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番外編 ミリア。
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わたしには愛する人がいた。
わたしの3歳年上のビリー お従兄様。
実家には一人娘のわたししかいなかったのでお従兄様が子爵家の跡を継ぐことが決まっていた。
わたしと結婚をして……ずっとそう思っていたのにお父様は「お前には嫁いでもらうことになっている。お前のその優秀な頭脳を欲しているお方がいるんだ」
と17歳の時に言われた。
災害に遭ったのが原因ではあるけど元々領主としての仕事が苦手でほとんど人任せにしていたお父様。そのためわたしの実家は借金で首が回らなくなっていた。
わたしに目をつけたのが元夫のダニエルの父親、当時の公爵様だった。
あの男は18歳になったわたしに向かって言ったのだ。
「なかなか賢そうな娘だ、顔もまあまあだし、身体もそれなりに育っている。本当ならわたしが味見をしてから息子に渡したいが、純潔の方が息子も喜ぶだろう」ニヤッと笑った公爵の顔が気持ち悪くて鳥肌が立った。
「お父様、嫌です。わたしはお従兄様と結婚したい」
「馬鹿なことを言うな、ビリーには婚約者が幼い頃からいる。お前はビリーのためにバーランド公爵家に嫁いで公爵夫人になるんだ」
「婚約者?知らない!そんな話聞いたことがないわ」
お従兄様に詰め寄ると「すまない、だが名前だけの婚約者なんだ。愛しているのはミリアだけだ」と言って優しいキスをしてくれた。
「本当に?」
「もちろんさ。だけど子爵家にはお金がない。ミリア、愛している、だけど数年だけ我慢して嫁いでくれないか?借金がなくなって落ち着いたら迎えにいくから我慢して待っていて」
わたしは才女と言われていたのに、恋は盲目だった。お従兄様の言葉に素直に頷いた。
しかし結婚するのではなく、病床についている奥様の代わりにわたしが子供を孕むのがわたしの仕事だった。
わたしの優秀な成績に目をつけ、公爵家の優秀な子供を産む。それだけを望まれた。
しかも処女のわたしが襲うことになった。
ダニエルは目覚めると
「お前は誰だ?」
「……わ、わたしは……貴方の新しい妻となるミリア・フォードと申します。貴方の子種をたくさん頂きました」
「は?何を言っているんだ?」
「すぐに避妊薬を飲め!なんてことをしてくれたんだ!」
「だ、ダメです!貴方の子供を産まないとわたしの実家は破産してしまいます。わたしが貴方に嫁ぐことが支援をしていただく条件なんです」
「そんなこと知るか!俺には関係ない!」
「関係なくありません。貴方ももう巻き込まれたのです、貴方が拒否をすればわたしの実家の子爵家の領民達は飢えて死んでしまいます。どれだけの人たちが死ぬと思うのですか?その人たちを助けるためにわたしは貴方に操を捧げたのです」
その言葉を聞いてダニエルはシーツを見る。そして赤い血がついていることに気がついた。
「俺は君の初めてを奪ってしまったのか?」
「はい」
「だが俺には妻がいる。愛する妻がいるんだ」
「この手紙をお読み下さい」
震える手でダニエルに公爵様からの手紙を渡した。
『お前がエレファと別れたくなければその女を孕ませろ。それがエレファをこの国に留める唯一の条件だ。それが出来なければ即離縁して国に帰す』
読んだ手紙をグシャグシャにして丸めて握りつぶした。
「ふざけんな!あのくそジジイ!落ちぶれた子爵家の娘が公爵になる俺の子供を産んでどうすると言うんだ」
「わたしには地位もお金もありませんが、頭脳があります。わたしは王立学園で首席で卒業しました」
「ふうん、父上はそれを狙ったのか……だが俺には愛する妻がいる。たとえ君が俺の子供を産もうとその子供も君も愛することはない」
ダニエルは吐き捨てるように言った。
「貴方からの愛など要りません。欲しいのは領地を救うための援助金です。子供も必要なら産んで公爵家に差し上げます」
「………服を着て出て行ってくれ!今は何も考えられない」
「……わかりました」
