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短編
太っちょ殿下の恋。 前編
「おい!僕の顔に何かついているのか?」
子供達が集まるお茶会で、僕は椅子に座りお菓子を食べていた。
目の前にはショートケーキにチョコレートがたっぷり使われたガトーショコラ、大好きな桃のタルトにアイスクリーム。
お茶会は僕にとって大切な時間だ。王子として毎日勉強ばかりさせられる。そんな中唯一の癒しなんだ。
なのに、ジーーーーっと僕の顔を見つめる女の子。
初めて見る顔だ。他の子達は僕が話しかけられるのを嫌っているからそばに寄って来ない。
「ねえ?そんなにお菓子ばかり食べたら虫歯になるわよ?それに……体もぽっちゃりとなって体によくないと思うの」
女の子はこの場に不釣り合いなドレスを着ている。金がないのか?安っぽいドレスだな。
「僕が何を食べようと僕の勝手だ!僕が誰だか知ってるのか?」
「うん、ぽっちゃり王子!うん?ちがう……すぐに怒り出すから、ぽっちゃりイライラ王子だってあそこの子達が教えてくれたわ」
指を指して教えてくれた方を向くと、いつも僕の機嫌取りをする男の子と女の子が慌てて目を逸らした。
ーーこいつら!普段ヘラヘラ笑って媚び売ってくるくせに!
「ふうん、あいつらがそんなこと言ったんだ?」
「アイツらではないわ。貴方のお友達よ?貴方のことを悪く言ったんではなく真実を言ったのよ!」
「はあ?真実?」
それが悪口って言うんだ!この子馬鹿なのか?
「そうよ、だって貴方王子様なのにちょっと?かなり?ぽっちゃりしているもの。太っていることが悪いわけではないわ、でもそんなにお菓子ばかり食べていたら体に悪いと思うの。みんな心配しているわ、それにイライラしてばかりいたら心も病気になっちゃう!
ねっ?だから一緒にかけっこして遊ぼうよ」
「かけっこ?僕が?」
「えっ?わたしよりもしかして足が遅いの?わたし8歳だよ?王子様は9歳だったよね?」
「遅くないし!お前になんか負けない!」
僕は必死で走った。くそっ。一つ年下の……この子名前なんだったかな?
ーー負けた。
「ハアハア………おい!名前は?」
「わたし?わたしの名前はリアナ・パシエル。最近お母さんが死んでお父さんがわたしを引き取ってくれたの、王子様はいいね?優しいお父さんとお母さんがいるんだもの。でもちゃんと他の物も食べないと体によくないよ?」
「お前、なんでそんなことばかり言うんだ?」
「お母さん、看護師さんだったの。それで王子様みたいに……えっとぉ、偏食?の子に体によくないよ!って言ってたの。イライラして怒ってばかりのお爺さんにも心が病気になっちゃうって言ってたわ。だけどお母さんの方が働きすぎて病気になっちゃったの」
「僕……お爺さんと一緒?」
ちょっとショックだった。だけどリアナが寂しそうに母親のことを話すからもう怒れなくて……
「リアナ、また会える?」
「わからない、お父さん…あっ、お父様がお許しにならないと外には出られないの。お義母様は……ううん、また会えたらいいな。王子様は絵本のとおり優しくてちょっとぽっちゃりだけどかっこいいもの」
「ぽっちゃりは余計だ!次会った時はかけっこ僕が勝つからな!」
「うん!次会えたら今度は手加減はしないわ」
「えっ?手加減してたのか?」
「だって……頑張って走ってたから」
リアナの可愛い笑顔が忘れられなかった。
それからリアナと会うことはなかった。
お茶会に来ることもない。父上に聞いたら、リアナはパシエル伯爵が外で産ませた庶子だった。母親が亡くなり仕方なく引き取ったらしい。
この前のお茶会は、伯爵家以上の貴族の子供達を集めたお茶会で絶対参加だったからリアナもいたらしい。
リアナのことが気になって何度となく調べてもらった。
だけど屋敷の中のことはあまりわからないと言われ会えなかった。
12歳になり王立学園に入学した。次の年、リアナが僕の前に現れた。
