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あなたを愛していました
あなたを愛していました。 前編
「いやぁーー、お願い、バイズを返して」
目の前にいるのは棺に入った婚約者。
この国は隣国との戦争が続き貴族も平民も関係なくみんな一度は徴兵を余儀なくされた。
『元気で帰ってきてね』
『帰ってきたら結婚しよう』
『うん、絶対だよ』
絶対に帰ってくるって約束したのに……終戦後のゴタゴタの中、まだ残っていた残党兵が火薬を体に巻き付けて自爆した。
それに巻き込まれた兵士たちがたくさん亡くなった。
あと少しで故郷に帰れる。あと少し頑張って戦地での後片付けさえすればとみんな頑張っていた。
家屋は焼け焦げて崩れ、道はたくさんの瓦礫で通ることが出来ない。兵士たちはそんな街を少しでも住みやすくなるようにと最後の力を振り絞って新しい町へと作り変えようと頑張っていた。
そこに敵の残党兵が爆薬を仕込み最後の足掻きに町を爆破した。
わたしの愛するバイズは目の前にいた女性を庇って代わりに巻き込まれてしまった。
たくさんの傷と破れた服、拭いても拭い取れない泥、バイズは粗末な棺に入れられて帰ってきた。
涙が溢れて止まらない。絶対帰ってくると約束したのに………
泣き続けてもう涙なんて枯れてしまったと思ったのに……それでも涙はまだ溢れてくる。
引き出しにしまってある戦地から届いたバイズからの手紙を何度も読んでは大声で泣いた。
葬儀も終わり、どんなに日にちが経っても泣き続けるわたしを両親は心配して何度も部屋の扉をノックした。
「お願い、一人にしてちょうだい。今は誰にも会いたくないの」
戦争で亡くなった人はたくさんいる。わたしだけが悲しんでいるわけではない。わかってる、わかってるのに……どうして?わたしを置いて逝ってしまったの?
どのくらいの時間が過ぎたのだろう……
悲しみの中泣いて暮らす日々があまりにも長くもうこのまま死んでしまおうかと思い始めた。
食事も喉を通らない。眠ることもできない。体が怠くて動くのもきつい。
思い出すのはバイズと過ごした懐かしい日々だけ。
『セシリア、君を愛している』
『俺は君の笑った顔が大好きだ』
彼のわたしを見つめる優しい瞳が大好きだった。戦争に行く前日二人で初めて過ごした夜を思い出す。
彼との初めての夜は甘く、だけど明日から離れる寂しさと彼が戦争に行ってしまう不安で胸が引き裂かれそうだった。
今は……もう引き裂かれてしまって元に戻ることすらない。あなたに会いたい、声を聞きたい。
ーーーーー
「世莉亜、早く起きなさい!」
「あーー、もう、まだ眠っていたかったのに!」
お母さんのおっきな声がわたしの部屋まで聞こえてきた。
仕方なくベッドからもぞもぞと起きた。
「さっむ!エアコンのタイマーするの忘れてた!もう!春なのに……なんでこんなに寒いのかしら?嫌だな……あーー、学校に行きたくない」
ぶつぶつ文句を言いながらパジャマを脱ぎ捨て寒さの中震えながら制服に着替えた。
時計をチラッと見ると朝食を食べる時間はもうない。
ーーこのままだと遅刻しちゃう!
