【完結】氷の騎士は忘れられた愛を取り戻したい〜愛しています〜令嬢はそれぞれの愛に気づかない

たろ

文字の大きさ
13 / 26

13話 忘れられた記憶②

ジェシカのいる王都から領地に帰ってきた。

ジェシカの母の公爵夫人のいる離れに会いに行った。

「セルジオ、ごめんなさい。ジェシカはここでの半年間の生活を忘れてしまっているの。
わたしも貴方が王都へ旅立った後に手紙で連絡をもらったのよ、あの子は抵抗してこちらに帰ってこようとして揉めて階段から落ちたと聞いたわ」
病弱の夫人は真っ青な顔をして震えていた。

「俺のことは忘れていましたがジェシカはいつもの明るいジェシカでした。みたところ怪我は膝に少しあるだけでどこも悪くはなかったです」

俺のことだけ忘れているだけで………

俺は何もやる気が出ないまま時が過ぎた。

ジェシカが俺との思い出を思い出すことはなかった。ギルス殿下との結婚のため王子妃教育も始まったと聞いた。
俺はどうすればいい?
ただ士官学校でひたすら体を動かした。それしか気を紛らわせることはできなかった。

新しい恋などしようとも思わない。
ただこの気持ちに整理がつくまでひたすら騎士になることだけを目指して過ごすしかなかった。

それからジェシカに会うことはなかった。

もう俺のことは忘れてジェシカは殿下と結婚して幸せになるんだろうと思っていた。
俺も騎士になり、ジェシカのことは思い出になっていけばいい、そう思っていた。

父上について行った王宮でジェシカを見るまでは。

あんなにいつも笑っていたジェシカの顔が、無表情で何の感情も持たないただの「人間」になっていた。
俺のことも「兄様お久しぶりでございます」と礼儀良く挨拶をするだけで何も見ていない、感情は死んでいるようだった。



俺はジェシカの兄のジャックス様に会いに行った。

「ジェシカがおかしいとは思わないのですか?」
俺の言葉にジャックス様も顔を顰めた。

「あの子は父上に
『他人に隙を見せるな、弱みを見せれば足を掬われる。だから笑顔など必要ない』と言われ続けて感情を失くしてしまったんだよ」

「わかっているなら何故守ってあげないんですか?彼女は妹でしょう?」

「あの父上に逆らうことが簡単に出来るなら俺だってやってるよ」

俺は何も言えなかった。
俺も大人達の力の前で何も言えなくてジェシカを諦めたのに、ジャックス様を責めるなんて間違っているのはわかっていた。

ジェシカに何度か話しかけようとしたが、俺は結局話しかけることができなかった。
彼女は王子妃教育で忙しく話しかけるどころか会うことすらできないでいた。たまに遠くから見かけるしか出来なかった。




「くそっ」

俺がいつも不機嫌でいると父上が「どうしたんだ?お前がそんな感情を表に出すなんて珍しい」と驚いていた。

「父上、最近のジェシカを見てどう思いますか?」

「あんなに笑顔が可愛いかった彼女があそこまで感情をなくして驚いてはいるよ、かなり厳しい王子妃教育を受けていると聞いたよ」

「ジェシカの父上もかなり厳しいことをジェシカに言っていると聞きました」

父上は顔を顰めた。

「あいつも娘に厳しく言うしかなかったんだろう」

「どうしてですか?」

「ギルス殿下の婚約者は本当は他国の年下の姫をと言われていたんだ。だが殿下自らがジェシカを指名したんだ。だがジェシカはもうすぐ13歳。王族の結婚は早い、ジェシカはかなり詰め込まれて王子妃教育をしなければ間に合わなかったんだ。だから厳しいことを言わざるを得なかったんだよ」

「だからと言って笑顔がなくなるなんて」

「王太子妃殿下は幼少の頃から教育を受けていた。それこそ10年以上をかけてね。でもジェシカは3年で全てを終えないといけなかった、あいつは優しくすることより厳しくすることを選んだんだ。自分が嫌われてもね、と言うかあいつは無愛想で不器用だからそんなやり方しかできなかったんだ」

「俺はジェシカの笑顔を取り戻したい、俺のことを忘れていてもいい。そんなことよりジェシカの笑顔がなくなることの方が辛い」

「お前はまだ彼女のことを忘れていないのか?」

「父上はご存知だったんですね」

「知っていた、だが王家からの婚約の話を断ることは難しい、あいつはジェシカとギルス殿下が幼い頃から仲が良かったから、婚約期間が短くて大変なことはわかっていたがジェシカが幸せになるのならと受け入れたんだ。
まぁ思った以上に王子妃教育は難航してジェシカの心は感情すらなくしてしまったけど」

