短編。

たろ

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さよならのかわりに ブロアとセフィルの恋ーーあなたを愛していますーー

穏やかな生活の崩壊

 このまま静かに死へ向かっていくのだと思っていた。それを壊したのは……王太子殿下の使いの者だった。

「国に戻って王城へ一度お顔をお出しください。これはお願いではなく命令です」

「わたくしはもうお父様に追い出されて国を追放されたのですよ?わたくしがなぜ追放された国の王太子殿下の命令を聞かなければいけないのですか?」

「……それは……しかし、あなたが我が国の国民であったことは事実です。わたしはあなたを無理やりでも連れて帰るようにと命令を受けております」

「あなた達も大変ね」

 わたくしがまさか断るなんて思っていない騎士達は困った顔をしていた。お互い顔見知り、わたくしを無理やり拘束して連れ帰ることに抵抗があるみたい。

 それはそうだろう……だってわたくし、ベッドから起き上がれなくて横になったままの姿で話しているのだもの。

 今日は薬の効きが悪くて頭が重たい。体も怠くて熱が下がらない。そんな状態なのに彼らは無理やりわたくしに会わせろと押し入って部屋に入って来たのだ。そして今言いたいことだけ言ってから……わたくしの様子をまじまじ見て……「すみません」と謝った。

 演技ではなく本当に体調がすぐれないことを理解した彼らは殿下の言われた通りに無理やり連れ帰ることを躊躇っていた。

 しかし連れ帰らなければ彼らもまた罰を受ける。

「はあーー、殿下に手紙を書くわ。体調が落ち着くまで待って欲しいと」

 ーー体調が落ち着く……それはわたくしが死んだことを意味するのだけど。

「ブロア様……すみません……」

「いいのよ、あなた方もお仕事なのだから。今わたくしちょっと体調が悪くてここで療養中なの。だからすぐに国に帰ることはできないの、今の現状を手紙と一緒に殿下に話してちょうだい。殿下も流石に馬鹿じゃないからそれくらい把握できると思うわ」

「殿下は……ブロア様を諦めきれないようです」

「そう……わたくしの実力を愛してやまないのね……執務をさせて自分が楽をするために……」

「申し訳ございません……ブロア様がいてくだされば……それは我々も望んでいることであります。このままでは国が上手く回らなくなる恐れがあります」

「今はまだ国王陛下もご健在ですが、もし何かあったら……殿下と妃殿下では……」
 近衛騎士の彼らが言葉を濁しながらもこの先の国のことを心配しているのがわかる。

「ブロア様が側妃になってくださればみんな安心してついていけます」

「わたくしは悪女で無能だったのではないかしら?」

 皮肉を含めてそう言った。

「お助けできなくて申し訳ありませんでした」

「ふふふっ、嘘よ。あの噂のおかげでわたくしは殿下から逃げることができたのだもの。あなた方が態と知らんぷりしてくれたのもわかっているわ」

「ご存知だったのですか?」

「もちろんよ、わたくしの仕事をきちんと認めてくれたのは官僚の皆さんと殿下のそばにいた騎士のあなた達だったわ」

「我々には力はありません。あなたをあそこから助け出せるのはあの悪い噂だけでした。わたし達はみんなであの噂を広めました」

「ありがとう……もうあの頃のわたくしは……体も心も限界だったわ」

 ーーそして今はもうその日その日を生きるのが精一杯なの。

 彼らは手紙を持って国へ帰って行った。

 これで殿下は大人しくしていてくれればいいのだけど……そう思っていたら……


「ブロア様!ここにサインをしてくださらないとセフィルは自由になれないのです!」

 どこから嗅ぎつけたのかリリアンナ様が婚約解消をするための書類を持ってここまでやって来た。

 ーーなぜあなたが?

 そう聞きたいのに、わたくしに返事をする隙すら与えずずっと文句とどれだけセフィルが自分を愛してくれているかを話し続けた。

「あなたのせいでセフィルは世間から変な目で見られているんですよ!」
「セフィルは優しいから我慢して婚約してあげていたんです!」
「愛しているのはわたしだけなの!幼い頃からずっとわたしだけを大切にしてくれたんです!」
「ほら、見てください。セフィルからもらったたくさんのプレゼント、あなたにどれだけわたしが愛されているか知ってもらうために持って来たんですよ、態々。感謝して欲しいわ」


 そしてとどめの一言。

「死ぬならさっさと死んでしまって欲しいわ。セフィルと婚約解消すればただの他人なの。私たちの目に触れない場所で勝手に死んでちょうだい」

 この言葉にサイロがリリアンナ様に掴み掛かろうとした。

「まあ、主人が主人なら飼い犬も最悪ね?躾すらできていないのね」

 サイロのことを飼い犬?

 わたくしが今元気なら言い返して一発頬を叩いていただろう。

 だけどそんな体力すらない。今できることはサイロに「何もしないで」と目で訴えることだけだった。

 リリアンナ様は言いたいことを言ったら満足したのか書類だけ置いて「また取りに来るから」と言って帰って行った。

「なんでお嬢、止めたんです?」

「だってサイロ本気で殴るつもりだったのでしょう?」

「当たり前です」

「そんなことしたら捕まるのはサイロよ?」

「俺は別に捕まってもいいんです」

「わたくしが嫌なの。サイロやウエラと過ごす時間を奪われたくないわ、それにあんな人のせいで犯罪者になって欲しくないわ」

「俺は……あーー、くそっ、わかりました……お嬢がそんなこと言わなければ絶対やめいのに……だけど言葉で言い返すくらいの許可はください。言われるだけなんて俺が嫌なんです」

「わたしも!わたしも言い返します!」

「ウエラまで……二人とも言われたわたくしがなんとも思っていないの……ねっ?」

「そんな可愛く言ってもダメですよ?お嬢の性格も知ってるんですから」

「あら?わたくしもうあの方と関わり合いたくないの。あんな方に怒るのも考えるのも時間の無駄だと思ったの」

 ーーセフィルはどうして……

 ううん、もうセフィルのことも考えない。そう決めて国を出たんだもの。

 わたしはここでゆっくり残りの人生を過ごすと決めたの。もうあの国でのことは全て忘れたの。


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