服を着るとわたしは黙って出て行った。
怖かった、痛かった、気持ち悪かった。
まるでわたしだけが悪いことをしたように責められた。わたしだって大好きなお従兄様に初めては捧げたかった。
なのに会ったこともない好きでもない年上の男に抱かれたのだ。それも向こうは奥様と勘違いして、何度も「愛している」と言って求めてきた。
薬を使いわたしを抱かせたとはいえ、ショックだった。他の人の名前を言われながら何度も抱かれたのだ。
まだ純粋だったわたしは屋敷に戻り泣いた。でも公爵様は非情な人で、「この薬を使い何度も抱かれてこい。いつかは妊娠するはずだ」と薬を渡されダニエルに何度も抱かれた。
少しずつ身体がダニエルを求めるようになってきた。ダニエルも薬を使っているとはいえ、病床の奥様を抱けないで溜まった性欲をわたしにぶつけるように抱いてきた。
お互い愛のない虚しいだけの情事。だけどわたしは必死だった。
ダニエルに抱かれた後、お従兄様はわたしを労ってくれた。
「嫌な思いをさせてすまなかった。今夜は一緒に過ごそう」
わたしを抱いてくれるわけではない。同じベッドに寝てくれるわけでもない。
ただわたしの部屋に来て、ベッドのそばに椅子を置き、そこに座りわたしの頭を優しく撫でてくれる。
それだけでもわたしは十分だった。
お従兄様の役に立っているんだ、わたしは愛されているんだと思い込んでいた。
そしてダニエルの子供を妊娠した。そして別邸で息子と二人愛人として暮らし始めた。
そして奥様が亡くなり、ダニエルが公爵になりわたしが公爵夫人となった。
我が子が可愛いなんて思ったことはない。だって愛するお従兄様の子供じゃないもの。
その後もう一人くらい跡取りの予備が必要だと、前公爵様に言われ妊娠させられた。
産まれたのは女の子だった。
前公爵様は「女の子を産んでどうするんだ!」と吐き捨てた。
それからのわたしの役目は夫のダニエルとダイアナの監視。そしてわたしが逃げ出さないように別の者がわたしを監視していた。
もし逃げようものならわたしの愛するお従兄様は殺される。前公爵様はそう言ってわたしを脅した。
だからわたしは逃げられなかった。
良き母、良き妻を演じていた。
それも全て愛するお従兄様のため。だけどもうそれもおしまい。
だってあの人はわたしを裏切って婚約者の女と結婚して今では幸せな日々を送っているもの。
わたしの若さと時間を犠牲にして心を殺して過ごしたのに、わたしには何も残っていない。
もう実家への仕送りは不要。
彼が殺されようとあんなところどうなろうと関係ない。
わたしだけがずっと犠牲になって残ったのは虚しさと恨みだけ。
やっと逃げられる、そう思ったのに……ダイアナを攫った刑で捕まった。
さらにダニエルに薬を盛っていたこと、前公爵様の手先となって仕事をしていたこと全てがバレて捕まった。違法薬物の使用や売買をしていたことも全て明らかにされ、わたしは罰を受ける。
男の囚人たちの慰み者になったわたし。
毎日何人もの男達に無理やり犯される。
嫌だ、嫌だ、お従兄様助けて!
何度も何度もお従兄様に助けを求めた。
だけどわたしの中のお従兄様は、優しく微笑み優しい言葉を紡ぐ。嘘だらけの心が籠っていない偽りの笑顔と言葉で。
「わたしは幸せになりたかった」それの何がいけないの?好きでもない男に抱かれ好きでもない男の子供を産んだ。そして愛している男のために我慢した。
だけどわたしには何も残らなかった。
ダイアナに問われた言葉を今頃になって思い出す。
『弟達は?どうするのですか?』
『わたしは産めと命令されたの。仕方なく公爵夫人としてその間過ごしてあげたの。もう十分でしょう?』
そうわたしは子供なんて要らなかった。なのに……思い出すのは子供達とダニエルと過ごした日々。
わたしが捨てたあの幸せな日々。偽物の家族だと思っていたのに、わたしは………幸せだった。
そう、あの場所には確かな幸せがあった。
それを捨てたのはわたしだった。
◆ ◆ ◆
ジャスティアの夫の辺境伯。
確かにどんな人なのでしょう!
ちょっと書いてみたくなったのでまた後日!
