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短編
幼馴染 後編
「セドリック、そばにいてくれてありがとう」
何も聞かずにそばにいてくれた。
少し落ち着いてきた。
ヴィオレット様は殿下が迎えに来た。
「ごめんなさい、そばにいてあげられなくて。何かあったら相談に乗るわ」と言ってくれた。
「エリナはリーゼ嬢と知り合いなの?」
「ううん……知らない人」
「彼女は多分……俺を見つけたら絡んでくると思う……嫌なら早めに会場を抜け出そう」
ーーセドリックの同級生だった……
「彼女の隣にいた男性……わたしの恋人だった……結婚しようって15歳の時約束して……だけど……村に帰って来なくなったの……」
「……彼が?」
ーー知ってたんだ……
「うん、ユウリは村長の息子で……この国では村長には……平民でも準男爵の爵位を渡されるの……何かあった時は貴族として対応しないといけない時があるから……ユウリは仕事中助けた男爵令嬢に気に入られて、そこの護衛騎士になったの……噂では二人は結婚するとか……それがさっきのリーゼ様とユウリなの」
「結婚?多分それは……今のところ噂では聞かない話だよ」
「えっ?でも……ユウリは彼女と結婚するからわたしが村にいたら邪魔になるから……」
ーーあの村に居づらくなったのに……だけどそのことは敢えてセドリックは言わなかった。
「ふうん、エリナはあいつらのせいで嫌な思いをしたんだ」
「もう忘れたいかな……」
「忘れられないからここにいるんだろう?」
「うーーん………そうだね……出来れば、ユウリともう顔を合わせたくないかな……」
「俺としては、何か言ってやりたいけど……エリナはもうそっとしていて欲しいんだよね?」
「うん、出来ればユウリに気づかれたくない」
「わかった、じゃあ、一度だけダンスを踊ったら帰ろう」
ーーそうだった……一度だけは踊らないといけなかった。それも今日はわたしの初めての社交界に参加した日だもの……ダンスを一曲踊るのは決まりだもの。
「エリナ、行こう」
セドリックの手はとても温かくてホッとした。彼といれば怖くない。そう思えた。
バルコニーから会場へと戻ると、新しい曲に合わせてダンスを踊る。苦手だったダンスも何度もセドリックが練習の相手をしてくれた。おかげでなんとか形だけは踊れるようになった。
「エリナ、今日のダンスはとっても上手だよ」
「本当に?とりあえずセドリックが恥ずかしい思いをしないように最後まで頑張って踊るわ」
セドリックと目が合うとお互いクスッと笑い合った。
ユウリはこの広い会場の別の場所にいる。会わないようにすることも出来なくはない。
ダンスが終わるとセドリックも二人の姿を確認しながらわたしをエスコートしてくれる。
「少しだけ食べて帰ろうか?多分何も口にしなかったら後悔するだろう?」
「なんでわかるの?」
「食べたそうにしてたからね」
ーーしっかりバレてた……色気より食い気だもの。ユウリのことは気になるけど、近くにいないなら安心だもの。
二人で楽しくおしゃべりしながら食事をしていたら少し離れたところでまた声が聞こえて来た。
「あなたのお家って確かあまり裕福ではないそうね?何そのドレス?今夜、この会場に来てくるには少し相応しくないのではなくて?」
数人の令嬢と、クスクス馬鹿にした笑い声が聞こえて来た。
さっきはワインをこぼしたと令嬢に怒鳴っていたけど今度は別の令嬢に対して酷い言葉を投げつけている。
遠くからとはいえドレスを着替えたようには見えない。ワインがかかったと言っていたのもただの言い掛かりだったのかもしれない。
周りの人たちも不愉快そうな顔はしているが誰も助けようとしない。
わたしはユウリが近くにいるから関わり合いたくはない。
絶対嫌なのに……勝手に体が、口が、動いていた。
「あら?ドレスなんて彼女にとってはどんなものを着ていても関係ないわ。だって元がとても綺麗な人なんだもの」
意地悪を言っていた令嬢達をチラッと見てクスクス笑ってやった。
「自信がない方達は必死で着飾らないと……ねぇ?大変でしょう?お金と時間をかけないといけないなんて……」
気の毒そうに彼女たちを見てため息をついた。
「あなた!一体誰なの?失礼ではなくて?」
「そ、そうよ!」
「あら?失礼って……わたしあなた達だとは言っていないわ……えっ?まさか…自分のことだと思っているんですか?それって……認めてしまったと言うことかしら?」
驚いた顔をして彼女たちを見た。
意地悪をされていた令嬢はどうしたらいいのかわからずキョロキョロと周りを見て焦っていた。
「こちらにいらっしゃい」
ヴィオレット様がその令嬢の腕を掴んで自分のほうへ手繰り寄せた。
「は、はい」
驚きながらもヴィオレット様のそばに行く令嬢。ヴィオレット様のそばならもうこれ以上何か言われることはないだろう。安心したのはいいけど……わたしの立場って…まずい、ひっじょうにまずい……のでは?