洗面所へ行き歯を磨いて顔を洗い、しっかり髪の毛だけはブローして前髪を整えた。
「よしっ!今日も可愛くできた!」
鏡で前髪チェックして満足したので、リビングに顔を出した。
「朝ごはんは?」お母さんの不機嫌な声が聞こえた。
「いらない!時間ないから学校へ行く」
テーブルに置かれたお弁当を鞄に入れて目の前にあるお皿からおにぎりを一個とって「行ってきます!」と言って慌てて靴を履き学校へ向かった。
学校までは走れば10分。
うん、ギリギリ間に合いそう。
おにぎりを食べながら走った。
鞄が重くなければもう少し早く走れるのに……
「おっはよう!」
「世莉亜、今日も遅刻ギリギリね」
「だって、目が覚めないんだもの」
「いつものやつ?」
「うん、今日もやっぱり夢が続いているみたいなの。まるで物語でも読んでいるみたいな気分」
「今日は?」
「婚約者が戦争に行ったと昨日話したじゃない?その人が死んで棺の中に入れられてた」
「うっわぁ、こわっ」
「うん……でも怖いと言うより悲しかった……まるで自分自身のことみたいに悲しくて……」
ーー胸が痛くて思わず夢の中でわたしまで泣いてしまった。
「なんでこんな夢をみるのかな?」
「まさか前世?なぁんてあるわけないか?」
「ええ、前世だったらわたしってかなり不幸だよ」
「おはよう!」
みんなに爽やかに挨拶する。朝練が終わったサッカー部の男子が二人教室に戻ってきた。
「うわっ、やな奴が来た。無視無視!」
瑠美が顔を顰めてる。
わたしも瑠美も拓也が苦手。
うるさいしムカつく奴なのに顔だけはかっこいい。そしてわたし以外には優しい。
ついでに金持ちの坊ちゃんなので女子からの人気はかなり高い。
だけどわたし達のように嫌いだと言ってる人もごく一部にいるの。
「向こうに行こうよ」
席を離れて廊下に出ようと瑠美に言うと「うん」とついてきてくれた。
「おい、待てよ」
拓也がわたしの肩を掴んだ。
「何?触らないで!」
思わず振り向いて睨み上げた。
「うわっ、こえっ!世莉亜、機嫌直せよ」
「別に機嫌が悪いわけではないわ」
「だったら俺が教室に入ってきたらすぐに出ていこうとするのは、なんでなんだよ?」
「えっ?自意識過剰なんじゃない?わたし別に拓也が来たからじゃないよ?トイレに行きたいだけなんだけど?」
「………もういいよ」
拓也はわたしの肩から手を離した。
拓也はわたしの元彼。そして幼馴染でわたしのお母さんの従兄弟の息子。
別れてからは関わりたくないのに、高2になった4月から同じクラスになってしまった。
ーー最悪。
「世莉亜、本当にトイレ行きたくなった」
「うん、わたしも。とりあえずトイレに行っとく?」
「ふっ……だね?」
二人で仲良くトイレに行き教室に戻ると朝のHRが始まっていた。
「お前らさっさと席に着け」
担任がチラッとわたし達に目を向けるも怒られることもなく席に座った。
拓也はわたしの席からはかなり離れている。おかげで目を合わすこともなくなんとかやり過ごしているのにたまに話しかけてくる。
別れた彼女にはもう関わらないで欲しい。
ほら、背中にマジやばい視線が突き刺さってる。
ーー絶対、栞だ。栞は拓也の彼女になりたくて仕方がないんだもの。
拓也だって栞と仲がいいんだし、もういっそ彼女にして仕舞えばいいのに。
そしたらわたしが睨まれることもないし、拓也だってわたしなんかに構わないで済むし気持ちだって軽くなると思うの。
わたしと拓也は中3の夏休みのごく短い期間付き合った。
告白は拓也から。家も近所で幼い頃からいつも一緒にいることが多くて、友達だと思っていた。突然の告白に戸惑ったけど……嬉しかった。
嬉しいと感じたのは拓也に好意を持っていたから。
だから拓也と付き合い始めた。一緒に夏休みの宿題をする約束をして、昼食を食べ終わって拓也の家を訪ねた。
付き合っていない頃からしょっちゅう出入りしている拓也の家。
顔パスで「お邪魔します」で拓也の部屋まで行く。
ドアを開けた瞬間固まった。
拓也のベッドには、お姉ちゃんと拓也が裸で抱き合っていた。
「世莉亜、ノックくらいしなさいよ!世莉亜、あんた今わたし達が何しているかわかってるんでしょう?とりあえずドア閉めて出て行ってちょうだい」
「…………」
拓也は真っ青な顔をしてわたしを見ていた。
「ごめん、帰る」
ドアを閉めて階段を降りた。
ーー嫌だ、いやだ、イヤだ。汚い、気持ち悪い………吐きそう………
わたしは階段を降りきったところで座り込み膝を抱えて泣いた。
泣くだけ泣いて、家に帰ると拓也の電話番号もSNSも全て消去した。
ついでに拓也から誕プレで今まで貰ったぬいぐるみやアクセサリー、写真立てはキッチンの生ゴミ用のゴミ箱に生ゴミと一緒に捨てた。
旅行でもらったお土産のキーホルダーや小物は、金槌を持ってきて跡形もなくぶっ壊して捨てた。
次の日からどんなに会いにきても絶対ドアを開けなかった。学校でも友達と必ず一緒にいて拓也を無視し続けた。
卒業する頃には拓也も諦めて話しかけてくることはなくなった。
ただ………運が悪いことに拓也と同じ高校になった。拓也が受けると言っていた高校を敢えて避けて、少し頑張って上の高校を目指したら、何故か拓也も同じ高校を受験していた。
試験の日、席に座っていると振り返った拓也と目が合った。
ーー合格してもここはやめよう。
そう思ったのにお母さんとお父さんが許してくれなかった。
結局拓也と同じ高校に行くことになり、わたしは毎日遅刻ギリギリに登校するようになった。
だって近くに住んでいるんだもの。同じ高校だと登下校でバッタリ会ってしまうのはわかってるもの。
それだけは避けたい!
