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さよならのかわりに ブロアとセフィルの恋ーーあなたを愛していますーー
お父様とセフィルとの再会
リリアンナ様が突撃して帰ってからはまた穏やかな時間が戻ってきた。
ただ先生が何度となく部屋に突撃してきては
「この薬を飲んでみてくれ!」とやってくる頻度が増えた。
「なんとか間に合うかもしれない」
わたくしの病気の治療薬が完成するかもしれないと嬉しそうにしている。
わたくしよりも疲れ果ててやつれた先生。ずっと必死で薬を完成させようと頑張ってくださっている。
わたくしが最後まで生きることを諦めないようにと、何度もわたくしに言ってくれる。
『最後まで諦めないで、ブロア様、絶対助けますから』
体調は日に日に悪くなりベッドから出て椅子に座っている時間が減ってきた。横になっている方が楽で、ベッドのそばにあるテーブルにはたくさんの読みかけの本やスケッチブック、色鉛筆などが雑然と置かれていた。
体調が悪くても少しでも『生きている』と感じていたい。だから本を読んだり、絵を描いたりしている。
死んだ後、わたくしの描いた絵が残れば思い出にくらいなるかもしれない。
そんな想いからミリナちゃんやサイロ、ウエラ達の似顔絵を描いたり海の景色を描いたりしている。
夜中、眠れない時には……
セフィルのことをどうしても思い出してしまう。もう忘れてしまわなければ………だけど、愛していたこの気持ちは簡単には捨てられなかった。
リリアンナ様にセフィルは自分のことを愛しているのだと言われてしまったのに……
無口であまり話をしないセフィルがリリアンナ様とはたくさん話をするらしい。わたくしといる時は……わたくしから話題を探してなんとか会話をしていたのに……そう思うと悲しくなる。
ウエラは最近よくわたくしのそばから離れようとしない。一人でいたいと思っても、「何かあっては困りますから」と言ってずっと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
もう公爵令嬢でもなければ主人でもないのに。まだ死ぬまでには十分すぎるだけのお金がある。サイロとウエラを雇い入れることを提案したが二人は頑なに断ってきた。
『対等でいたいんです』
その言葉とは裏腹にわたくしの世話を二人とも焼いてくれる。
対等ならこんなにべったりそばにいなくてもいいのに。ミリナちゃんも昼間はわたくしの部屋で一緒に本を読んだり勉強をしたりしている。
家庭教師から宿題を出されてわからないところを聞いてくることもある。
妹がいたらこんな感じかしら?
兄はいてもほとんど交流がない状態で育った。だから家族がどんなものかよくわからない。今そばにいてくれる人達がわたくしにとっては家族で、わたくしが死んだ時唯一泣いてくれて思い出してくれる人達。
ああ、もうリリアンナ様が何か言ってこなければ……心穏やかに過ごして……死んでいきたい。
そんな願いはやはり叶わなかった。
エイリヒさんが困った顔をして部屋に入ってきた。
「どうしました?」
「………実は……ブロア様の国の……宰相閣下がこの国に訪問されることになりました……わたしが彼をもてなすようにと陛下からご命令を受けまして……」
「エイリヒさんが?どうして、お父様の……」
ーーあっ………
『しまった』という顔をしたらエイリヒさんが苦笑いしながら「大丈夫です、全て把握しておりますから」と言ってくれた。
詳しく事情は話していない。でも見ず知らずの令嬢をそれも死にかけている令嬢をそんな簡単に受け入れるわけがない。わたくしの素性全て把握しているのは当たり前よね。
「わたしは実は陛下の従兄弟なんですよ……ミリナの母親……妻と結婚する時大反対されて自分の地位を捨てて妻と結婚したんです。妻には早くに先立たれてしまいましたが……
宰相はあなたがわたしの屋敷にいることを知って多分わたしを指名してきたのだと思います」
「ご迷惑をおかけしてすみません……」
ーーわたくしを嫌っているお父様がなんのようなのだろう?
追放だけでは気が済まないのかしら?
