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さよならのかわりに ブロアとセフィルの恋ーーあなたを愛していますーー
リリアンナ様を愛するセフィル?
ーーうるさいわね!
心の中でいくら文句を言っても相手に通じるわけもなく寝たフリもそろそろ限界。
実際に体が重たく頭も痛い。出来ればこのまま眠っていたかったのに……
「あなたは誰ですか?わたくしは眠っていたのですよ?」
名乗りもせず部屋に押し入るように入って来たリリアンナ様へ冷たい言葉を放った。
「酷い!セフィル、わたしにこんなこと言うなんて!やっぱりブルダ様は噂通りのお方なのよ!」
「リリアンナ、君が部屋に許可なく押し入ったんだろう?」
セフィルはリリアンナをなんとか抑えようとしていた。
ーーうん、そんな言い方では言うことを聞かないと思うわ。
「違うわ!この人がセフィルの部屋の隣の部屋を使っているのが悪いのよ!ここはセフィルの妻になる人が使う場所なのよ?何故こんな女が……」
悔しそうに唇を噛むリリアンナ様の目はわたくしを睨みあげていた。
ーーそうか……この可愛らしい部屋はリリアンナ様のために用意されていたのね。
婚約解消を前提で……どう見てもわたくしには似合わない部屋だもの。
ふふっ、婚約解消をしないなんて言ったのは『今』ではないと思ったのかしら?
今婚約解消すればお父様からどんな目に遭うか……わたくしの考えが甘かったのよね。
自分だけが満足すればいいなんて……わたくしが婚約解消してこの国を去ればセフィルはリリアンナ様と幸せになれるなんてそんな簡単にいくわけはなかった。
宰相であり公爵当主であるお父様の怒りを買えば伯爵家の次男でしかないセフィル様は簡単に握り潰されてしまう……
そんなこともわからないなんて……
自分の浅はかさにため息しか出ない。余命のことに気を取られ自分のことしか考えられなかったわ。
「セフィル……すぐに婚約解消するのは諦めたわ……時が来るのを待ちましょう」
「はああああ?何、この人上から目線なの?セフィル、さっさと婚約解消して!わたしだけを見て欲しいの、わたしだけのセフィルでいて欲しいの、わたしだけを愛して!ねっ?」
リリアンナ様はそう言うと隣に立っていたセフィルに抱きついた。
ーーああ、二人の愛の邪魔をするのはわたくしなのね……
「体調が悪いの……少し横になったら帰るからもう少しだけゆっくりさせてもらえないかしら?」
「まぁ図々しいわ!」
リリアンナ様のうるさい声にセフィルの声が消し去って彼が何か言っていたようだけど聞こえなかった。
「もういいから出て行って!」
わたくしの声が部屋中に響いた。
リリアンナ様はあんなにうるさかったのに突然黙って、わたくしを涙目で睨んだ。
ーーまぁよく人を睨む娘ね。
セフィルは「向こうへ行こう」とリリアンナ様の肩を優しく抱き、部屋を出て行った。
やっと静かになった部屋で1人ベッドの上で膝を抱えて………悔し涙が出た。
胸が苦しい。病気からなのか心が苦しいのか自分でもよくわからない。ただただ苦しかった。
あんなに目の前で、セフィルの横に寄り添うように立つリリアンナ様の姿を見て仕舞えば認めるしかない。彼女がセフィルにお似合いなのだと。
わたくしなんかお邪魔虫でしかないのだと。
お父様になんとか頭を下げて彼の立場が悪くならないように婚約解消をしよう。
わたくしの最後の願いを聞いて欲しいと訴えてみよう。
ウエラに頼んでわたくしは屋敷をそっと抜け出した。サイロが帰ってしまったし、馬車もセフィルが公爵家に帰してしまっていた。
二人で歩いて帰るには距離がある。体調がすぐれないわたくしの足では歩くことはできない。ウエラは辻馬車のいる場所まで「あと少しですから」と連れて行ってくれた。
なんとか辻馬車をみつけ乗せてもらった。
「よかった……このまま歩くことになればブロア様が倒れてしまうのではと心配していました」
「運が良かったわ……セフィルに気づかれずに抜け出すとなると公爵家の馬車を呼び寄せるわけにはいかなかったもの」
「………セフィル様は何をお考えなのでしょうか?」
「見てたらわかるじゃない?リリアンナ様との将来よ」
「そうでしょうか?リリアンナ様のわがままに振り回されているだけのような気がしますが」