ま、朝練で早く登校しているから会うことないんだけどね。
最近は夢見が悪い……本当に……
なんとかやり過ごしてきた1年間。なのに高2になって……同じクラスになるなんて……最っ悪。なんとか話しかけてこようとする拓也を毎回無視したり逃げ回ったりと、ほんっとに!!疲れる!!!
もう放っておいてください!
ーーーーー
「セリシア、そろそろ次の婚約者のことを考えなければいけないだろう」
バイズが亡くなってまだ3ヶ月なのに?
「お父様……わたしまだ考えられません……」
「気持ちはわかる。だがもうセリシアは19歳になった。本来ならもう結婚して子供もいる年だ」
「でも………」
ーー貴族の娘なんて好きな人と結婚できないのはわかってる。でもわたしはずっと婚約者だったバイズを愛していたの……
せめて気持ちが整理できるまでは……そう思っていたのに……
バイズが亡くなって半年後、わたしはバイズの弟のタイランと結婚することになった。
嫡子で伯爵家の跡取りだったバイズが亡くなりわたしより2歳年下のタイランが跡を継ぐ。
わたしは伯爵家の嫁になるための勉強をしてきた。だからそのまま婚約者がいなかったタイランと結婚することになった。
まだまだ勉強不足のタイランのためにわたしが妻として彼を助けながら伯爵家を盛り立てなければならなくなった。
「セリシア、君を抱いてもいいのか?」
結婚式の夜、タイランは上擦った声で震えながらわたしに触れる。
目を瞑るとバイズの声。
なのに彼とは体格が少し違う。よく聞くと声もどことなく、まだ若々しく感じる。
バイズはわたしの一つ年上。タイランとは3つも年が違う。だけど、彼に抱かれているのにバイズに抱かれているみたいで……わたしの体も心も満たされる。
それからタイランは毎晩わたしを求めてきた。わたしもタイランの体に溺れた。
若くて逞しい。
そしてわたしを見る目には熱が帯びているようで、頭がくらくらしてしまう。
彼の手が何度も慈しむように髪を撫でてくる。
きゅっと閉じていた唇に、舌をねじ込まれ激しいキスを何度も交わした。
熱っぽい眼差しを向けられ心臓がドキンとなった。
ーーああ、このまま死んでしまいたい。
バイズを愛しているのに、わたしはタイランの体に溺れる。バイズを想いながら抱かれていたはずなのに、今のわたしはタイランに抱かれている。
彼とのキスを覚え、彼の愛撫に翻弄され、少しずつバイズを忘れていく。
「セリシア、どうしてそんな悲しい顔をするんだ?」
口下手で無口なタイランがわたしを抱いた後、心配そうに聞いてきた。
お互いまだ何も纏っていない裸の状態だった。
「ううん、なんでもないの……タイラン、わたしを愛してくれる?」
「もちろんさ。俺はずっとセシリアが好きだったんだ。兄貴の分まで幸せにするよ」
ーーああ、バイズ……ごめんなさい。わたしはタイランを愛し始めてしまったようなの……
タイランとの結婚が1年経った頃……屋敷に赤ちゃんを抱えた女性が突然顔を出した。
ーーーー
「瑠美……わたしキスもしたことないのに……エッチな夢を見た!」
「はあ?何それ?例の夢?」
「そう……なんだか生々しくて……マジあり得ない……やばい、絶対やばい、わたし、処女なのにまるでやったことあるみたいな感じ」
「えっ?経験ないのに頭の中だけは知ってる?感じなの?」
「う、うん、そんな感じ……かな⁈」
◆ ◆ ◆
明日の予定でしたが、今日から更新します。
毎日……は無理かもしれませんが、たまに覗いてください!