初めて会った時とは全く違う、痩せ細って暗い顔をして。
ビクビクして下を向いていた。
僕が話しかけようとすると「申し訳ありません」と小さな声で震えていた。
僕に笑いながら堂々と話しかけたあの頃の姿はもうどこにもなかった。学校でも大人しく控えめで目立たない子らしい。
側近候補のビクターがリアナが虐められていると教えてくれた。そっと教室を覗くと
「やだぁ!汚い。それもう捨ててちょうだい!」
リアナが落とし物を拾うと、女の子が汚いものでも見るかのように見下してリアナに酷い言葉を投げつけていた。
「くそっ、アイツ何我慢してるんだ!」
僕は腹が立った。リアナは汚くなんてない。優しくて明るくて笑うと可愛い。……多分、今はわからないけど。
教室の中に入って文句を言おうとしたらビクターが「ダメです、殿下は口出し、してはいけません」と制止した。
「だけどリアナが!」
「僕が行きます」ビクターは教室の中に入るとリアナの前に立った。
「君がリアナ・パイエル嬢?この学年で一番成績がいいと聞いた。ぜひ中等部の生徒会に入ってくれないか?」
うちの学園は新入生の中から真面目で成績優秀な子を生徒会役員自らが選び、声をかける。
「えっ?リアナさんが生徒会に?」
「すごい!」
生徒達がさっきまでリアナのことを哀れんで避けていたはずなのに突然羨望の眼差しに変わった。
「……わたしが?」
リアナはとても戸惑っていた。
ーー僕が……声をかけたい。
だけど王太子の立場で声をかければまたリアナが虐められるかもしれない。それなら生徒会役員の一人であるビクターが声をかけた方がリアナにとってもいいだろう。
リアナが生徒会に入るなら今度から会える。
僕は生徒会長だから。でも人選はビクターの仕事だったのでリアナをスカウトすることは知らなかった。
さすがリアナ。成績も良かったんだ。何故か僕は誇らしかった。そしてリアナに酷い言葉を吐いたあの令嬢の名前はきっちり調べて『絶対許さないリスト』に名前を書き加えた。
僕が大人になって権力を持ったら絶対リアナにしたことを仕返ししてやる!
あ、そう言えばリアナに初めて会ったお茶会の時僕の悪口を言った奴らもしっかりリストに名前を書いている。
リアナはやはりビクビクして生徒会室に入ってきた。
久しぶりに会ったのに、なんだその態度は……僕の方を全く見ようともしない。
「し、失礼します」
「よくきたね?」ビクターは優しい笑顔で出迎えた。
僕はじっとリアナを見た。
僕のことを忘れた?それはないよね?僕王子様だし。
なのに僕の顔を見ようとしない。
なんで?
僕からは話しかけない。本当は優しく話しかけたい。だけど他の生徒会の子達にリアナを贔屓していると思われたらリアナがまた虐められるかもしれない。
僕が話しかけなくてもビクターのおかげでみんながリアナに話しかけた。
リアナはあまりおしゃべりはしない。だけど頼まれた仕事は丁寧なのに早い。とても優秀だ。
だからみんながリアナに好感を持ってくれた。
ふと彼女の服の袖の隙間から青いものが見えた。黙ってじっと見つめる。
次の日もやはり微かに見える。女の子の手を無理やり見るなんてできない。
だけど気になる。
「ビクター、リアナの腕、気がついているか?」
「殿下も気づかれていましたか?」
「あれはやはり……青痣?」
「はい、学園でリアナ嬢に怪我を負わせている者はいません。彼女の場合実家でどんな風に過ごしているのか調べてもわからないのです。伯爵家の使用人はとても口が堅いようです……」
「ふうん、使用人なんて金さえ握らせればいくらでも話してしまうものじゃないの?」
「あそこは……使用人も主人にかなり脅されているようです。リアナ嬢のことを調べようとすると硬く口を閉ざして真っ青な顔をして震えてしまうらしいです」
「リアナはあそこでどんな暮らしをしているんだ?辞めた使用人は?」
「今そちらの方の調査を始めているところです」
「わかった……」