「うーん、セフィルは優しいから。我儘な幼馴染が可愛くて仕方がないのだと思うわ」
「ああ、サイロさんがブロア様を可愛くて仕方がないと思うのと同じですね?」
「ち、違うと思うわ……サイロはわたくしのことを手のかかる主人だと思っているだけよ!」
わたくしと護衛騎士のサイロの付き合いは長い。お母様が亡くなり宰相であり公爵当主のお父様はお忙しくてわたくしのことなど居ないも同然の扱いをして来た。
兄様のカイランはわたくしよりも七つ年上で学業に追われ、年の離れたわたくしのことなど興味すらなく、兄妹として過ごすことはほとんどなかった。
わたくしも8歳の頃から王子殿下の婚約者となり勉強が忙しく、さらに彼が王太子に選ばれるとわたくしは王太子妃としての勉強と執務に追われて過ごすことになった。
家族との団欒や愛情などわたくし達家族にはなかった。かと言って虐げられたとかそんなことはなかった。ただわたくしに関心がなかっただけ。そんなわたくしのそばにいてくれて家族のように接してくれたのがサイロだった。そしてここ数年はウエラも加わりわたくしのお世話をしてくれる。
屋敷に帰るとサイロが慌ててやって来た。
「お嬢、勝手に帰ってくるなんて……だったら一声かけてくれれば迎えに来たのに」
「あら?わたくしを見捨ててさっさと帰ったくせに!」
「そりゃ、セフィル様にお任せしたんだから帰るでしょう?少しは素直になってセフィル様に甘えたらいいじゃないですか?」
「………セフィルとは婚約解消するつもりよ。お父様はお帰りになってるかしら?」
「まだお帰りになっておりません」
「そう………わかったわ……疲れたから横になりたいの。先生を呼んでもらえるかしら?」
奇病にかかってから先生だけが頼りだった。治療薬は見つからないまでも、この不調を抑えるためには先生が処方した薬だけが頼りだった。
倦怠感に酷い頭痛、痣が痛むのか心臓が苦しいのか胸の辺りの痛みがひどくなると歩くのが精一杯になってしまう。
「ブロア様……お食事はどうしましょう?」
「料理長にスープだけでいいと言ってちょうだい」
「わかりました」
今日はセフィルの屋敷に泊まるだろうとみんな思っていたから気が抜けていたのだろう。わたくしが帰って来て屋敷の使用人達が慌てていたわ。
ここの使用人達はわたくしがお父様に愛されていないことがわかっているから常に手を抜いているの。
食事も頼めば作ってはくれるけどお父様がいない時はパンとスープだけなんて当たり前。
もう慣れてしまって何か食べたい時はウエラとサイロを連れて外食をすることにしている。
物も度々失くなることがあるので部屋には二人以外入らないように普段は鍵を閉めている。わたくしが殿下と婚約破棄してこの一年半……ここでの暮らしは幸せだとは言えなかった。
かと言って王宮での暮らしも地獄のような忙しさだったから、まだ、気が抜けない日々ではあるけどサイロ達と過ごせるだけ幸せなのかもしれない。
「無理をなさいましたね」
診察が終わると先生が呆れながら言った。
「馬車がなかったから……少し歩いただけよ」
「聞きました。体力のないブロア様が無理してお歩きになれば熱が出るのは当たり前のことです。しっかり栄養のある物もお食べください。まあ、どうせここの使用人はまともな物を出さないでしょうから、我が家の愛情のこもった料理を届けさせます」
「……ふふっ……いつもありがとうございます…先生の奥様の作られたパンを食べられるのかしら?」
「熱がこんなに出ているので、リゾットを作るように言っておきます」
「ほんとに?嬉しいわ。いつも美味しいのよね、楽しみにしているわ」
「……無理なさらないでください…………ウエラ、人手が足りないならうちの方から看護師を派遣しようか?」
先生はウエラのことも心配してくださる。
「ブロア様の容態がもう少し悪くなりそうだったらその時はお願いします。今はまだ大丈夫です」
「二人とも迷惑かけてごめんなさいね?」
頭がボッーとしながらも二人に謝った。
熱がだんだん上がって来ているのが自分でもわかる。熱のせいで全身が痛い……身体がだるい……頭が……痛い……
だけどお薬のせいなのか……
「少し………眠るわね……」
ーーーー
「ブロア………」
わたくしの頭を優しく撫でてくれるのは……誰?