「疑問に思っていたんです。ジェシカはとても優秀です、どうしてそんなに難航したのでしょう?」

「はっきりとは分からないが無意識に抵抗しているのかな、婚約に対して」

俺は結局会えずに何もしてあげることも話しかけることも出来ずに領地へと戻った。
ただ、ジャックス様とは連絡を取り合うことになった。何も出来なくても彼女の様子が心配だし、ジェシカがもしギルス殿下との結婚を嫌がるならば彼女を攫ってでも連れ出してしまおうと思っていた。
俺のことは忘れていてるのに俺はそんな馬鹿なことを考えていた。

だがジェシカは俺のすぐそばに戻ってきた。
記憶は失われたまま、ただの親戚として。
近くにいるのに手が届かない、そんな関係として。

笑顔もなくぎこちないジェシカが少しずつ笑顔を取り戻していった。
ジェシカは母親と過ごすうちに強張っていた表情から笑顔を取り戻していった。

俺は少し離れた位置で常にジェシカを見守って過ごした。
ティムやマリーナ達がジェシカの笑顔を取り戻していく。
俺は何もしてあげられない。
もう忘れた記憶のことなんか無視して俺もジェシカのそばにいたい。
そう思い始めたら自然にジェシカと話せるようになった。
ーーまた新たなジェシカとの関係を築いていってもいいんじゃないかと。







あなたにおすすめの小説

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。

「静かで、退屈な婚約者だった」と切り捨てられたので、最後くらい全部言って去ることにしました

桃我タロー
恋愛
「静かで、退屈な婚約者だった」 婚約破棄のその日、王太子は広間でそう言い捨てた。 三年間、失言を隠し、場を整え、黙って支えてきたのに。 どうやら私に必要だったのは婚約者ではなく、“便利な人”という役割だけだったらしい。 しかも隣には、つい三日前まで殿下の従兄に求婚していた令嬢まで立っていて――。 ならばもう、黙っている理由はない。 これは、最後まで笑って終わるつもりだった令嬢が、自分の声を取り戻す話。

婚約破棄されたので、前世で倒した魔王を婿にします

なかすあき
恋愛
王宮の舞踏会で、王太子ユリウスから公開の婚約破棄を告げられた公爵令嬢フィオナ。 正式な破棄のために持ち出された王家の宝具「破婚の鏡」は、なぜか黒くひび割れ、彼女の前世の記憶を呼び覚ます。 前世のフィオナは、勇者一行の聖職者として魔王を討った女だった。 だがその瞬間、破婚の鏡は異界への門へと変わり、かつて自ら倒したはずの魔王ゼルヴァンが現れる。 「ようやく、直接会えた。結婚しろ、フィオナ」 軽い恋に酔って婚約者を切り捨てた王太子。 前世で討たれてなお、今世で彼女を探し続けていた魔王。 婚約を失った夜に始まったのは、失恋ではなく、 前世から続く、とびきり厄介な求婚の続きだった。

五度目の人生でも「君を愛することはない」と言われたので、私も愛を捨てました

たると
恋愛
「ルチア、私は君を愛することはない。この婚約は単なる義務だ」 冷徹な公爵、アルベルトの声が夜会会場の片隅で響く。 これで、五度目だ。 私は深く、そして軽やかに一礼した。 「承知いたしました。では、今後はそのように」 これまでは泣いて縋り、彼を振り向かせようと必死に尽くしてきた。 だが、死に戻りを五回も繰り返せば、流石に飽きる。 私は彼を愛することを、きっぱりと辞めた。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、家族も元婚約者もすべて失いました

あう
恋愛
「真実の愛を見つけた。君との婚約は破棄する」 王都の夜会でそう告げられたのは、公爵令嬢セリシア・ルヴァリエ。 隣に立っていたのは、かねてより彼女を陥れてきた義妹ミレイナだった。 継母は義妹を溺愛し、父は家の利益のために沈黙を貫く。 味方は誰一人いない――まさに四面楚歌。 だが、セリシアは涙を流さなかった。 「婚約破棄、謹んでお受けいたしますわ」 それは絶望ではなく、すべてを覆す反撃の始まりだった。 やがて明らかになる数々の真実。 裏切り者たちは自らの罪によって転落していき、セリシアは新たな出会いとともに、自らの人生を切り開いていく。 これは、誇り高き令嬢が四面楚歌から大逆転を果たし、裏切った者たちに救済なき断罪を下す物語。 そして最後に手にするのは――本当の愛と、揺るがぬ幸せ。 --- ■キャッチコピー案(任意で使用可能) 「救済なし、後悔だけをあなたに。」 「すべてを奪ったつもりでしたか? 最後に失うのはあなた方です。」 「四面楚歌の令嬢による、華麗なる大逆転劇。」

【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜

桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」 私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。 私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。 王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした… そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。 平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか? なので離縁させていただけませんか? 旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。 *小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません

藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。 ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。 「君は分かってくれると思っていた」 その一言で、リーシェは気づいてしまう。 私は、最初から選ばれていなかったのだと。 これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。 後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、 そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。