明日は後編です。
目の前にいるのは棺に入った婚約者。
この国は隣国との戦争が続き貴族も平民も関係なくみんな一度は徴兵を余儀なくされた。
『元気で帰ってきてね』
『帰ってきたら結婚しよう』
『うん、絶対だよ』
絶対に帰ってくるって約束したのに……終戦後のゴタゴタの中、まだ残っていた残党兵が火薬を体に巻き付けて自爆した。
それに巻き込まれた兵士たちがたくさん亡くなった。
あと少しで故郷に帰れる。あと少し頑張って戦地での後片付けさえすればとみんな頑張っていた。
家屋は焼け焦げて崩れ、道はたくさんの瓦礫で通ることが出来ない。兵士たちはそんな街を少しでも住みやすくなるようにと最後の力を振り絞って新しい町へと作り変えようと頑張っていた。
そこに敵の残党兵が爆薬を仕込み最後の足掻きに町を爆破した。
わたしの愛するバイズは目の前にいた女性を庇って代わりに巻き込まれてしまった。
たくさんの傷と破れた服、拭いても拭い取れない泥、バイズは粗末な棺に入れられて帰ってきた。
涙が溢れて止まらない。絶対帰ってくると約束したのに………
泣き続けてもう涙なんて枯れてしまったと思ったのに……それでも涙はまだ溢れてくる。
引き出しにしまってある戦地から届いたバイズからの手紙を何度も読んでは大声で泣いた。
葬儀も終わり、どんなに日にちが経っても泣き続けるわたしを両親は心配して何度も部屋の扉をノックした。
「お願い、一人にしてちょうだい。今は誰にも会いたくないの」
戦争で亡くなった人はたくさんいる。わたしだけが悲しんでいるわけではない。わかってる、わかってるのに……どうして?わたしを置いて逝ってしまったの?
どのくらいの時間が過ぎたのだろう……
悲しみの中泣いて暮らす日々があまりにも長くもうこのまま死んでしまおうかと思い始めた。
食事も喉を通らない。眠ることもできない。体が怠くて動くのもきつい。
思い出すのはバイズと過ごした懐かしい日々だけ。
『セシリア、君を愛している』
『俺は君の笑った顔が大好きだ』
彼のわたしを見つめる優しい瞳が大好きだった。戦争に行く前日二人で初めて過ごした夜を思い出す。
彼との初めての夜は甘く、だけど明日から離れる寂しさと彼が戦争に行ってしまう不安で胸が引き裂かれそうだった。
今は……もう引き裂かれてしまって元に戻ることすらない。あなたに会いたい、声を聞きたい。
ーーーーー
「世莉亜、早く起きなさい!」
「あーー、もう、まだ眠っていたかったのに!」
お母さんのおっきな声がわたしの部屋まで聞こえてきた。
仕方なくベッドからもぞもぞと起きた。
「さっむ!エアコンのタイマーするの忘れてた!もう!春なのに……なんでこんなに寒いのかしら?嫌だな……あーー、学校に行きたくない」
ぶつぶつ文句を言いながらパジャマを脱ぎ捨て寒さの中震えながら制服に着替えた。
時計をチラッと見ると朝食を食べる時間はもうない。
ーーこのままだと遅刻しちゃう!
