【完結】氷の騎士は忘れられた愛を取り戻したい〜愛しています〜令嬢はそれぞれの愛に気づかない

たろ

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8話

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夜会が始まり王族への挨拶。

そこには元婚約者のギルス・ローナン殿下も立っていた。わたしはセルジオ兄様にエスコートされて挨拶をした。

陛下たちは久しぶりのわたしの姿に笑みを浮かべて

「ジェシカ嬢、今夜は楽しんでくれ」と声をかけてくれた。

わたしは殿下の横に婚約者がいないことを不思議に思った。
婚約解消をしたのだから、もう伯爵令嬢のアンネ・カスタマル様と婚約したのだろうと思っていた。
わたしは領地に行ってからは完全に貴族のそう言う噂話からは遠ざかっていた。
おじ様たちもわたしの耳に入れないようにしてくれていたし敢えて自分も聞かないようにしていた。

殿下との婚約解消がショックだったと言うよりもう振り回されたくはなかった。

「大丈夫?」
小さな声で心配そうに聞いてくる兄様に

「平気です」
と答えたわたし。
殿下はチラッとわたしを見ると何か言いたそうにしていたがわたしは気がつかないふりをした。

「国王陛下、王妃様、ありがとうございます」

わたしは一言だけお礼を言うと兄様にエスコートされてその場を離れた。

王太子殿下ご夫婦のダンスが終わると

「ジェシカ、踊ろう」と言って兄様と踊った。

とても上手なダンスに兄様はカッコいいからこういう場では常にいろんな令嬢と踊っているのだろうなとふと考えてしまった。

「どうした?」
兄様がわたしの顔を覗き込んで聞いたので、兄様から目を逸らして

「兄様はとてもお上手ですね?いつもいろんな方と踊られているのでしょう?わたしもたくさんの人と踊ればこんな風に上手く踊れるのかしら?」

兄様は顔を歪めて少し怖い顔をした。

「俺は夜会にはあまり参加しないよ、仕事で警備に就くことが多いからね」

ーーあ……そうだった。
なんだかヤキモチを妬いたみたいで恥ずかしくなった。

「ごめんなさい、あまりにも上手なので……」
わたしが言葉を濁すと兄様がフッと笑った。

「上手だった?それはよかった。俺はほとんど年上の従姉妹としか踊ったことがないからね、よくわからないんだけどジェシカが上手だと褒めてくれたから嬉しいよ」

兄様がふと笑った顔にドキッとして、どうしていいのかわからなかった。
この気持ちが一体なんなのかわからず、でもいろんな人と踊っていないと聞いて何故か嬉しくなった。

そして次の曲は、パートナーを交代してわたしはティムと踊った。
だけどマリーナは何故か兄様とは踊らなかった。
兄様も何人にも声をかけられていたけど、あの冷たい瞳で断っていた。

わたしが踊り終わって喉が渇いてジュースをもらい、ベランダで涼みながら一人で飲んでいると、後ろから声がかかった。

「ジェシカ嬢、久しぶりだね」

少し緊張した声で話しかけてきたのは、ギルス殿下だった。
わたしは慌ててグラスをテーブルに置いて、挨拶をした。

「ギルス殿下、ご挨拶申し上げます」

わたしが頭を下げたままでいると

「頭を上げて、畏まらないでくれ」

少し寂しそうに言われた。

「はい」

久しぶりにしっかりと顔を見た。

青い瞳が少し冷たく見えるけど本当はとても優しい人。子供の頃からの幼馴染で小さな頃はよく遊んでいた。わたしが12歳の時に婚約した人。
約三年間彼と共に過ごした。

仲良く遊んでいた関係から婚約者になって、わたし達は逆にあまり話さない関係になった。
忙しい王子妃教育で時間が取れず、彼との交流はたくさんの人がいる場でのお茶会が主だった。
毎週のように会っていたのに、会話は減ってしまった。
わたしは、父から笑顔など必要がない、いずれは社交界のトップに立つんだと言われ続け、いつの間にか心がどこかに行ってしまっていた。

笑顔もなくなったわたしに付き合ってくれる優しい殿下。
そんな彼が恋をした。

王宮からの帰り道、庭で楽しそうに寄り添う二人。
わたしなんかと違いアンネ様と殿下はとてもお似合いに見えた。
寂しくもあったけどわたしの前では笑うことなどなくなった殿下なのに、あんなに優しくアンネ様に微笑まれる姿をみて羨ましかった。

わたしもあんな風に愛している人と共に過ごしてみたい……と。

ーー愛している人?
ふといつも感じていた。わたしは殿下を幼馴染として好きだったけど、愛してはいなかった。愛しているのは……誰?いつもここでわたしの思考は止まってしまう。

考えると酷い頭痛が始まる、だからそれ以上は考えることをやめる。

「ジェシカは今領地で暮らしているんだね」

「はい」

「セルジオと付き合い出したんだね?」

「え?」

「僕が二人の邪魔をしなければもっと早くに付き合えたのに……すまなかった」

「あ、あの……何を仰っているのですか?」

わたしは訳がわからなくて驚いていると、

「記憶が戻ったんじゃないの?」
と聞かれた。

「記憶?なんのことですか?」

「………あっ……ごめん、なんでもない」
殿下は慌てて話を逸らした。

「ジェシカが彼と一緒にいたから付き合っているのかと思ったんだ」

「お兄様から婚約者と参加すると断られて、誰も相手がいなかったのでセルジオ兄様がエスコートしてくださったんです」

「セルジオ……兄様?」

「はい、兄様です」

「………そうか」
殿下は少し考え込んでから、「僕の勘違いだったんだね」と、苦笑していた。

「殿下はまだ婚約していないのですか?」
ーーアンネ様……と名前は言わないで聞いた。

「君から婚約解消されて僕はいまだに婚約者がいないんだ」

「え?婚約解消は殿下からだと聞いておりますが?」
わたしが驚いて殿下をみた。

「僕は君と婚約を解消したいなんて思ったことはない。でも君をこれ以上縛り付けられないと思ったから受け入れたんだ」

ーーわからない、お父様は確かに婚約解消をすると言った。
あ……「する」と言ったけど殿下からだとは聞いていない。
お二人の仲を知っていたから、殿下が解消したがっていると思っていた。だから、勝手に思い込んでいたのかもしれない。

「あ、あの、ごめんなさい、よくわからないことばかりで…」
お兄様に確認してみよう、お父様に聞くなんてそんな勇気はないもの。

「君は何も知らないんだね」
寂しそうに言われた。

「僕はね、ずっとジェシカを愛していたんだ。でも君には伝わらなかった、だからと言って他の女性と仲良くなっていい訳ではなかったんだけどね、すまなかった」

ーーそれはアンネ様のことなのだろう。

「僕からはこれ以上話せない。ただ君に謝罪とそして……幸せになって欲しい、今度こそ」

そう言って殿下はホールへと戻って行った。

わたしはベランダでポツンと立っていると

「ジェシカ!ここにいたんだ、よかった。探したんだよ」

セルジオ兄様がすごく心配そうにわたしの手を握りしめた。

「何かあったの?誰かと話したの?」

わたしの様子がおかしかったのか、兄様が聞いてきた。







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