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さよならのかわりに ブロアとセフィルの恋ーーあなたを愛していますーー
セフィルの屋敷にて
結局帰宅することはできずにセフィルの屋敷から身動きできずにいた。
ーーわたくしの病気を知られたら……
わたくしの病気は奇病と言われている。
お母様も同じ病で亡くなった。
この病を治す方法はないと主治医の先生に言われた。
『わたしはこの病気を治すためにずっと薬の研究を続けて来た。しかしいまだに薬を探し出せないでいる……』
先生の悔しそうな顔を忘れられない。
『医者なんて治療薬がなければ無力なんだよ……すまない』
先生が悪いわけではない。わたくしがこの奇病にかかっただけなんだもの。
胸にできた痣が少しずつ大きくなっていく。その痣が拳より大きくなった頃、わたくしの体は動きを奪われていく……そして……最後は心臓の動きも止まる……
今はまだ数センチ。少しずつ少しずつ大きくなって……このままだと一年後には……
考えても仕方がない。それよりも今はさっさとセフィルと婚約解消をしてこの国を出て自由に生きることを優先しないと。
セフィルには愛する人と幸せになって欲しい。でも……その姿を見守りながら死んでいくのはあまりにも心が辛い。
それにお父様から離れて自由になりたい。
幼い頃からずっと……元婚約者の王太子殿下のためだけにわたくしは生きて来た。お母様が亡くなりわたくしが住む場所は昼間は王宮、夜寝る時だけ公爵家の屋敷に帰る、そんな生活をずっと送らされて来た。
幼い頃から厳しい王子妃教育、一般教育に始まりマナーや刺繍、そして語学は5カ国後を覚えるように押し付けられた。
全ては殿下を補佐するために。
15歳になる頃には婚約者として彼の仕事の補佐までさせられた。一つ年上の殿下は学園に通い始め、有意義な時間を過ごされていたのにわたくしは学園に通わせてもらえることもなく王宮での暮らしが続いた。
毎日自分が請け負う執務と殿下が手が回らないと押し付けられた執務に追われる日々が続いた。
窓から見える青い空をただ雑然と置かれた執務室の中から、なんの感動もなくみているしかなかった。
手を止めれば寝る時間が減ってしまう。少しでも頑張って仕事を終わらせてベッドに潜り込みたい。あの頃は帰宅する時間も惜しいと思い、執務室にある仮眠用のベッドで過ごすことも増えた。
身の回りの世話をするウエラもわたしのそばについていてくれた。
『ブロア様……少しはお休みしましょう。陛下にこの現状を訴えてはいかがでしょう?』
陛下に伝えればわたしの生活は改善されていただろう。でもそれは殿下の不興を買うことになる。それはこの先の結婚生活にも影響してくる。
わたくしについている『影』に、
「殿下の仕事を手伝っていることは陛下に報告無用」と伝えている。
もちろんそれがこの国にとって不利益になるのなら報告しなければいけなかったのだろうけど、報告すればただめんどくさいことが起きるだけ。『影』も「今は報告しないでおきます。ですがいずれは陛下の耳にお入れしますので」と言われていた。
わたくしの全てを報告するのが『影』の仕事ではない。必要なこと、特にこの国に関わることや殿下にとって不利益になることを陛下に報告する義務がある。
わたくしがどんな目に遭っているのかなんて陛下からすればどうでもいいことなのだ。上手く仕事が回っているのだから。
あの頃のわたくしは、そんなふうに思って意固地になっていたのかもしれない。
王宮で学園の友人達を呼んで楽しそうにお茶を楽しむ殿下を横目にひたすら仕事に追われるわたくし。
学園でどんなふうに過ごしているのかあの戯れる殿下達を見ればすぐにわかるというもの。
大きな声で笑い合い、男女のスキンシップは見ていて恥ずかしくなるものだった。殿下のそばには常にロザンナ様という子爵家の令嬢がくっついていた。
そう殿下の腕に絡み、胸を押し付けニコニコと笑っていた。殿下もそんなロザンナ様を愛おしそうに見つめていた。
ーーあれが愛し合う姿なのね。
わたくしと殿下の間には愛などと言ったものは全くなかった。わたくしは婚約者としての義務を果たすべく、王子妃教育を受け、執務をこなすだけ。
殿下もわたくしに愛情を向けることなく冷たい視線を向けるだけだった。
そんなことを思い出していると、控えていたウエラが「ブロア様、お医者様がいらっしゃいました」と声をかけて来た。
いつの間にか時間が経っていた。
お医者様には胸の痣に気づくことはなかった。
「疲れが出ているのでしょう。少し貧血もあるみたいですね、今日はゆっくりと体を休めてください」
お薬をいくつか出すからあとで取りに来てくださいと言って帰って行った。
「ふぅー、胸の痣を見られなくてよかったわ」
「そうですね……でもこちらに来るのにお薬を持って来ていなかったので貧血の薬をいただけるのは助かります……ブロア様のお顔は真っ青です……」
「少し眠らせてもらうわね?」
「はい、わたしは下に行って来ますのでゆっくりとしていてください。先生が出されたお薬をもらいに行って来ます」
ウエラがお医者様が処方された薬を下の部屋に取りに行くことになった。
持ち合わせていなかった薬があるから、あとで病院の者が届けてくれることになっていた。
ウエラは気を遣い、一人にさせてくれた。
初めてセフィルの屋敷でこんなに長い時間を過ごした。
そう言えばこの部屋は客間にしては落ち着くわ。客間ならもっと高級な家具が無機質に置かれているものなのに、ここにある家具は女性が好む可愛らしさのある白を基調としたアンティークな家具が置かれていた。
ベッドの寝具も可愛らしい花柄のカバーでわたくしの部屋よりも可愛らしいものばかり。
誰の部屋なのかしら?