わたくしが死にかかっていることを知って嘲笑いたいとか?そこまではしないか……
体調が悪いと馬鹿なことを考えてしまう。
わたくしがもう国に戻らないことを確かめたいだけだろう。
「お父様はわたくしに会いたいとは思っていないと思います……どうぞ元気で過ごしていると、迷惑をおかけするつもりは一切ないとお伝えください」
「………とりあえずお会いしてみるよ……ブロア様……あなたの現状をお伝えすべきではないかと思うんです……わたしも父親だ、娘が余命幾ばくもないと聞けば考えも変わるのではないかと思う……それに会いたいと思うはずだよ」
「あの人はわたくしが熱を出そうと寝込もうとわたくしのために会いにきたことはありません。殿下に婚約破棄された時も……冷たい目を向けられただけです……」
わたくしはお父様との関係をもう諦めていた。それは兄様にも言えること。領地で奥さんと子供と幸せに暮らす兄様。わたくしに対しては一切なんの感情も向けてはくれなかった。
今も王都に戻ってきても、わたくしが住んでいた屋敷に顔を出すこともなくタウンハウスの方で家族と過ごしていた。
そう、わたくしは兄様にも相手にされることはなかった。
エイリヒさんとそんな話をして数日後、サイロがわたくしに告げた。
「セフィル様が突然来られました」
サイロは「どうしますか?」と聞いてきた。
「セフィル様ってだれ?」
ミリナちゃんは見知らぬ名前を聞いて質問してきた。
リリアンナ様の訪問の時もミリナちゃんはその場を見ていた。本当なら子供に見せたくなかったのにリリアンナ様は周りのことなどお構いなしに好きなだけ言って帰っていったのでミリナちゃんを別の部屋に移動する間もなかった。
ううん、みんな唖然としていただけかも。
そう言えばあれからリリアンナ様はきていないわ。それなのにセフィルが来た……
それは婚約解消の書類を取りに来たということかしら?
「セフィルを通してちょうだい」
ミリナちゃんには知人だと説明した。元婚約者で突然きたと説明すればリリアンナ様のことも話をしなければいけなくなる。もう二人のことを自分の口から話したくはなかった。それに子供の前で大人の醜い話なんてしたくない。
わたくしはベッドから起き上がりワンピースに着替えると軽く化粧をしてもらい髪を櫛でとかしてもらい、病人とはわからない程度に綺麗に整えてもらった。
わたくしは自分の部屋から客室までサイロに抱きかかえられてきた。扉の前で下ろしてもらい、扉をノックした。
中に入ると客室に通されて待っていたセフィルは少し疲れているように見えた。
「お久しぶりですね」
わたくしはセフィルの前のソファに座りふわっと笑って見せた。
「ブロア……体調がやはりすぐれないのか?」
「まぁ、いきなりそんなことを言われるなんて不躾ですわね?」
ーーそんなに顔色が悪く見えるかしら?一応化粧で誤魔化したつもりなのに……毎日自分のことを見ているので変化があってもわからないのかもしれないわ。
「すまない……かなり痩せているように見えるんだ……それに顔色も悪い……俺は……ずっと演習で王都を離れていて君の今の現状すら知らなかった……すまなかった」
「いえ、もう、セフィルに……ううん、ブレイシャス卿とわたくしはなんの関係もないのですから心配される必要はありませんわ」
そう言ってわたくしはリリアンナ様に渡された書類をセフィルの前に置いた。
ただ先生が何度となく部屋に突撃してきては
「この薬を飲んでみてくれ!」とやってくる頻度が増えた。
「なんとか間に合うかもしれない」
わたくしの病気の治療薬が完成するかもしれないと嬉しそうにしている。
わたくしよりも疲れ果ててやつれた先生。ずっと必死で薬を完成させようと頑張ってくださっている。
わたくしが最後まで生きることを諦めないようにと、何度もわたくしに言ってくれる。
『最後まで諦めないで、ブロア様、絶対助けますから』
体調は日に日に悪くなりベッドから出て椅子に座っている時間が減ってきた。横になっている方が楽で、ベッドのそばにあるテーブルにはたくさんの読みかけの本やスケッチブック、色鉛筆などが雑然と置かれていた。
体調が悪くても少しでも『生きている』と感じていたい。だから本を読んだり、絵を描いたりしている。
死んだ後、わたくしの描いた絵が残れば思い出にくらいなるかもしれない。
そんな想いからミリナちゃんやサイロ、ウエラ達の似顔絵を描いたり海の景色を描いたりしている。
夜中、眠れない時には……
セフィルのことをどうしても思い出してしまう。もう忘れてしまわなければ………だけど、愛していたこの気持ちは簡単には捨てられなかった。
リリアンナ様にセフィルは自分のことを愛しているのだと言われてしまったのに……
無口であまり話をしないセフィルがリリアンナ様とはたくさん話をするらしい。わたくしといる時は……わたくしから話題を探してなんとか会話をしていたのに……そう思うと悲しくなる。
ウエラは最近よくわたくしのそばから離れようとしない。一人でいたいと思っても、「何かあっては困りますから」と言ってずっと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
もう公爵令嬢でもなければ主人でもないのに。まだ死ぬまでには十分すぎるだけのお金がある。サイロとウエラを雇い入れることを提案したが二人は頑なに断ってきた。
『対等でいたいんです』
その言葉とは裏腹にわたくしの世話を二人とも焼いてくれる。
対等ならこんなにべったりそばにいなくてもいいのに。ミリナちゃんも昼間はわたくしの部屋で一緒に本を読んだり勉強をしたりしている。
家庭教師から宿題を出されてわからないところを聞いてくることもある。
妹がいたらこんな感じかしら?
