【完結】今夜さよならをします

たろ

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新しい恋。

番外編  リーリエの日々

「ねえ、わたし自分の国に帰りたいの。どうしてこんな所に居なきゃいけないの?」

 周りをキョロキョロすると、そこにあるのは草。そして……草。
 たまにうさぎや野ネズミ。

 そしてたくさんの羊と牛。

 そして……見上げる空はひたすら青かった。

 わたしの仕事は動物達のお世話係。

 糞を集めて堆肥にする。
 もう臭くてたまらない。
 持ったことがない大きなスコップ。
 そして台車、これがなかり重たいの!

 重たくてフラフラふらして何度う◯この上で転んだことか……もう最悪なの。
 どんなに体を洗っても臭いが取れない。

 その間は周りの人たちですらわたしの近くに寄ろうとしない。

 羊と牛に草を食べさせて、夕方になると動物達を小屋に入れる。

「わたしはドレスが着たいの!なんでこんな作業着を着ないといけないの?ズボンなんて履いたこともなかったのに!これなら修道院にいた方がよっぽどマシだわ」

 わたしがぶつぶつ文句を言っていると、お爺さんがバカにしたように言った。

「ここは罪を犯した人間が悔い改めて過ごすための場所じゃ。あんたも犯罪を犯したんだろう?」

「わたしが?何もしていないわ。男達にちょっと女の子を攫うようにお願いしただけだわ。わたし自身は何もしていないわ」

 ーーこの老人なんて失礼なの!わたしはバズール様に求められていたの!だから邪魔なライナを排除しようとしただけだもの。それもわたし自身は何もしていない。

「あんた、そんな性格じゃ、このままずっとここで暮らすしかないな」

「え?いやよ!まだ修道院の方がよっぽどマシだわ」

 ここにはわたしに優しくしてくれる男の人はいない。
 わたしを抱きしめて「可愛い」とか「好きだよ」と言って抱いてくれる人はいない。

 わたしは全ての男に愛されたいのに。

 老人をじっと見てため息を吐く。

「はあーー、こんな爺さんとじゃエッチなんて出来やしないわ」

「なに試してみるか?年取っているだけにそっちはかなり上手だぞ」

「え?いやよ!わたしにだって選ぶ権利はあるもの」

「わしにだって選ぶ権利はある。顔が可愛くても心が不細工なあんたにおれの息子はびくともしないさ」

「ま、まぁ!失礼な!わたしはとても可愛いの!あなたの目、腐ってるんじゃないかしら?」

 わたしはこのお爺さんとコンビでいつも動物の世話をしている。

 ここに来てもう三年。

 こんなやり取りが毎日。

「わははは!嬢ちゃん、あんた一回鏡で顔見てみろ!可愛いとはもう言えない」

「失礼ね」

 確かに鏡なんてないから自分の顔を見ることがなくなった。でも可愛いわたしは今も可愛いわ。



 ここには古い建物があるだけ。

 そこにはわたし達のような罪を犯した人達が住んでいる。
 ただし、いるのは老人のお爺さんとお婆さんだけ。

 若いのはわたしだけ。

 さらに言うと周りにはお店も家もない。

 あるのは草っ原。

 月に2回、物資を運んでくるのもお爺さん。

 わたしの話し相手もお爺さんとお婆さん。

 そして……鏡もない。化粧品もない。ドレスもない。豪華な食事なんてどこにもない。

 ………だけど仕事をした後の美味しいミルク。

 どこで取ってきたかわからない木苺のジャム。
 だけどとても美味しいの。

 硬い干し肉は、お婆さんが柔らかく煮込んで味を染み込ませてシチューや煮物を作ってくれる。

 焼きたてのパンは素朴だけど食べると甘みが口で広がる。

 目が覚めると美味しい空気。

 夜眠れない時は外に出るとたくさんの星。

 明かりすらどこにもないこの場所では、星がとても綺麗に見える。

 ーー反省なんてする気はない。

 もしわたしを助け出してくれる人がいれば喜んでついていくわ。
 カッコいい男性がわたしを抱きたいと言ってくれればいつでもこの体を差し出すつもり。


 だってわたしは男の人の良さを知ってしまったもの。愛してくれる喜びも体の気持ちの良さや悦びも知ってしまった。

 だけど、お爺さんとお婆さん達、そして動物達に囲まれてここで暮らすのもいいかもしれない………なんて少し思う時もあるの。


 そんなある日、朝小屋で待っていてもいつものお爺さんが来ない。

「もう!何してるの、遅すぎじゃない?」

 文句を言いながらお爺さんの部屋へ起こしに行った。

「お爺さん、早く起きなさいよ!ほんと年寄りはグズなんだから!」

 わたしがそう言うとベッドに近づいた。

 たまに甘えてわたしが起こしに来るのを楽しみに待っている。

「お爺さん?」

 ベッドの上には静かに眠るように死んでいるお爺さんがいた。

「ねえ、また、悪ふざけしているの?起きなさいよ!わたしが起こしてあげているのよ!」

 なのにびくとも動かない。

「……起きなさいよ!」
 お爺さんの体を揺する。目の前は涙で霞んでいた。

 後ろから「やめなさい、もう死んでいるじゃないか」
 わたしの声を聞いたお婆さんがわたしの手を止めた。

「だって、お爺さんが起きないんだもん、今から仕事に行くのに……お爺さん、『また明日な』って昨日笑いながら言ったのよ?」

「もうかなり歳をとっていたからね、幸せに死んでいったのよ、あんたのおかげで」

「わたしの?」

「あんたはここでは私たちの孫みたいなもの。可愛くて毎日が新鮮で笑顔をくれるんだよ、爺さんもあんたといる時は体調が悪くても元気になれたんだよ」

 わたしはまた新しいお爺さんとコンビになって毎日を過ごす。

 ーーお爺さん、口が悪かったけど……大好きだったな。もしあんな人がわたしのそばに子どもの時からいたらわたしの性格は違っていたのかしら?

 わたしはここでいつ迎えに来るかわからない王子様をずっと待って過ごすことにした。







「ぎゃー!なに、わたしの顔‼︎こ、この顔はわたしじゃない!何この不細工な日に焼けた女は!」




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