リアナのあの表情を見れば想像はつく。伯爵家でかなり辛い暮らしを送ってきているんだろう。それでもかなり成績はいい。元々頭のいい子なんだと思う。
明るくて可愛くて……僕に初めて対等で話しかけてきた少女。
ずっとまた会いたかったのに。
生徒会の仕事に慣れた頃、僕はリアナに話しかけた。
「リアナ、この書類の計算手伝ってくれないか?」
「あっ、はい、わかりました」
リアナは席を立ち急いで僕から書類を受け取った。僕と目を合わせようとしない。他の子達とはずいぶん打ち解けて笑って話をするのに。
ーーちょっとムカつく。
「リアナ、そんなに痩せていたら病気になるぞ。イライラしなくてもビクビクしていたら心の病気になるとは思わないのか?」
僕の言葉にハッとして僕を見た。
「覚えて……る……の……?」
「忘れるわけないだろう?あんな生意気なことを言ったくせに!僕にあんな言葉を吐いたのはいまだに君だけだよ」
「申し訳ありません……あの頃はまだ不敬とか相手を敬うことを知らなくて……絵本の王子様と同じ感覚で接してしまいました……」
「何言ってるんだ。君の言葉のおかげで痩せようと思えたし、食事もきちんと考えて食べるようになった。そのおかげでしっかり眠ることもできるし、体の体調がいいからイライラしなくて人に八つ当たりしなくなった。
今度ぜひうちに遊びにきて欲しい」
「うちって………」
「うん?僕の住む宮でもいいし、あ、でも、母上がリアナにぜひ一度お礼を言いたいと言ってるから母上に会って欲しい」
「無理!絶対無理!そんなことしたら今度はわたし蹴られるだけじゃなくてどんな目に遭わされるか……」
言いかけてハッとした顔をした。
聞き捨てならない言葉を聞いてしまった。
「うん、今から行こう。母上に会いに、そうしよう。ぜひそうしてくれ」
ビクターに顔を向けるとコクンと頷いた。
僕はリアナの手をギュッと握った。
「大丈夫、怖くない。守ってあげるのが遅くなってごめん。今日から何があっても僕が守るからね?」
「守る……?殿下がどうして?ほとんどわたしのことなんて知らないのに………」
「確かにリアナがこんな辛い思いを過ごしていたなんて知らなかった……だけどずっともう一度君に会いたいと思っていたんだ。次はかけっこ必ず勝つんだと誓ったからね?覚えてる?」
「はい……殿下の足はとても遅かったです」
「ぶっ!!そんなことは覚えていなくていい!今は絶対リアナには負けないよ?」
「ふふっ、わたしこれでもまだ足は速い方なんですよ?」
「僕の体型を見ればわかるだろう?しっかり痩せて運動もして鍛えてきたんだ!負けるわけがない!」
ーーああ、あの時みたいだ。
話していて楽しい。この時間がずっと続いて欲しいと思う。
リアナと出会ったあの日、今までイライラしながら必死で王太子になるための勉強を詰め込んで、余裕がなくなって、お菓子を食べることで逃げてた自分を変えようとおもった。
リアナに次会った時に「かわったわね?」と言って欲しくて。リアナとまた楽しい時間を過ごしたくて。
なのにリアナに会えなくて。だけど絶対イライラしない。この学園に入学さえすれば会えるんだとずっと待っていたんだ。
まさか……こんな辛い目に遭っていたなんて……僕は夢にも思わなかった。
王宮に連れて帰り母上に言った。
「リアナはもう伯爵家には帰しません。僕がもらいます」
「あなたは……リアナさんは物ではないのよ?」
「しかし、母上、医者に診せてください。帰せなくなりますから!」
「確かに顔色が悪いし痩せているわね」
母上も了承して医者に診てもらうことになった。
僕もついて行こうとしたら「女性の診察に男がついてくるなどあってはなりません!」と医者に怒られた。
子供の頃から僕の主治医でもある先生は、リアナに会ってみたかった一人だ。
偏食でお菓子ばかり食べてイライラして人に八つ当たりをする子供だった。そんな僕が変わるきっかけを作ったリアナにとても興味があったらしい。
リアナの名前を聞いて先生は『しっかり診察をするから心配無用だ』と言って僕を近づけてくれない。