そんなことを考えながらウトウトしていると廊下から騒がしい声が聞こえて来た。
「もう!セフィルったらどうして二階に来てはダメなの?」
「静かにしてくれ!ブロアが体調を崩しているんだ」
「ブロア様?何故二階の私室に彼女がいるの?」
ーーここはやっぱり客室ではないのね?セフィル達家族のプライベートな空間なのだわ。
あの声は……多分リリアンナ様?だわ……お話ししたことはないけど二人が仲良くしている姿は何度か拝見しているもの。
「リリアンナ、帰ってくれ。ブロアが君との関係を変に思ったらどうするんだ?」
ーーふふっ、もうしっかり思っているわ……あなた達が愛し合っていることなんて……わかっているもの。
「いいじゃない、セフィルだってあんな悪女と言われるブロア様より幼馴染で気心知れているわたしとの方が楽だし楽しいでしょう?」
「いい加減にしろ、ブロアにはきちんと俺から君とのことは説明する。君は今日は帰ってくれ」
ーーあら?セフィルが珍しく声を荒げているわ。
「いやよ!わたしずっと我慢してるんだから!」
リリアンナ様がそう言うとわたくしがいる部屋にノックもせずに入って来た。
ーーああ、寝たフリしていようかしら?
セフィルのことは諦めたのに……彼からはっきりとリリアンナ様を愛していると伝えられるのが怖いと感じてしまう……
もう自由にしてあげたいのに……わたくしの心はまだセフィルを諦めきれずにいるのね。
「ブロア様!!!」
ーーうるさい……この子がセフィルの愛する令嬢だなんて……悪女と呼ばれたわたくしよりもよっぽど趣味悪いんじゃなくて?
寝たフリして返事をしないとわたくしにさらに大きな声を出すリリアンナ様!
「セフィルと婚約解消してあげてください!」
ーーあなたがそれを言うの?
はああああーーーどうしましょう。
ーーわたくしの病気を知られたら……
わたくしの病気は奇病と言われている。
お母様も同じ病で亡くなった。
この病を治す方法はないと主治医の先生に言われた。
『わたしはこの病気を治すためにずっと薬の研究を続けて来た。しかしいまだに薬を探し出せないでいる……』
先生の悔しそうな顔を忘れられない。
『医者なんて治療薬がなければ無力なんだよ……すまない』
先生が悪いわけではない。わたくしがこの奇病にかかっただけなんだもの。
胸にできた痣が少しずつ大きくなっていく。その痣が拳より大きくなった頃、わたくしの体は動きを奪われていく……そして……最後は心臓の動きも止まる……
今はまだ数センチ。少しずつ少しずつ大きくなって……このままだと一年後には……
考えても仕方がない。それよりも今はさっさとセフィルと婚約解消をしてこの国を出て自由に生きることを優先しないと。
セフィルには愛する人と幸せになって欲しい。でも……その姿を見守りながら死んでいくのはあまりにも心が辛い。
それにお父様から離れて自由になりたい。
幼い頃からずっと……元婚約者の王太子殿下のためだけにわたくしは生きて来た。お母様が亡くなりわたくしが住む場所は昼間は王宮、夜寝る時だけ公爵家の屋敷に帰る、そんな生活をずっと送らされて来た。
幼い頃から厳しい王子妃教育、一般教育に始まりマナーや刺繍、そして語学は5カ国後を覚えるように押し付けられた。
全ては殿下を補佐するために。
15歳になる頃には婚約者として彼の仕事の補佐までさせられた。一つ年上の殿下は学園に通い始め、有意義な時間を過ごされていたのにわたくしは学園に通わせてもらえることもなく王宮での暮らしが続いた。
毎日自分が請け負う執務と殿下が手が回らないと押し付けられた執務に追われる日々が続いた。
窓から見える青い空をただ雑然と置かれた執務室の中から、なんの感動もなくみているしかなかった。
手を止めれば寝る時間が減ってしまう。少しでも頑張って仕事を終わらせてベッドに潜り込みたい。あの頃は帰宅する時間も惜しいと思い、執務室にある仮眠用のベッドで過ごすことも増えた。
身の回りの世話をするウエラもわたしのそばについていてくれた。
『ブロア様……少しはお休みしましょう。陛下にこの現状を訴えてはいかがでしょう?』
陛下に伝えればわたしの生活は改善されていただろう。でもそれは殿下の不興を買うことになる。それはこの先の結婚生活にも影響してくる。
わたくしについている『影』に、
「殿下の仕事を手伝っていることは陛下に報告無用」と伝えている。