デビューしたばかりでもう目をつけられたかも……
「エリナ、君もこっちに」そう言ってわたしの肩を抱き、セドリックが隣に来てくれた。
「セドリック様!」
「きゃっ!セドリック様……なぜ?その子はだれなんですか?」
果敢に聞いてくるリーゼ様。悔しそうに唇を噛んでわたしを睨んできた。
近くにはわたしの顔を見て驚くユウリが立っていた。
ーーなんのために隠れようとしたのか…わかっていたのに、自分がぶち壊してしまった。
「エリナ………」
わたしに声をかけて来た。
「ユウリ、誰なの?知り合いなの?セドリック様にエスコートされているなんて、ずるいわ!何よ!自分だってドレスで誤魔化してるだけじゃない!」
ーーうん?ずるいって……セドリックは従兄弟で……パートナーがいないからセドリックは仕方なく付き合ってくれているだけなんだけど、言い訳するのもなんだか嫌だった。
「セドリック、向こうに行こう」
わたしは無視してこのうるさい人たちから離れることにした。関わり合いたくない。まぁ、我慢できなくて自分からつい関わってしまったのだけど。
待たせてある伯爵家の馬車のところまで行くために王城で用意されている移動用の馬車に乗り込んだ。
「待って」ユウリが突然乗り込んできた。
「リーゼ様を放って来ていいの?」
わたしが呆れた顔をしたらなぜかユウリは傷ついた顔をした。
「リーゼ様には他に数人そばに仕えている人がいる。俺一人抜けても困らない……エリナ、ごめん。ずっと連絡できなくて……」
「気にしないで。わたしはもう以前のエリナじゃない……今はエリナ・レイヤー………伯爵家の娘なの」
「……どう言うことなんだ?」
「わたしのお母さんがレイヤー伯爵の娘だったの、ただ……それだけよ」
ーーおばあちゃんが亡くなって村に居づらくなって……伯爵家の娘になった……そうそれだけのこと。
「君は伯爵令嬢であるエリナに気軽に声をかけられる身分じゃないだろう?それにリーゼ嬢のそばにいるのが仕事なら戻りなよ」
「エリナ……」
情けない顔をしてわたしを見るユウリ。わたしはユウリに視線を向けた。
「わたし達が……昔した約束は……子供のたわいないものだっただけ……あなたは……ただの……幼馴染よ?顔見知りなだけなの……着いたわ……さよなら、ユウリ」
セドリックの手を借りて馬車を降りた。
すぐに伯爵家の馬車が目の前に停まる。わたし達はその馬車に乗り込んだ。
見送るユウリの姿は……ただ立ち尽くしていた。わたしはもう振り返ることはない。
「よかったの?エリナ?」
「ええ」
わたしは帰りの馬車の中、一言も声を出さなかった。一言でも声を出したら……泣いてしまいそうだった。
大好きだったユウリ、信じていたユウリ。だけど彼の姿はわたしが知っているユウリではなくなっていた。
綺麗な服を着てきちんと髪を整えられていた。まるでリーゼ様の人形のように。意思などない着飾っただけの。
ただ彼女を引き立てるために綺麗な顔の男性達を数人そばに置いていた。
ーー男娼のように……
それを選んだのはユウリ。
そんなユウリを好きになったのはわたしだった。だからユウリを恨むことはできない。
でももう好きでいることも出来ない。
セドリックは話しにくいことだけど……
と言ってこの夜会の一月後に教えてくれた。
リーゼ様は顔の良い騎士達をそばに置き、本当に男娼として扱っているらしい。
そして……セドリックは婚約者になって欲しいと狙われていたらしくしっかり拒絶したと教えてくれた。
ユウリはもう……彼女と………
ユウリとわたしはもう会うことはない幼馴染になってしまった。
ーーーーー
なんで……こんなことになったんだろう。
ずっと大好きでいつか俺の嫁にと約束したエリナ。
綺麗で優しく、よく笑うエリナ。彼女を愛していたんだ。
騎士として生計を立てられるようになったら迎えに行くつもりだった。
リーゼ様を助けたことで気に入られて、男爵家の護衛騎士として働くことになった。
だけど気がつけば、リーゼ様と何度となく体を合わせることになってしまった。
初めは誘われても断っていた。
でも夜の警護の時に、寝室へと誘われる。
可愛らしいリーゼ様に誘われれば最終的には断ることなど出来なかった。