そして……診察の結果……
「入院させましょう」と言われた。
子供達が集まるお茶会で、僕は椅子に座りお菓子を食べていた。
目の前にはショートケーキにチョコレートがたっぷり使われたガトーショコラ、大好きな桃のタルトにアイスクリーム。
お茶会は僕にとって大切な時間だ。王子として毎日勉強ばかりさせられる。そんな中唯一の癒しなんだ。
なのに、ジーーーーっと僕の顔を見つめる女の子。
初めて見る顔だ。他の子達は僕が話しかけられるのを嫌っているからそばに寄って来ない。
「ねえ?そんなにお菓子ばかり食べたら虫歯になるわよ?それに……体もぽっちゃりとなって体によくないと思うの」
女の子はこの場に不釣り合いなドレスを着ている。金がないのか?安っぽいドレスだな。
「僕が何を食べようと僕の勝手だ!僕が誰だか知ってるのか?」
「うん、ぽっちゃり王子!うん?ちがう……すぐに怒り出すから、ぽっちゃりイライラ王子だってあそこの子達が教えてくれたわ」
指を指して教えてくれた方を向くと、いつも僕の機嫌取りをする男の子と女の子が慌てて目を逸らした。
ーーこいつら!普段ヘラヘラ笑って媚び売ってくるくせに!
「ふうん、あいつらがそんなこと言ったんだ?」
「アイツらではないわ。貴方のお友達よ?貴方のことを悪く言ったんではなく真実を言ったのよ!」
「はあ?真実?」
それが悪口って言うんだ!この子馬鹿なのか?
「そうよ、だって貴方王子様なのにちょっと?かなり?ぽっちゃりしているもの。太っていることが悪いわけではないわ、でもそんなにお菓子ばかり食べていたら体に悪いと思うの。みんな心配しているわ、それにイライラしてばかりいたら心も病気になっちゃう!
ねっ?だから一緒にかけっこして遊ぼうよ」
「かけっこ?僕が?」
「えっ?わたしよりもしかして足が遅いの?わたし8歳だよ?王子様は9歳だったよね?」
「遅くないし!お前になんか負けない!」
僕は必死で走った。くそっ。一つ年下の……この子名前なんだったかな?
ーー負けた。
「ハアハア………おい!名前は?」
「わたし?わたしの名前はリアナ・パシエル。最近お母さんが死んでお父さんがわたしを引き取ってくれたの、王子様はいいね?優しいお父さんとお母さんがいるんだもの。でもちゃんと他の物も食べないと体によくないよ?」
「お前、なんでそんなことばかり言うんだ?」
「お母さん、看護師さんだったの。それで王子様みたいに……えっとぉ、偏食?の子に体によくないよ!って言ってたの。イライラして怒ってばかりのお爺さんにも心が病気になっちゃうって言ってたわ。だけどお母さんの方が働きすぎて病気になっちゃったの」
「僕……お爺さんと一緒?」
ちょっとショックだった。だけどリアナが寂しそうに母親のことを話すからもう怒れなくて……
「リアナ、また会える?」
「わからない、お父さん…あっ、お父様がお許しにならないと外には出られないの。お義母様は……ううん、また会えたらいいな。王子様は絵本のとおり優しくてちょっとぽっちゃりだけどかっこいいもの」
「ぽっちゃりは余計だ!次会った時はかけっこ僕が勝つからな!」
「うん!次会えたら今度は手加減はしないわ」
「えっ?手加減してたのか?」
「だって……頑張って走ってたから」
リアナの可愛い笑顔が忘れられなかった。
それからリアナと会うことはなかった。
お茶会に来ることもない。父上に聞いたら、リアナはパシエル伯爵が外で産ませた庶子だった。母親が亡くなり仕方なく引き取ったらしい。
この前のお茶会は、伯爵家以上の貴族の子供達を集めたお茶会で絶対参加だったからリアナもいたらしい。
リアナのことが気になって何度となく調べてもらった。
だけど屋敷の中のことはあまりわからないと言われ会えなかった。
12歳になり王立学園に入学した。次の年、リアナが僕の前に現れた。
初めて会った時とは全く違う、痩せ細って暗い顔をして。
ビクビクして下を向いていた。
僕が話しかけようとすると「申し訳ありません」と小さな声で震えていた。