皆様の感想、リクエストありがとうございます。
全ては書けませんが少しでも書けそうなものがあれば……が、頑張ります⁈
わたしの3歳年上のビリー お従兄様。
実家には一人娘のわたししかいなかったのでお従兄様が子爵家の跡を継ぐことが決まっていた。
わたしと結婚をして……ずっとそう思っていたのにお父様は「お前には嫁いでもらうことになっている。お前のその優秀な頭脳を欲しているお方がいるんだ」
と17歳の時に言われた。
災害に遭ったのが原因ではあるけど元々領主としての仕事が苦手でほとんど人任せにしていたお父様。そのためわたしの実家は借金で首が回らなくなっていた。
わたしに目をつけたのが元夫のダニエルの父親、当時の公爵様だった。
あの男は18歳になったわたしに向かって言ったのだ。
「なかなか賢そうな娘だ、顔もまあまあだし、身体もそれなりに育っている。本当ならわたしが味見をしてから息子に渡したいが、純潔の方が息子も喜ぶだろう」ニヤッと笑った公爵の顔が気持ち悪くて鳥肌が立った。
「お父様、嫌です。わたしはお従兄様と結婚したい」
「馬鹿なことを言うな、ビリーには婚約者が幼い頃からいる。お前はビリーのためにバーランド公爵家に嫁いで公爵夫人になるんだ」
「婚約者?知らない!そんな話聞いたことがないわ」
お従兄様に詰め寄ると「すまない、だが名前だけの婚約者なんだ。愛しているのはミリアだけだ」と言って優しいキスをしてくれた。
「本当に?」
「もちろんさ。だけど子爵家にはお金がない。ミリア、愛している、だけど数年だけ我慢して嫁いでくれないか?借金がなくなって落ち着いたら迎えにいくから我慢して待っていて」
わたしは才女と言われていたのに、恋は盲目だった。お従兄様の言葉に素直に頷いた。
しかし結婚するのではなく、病床についている奥様の代わりにわたしが子供を孕むのがわたしの仕事だった。
わたしの優秀な成績に目をつけ、公爵家の優秀な子供を産む。それだけを望まれた。
しかも処女のわたしが襲うことになった。
ダニエルは目覚めると
「お前は誰だ?」
「……わ、わたしは……貴方の新しい妻となるミリア・フォードと申します。貴方の子種をたくさん頂きました」
「は?何を言っているんだ?」
「すぐに避妊薬を飲め!なんてことをしてくれたんだ!」
「だ、ダメです!貴方の子供を産まないとわたしの実家は破産してしまいます。わたしが貴方に嫁ぐことが支援をしていただく条件なんです」
「そんなこと知るか!俺には関係ない!」
「関係なくありません。貴方ももう巻き込まれたのです、貴方が拒否をすればわたしの実家の子爵家の領民達は飢えて死んでしまいます。どれだけの人たちが死ぬと思うのですか?その人たちを助けるためにわたしは貴方に操を捧げたのです」
その言葉を聞いてダニエルはシーツを見る。そして赤い血がついていることに気がついた。
「俺は君の初めてを奪ってしまったのか?」
「はい」
「だが俺には妻がいる。愛する妻がいるんだ」
「この手紙をお読み下さい」
震える手でダニエルに公爵様からの手紙を渡した。
『お前がエレファと別れたくなければその女を孕ませろ。それがエレファをこの国に留める唯一の条件だ。それが出来なければ即離縁して国に帰す』
読んだ手紙をグシャグシャにして丸めて握りつぶした。
「ふざけんな!あのくそジジイ!落ちぶれた子爵家の娘が公爵になる俺の子供を産んでどうすると言うんだ」
「わたしには地位もお金もありませんが、頭脳があります。わたしは王立学園で首席で卒業しました」
「ふうん、父上はそれを狙ったのか……だが俺には愛する妻がいる。たとえ君が俺の子供を産もうとその子供も君も愛することはない」
ダニエルは吐き捨てるように言った。
「貴方からの愛など要りません。欲しいのは領地を救うための援助金です。子供も必要なら産んで公爵家に差し上げます」
「………服を着て出て行ってくれ!今は何も考えられない」
「……わかりました」
服を着るとわたしは黙って出て行った。
怖かった、痛かった、気持ち悪かった。
まるでわたしだけが悪いことをしたように責められた。わたしだって大好きなお従兄様に初めては捧げたかった。