初めての経験はとても甘美で夢中になるのは簡単だった。
エリナに手紙を書くことも会いに故郷に帰ることも無くなった。
親から何度となく帰ってくるように手紙が来たが、リーゼ様と付き合っていると誤魔化していた。
両親は貴族令嬢との結婚だと喜んでくれた。そんな話なんて出てもいないのに。
その陰でエリナが村で酷い目に遭っているなんて知らなかった。知ったのはエリナが夜会に参加した後だった。
村に顔を出すと、エリナが伯爵令嬢になっていたと噂になっていた。村のみんなはエリナに対して酷いことをしてしまったと青ざめていた。
エリナは俺のことも村の人たちのことももう捨てたのだ。
あの時の冷めた表情を思い出すと胸が抉られるように苦しくなる。
夜会の日……リーゼ様よりも美しく存在感のあるエリナにみんな見惚れていた。俺も……謝りたい、できるならもう一度……元に戻りたい。
なんて馬鹿なことを考えてしまった。
先に捨ててしまったのは、裏切ってしまったのは俺なのに。村の人たちから酷い態度を取られてしまったのも俺のせいだった。
俺は……リーゼ様の護衛騎士をやめて村に戻った。
貧しい村だけど、少しでも村を元気にしたい、いつかエリナが懐かしみ、この村に遊びにくることがあったなら、その時は……いい思い出だけを味わって欲しい。
エリナが住んでいた家をそのまま維持しながら俺は村で暮らしていく。
ーーーーー
「セリナ、お母様と絵本を読みましょう」
「うん」
「おっ、じゃあ、お父様はセリナの隣に座って話を聞くとしよう」
「さんにん、なかよし、だね?」
「ええそうね。ふふっ、セドリック、愛しているわ」
「僕もエリナとセリナを愛してるよ」
終
何も聞かずにそばにいてくれた。
少し落ち着いてきた。
ヴィオレット様は殿下が迎えに来た。
「ごめんなさい、そばにいてあげられなくて。何かあったら相談に乗るわ」と言ってくれた。
「エリナはリーゼ嬢と知り合いなの?」
「ううん……知らない人」
「彼女は多分……俺を見つけたら絡んでくると思う……嫌なら早めに会場を抜け出そう」
ーーセドリックの同級生だった……
「彼女の隣にいた男性……わたしの恋人だった……結婚しようって15歳の時約束して……だけど……村に帰って来なくなったの……」
「……彼が?」
ーー知ってたんだ……
「うん、ユウリは村長の息子で……この国では村長には……平民でも準男爵の爵位を渡されるの……何かあった時は貴族として対応しないといけない時があるから……ユウリは仕事中助けた男爵令嬢に気に入られて、そこの護衛騎士になったの……噂では二人は結婚するとか……それがさっきのリーゼ様とユウリなの」
「結婚?多分それは……今のところ噂では聞かない話だよ」
「えっ?でも……ユウリは彼女と結婚するからわたしが村にいたら邪魔になるから……」
ーーあの村に居づらくなったのに……だけどそのことは敢えてセドリックは言わなかった。
「ふうん、エリナはあいつらのせいで嫌な思いをしたんだ」
「もう忘れたいかな……」
「忘れられないからここにいるんだろう?」
「うーーん………そうだね……出来れば、ユウリともう顔を合わせたくないかな……」
「俺としては、何か言ってやりたいけど……エリナはもうそっとしていて欲しいんだよね?」
「うん、出来ればユウリに気づかれたくない」
「わかった、じゃあ、一度だけダンスを踊ったら帰ろう」
ーーそうだった……一度だけは踊らないといけなかった。それも今日はわたしの初めての社交界に参加した日だもの……ダンスを一曲踊るのは決まりだもの。
「エリナ、行こう」
セドリックの手はとても温かくてホッとした。彼といれば怖くない。そう思えた。
バルコニーから会場へと戻ると、新しい曲に合わせてダンスを踊る。苦手だったダンスも何度もセドリックが練習の相手をしてくれた。おかげでなんとか形だけは踊れるようになった。
「エリナ、今日のダンスはとっても上手だよ」
「本当に?とりあえずセドリックが恥ずかしい思いをしないように最後まで頑張って踊るわ」
セドリックと目が合うとお互いクスッと笑い合った。
ユウリはこの広い会場の別の場所にいる。会わないようにすることも出来なくはない。