僕に笑いながら堂々と話しかけたあの頃の姿はもうどこにもなかった。学校でも大人しく控えめで目立たない子らしい。
側近候補のビクターがリアナが虐められていると教えてくれた。そっと教室を覗くと
「やだぁ!汚い。それもう捨ててちょうだい!」
リアナが落とし物を拾うと、女の子が汚いものでも見るかのように見下してリアナに酷い言葉を投げつけていた。
「くそっ、アイツ何我慢してるんだ!」
僕は腹が立った。リアナは汚くなんてない。優しくて明るくて笑うと可愛い。……多分、今はわからないけど。
教室の中に入って文句を言おうとしたらビクターが「ダメです、殿下は口出し、してはいけません」と制止した。
「だけどリアナが!」
「僕が行きます」ビクターは教室の中に入るとリアナの前に立った。
「君がリアナ・パイエル嬢?この学年で一番成績がいいと聞いた。ぜひ中等部の生徒会に入ってくれないか?」
うちの学園は新入生の中から真面目で成績優秀な子を生徒会役員自らが選び、声をかける。
「えっ?リアナさんが生徒会に?」
「すごい!」
生徒達がさっきまでリアナのことを哀れんで避けていたはずなのに突然羨望の眼差しに変わった。
「……わたしが?」
リアナはとても戸惑っていた。
ーー僕が……声をかけたい。
だけど王太子の立場で声をかければまたリアナが虐められるかもしれない。それなら生徒会役員の一人であるビクターが声をかけた方がリアナにとってもいいだろう。
リアナが生徒会に入るなら今度から会える。
僕は生徒会長だから。でも人選はビクターの仕事だったのでリアナをスカウトすることは知らなかった。
さすがリアナ。成績も良かったんだ。何故か僕は誇らしかった。そしてリアナに酷い言葉を吐いたあの令嬢の名前はきっちり調べて『絶対許さないリスト』に名前を書き加えた。
僕が大人になって権力を持ったら絶対リアナにしたことを仕返ししてやる!
あ、そう言えばリアナに初めて会ったお茶会の時僕の悪口を言った奴らもしっかりリストに名前を書いている。
リアナはやはりビクビクして生徒会室に入ってきた。
久しぶりに会ったのに、なんだその態度は……僕の方を全く見ようともしない。
「し、失礼します」
「よくきたね?」ビクターは優しい笑顔で出迎えた。
僕はじっとリアナを見た。
僕のことを忘れた?それはないよね?僕王子様だし。
なのに僕の顔を見ようとしない。
なんで?
僕からは話しかけない。本当は優しく話しかけたい。だけど他の生徒会の子達にリアナを贔屓していると思われたらリアナがまた虐められるかもしれない。
僕が話しかけなくてもビクターのおかげでみんながリアナに話しかけた。
リアナはあまりおしゃべりはしない。だけど頼まれた仕事は丁寧なのに早い。とても優秀だ。
だからみんながリアナに好感を持ってくれた。
ふと彼女の服の袖の隙間から青いものが見えた。黙ってじっと見つめる。
次の日もやはり微かに見える。女の子の手を無理やり見るなんてできない。
だけど気になる。
「ビクター、リアナの腕、気がついているか?」
「殿下も気づかれていましたか?」
「あれはやはり……青痣?」
「はい、学園でリアナ嬢に怪我を負わせている者はいません。彼女の場合実家でどんな風に過ごしているのか調べてもわからないのです。伯爵家の使用人はとても口が堅いようです……」
「ふうん、使用人なんて金さえ握らせればいくらでも話してしまうものじゃないの?」
「あそこは……使用人も主人にかなり脅されているようです。リアナ嬢のことを調べようとすると硬く口を閉ざして真っ青な顔をして震えてしまうらしいです」
「リアナはあそこでどんな暮らしをしているんだ?辞めた使用人は?」
「今そちらの方の調査を始めているところです」
「わかった……」
リアナのあの表情を見れば想像はつく。伯爵家でかなり辛い暮らしを送ってきているんだろう。それでもかなり成績はいい。元々頭のいい子なんだと思う。
明るくて可愛くて……僕に初めて対等で話しかけてきた少女。