兄はいてもほとんど交流がない状態で育った。だから家族がどんなものかよくわからない。今そばにいてくれる人達がわたくしにとっては家族で、わたくしが死んだ時唯一泣いてくれて思い出してくれる人達。
ああ、もうリリアンナ様が何か言ってこなければ……心穏やかに過ごして……死んでいきたい。
そんな願いはやはり叶わなかった。
エイリヒさんが困った顔をして部屋に入ってきた。
「どうしました?」
「………実は……ブロア様の国の……宰相閣下がこの国に訪問されることになりました……わたしが彼をもてなすようにと陛下からご命令を受けまして……」
「エイリヒさんが?どうして、お父様の……」
ーーあっ………
『しまった』という顔をしたらエイリヒさんが苦笑いしながら「大丈夫です、全て把握しておりますから」と言ってくれた。
詳しく事情は話していない。でも見ず知らずの令嬢をそれも死にかけている令嬢をそんな簡単に受け入れるわけがない。わたくしの素性全て把握しているのは当たり前よね。
「わたしは実は陛下の従兄弟なんですよ……ミリナの母親……妻と結婚する時大反対されて自分の地位を捨てて妻と結婚したんです。妻には早くに先立たれてしまいましたが……
宰相はあなたがわたしの屋敷にいることを知って多分わたしを指名してきたのだと思います」
「ご迷惑をおかけしてすみません……」
ーーわたくしを嫌っているお父様がなんのようなのだろう?
追放だけでは気が済まないのかしら?
わたくしが死にかかっていることを知って嘲笑いたいとか?そこまではしないか……
体調が悪いと馬鹿なことを考えてしまう。
わたくしがもう国に戻らないことを確かめたいだけだろう。
「お父様はわたくしに会いたいとは思っていないと思います……どうぞ元気で過ごしていると、迷惑をおかけするつもりは一切ないとお伝えください」
「………とりあえずお会いしてみるよ……ブロア様……あなたの現状をお伝えすべきではないかと思うんです……わたしも父親だ、娘が余命幾ばくもないと聞けば考えも変わるのではないかと思う……それに会いたいと思うはずだよ」
「あの人はわたくしが熱を出そうと寝込もうとわたくしのために会いにきたことはありません。殿下に婚約破棄された時も……冷たい目を向けられただけです……」
わたくしはお父様との関係をもう諦めていた。それは兄様にも言えること。領地で奥さんと子供と幸せに暮らす兄様。わたくしに対しては一切なんの感情も向けてはくれなかった。
今も王都に戻ってきても、わたくしが住んでいた屋敷に顔を出すこともなくタウンハウスの方で家族と過ごしていた。
そう、わたくしは兄様にも相手にされることはなかった。
エイリヒさんとそんな話をして数日後、サイロがわたくしに告げた。
「セフィル様が突然来られました」
サイロは「どうしますか?」と聞いてきた。
「セフィル様ってだれ?」
ミリナちゃんは見知らぬ名前を聞いて質問してきた。
リリアンナ様の訪問の時もミリナちゃんはその場を見ていた。本当なら子供に見せたくなかったのにリリアンナ様は周りのことなどお構いなしに好きなだけ言って帰っていったのでミリナちゃんを別の部屋に移動する間もなかった。
ううん、みんな唖然としていただけかも。
そう言えばあれからリリアンナ様はきていないわ。それなのにセフィルが来た……
それは婚約解消の書類を取りに来たということかしら?
「セフィルを通してちょうだい」
ミリナちゃんには知人だと説明した。元婚約者で突然きたと説明すればリリアンナ様のことも話をしなければいけなくなる。もう二人のことを自分の口から話したくはなかった。それに子供の前で大人の醜い話なんてしたくない。
わたくしはベッドから起き上がりワンピースに着替えると軽く化粧をしてもらい髪を櫛でとかしてもらい、病人とはわからない程度に綺麗に整えてもらった。
わたくしは自分の部屋から客室までサイロに抱きかかえられてきた。扉の前で下ろしてもらい、扉をノックした。
中に入ると客室に通されて待っていたセフィルは少し疲れているように見えた。
「お久しぶりですね」
わたくしはセフィルの前のソファに座りふわっと笑って見せた。
「ブロア……体調がやはりすぐれないのか?」
「まぁ、いきなりそんなことを言われるなんて不躾ですわね?」
ーーそんなに顔色が悪く見えるかしら?一応化粧で誤魔化したつもりなのに……毎日自分のことを見ているので変化があってもわからないのかもしれないわ。
「すまない……かなり痩せているように見えるんだ……それに顔色も悪い……俺は……ずっと演習で王都を離れていて君の今の現状すら知らなかった……すまなかった」
「いえ、もう、セフィルに……ううん、ブレイシャス卿とわたくしはなんの関係もないのですから心配される必要はありませんわ」
そう言ってわたくしはリリアンナ様に渡された書類をセフィルの前に置いた。
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