ダンスが終わるとセドリックも二人の姿を確認しながらわたしをエスコートしてくれる。
「少しだけ食べて帰ろうか?多分何も口にしなかったら後悔するだろう?」
「なんでわかるの?」
「食べたそうにしてたからね」
ーーしっかりバレてた……色気より食い気だもの。ユウリのことは気になるけど、近くにいないなら安心だもの。
二人で楽しくおしゃべりしながら食事をしていたら少し離れたところでまた声が聞こえて来た。
「あなたのお家って確かあまり裕福ではないそうね?何そのドレス?今夜、この会場に来てくるには少し相応しくないのではなくて?」
数人の令嬢と、クスクス馬鹿にした笑い声が聞こえて来た。
さっきはワインをこぼしたと令嬢に怒鳴っていたけど今度は別の令嬢に対して酷い言葉を投げつけている。
遠くからとはいえドレスを着替えたようには見えない。ワインがかかったと言っていたのもただの言い掛かりだったのかもしれない。
周りの人たちも不愉快そうな顔はしているが誰も助けようとしない。
わたしはユウリが近くにいるから関わり合いたくはない。
絶対嫌なのに……勝手に体が、口が、動いていた。
「あら?ドレスなんて彼女にとってはどんなものを着ていても関係ないわ。だって元がとても綺麗な人なんだもの」
意地悪を言っていた令嬢達をチラッと見てクスクス笑ってやった。
「自信がない方達は必死で着飾らないと……ねぇ?大変でしょう?お金と時間をかけないといけないなんて……」
気の毒そうに彼女たちを見てため息をついた。
「あなた!一体誰なの?失礼ではなくて?」
「そ、そうよ!」
「あら?失礼って……わたしあなた達だとは言っていないわ……えっ?まさか…自分のことだと思っているんですか?それって……認めてしまったと言うことかしら?」
驚いた顔をして彼女たちを見た。
意地悪をされていた令嬢はどうしたらいいのかわからずキョロキョロと周りを見て焦っていた。
「こちらにいらっしゃい」
ヴィオレット様がその令嬢の腕を掴んで自分のほうへ手繰り寄せた。
「は、はい」
驚きながらもヴィオレット様のそばに行く令嬢。ヴィオレット様のそばならもうこれ以上何か言われることはないだろう。安心したのはいいけど……わたしの立場って…まずい、ひっじょうにまずい……のでは?
デビューしたばかりでもう目をつけられたかも……
「エリナ、君もこっちに」そう言ってわたしの肩を抱き、セドリックが隣に来てくれた。
「セドリック様!」
「きゃっ!セドリック様……なぜ?その子はだれなんですか?」
果敢に聞いてくるリーゼ様。悔しそうに唇を噛んでわたしを睨んできた。
近くにはわたしの顔を見て驚くユウリが立っていた。
ーーなんのために隠れようとしたのか…わかっていたのに、自分がぶち壊してしまった。
「エリナ………」
わたしに声をかけて来た。
「ユウリ、誰なの?知り合いなの?セドリック様にエスコートされているなんて、ずるいわ!何よ!自分だってドレスで誤魔化してるだけじゃない!」
ーーうん?ずるいって……セドリックは従兄弟で……パートナーがいないからセドリックは仕方なく付き合ってくれているだけなんだけど、言い訳するのもなんだか嫌だった。
「セドリック、向こうに行こう」
わたしは無視してこのうるさい人たちから離れることにした。関わり合いたくない。まぁ、我慢できなくて自分からつい関わってしまったのだけど。
待たせてある伯爵家の馬車のところまで行くために王城で用意されている移動用の馬車に乗り込んだ。
「待って」ユウリが突然乗り込んできた。
「リーゼ様を放って来ていいの?」
わたしが呆れた顔をしたらなぜかユウリは傷ついた顔をした。
「リーゼ様には他に数人そばに仕えている人がいる。俺一人抜けても困らない……エリナ、ごめん。ずっと連絡できなくて……」
「気にしないで。わたしはもう以前のエリナじゃない……今はエリナ・レイヤー………伯爵家の娘なの」
「……どう言うことなんだ?」
「わたしのお母さんがレイヤー伯爵の娘だったの、ただ……それだけよ」
ーーおばあちゃんが亡くなって村に居づらくなって……伯爵家の娘になった……そうそれだけのこと。
