
「………わかった……すぐに休みを取る……会いに行こう」
ふふ、グレイ様、なかなかいい仕事をしてくださったわ。
ハンクスさんは子爵の爵位を持っていた。いまだに独身らしい。
だからグレイ様は「あまり近づくな!」と自分がわたしに紹介したくせに今では警戒してグレイ様がいる時しか会わせてもらえない。
おかげでドレスを選んだりサイズ合わせなどもグレイ様の都合に合わせるので時間がかかってしまう。これなら街に行きドレスを選んだほうが早い気がした。
「ティア、今度王城で舞踏会がある。参加しないといけないのだが……いいだろうか?ただ……その前にティアにはもう一つ話していないことがある」
真剣な顔でグレイ様が話す。
ーーなんだか嫌な予感しかしない。
「兄様が亡くなった……もう……十分受け止めることが出来ない事実を知ったのよ?それ以上何があるというの?」
ーーもうこれ以上聞きたくない!まだ実家にすら顔を出していないのに。現実を受け止める勇気がまだないのに……
思わず手で耳を塞いだ。
子供達はお昼寝中でわたしは二人のそばで刺繍をしながら過ごしていた。
「ティア……部屋を移動しよう。子供達が寝ているから隣の部屋へ行こう」
「わかったわ……」
子供部屋の隣はわたしの部屋になっている。
グレイ様がわたしの部屋に来ることはあまりない。彼はわたしの部屋に来て少し戸惑っていた。
ーー自分がここで話そうと言ったくせに、何動揺しているのかしら?
「君の部屋には……あまり物がないんだな」
「ああ、以前のわたしが必要としていなかったのかもしれませんね」
ーー確かにこの部屋は思った以上に物がない。
家具がひとつとテーブルと椅子。
クローゼットの中のドレスは数枚。
あとは屋敷で過ごす時用にシンプルなドレスやワンピースの方が多かった。
あまり外出を好まなかったのだろう。部屋から出ないと言っていたのはこの部屋にいればわかる。
「すまない、やはり新しく部屋を改装しよう」
「まだそんなことを言っているのですか?わたしはノエル君の母としてこの屋敷で過ごしているだけです。この屋敷で何かを必要としてはいません。ドレスだけは『今』のわたしのために作ってもらってはいますが、それで十分です」
「しかしっ………」グレイ様は唇を噛んで悔しそうにしていた。彼は彼なりにこの5年間のことを悔いているのかもしれない。
「はあーーー、ティア、必要な物があればすぐに言って欲しい。俺はこんなだから気が利かない……」
「ええ、もちろんその時はお願いしますね。それよりも……そろそろ実家に一度戻りたいのです……兄様のことも……ありますので」
ーー逃げてばかりではダメだわ。わたしは記憶をなくす前、逃げてばかりで向き合わなかった結果ノエル君達を不幸にしたのよ。
「そのことだが………君の父上のことだが、実は……数ヶ月前に亡くなっているんだ」
「……………………嘘」
「すまない、君が記憶をなくしたきっかけは……俺と別れたいと言われ、俺が嫌だと言うと部屋から廊下に飛び出して、「近づかないで!」と叫んで階段をおりて一階に行こうとして足を踏み外して大怪我をしたのがきっかけなんだ……
君は兄も父も亡くし、失望の中離縁を申し込んできた。俺はそれを何度も拒否した」
「お父様もこの世にいないの?そんな…………」
ーー嘘よ!だっていつもわたしの前であんなに笑ってだじゃない。お二人は「ティア」ってほんのこの前までわたしの名を呼んでくれていたわ………記憶をなくしたのは……現実から逃れるためだったの?
だったら知らなけばばよかった………
「あっ……ああっ………」
声を出して泣いた。
だって、受け止められない。
タバサが実家のことを聞くと困った顔をしていたわ。
だからノエル君達のことに目を向けて、兄様のことは考えないようにしていた。まさかお父様まで……
「……お父様は……どうして……亡くなったの?」
「肺の病気だった……君を嫁がせる前……かなりの借金で苦労されて身も心も疲弊していたのだろう……伯爵家がなんとか立ち直り始めた時、アンディ殿が馬車の事故で亡くなり、義父上は一人で伯爵家を守ろうと頑張ったんだ……」
「わたしは……その間……」
「君はノエルを産んで病んでいたんだ……実家には帰ろうとはしなかった……」
ーーわたしは捨てられたと思っていたと言ってたわ……
お二人が亡くなって……わたしの心は壊れたのね……グレイ様にも愛されていないと思っていたし政略結婚で嫁がされ、わたしには何もなかったのかもしれないわ。
ノエル君のことも愛することすらできなくて……
以前の自分に対して『辛かったのね』と問いかけた。
だけど……今は以前のわたしではないの。
「お父様と兄様に………会いに行きたいわ」
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