短編。

たろ

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短編

太っちょ殿下の恋。  後編

「入院?」
 僕は先生の首を絞めていた。

「く、く…る……」

「ああ、すまない」思わず先生の胸倉を掴んで持ち上げていたらしい。

「ゲホッゲホッ……殺す気ですか?」

「すまない、つい……リアナはそんなに悪いのか?」

「栄養失調と身体中が痣ができていて傷もあります。あれはかなり酷い虐待を受けています。なので診断の結果は、自宅に帰せないほどの重病ですね、重病、親が文句を言ってこない重病……何がいいかな……うん、転んで足の骨折にしましょう」

「どこが重病だ!」

「へんに大病にして仕舞えば後でややこしくなります。骨折なら入院は仕方ないと思ってもらえるし、虐待していたことも向こうはバレていないと思うでしょう。傷や痣は見えないところだけですからリアナが人に見せることはしないと思っているでしょう。リアナはあの親たちからかなり洗脳されているようです。叩かれたりするのは全て自分が悪いと。
 足の骨折ならひと月は王宮でゆっくりできます。その間に殿下が頑張って毒親をなんとかしてやってください」

 ーー毒親……殺すか?地下牢に一生入れておくか。いや、リアナがされたことを倍にして返してやるのもいいかもしれない。

「わかった、母上に伯爵家を処分する許可をもらう。今ちょうどリアナがどんな事をされてきたか調べてもらっている。そんな毒親なら叩けば何か出てくるだろう」

「殿下、とてもお顔が怖くなっておりますが……その若さで人殺しはダメですよ」

「処分に処刑は必須だろう?」

「……それはどんな罪を犯したかによると思われますが」

「僕のリアナに虐待したことだけで十分処刑される案件だ」



 リアナに会いに診察室に向かった。

「殿下……」

 俯いたまま僕の顔を見ようとしない。

 自分が今まで何をされてきたかみんなにバレてしまい戸惑いを隠せないようだ。

「リアナ……すまない、君がどんな目に遭っていたか……もっと早く助けられたのに」

「違います、わたしは、お父様に迷惑をかけていたから……悪い事をすれば罰を受ける、当たり前のことだったんです」

「リアナは何をしたんだ?」

「…………生まれて…まだ……生きてる…から…」

「そんなこと、どこが罪なんだ!罰を受けることなんじゃない!親なんだから育てるのは当たり前だ!ふざけるな!絶対許さない!」

「殿下、大きい声を出さないでください。リアナが怖がっていますよ」
 先生が僕の肩を掴んだ。

「離せ!」
 僕の声にリアナが突然椅子から落ちてガタガタと震え出した。

「ご、ごめんなさい。生きててごめんなさい。生まれてきてごめんなさい。すぐに物置に行きますので叩かないでください」
 頭を床につけて震えながら訴えた。

 先生はその姿を見て僕に言った。

「とりあえず落ち着いて。これから調べるたびに怒っては冷静に裁くことができませんよ。リアナを助けたいんでしょう?」

 僕がリアナのそばに行こうとしたら先生は首を横に振り、行くなと言う。

 リアナは今僕の言葉に怖がり誰の声も聞こえていない。ただひたすら謝り続けていた。

「ぐっ………わかったよ。リアナはこれから僕の宮で暮らすことにするよ」

「ダメです。いくら子供だと言っても13歳と12歳ですから。リアナは私が面倒をみます」

 先生は僕ではダメだとはっきり言われた。




 母上に報告に行くと、
「あら?わたくしがリアナの面倒はみるわ。心配しないで」と、とても怖い顔で微笑んだ。

 ーー母上のところなら伯爵が何を言ってきても追い返すことが出来る。

 だけどやっと落ち着いたリアナは顔が引き攣っていた。

「母上ならきっとリアナのために動いてくれるよ」

「で、でも………わたし……帰ったらすることがたくさん残ってるし………カインも待ってるし、お父様とお義母様に叱られてしまう」

「カイン?誰?待ってるって……婚約者とか?」