もちろんそれがこの国にとって不利益になるのなら報告しなければいけなかったのだろうけど、報告すればただめんどくさいことが起きるだけ。『影』も「今は報告しないでおきます。ですがいずれは陛下の耳にお入れしますので」と言われていた。
わたくしの全てを報告するのが『影』の仕事ではない。必要なこと、特にこの国に関わることや殿下にとって不利益になることを陛下に報告する義務がある。
わたくしがどんな目に遭っているのかなんて陛下からすればどうでもいいことなのだ。上手く仕事が回っているのだから。
あの頃のわたくしは、そんなふうに思って意固地になっていたのかもしれない。
王宮で学園の友人達を呼んで楽しそうにお茶を楽しむ殿下を横目にひたすら仕事に追われるわたくし。
学園でどんなふうに過ごしているのかあの戯れる殿下達を見ればすぐにわかるというもの。
大きな声で笑い合い、男女のスキンシップは見ていて恥ずかしくなるものだった。殿下のそばには常にロザンナ様という子爵家の令嬢がくっついていた。
そう殿下の腕に絡み、胸を押し付けニコニコと笑っていた。殿下もそんなロザンナ様を愛おしそうに見つめていた。
ーーあれが愛し合う姿なのね。
わたくしと殿下の間には愛などと言ったものは全くなかった。わたくしは婚約者としての義務を果たすべく、王子妃教育を受け、執務をこなすだけ。
殿下もわたくしに愛情を向けることなく冷たい視線を向けるだけだった。
そんなことを思い出していると、控えていたウエラが「ブロア様、お医者様がいらっしゃいました」と声をかけて来た。
いつの間にか時間が経っていた。
お医者様には胸の痣に気づくことはなかった。
「疲れが出ているのでしょう。少し貧血もあるみたいですね、今日はゆっくりと体を休めてください」
お薬をいくつか出すからあとで取りに来てくださいと言って帰って行った。
「ふぅー、胸の痣を見られなくてよかったわ」
「そうですね……でもこちらに来るのにお薬を持って来ていなかったので貧血の薬をいただけるのは助かります……ブロア様のお顔は真っ青です……」
「少し眠らせてもらうわね?」
「はい、わたしは下に行って来ますのでゆっくりとしていてください。先生が出されたお薬をもらいに行って来ます」
ウエラがお医者様が処方された薬を下の部屋に取りに行くことになった。
持ち合わせていなかった薬があるから、あとで病院の者が届けてくれることになっていた。
ウエラは気を遣い、一人にさせてくれた。
初めてセフィルの屋敷でこんなに長い時間を過ごした。
そう言えばこの部屋は客間にしては落ち着くわ。客間ならもっと高級な家具が無機質に置かれているものなのに、ここにある家具は女性が好む可愛らしさのある白を基調としたアンティークな家具が置かれていた。
ベッドの寝具も可愛らしい花柄のカバーでわたくしの部屋よりも可愛らしいものばかり。
誰の部屋なのかしら?
そんなことを考えながらウトウトしていると廊下から騒がしい声が聞こえて来た。
「もう!セフィルったらどうして二階に来てはダメなの?」
「静かにしてくれ!ブロアが体調を崩しているんだ」
「ブロア様?何故二階の私室に彼女がいるの?」
ーーここはやっぱり客室ではないのね?セフィル達家族のプライベートな空間なのだわ。
あの声は……多分リリアンナ様?だわ……お話ししたことはないけど二人が仲良くしている姿は何度か拝見しているもの。
「リリアンナ、帰ってくれ。ブロアが君との関係を変に思ったらどうするんだ?」
ーーふふっ、もうしっかり思っているわ……あなた達が愛し合っていることなんて……わかっているもの。
「いいじゃない、セフィルだってあんな悪女と言われるブロア様より幼馴染で気心知れているわたしとの方が楽だし楽しいでしょう?」
「いい加減にしろ、ブロアにはきちんと俺から君とのことは説明する。君は今日は帰ってくれ」
ーーあら?セフィルが珍しく声を荒げているわ。
「いやよ!わたしずっと我慢してるんだから!」
リリアンナ様がそう言うとわたくしがいる部屋にノックもせずに入って来た。
ーーああ、寝たフリしていようかしら?
セフィルのことは諦めたのに……彼からはっきりとリリアンナ様を愛していると伝えられるのが怖いと感じてしまう……
もう自由にしてあげたいのに……わたくしの心はまだセフィルを諦めきれずにいるのね。
「ブロア様!!!」
ーーうるさい……この子がセフィルの愛する令嬢だなんて……悪女と呼ばれたわたくしよりもよっぽど趣味悪いんじゃなくて?
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