短編。

たろ

文字の大きさ
14 / 41
さよならのかわりに ブロアとセフィルの恋ーーあなたを愛していますーー

海。

 サイロとウエラに説得されてこのままミリナちゃんの屋敷で過ごすことになった。

 その代わりきちんと生活費を納めることにした。

 先生も医者としてエイリヒ商会で働く人たちの健康管理をすることになった。サイロは屋敷で護衛騎士として働きウエラももちろんメイドとして働き始めた。

 わたくしはこの体では何も出来ずサイロに預けたお金から支払うことにした。

「ブロア様……お金など必要ありません」
 エイリヒさんは何度も断ったが「それなら仕方がないです。ここにこのまま居ることはできないので出て行きます」と伝えたら、なんとかお金を受け取ってくれることになった。

 お世話になるのに強く出てしまって申し訳なかったのだけど、そうでも言わなければお金を受け取ってはくれなかった。

 わたくしは体調が良い時はベランダから見える海の景色を絵に書き留めることにした。

「無理はなさらないでください」ウエラが心配して何度も仕事の合間に顔を出してはお小言を言ってくる。

「大丈夫よ、描けると言うことは体調が良い時なの、無理はしないわ。もうみんなに心配かけないようにしないといけないってわかってるわ」

 わたくしのことを心配してくれる人がいる。頑張らなくてもこのままのわたくしでいいと言ってくれる。

 あとどれくらいの命なのかわからない……だけど少しでもみんなの前では元気なブロアでいたい。

「ブロア様……最近は起きている時間も増えて体調が落ち着いてきました、よかったら一度浜辺に行ってみませんか?」

「えっ?先生……本当にいいの?」

 ーーこの街に来てからすぐに熱を出してそのまま体調がすぐれなくて、まだ一度も浜辺に行ったことがなかった。

 ミリナちゃんの屋敷は高台にあり海を一望できるのでそれだけで満足していた。でも……浜辺を歩いたり海水に足をつけてみたりしたいと思っていた。

 みんなに迷惑をかけると思い、我慢していたのを先生は気がついていたのね。

 初めての砂浜、初めて海水に足をつけた。手にとった海水。少し水とは違う気がした。恐る恐る指を舐めたら「しょっぱい!」思わず大きな声が出てしまった。

「あははは、お嬢!思った以上に塩の味がしたでしょう?」

「ええ、サイロも驚いた?」

「俺は、何回も遠征で海にもきていますから」

「そうなんだ、わたくしは……ずっと王都から離れたことがなかったわ……ずっと……いつも時間に追われて……海風って気持ちがいいわね」

 ーー考えてみたら公爵家の領地にも行ったことがない。わたくし自身も忙しかったし、誰も旅行に行こうなんて言ってもらったことなんてない。……わたくしがあの国から消えて悲しんでくれる人なんていないのよね……

 結局セフィルとは話し合いすらできなくて国を出てきてしまった。せめて……最後はきちんと婚約解消してさよならしたかったのに……

 でもお父様はセフィルを気に入っていたから無下にはしないと思うの。セフィル……リリアンナ様はちょっと我儘みたいだけど、彼にとってはそんなところも可愛らしいと思っているのかしら?………幸せになって欲しいわ。ちょっと大変そうだけど。

「ブロア様!見て!貝殻をいっぱい拾ったの!これでアクセサリーを作りましょうよ!」

 ミリナちゃんが手にいっぱいの貝殻を見せてくれた。ウエラまでたくさん拾っていた。

「これだけあったら何か作れるかしら?」

「ブロア様に教えてあげる!この辺では貝のネックレスやイヤリングを作って売っているの」

「え?売るの?」

「うん、それ以外にも観光客用に道端に屋台を出してお土産屋さんや焼き魚、焼き貝、エビなんかも焼いて売っているわ」

「行ってみたい!」

「今日はもうここまでです。また体調が良くなったら行きましょう」

「サイロ最近口うるさいおじさんみたいだわ」
 口を尖らせて文句を言うと「俺はお嬢を心配してるんです!」と言い返された。

 確かに……雨風は気持ちがいいけど、なんだか体が重たい。ひさしぶりの外出にもう体は悲鳴をあげていた。

「ミリナちゃん、また次の機会に行きたいわ。体力がなくてごめんなさい」

「ううん、また次にお出かけする楽しみが増えたんだもの、嬉しい」

 ミリナちゃんの優しさにホッとしながら屋敷へと帰った。

 青い空と海に癒されながら穏やかな時間だけが過ぎていく。

感想 35

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました

もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

4人の女

猫枕
恋愛
カトリーヌ・スタール侯爵令嬢、セリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢、イネス・フーリエ伯爵令嬢、ミレーユ・リオンヌ子爵令息夫人。 うららかな春の日の午後、4人の見目麗しき女性達の優雅なティータイム。 このご婦人方には共通点がある。 かつて4人共が、ある一人の男性の妻であった。 『氷の貴公子』の異名を持つ男。 ジルベール・タレーラン公爵令息。 絶対的権力と富を有するタレーラン公爵家の唯一の後継者で絶世の美貌を持つ男。 しかしてその本性は冷酷無慈悲の女嫌い。 この国きっての選りすぐりの4人のご令嬢達は揃いも揃ってタレーラン家を叩き出された仲間なのだ。 こうやって集まるのはこれで2回目なのだが、やはり、話は自然と共通の話題、あの男のことになるわけで・・・。