「………わたしの大切な………「大切って!誰?」

「ヴァンズ、お黙りなさい。まずは人の話を聞くの!」
 母上が僕の頭の上で冷静な声で言った。
 ーーその声がヤバいくらい怖かった。

「はい」

「カインはわたしの飼ってる猫なの……お父様たちには内緒で飼ってるから、もし見つかったら何をされるかわからないの、だからここには居られないわ」

「猫?なんだ猫か」

「なんだ猫か、じゃないわ。わたしの大切な家族なの」

「わかった……カインは連れてくるようにする。だからリアナはしばらくここに居て」

「そうね、リアナはヴィンズの恩人だからわたくしも出来るだけのことはするつもりよ。それに生まれたことが罪なんて言う親が伯爵をしているなんて、絶対許さないわ、どうせ叩けばたくさんの埃が出るだろうから徹底して潰してあげましょう、ね?ヴィンズ?」

「任せてください!」

「あ、あの、でも、お父様は悪くないんです。生きてるわたしがお父様に迷惑をかけてるの。悪いのはわたしなの」

「リアナ、あなたが生まれてきて今生きていることは素晴らしいことなの。
 いい?あなたはとても賢い優しい子なの。あなたのおかげでヴィンズは少しだけ人に優しくなれたし、我儘だったのに我慢強い子になれたの。あなたのおかげなの、あなたがいてくれたから、感謝しているのよ。あなたはこの世の中に必要な子なのよ?」

「………わたしが、必要?」

「当たり前だ!僕はもう一度会ったら今度こそ駆けっこで勝つと決めてたんだ。また一緒におしゃべりしてお菓子を食べていっぱい話すつもりだったのに。生徒会では僕と目を合わせようとしないし、もう僕のこと忘れたのかと思ったよ」

「ごめんなさい……忘れてはいないの。でも殿下と仲良くしたあと、お父様に叱られたの。外に出してもらえなくなって……わたしは悪い子なんだって……言われたから……」

「ったく、そんなの洗脳じゃん!」

「ヴィンズ、もう少し落ち着いて話をしなさい。リアナがさっきからビクビクしているわ」

「ごめんリアナ。だってあんなに明るくて可愛かったリアナが暗くて地味になっていつもビクビクしてるんだ。驚くだろう?でも、頭の良さはいまだに変わってないし、優しい性格もそのままだったから安心したよ」

 僕の初恋のリアナ。ずっと会いたかった。

 父上にも母上にも婚約者はいらないと言い続けた。たとえ反対されてもリアナと結婚するんだ。そのためにずっと勉強も剣術も社交も頑張ってきたんだ。

 優秀な王太子と言われるまでになったのも全てリアナのため。リアナがいなければ今頃僕は本当に死んでいたかもしれない。

 お菓子の食べ過ぎと糖分の摂りすぎで僕は糖質依存症になっていた。
 甘い物を大量にとり続けることにより体重が増加し、気持ちが不安定になり、不眠を誘発していたんだ。そして肥満症になり脂質異常症を引き起こしていた。

 先生に何回もお菓子はやめるように言われたけど止めることはできなかった。

 リアナの言葉がなければ僕はそのまま症状を悪化させていたと思う。
 だから母上もリアナに感謝していて守ろうとしてくれる。
 もちろん悪である伯爵はリアナのことは関係なくても処分するつもりだ。どうすれば一番辛いだろう。流石に処刑は難しそうだ。

 騎士達全員に一人一回鞭を打たせるのはどうかな?我が国の騎士はこの王都だけでも軽く千人はいる。

 それとも、すべての財産を取り上げて王都には二度と入れないようにして平民にして追い出す?

 あ、島流しも楽しそう。

 リアナの父親は一度だけ王城にやってきてリアナを返せと門で大騒ぎしたらしい。

 だけど誰も相手にしなかった。

「覚えてろよ!」

 下手な捨て台詞を吐いて去って行ったと聞いた。

 リアナには内緒だけど、パシエル伯爵家の名は我が国から消えた。

 叩けば叩くほどよく罪が
 出てきた。
 脱税に横領、国の許可なしで娼館まで作っていた。さらに子供を売春させていた。
 リアナは可愛くて頭が良かったから、どこかの令息に嫁がせるためにそれだけはさせなかったらしい。

 糞だ!こいつら!