洗面所へ行き歯を磨いて顔を洗い、しっかり髪の毛だけはブローして前髪を整えた。
「よしっ!今日も可愛くできた!」
鏡で前髪チェックして満足したので、リビングに顔を出した。
「朝ごはんは?」お母さんの不機嫌な声が聞こえた。
「いらない!時間ないから学校へ行く」
テーブルに置かれたお弁当を鞄に入れて目の前にあるお皿からおにぎりを一個とって「行ってきます!」と言って慌てて靴を履き学校へ向かった。
学校までは走れば10分。
うん、ギリギリ間に合いそう。
おにぎりを食べながら走った。
鞄が重くなければもう少し早く走れるのに……
「おっはよう!」
「世莉亜、今日も遅刻ギリギリね」
「だって、目が覚めないんだもの」
「いつものやつ?」
「うん、今日もやっぱり夢が続いているみたいなの。まるで物語でも読んでいるみたいな気分」
「今日は?」
「婚約者が戦争に行ったと昨日話したじゃない?その人が死んで棺の中に入れられてた」
「うっわぁ、こわっ」
「うん……でも怖いと言うより悲しかった……まるで自分自身のことみたいに悲しくて……」
ーー胸が痛くて思わず夢の中でわたしまで泣いてしまった。
「なんでこんな夢をみるのかな?」
「まさか前世?なぁんてあるわけないか?」
「ええ、前世だったらわたしってかなり不幸だよ」
「おはよう!」
みんなに爽やかに挨拶する。朝練が終わったサッカー部の男子が二人教室に戻ってきた。
「うわっ、やな奴が来た。無視無視!」
瑠美が顔を顰めてる。
わたしも瑠美も拓也が苦手。
うるさいしムカつく奴なのに顔だけはかっこいい。そしてわたし以外には優しい。
ついでに金持ちの坊ちゃんなので女子からの人気はかなり高い。
だけどわたし達のように嫌いだと言ってる人もごく一部にいるの。
「向こうに行こうよ」
席を離れて廊下に出ようと瑠美に言うと「うん」とついてきてくれた。
「おい、待てよ」
拓也がわたしの肩を掴んだ。
「何?触らないで!」
思わず振り向いて睨み上げた。
「うわっ、こえっ!世莉亜、機嫌直せよ」
「別に機嫌が悪いわけではないわ」
「だったら俺が教室に入ってきたらすぐに出ていこうとするのは、なんでなんだよ?」
「えっ?自意識過剰なんじゃない?わたし別に拓也が来たからじゃないよ?トイレに行きたいだけなんだけど?」
「………もういいよ」
拓也はわたしの肩から手を離した。
拓也はわたしの元彼。そして幼馴染でわたしのお母さんの従兄弟の息子。
別れてからは関わりたくないのに、高2になった4月から同じクラスになってしまった。
ーー最悪。
「世莉亜、本当にトイレ行きたくなった」
「うん、わたしも。とりあえずトイレに行っとく?」
「ふっ……だね?」
二人で仲良くトイレに行き教室に戻ると朝のHRが始まっていた。
「お前らさっさと席に着け」
担任がチラッとわたし達に目を向けるも怒られることもなく席に座った。
拓也はわたしの席からはかなり離れている。おかげで目を合わすこともなくなんとかやり過ごしているのにたまに話しかけてくる。
別れた彼女にはもう関わらないで欲しい。
ほら、背中にマジやばい視線が突き刺さってる。
ーー絶対、栞だ。栞は拓也の彼女になりたくて仕方がないんだもの。
拓也だって栞と仲がいいんだし、もういっそ彼女にして仕舞えばいいのに。
そしたらわたしが睨まれることもないし、拓也だってわたしなんかに構わないで済むし気持ちだって軽くなると思うの。
わたしと拓也は中3の夏休みのごく短い期間付き合った。
告白は拓也から。家も近所で幼い頃からいつも一緒にいることが多くて、友達だと思っていた。突然の告白に戸惑ったけど……嬉しかった。
嬉しいと感じたのは拓也に好意を持っていたから。
だから拓也と付き合い始めた。一緒に夏休みの宿題をする約束をして、昼食を食べ終わって拓也の家を訪ねた。
付き合っていない頃からしょっちゅう出入りしている拓也の家。
顔パスで「お邪魔します」で拓也の部屋まで行く。
ドアを開けた瞬間固まった。
拓也のベッドには、お姉ちゃんと拓也が裸で抱き合っていた。
「世莉亜、ノックくらいしなさいよ!世莉亜、あんた今わたし達が何しているかわかってるんでしょう?とりあえずドア閉めて出て行ってちょうだい」
「…………」
拓也は真っ青な顔をしてわたしを見ていた。
「ごめん、帰る」
ドアを閉めて階段を降りた。
ーー嫌だ、いやだ、イヤだ。汚い、気持ち悪い………吐きそう………
わたしは階段を降りきったところで座り込み膝を抱えて泣いた。
泣くだけ泣いて、家に帰ると拓也の電話番号もSNSも全て消去した。
ついでに拓也から誕プレで今まで貰ったぬいぐるみやアクセサリー、写真立てはキッチンの生ゴミ用のゴミ箱に生ゴミと一緒に捨てた。
旅行でもらったお土産のキーホルダーや小物は、金槌を持ってきて跡形もなくぶっ壊して捨てた。
次の日からどんなに会いにきても絶対ドアを開けなかった。学校でも友達と必ず一緒にいて拓也を無視し続けた。
卒業する頃には拓也も諦めて話しかけてくることはなくなった。
ただ………運が悪いことに拓也と同じ高校になった。拓也が受けると言っていた高校を敢えて避けて、少し頑張って上の高校を目指したら、何故か拓也も同じ高校を受験していた。
試験の日、席に座っていると振り返った拓也と目が合った。
ーー合格してもここはやめよう。
そう思ったのにお母さんとお父さんが許してくれなかった。
結局拓也と同じ高校に行くことになり、わたしは毎日遅刻ギリギリに登校するようになった。
だって近くに住んでいるんだもの。同じ高校だと登下校でバッタリ会ってしまうのはわかってるもの。
それだけは避けたい!