「……おか…あ…さま………」
夢の中………
お母様の夢を見ていた。
なのにわたくしを呼ぶ声は、わたくしが一番そばにいて欲しい人……に似ているわ……
彼がここにいる訳がないのに………彼は愛する人に腕を絡まれて二人寄り添いあって……過ごしているはずなの……
わたくしに少しでも甘えることが出来たなら……彼はわたくしのことを少しだけでも見てくれたかしら?
お母様が亡くなってから……甘え方がわからない……人の前で涙を見せることも出来なくて……人の前で弱音を吐くことも出来ない……
こんな可愛くないわたくしを屋敷の者だって尽くそうと思わないわよね……殿下が他に愛する人が出来たのも仕方がないこと。
お父様や兄様がわたくしのことなど興味すらわかないのも仕方がないのよね……
そう、わたくしは、冷たい女だと言われ続けた……淡々と仕事をこなし笑うこともない……氷のようだと……
婚約破棄され王宮から追い出され公爵家の屋敷に戻って来た……ここにも、わたくしの居場所はなかった……
サイロはずっとわたくしの護衛騎士としてそばにいてくれた。ウエラもこの一年半わたくしの専属メイドとして尽くしてくれる。
二人がいなければ孤独だった。わたくしの唯一の家族……
「サイロ……ウエラ……いなくならないで……あなた達だけは………そばにいて……」
「ブロア……すまない。俺は君を手放すことはできない……愛しているんだ……」
ーーああ、夢の中では都合のいい言葉が聞こえてくるのね。わたくしが欲しくて欲しくてたまらない言葉が………
「愛してる」
セフィルに言われることは決してない言葉……
わたくしは知らなかった……
夢だと思っていたのに……セフィルはわたくしを見舞ってそばにいてくれた……らしい。
でも次の日の出来事があまりにも……大変で……セフィルのことは消し去られてしまっていた……
次の日の朝……熱がようやく下がり始めた頃、久しぶりにわたくしは殿下とお会いすることになってしまった。
心の中でいくら文句を言っても相手に通じるわけもなく寝たフリもそろそろ限界。
実際に体が重たく頭も痛い。出来ればこのまま眠っていたかったのに……
「あなたは誰ですか?わたくしは眠っていたのですよ?」
名乗りもせず部屋に押し入るように入って来たリリアンナ様へ冷たい言葉を放った。
「酷い!セフィル、わたしにこんなこと言うなんて!やっぱりブルダ様は噂通りのお方なのよ!」
「リリアンナ、君が部屋に許可なく押し入ったんだろう?」
セフィルはリリアンナをなんとか抑えようとしていた。
ーーうん、そんな言い方では言うことを聞かないと思うわ。
「違うわ!この人がセフィルの部屋の隣の部屋を使っているのが悪いのよ!ここはセフィルの妻になる人が使う場所なのよ?何故こんな女が……」
悔しそうに唇を噛むリリアンナ様の目はわたくしを睨みあげていた。
ーーそうか……この可愛らしい部屋はリリアンナ様のために用意されていたのね。
婚約解消を前提で……どう見てもわたくしには似合わない部屋だもの。
ふふっ、婚約解消をしないなんて言ったのは『今』ではないと思ったのかしら?