 王子の僕がそんなセリフをはいてはダメなのはわかってる。だけど、こんなクズ生かしておくのは絶対ダメだ。

 国を追い出したら、今度は他所の国で悪いことをし始めるだろう。

 だから決めたんだ。

 王城内にある地下牢に住まわせると。

 僕って優しいだろう?

 地下牢には犯罪者のための働く場所がある。
 ここは死刑を免れた犯罪者が来るところ。

 大きな車輪をただ持って歩き続けるだけの簡単な仕事。男でも女でも誰でもできる。


 朝8時に起きて夜の8時までひたすら円を描くように車輪の持ち手を持って歩き続けるんだ。
 夜番ももちろんある。

 休憩?そんなのないよ。だって歩くだけだから。
 食事?一日2回。パンと水。だって歩くだけだから。

 部屋?そんなのないよ。床に寝るだけだよ。

 そこで女が犯されようと殺人があろうと誰も気にもしない。そこは囚人が死ぬまで働く場所だから。

 王城に大切な灯りを灯すために昼と夜を交代しながら永遠に歩き続けるんだ。

 それが罪を犯した人の罰。


 あれから5年が過ぎた。


 僕とリアナは婚約した。
 ビクターは公爵家の嫡男でリアナは養女として引き取られたんだ。リアナはビクターの義妹になって二人は一緒の屋敷で暮らし始めた。

 僕の婚約者になるためとは言えビクターと暮らすなんて、ちょっと……ううん、かなり……ムカつく。だけど僕の複雑な気持ちなんて気にもされない。
 ビクターの両親は娘ができたと喜んでくれて可愛がってくれた。

 リアナは以前の明るさを取り戻した。僕の大好きなリアナ。今は僕と一緒に政務もこなしてくれる。

 早く結婚して一緒に暮らしたいのに、公爵家の義両親が駄々をこねて首を縦に振ってくれない。

 母上も「ヴィンズはねちっこそうだから」とか父上も「リアナが可哀想だからもう少し結婚は先でいいんじゃないか」と賛成してくれない。

 二人とももう僕がリアナを朝まで離さないことは知っているくせに!

 今更だよ。

「ヴィンズ、わたし、明日学校があるの!もう絶対あなたの部屋には泊まらないから!」
 と顔を真っ赤にして叫ぶリアナ。

 そんなリアナが可愛くて気がつけば登校時間を無視していつもついリアナを抱き潰す。

 リアナが18歳になるまであと半年。籍だけはさっさと入れて結婚式だけ後で挙げればいい。

 だけどリアナのウエディングドレスは綺麗なんだろうな……ドレスを着たリアナを犯したい。

 僕の顔にでていたのだろう。

「ヴィンズ、わたしドレスを着たままエッチはしないから!」

「えっ?なんで僕が考えていたことわかるの?」

「うわっ、最低」
 ビクターが義兄らしく可愛い妹を守ろうとリアナを引き寄せた。

「リアナは僕のものだから触るな!」

 ーーリアナを他人が触れるのはどうしても嫌だった。


「減るものじゃないだろう?それにリアナは妹だし?」

「だけどリアナは僕だけのものだから……」

 僕はリアナが好き過ぎるらしい。ビクターはいつも呆れた顔をしている。

 だけどそんなこと関係ない。

「リアナの親は許せないけど、リアナを産んでくれたことだけは感謝してる。リアナ……生まれてくれて生きてくれてありがとう……君だけを愛し続けるからね」

「わたしもヴィンズのこと大好きだよ?」

「なんで疑問形なんだ?」

「ふふふふっ、なんでかな?わたし、王子様に出会って王子様に助けられて王子様に愛されてとっても幸せ。大好きっていうより……愛しているわ」

「リアナ、やっぱり早く結婚しよう」

 



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