ま、朝練で早く登校しているから会うことないんだけどね。
最近は夢見が悪い……本当に……
なんとかやり過ごしてきた1年間。なのに高2になって……同じクラスになるなんて……最っ悪。なんとか話しかけてこようとする拓也を毎回無視したり逃げ回ったりと、ほんっとに!!疲れる!!!
もう放っておいてください!
ーーーーー
「セリシア、そろそろ次の婚約者のことを考えなければいけないだろう」
バイズが亡くなってまだ3ヶ月なのに?
「お父様……わたしまだ考えられません……」
「気持ちはわかる。だがもうセリシアは19歳になった。本来ならもう結婚して子供もいる年だ」
「でも………」
ーー貴族の娘なんて好きな人と結婚できないのはわかってる。でもわたしはずっと婚約者だったバイズを愛していたの……
せめて気持ちが整理できるまでは……そう思っていたのに……
バイズが亡くなって半年後、わたしはバイズの弟のタイランと結婚することになった。
嫡子で伯爵家の跡取りだったバイズが亡くなりわたしより2歳年下のタイランが跡を継ぐ。
わたしは伯爵家の嫁になるための勉強をしてきた。だからそのまま婚約者がいなかったタイランと結婚することになった。
まだまだ勉強不足のタイランのためにわたしが妻として彼を助けながら伯爵家を盛り立てなければならなくなった。
「セリシア、君を抱いてもいいのか?」
結婚式の夜、タイランは上擦った声で震えながらわたしに触れる。
目を瞑るとバイズの声。
なのに彼とは体格が少し違う。よく聞くと声もどことなく、まだ若々しく感じる。
バイズはわたしの一つ年上。タイランとは3つも年が違う。だけど、彼に抱かれているのにバイズに抱かれているみたいで……わたしの体も心も満たされる。
それからタイランは毎晩わたしを求めてきた。わたしもタイランの体に溺れた。
若くて逞しい。
そしてわたしを見る目には熱が帯びているようで、頭がくらくらしてしまう。
彼の手が何度も慈しむように髪を撫でてくる。
きゅっと閉じていた唇に、舌をねじ込まれ激しいキスを何度も交わした。
熱っぽい眼差しを向けられ心臓がドキンとなった。
ーーああ、このまま死んでしまいたい。
バイズを愛しているのに、わたしはタイランの体に溺れる。バイズを想いながら抱かれていたはずなのに、今のわたしはタイランに抱かれている。
彼とのキスを覚え、彼の愛撫に翻弄され、少しずつバイズを忘れていく。
「セリシア、どうしてそんな悲しい顔をするんだ?」
口下手で無口なタイランがわたしを抱いた後、心配そうに聞いてきた。
お互いまだ何も纏っていない裸の状態だった。
「ううん、なんでもないの……タイラン、わたしを愛してくれる?」
「もちろんさ。俺はずっとセシリアが好きだったんだ。兄貴の分まで幸せにするよ」
ーーああ、バイズ……ごめんなさい。わたしはタイランを愛し始めてしまったようなの……
タイランとの結婚が1年経った頃……屋敷に赤ちゃんを抱えた女性が突然顔を出した。
ーーーー
「瑠美……わたしキスもしたことないのに……エッチな夢を見た!」
「はあ?何それ?例の夢?」
「そう……なんだか生々しくて……マジあり得ない……やばい、絶対やばい、わたし、処女なのにまるでやったことあるみたいな感じ」
「えっ?経験ないのに頭の中だけは知ってる?感じなの?」
「う、うん、そんな感じ……かな⁈」
◆ ◆ ◆
明日の予定でしたが、今日から更新します。
毎日……は無理かもしれませんが、たまに覗いてください!
明日は後編です。
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