今婚約解消すればお父様からどんな目に遭うか……わたくしの考えが甘かったのよね。
自分だけが満足すればいいなんて……わたくしが婚約解消してこの国を去ればセフィルはリリアンナ様と幸せになれるなんてそんな簡単にいくわけはなかった。
宰相であり公爵当主であるお父様の怒りを買えば伯爵家の次男でしかないセフィル様は簡単に握り潰されてしまう……
そんなこともわからないなんて……
自分の浅はかさにため息しか出ない。余命のことに気を取られ自分のことしか考えられなかったわ。
「セフィル……すぐに婚約解消するのは諦めたわ……時が来るのを待ちましょう」
「はああああ?何、この人上から目線なの?セフィル、さっさと婚約解消して!わたしだけを見て欲しいの、わたしだけのセフィルでいて欲しいの、わたしだけを愛して!ねっ?」
リリアンナ様はそう言うと隣に立っていたセフィルに抱きついた。
ーーああ、二人の愛の邪魔をするのはわたくしなのね……
「体調が悪いの……少し横になったら帰るからもう少しだけゆっくりさせてもらえないかしら?」
「まぁ図々しいわ!」
リリアンナ様のうるさい声にセフィルの声が消し去って彼が何か言っていたようだけど聞こえなかった。
「もういいから出て行って!」
わたくしの声が部屋中に響いた。
リリアンナ様はあんなにうるさかったのに突然黙って、わたくしを涙目で睨んだ。
ーーまぁよく人を睨む娘ね。
セフィルは「向こうへ行こう」とリリアンナ様の肩を優しく抱き、部屋を出て行った。
やっと静かになった部屋で1人ベッドの上で膝を抱えて………悔し涙が出た。
胸が苦しい。病気からなのか心が苦しいのか自分でもよくわからない。ただただ苦しかった。
あんなに目の前で、セフィルの横に寄り添うように立つリリアンナ様の姿を見て仕舞えば認めるしかない。彼女がセフィルにお似合いなのだと。
わたくしなんかお邪魔虫でしかないのだと。
お父様になんとか頭を下げて彼の立場が悪くならないように婚約解消をしよう。
わたくしの最後の願いを聞いて欲しいと訴えてみよう。
ウエラに頼んでわたくしは屋敷をそっと抜け出した。サイロが帰ってしまったし、馬車もセフィルが公爵家に帰してしまっていた。
二人で歩いて帰るには距離がある。体調がすぐれないわたくしの足では歩くことはできない。ウエラは辻馬車のいる場所まで「あと少しですから」と連れて行ってくれた。
なんとか辻馬車をみつけ乗せてもらった。
「よかった……このまま歩くことになればブロア様が倒れてしまうのではと心配していました」
「運が良かったわ……セフィルに気づかれずに抜け出すとなると公爵家の馬車を呼び寄せるわけにはいかなかったもの」
「………セフィル様は何をお考えなのでしょうか?」
「見てたらわかるじゃない?リリアンナ様との将来よ」
「そうでしょうか?リリアンナ様のわがままに振り回されているだけのような気がしますが」
「うーん、セフィルは優しいから。我儘な幼馴染が可愛くて仕方がないのだと思うわ」
「ああ、サイロさんがブロア様を可愛くて仕方がないと思うのと同じですね?」
「ち、違うと思うわ……サイロはわたくしのことを手のかかる主人だと思っているだけよ!」
わたくしと護衛騎士のサイロの付き合いは長い。お母様が亡くなり宰相であり公爵当主のお父様はお忙しくてわたくしのことなど居ないも同然の扱いをして来た。
兄様のカイランはわたくしよりも七つ年上で学業に追われ、年の離れたわたくしのことなど興味すらなく、兄妹として過ごすことはほとんどなかった。
わたくしも8歳の頃から王子殿下の婚約者となり勉強が忙しく、さらに彼が王太子に選ばれるとわたくしは王太子妃としての勉強と執務に追われて過ごすことになった。
家族との団欒や愛情などわたくし達家族にはなかった。かと言って虐げられたとかそんなことはなかった。ただわたくしに関心がなかっただけ。そんなわたくしのそばにいてくれて家族のように接してくれたのがサイロだった。そしてここ数年はウエラも加わりわたくしのお世話をしてくれる。
屋敷に帰るとサイロが慌ててやって来た。
「お嬢、勝手に帰ってくるなんて……だったら一声かけてくれれば迎えに来たのに」
「あら?わたくしを見捨ててさっさと帰ったくせに!」
「そりゃ、セフィル様にお任せしたんだから帰るでしょう?少しは素直になってセフィル様に甘えたらいいじゃないですか?」
「………セフィルとは婚約解消するつもりよ。お父様はお帰りになってるかしら?」
「まだお帰りになっておりません」
「そう………わかったわ……疲れたから横になりたいの。先生を呼んでもらえるかしら?」