ずっとまた会いたかったのに。
生徒会の仕事に慣れた頃、僕はリアナに話しかけた。
「リアナ、この書類の計算手伝ってくれないか?」
「あっ、はい、わかりました」
リアナは席を立ち急いで僕から書類を受け取った。僕と目を合わせようとしない。他の子達とはずいぶん打ち解けて笑って話をするのに。
ーーちょっとムカつく。
「リアナ、そんなに痩せていたら病気になるぞ。イライラしなくてもビクビクしていたら心の病気になるとは思わないのか?」
僕の言葉にハッとして僕を見た。
「覚えて……る……の……?」
「忘れるわけないだろう?あんな生意気なことを言ったくせに!僕にあんな言葉を吐いたのはいまだに君だけだよ」
「申し訳ありません……あの頃はまだ不敬とか相手を敬うことを知らなくて……絵本の王子様と同じ感覚で接してしまいました……」
「何言ってるんだ。君の言葉のおかげで痩せようと思えたし、食事もきちんと考えて食べるようになった。そのおかげでしっかり眠ることもできるし、体の体調がいいからイライラしなくて人に八つ当たりしなくなった。
今度ぜひうちに遊びにきて欲しい」
「うちって………」
「うん?僕の住む宮でもいいし、あ、でも、母上がリアナにぜひ一度お礼を言いたいと言ってるから母上に会って欲しい」
「無理!絶対無理!そんなことしたら今度はわたし蹴られるだけじゃなくてどんな目に遭わされるか……」
言いかけてハッとした顔をした。
聞き捨てならない言葉を聞いてしまった。
「うん、今から行こう。母上に会いに、そうしよう。ぜひそうしてくれ」
ビクターに顔を向けるとコクンと頷いた。
僕はリアナの手をギュッと握った。
「大丈夫、怖くない。守ってあげるのが遅くなってごめん。今日から何があっても僕が守るからね?」
「守る……?殿下がどうして?ほとんどわたしのことなんて知らないのに………」
「確かにリアナがこんな辛い思いを過ごしていたなんて知らなかった……だけどずっともう一度君に会いたいと思っていたんだ。次はかけっこ必ず勝つんだと誓ったからね?覚えてる?」
「はい……殿下の足はとても遅かったです」
「ぶっ!!そんなことは覚えていなくていい!今は絶対リアナには負けないよ?」
「ふふっ、わたしこれでもまだ足は速い方なんですよ?」
「僕の体型を見ればわかるだろう?しっかり痩せて運動もして鍛えてきたんだ!負けるわけがない!」
ーーああ、あの時みたいだ。
話していて楽しい。この時間がずっと続いて欲しいと思う。
リアナと出会ったあの日、今までイライラしながら必死で王太子になるための勉強を詰め込んで、余裕がなくなって、お菓子を食べることで逃げてた自分を変えようとおもった。
リアナに次会った時に「かわったわね?」と言って欲しくて。リアナとまた楽しい時間を過ごしたくて。
なのにリアナに会えなくて。だけど絶対イライラしない。この学園に入学さえすれば会えるんだとずっと待っていたんだ。
まさか……こんな辛い目に遭っていたなんて……僕は夢にも思わなかった。
王宮に連れて帰り母上に言った。
「リアナはもう伯爵家には帰しません。僕がもらいます」
「あなたは……リアナさんは物ではないのよ?」
「しかし、母上、医者に診せてください。帰せなくなりますから!」
「確かに顔色が悪いし痩せているわね」
母上も了承して医者に診てもらうことになった。
僕もついて行こうとしたら「女性の診察に男がついてくるなどあってはなりません!」と医者に怒られた。
子供の頃から僕の主治医でもある先生は、リアナに会ってみたかった一人だ。
偏食でお菓子ばかり食べてイライラして人に八つ当たりをする子供だった。そんな僕が変わるきっかけを作ったリアナにとても興味があったらしい。
リアナの名前を聞いて先生は『しっかり診察をするから心配無用だ』と言って僕を近づけてくれない。
そして……診察の結果……
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