なのに会ったこともない好きでもない年上の男に抱かれたのだ。それも向こうは奥様と勘違いして、何度も「愛している」と言って求めてきた。
薬を使いわたしを抱かせたとはいえ、ショックだった。他の人の名前を言われながら何度も抱かれたのだ。
まだ純粋だったわたしは屋敷に戻り泣いた。でも公爵様は非情な人で、「この薬を使い何度も抱かれてこい。いつかは妊娠するはずだ」と薬を渡されダニエルに何度も抱かれた。
少しずつ身体がダニエルを求めるようになってきた。ダニエルも薬を使っているとはいえ、病床の奥様を抱けないで溜まった性欲をわたしにぶつけるように抱いてきた。
お互い愛のない虚しいだけの情事。だけどわたしは必死だった。
ダニエルに抱かれた後、お従兄様はわたしを労ってくれた。
「嫌な思いをさせてすまなかった。今夜は一緒に過ごそう」
わたしを抱いてくれるわけではない。同じベッドに寝てくれるわけでもない。
ただわたしの部屋に来て、ベッドのそばに椅子を置き、そこに座りわたしの頭を優しく撫でてくれる。
それだけでもわたしは十分だった。
お従兄様の役に立っているんだ、わたしは愛されているんだと思い込んでいた。
そしてダニエルの子供を妊娠した。そして別邸で息子と二人愛人として暮らし始めた。
そして奥様が亡くなり、ダニエルが公爵になりわたしが公爵夫人となった。
我が子が可愛いなんて思ったことはない。だって愛するお従兄様の子供じゃないもの。
その後もう一人くらい跡取りの予備が必要だと、前公爵様に言われ妊娠させられた。
産まれたのは女の子だった。
前公爵様は「女の子を産んでどうするんだ!」と吐き捨てた。
それからのわたしの役目は夫のダニエルとダイアナの監視。そしてわたしが逃げ出さないように別の者がわたしを監視していた。
もし逃げようものならわたしの愛するお従兄様は殺される。前公爵様はそう言ってわたしを脅した。
だからわたしは逃げられなかった。
良き母、良き妻を演じていた。
それも全て愛するお従兄様のため。だけどもうそれもおしまい。
だってあの人はわたしを裏切って婚約者の女と結婚して今では幸せな日々を送っているもの。
わたしの若さと時間を犠牲にして心を殺して過ごしたのに、わたしには何も残っていない。
もう実家への仕送りは不要。
彼が殺されようとあんなところどうなろうと関係ない。
わたしだけがずっと犠牲になって残ったのは虚しさと恨みだけ。
やっと逃げられる、そう思ったのに……ダイアナを攫った刑で捕まった。
さらにダニエルに薬を盛っていたこと、前公爵様の手先となって仕事をしていたこと全てがバレて捕まった。違法薬物の使用や売買をしていたことも全て明らかにされ、わたしは罰を受ける。
男の囚人たちの慰み者になったわたし。
毎日何人もの男達に無理やり犯される。
嫌だ、嫌だ、お従兄様助けて!
何度も何度もお従兄様に助けを求めた。
だけどわたしの中のお従兄様は、優しく微笑み優しい言葉を紡ぐ。嘘だらけの心が籠っていない偽りの笑顔と言葉で。
「わたしは幸せになりたかった」それの何がいけないの?好きでもない男に抱かれ好きでもない男の子供を産んだ。そして愛している男のために我慢した。
だけどわたしには何も残らなかった。
ダイアナに問われた言葉を今頃になって思い出す。
『弟達は?どうするのですか?』
『わたしは産めと命令されたの。仕方なく公爵夫人としてその間過ごしてあげたの。もう十分でしょう?』
そうわたしは子供なんて要らなかった。なのに……思い出すのは子供達とダニエルと過ごした日々。
わたしが捨てたあの幸せな日々。偽物の家族だと思っていたのに、わたしは………幸せだった。
そう、あの場所には確かな幸せがあった。
それを捨てたのはわたしだった。
◆ ◆ ◆
ジャスティアの夫の辺境伯。
確かにどんな人なのでしょう!
ちょっと書いてみたくなったのでまた後日!
皆様の感想、リクエストありがとうございます。
全ては書けませんが少しでも書けそうなものがあれば……が、頑張ります⁈
応援ありがとうございます!
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