奇病にかかってから先生だけが頼りだった。治療薬は見つからないまでも、この不調を抑えるためには先生が処方した薬だけが頼りだった。
倦怠感に酷い頭痛、痣が痛むのか心臓が苦しいのか胸の辺りの痛みがひどくなると歩くのが精一杯になってしまう。
「ブロア様……お食事はどうしましょう?」
「料理長にスープだけでいいと言ってちょうだい」
「わかりました」
今日はセフィルの屋敷に泊まるだろうとみんな思っていたから気が抜けていたのだろう。わたくしが帰って来て屋敷の使用人達が慌てていたわ。
ここの使用人達はわたくしがお父様に愛されていないことがわかっているから常に手を抜いているの。
食事も頼めば作ってはくれるけどお父様がいない時はパンとスープだけなんて当たり前。
もう慣れてしまって何か食べたい時はウエラとサイロを連れて外食をすることにしている。
物も度々失くなることがあるので部屋には二人以外入らないように普段は鍵を閉めている。わたくしが殿下と婚約破棄してこの一年半……ここでの暮らしは幸せだとは言えなかった。
かと言って王宮での暮らしも地獄のような忙しさだったから、まだ、気が抜けない日々ではあるけどサイロ達と過ごせるだけ幸せなのかもしれない。
「無理をなさいましたね」
診察が終わると先生が呆れながら言った。
「馬車がなかったから……少し歩いただけよ」
「聞きました。体力のないブロア様が無理してお歩きになれば熱が出るのは当たり前のことです。しっかり栄養のある物もお食べください。まあ、どうせここの使用人はまともな物を出さないでしょうから、我が家の愛情のこもった料理を届けさせます」
「……ふふっ……いつもありがとうございます…先生の奥様の作られたパンを食べられるのかしら?」
「熱がこんなに出ているので、リゾットを作るように言っておきます」
「ほんとに?嬉しいわ。いつも美味しいのよね、楽しみにしているわ」
「……無理なさらないでください…………ウエラ、人手が足りないならうちの方から看護師を派遣しようか?」
先生はウエラのことも心配してくださる。
「ブロア様の容態がもう少し悪くなりそうだったらその時はお願いします。今はまだ大丈夫です」
「二人とも迷惑かけてごめんなさいね?」
頭がボッーとしながらも二人に謝った。
熱がだんだん上がって来ているのが自分でもわかる。熱のせいで全身が痛い……身体がだるい……頭が……痛い……
だけどお薬のせいなのか……
「少し………眠るわね……」
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「ブロア………」
わたくしの頭を優しく撫でてくれるのは……誰?
「……おか…あ…さま………」
夢の中………
お母様の夢を見ていた。
なのにわたくしを呼ぶ声は、わたくしが一番そばにいて欲しい人……に似ているわ……
彼がここにいる訳がないのに………彼は愛する人に腕を絡まれて二人寄り添いあって……過ごしているはずなの……
わたくしに少しでも甘えることが出来たなら……彼はわたくしのことを少しだけでも見てくれたかしら?
お母様が亡くなってから……甘え方がわからない……人の前で涙を見せることも出来なくて……人の前で弱音を吐くことも出来ない……
こんな可愛くないわたくしを屋敷の者だって尽くそうと思わないわよね……殿下が他に愛する人が出来たのも仕方がないこと。
お父様や兄様がわたくしのことなど興味すらわかないのも仕方がないのよね……
そう、わたくしは、冷たい女だと言われ続けた……淡々と仕事をこなし笑うこともない……氷のようだと……
婚約破棄され王宮から追い出され公爵家の屋敷に戻って来た……ここにも、わたくしの居場所はなかった……
サイロはずっとわたくしの護衛騎士としてそばにいてくれた。ウエラもこの一年半わたくしの専属メイドとして尽くしてくれる。
二人がいなければ孤独だった。わたくしの唯一の家族……
「サイロ……ウエラ……いなくならないで……あなた達だけは………そばにいて……」
「ブロア……すまない。俺は君を手放すことはできない……愛しているんだ……」
ーーああ、夢の中では都合のいい言葉が聞こえてくるのね。わたくしが欲しくて欲しくてたまらない言葉が………
「愛してる」
セフィルに言われることは決してない言葉……
わたくしは知らなかった……
夢だと思っていたのに……セフィルはわたくしを見舞ってそばにいてくれた……らしい。
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