「君は伯爵令嬢であるエリナに気軽に声をかけられる身分じゃないだろう?それにリーゼ嬢のそばにいるのが仕事なら戻りなよ」
「エリナ……」
情けない顔をしてわたしを見るユウリ。わたしはユウリに視線を向けた。
「わたし達が……昔した約束は……子供のたわいないものだっただけ……あなたは……ただの……幼馴染よ?顔見知りなだけなの……着いたわ……さよなら、ユウリ」
セドリックの手を借りて馬車を降りた。
すぐに伯爵家の馬車が目の前に停まる。わたし達はその馬車に乗り込んだ。
見送るユウリの姿は……ただ立ち尽くしていた。わたしはもう振り返ることはない。
「よかったの?エリナ?」
「ええ」
わたしは帰りの馬車の中、一言も声を出さなかった。一言でも声を出したら……泣いてしまいそうだった。
大好きだったユウリ、信じていたユウリ。だけど彼の姿はわたしが知っているユウリではなくなっていた。
綺麗な服を着てきちんと髪を整えられていた。まるでリーゼ様の人形のように。意思などない着飾っただけの。
ただ彼女を引き立てるために綺麗な顔の男性達を数人そばに置いていた。
ーー男娼のように……
それを選んだのはユウリ。
そんなユウリを好きになったのはわたしだった。だからユウリを恨むことはできない。
でももう好きでいることも出来ない。
セドリックは話しにくいことだけど……
と言ってこの夜会の一月後に教えてくれた。
リーゼ様は顔の良い騎士達をそばに置き、本当に男娼として扱っているらしい。
そして……セドリックは婚約者になって欲しいと狙われていたらしくしっかり拒絶したと教えてくれた。
ユウリはもう……彼女と………
ユウリとわたしはもう会うことはない幼馴染になってしまった。
ーーーーー
なんで……こんなことになったんだろう。
ずっと大好きでいつか俺の嫁にと約束したエリナ。
綺麗で優しく、よく笑うエリナ。彼女を愛していたんだ。
騎士として生計を立てられるようになったら迎えに行くつもりだった。
リーゼ様を助けたことで気に入られて、男爵家の護衛騎士として働くことになった。
だけど気がつけば、リーゼ様と何度となく体を合わせることになってしまった。
初めは誘われても断っていた。
でも夜の警護の時に、寝室へと誘われる。
可愛らしいリーゼ様に誘われれば最終的には断ることなど出来なかった。
初めての経験はとても甘美で夢中になるのは簡単だった。
エリナに手紙を書くことも会いに故郷に帰ることも無くなった。
親から何度となく帰ってくるように手紙が来たが、リーゼ様と付き合っていると誤魔化していた。
両親は貴族令嬢との結婚だと喜んでくれた。そんな話なんて出てもいないのに。
その陰でエリナが村で酷い目に遭っているなんて知らなかった。知ったのはエリナが夜会に参加した後だった。
村に顔を出すと、エリナが伯爵令嬢になっていたと噂になっていた。村のみんなはエリナに対して酷いことをしてしまったと青ざめていた。
エリナは俺のことも村の人たちのことももう捨てたのだ。
あの時の冷めた表情を思い出すと胸が抉られるように苦しくなる。
夜会の日……リーゼ様よりも美しく存在感のあるエリナにみんな見惚れていた。俺も……謝りたい、できるならもう一度……元に戻りたい。
なんて馬鹿なことを考えてしまった。
先に捨ててしまったのは、裏切ってしまったのは俺なのに。村の人たちから酷い態度を取られてしまったのも俺のせいだった。
俺は……リーゼ様の護衛騎士をやめて村に戻った。
貧しい村だけど、少しでも村を元気にしたい、いつかエリナが懐かしみ、この村に遊びにくることがあったなら、その時は……いい思い出だけを味わって欲しい。
エリナが住んでいた家をそのまま維持しながら俺は村で暮らしていく。
ーーーーー
「セリナ、お母様と絵本を読みましょう」
「うん」
「おっ、じゃあ、お父様はセリナの隣に座って話を聞くとしよう」
「さんにん、なかよし、だね?」
「ええそうね。ふふっ、セドリック、愛しているわ」
「僕もエリナとセリナを愛してるよ」
終
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