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短編
愛していないから大丈夫です 中編
「お前は一体どこで遊んでいたんだ?」
わたしの顔を見てまず一言がそれ?
思わず「はあ」とため息が溢れた。
「なんだその態度は!」
「帰ってきてそうそう急いでここにきたのに、久しぶりの娘を見てその言葉こそ酷いとは思いませんか?侯爵様?」
わたしは両親には侯爵と夫人としか呼ばない。
だっていつだったか『お前のような可愛げのない娘は要らない、出ていけ!』と言われた。
もちろん10歳のわたしに出て行けるわけはなく、そこに固まったまま立っていると、引き摺られて馬小屋に入れられてその夜は一晩馬小屋の中で過ごすことになった。
反省して謝罪の一つでも言えば良かったのだろう。でも、怒られた理由がエルザより少しダンスが上手だったから。
家庭教師に二人でダンスを習っていて、わたしが先生に褒められたことが気に入らないエルザが泣いてお母様に訴えた。
「お姉様が意地悪く笑った」と。
いやいや笑ってないし、わたし出来るだけ下手くそにダンスを踊ったはずなのに?
先生だって、エルザがいる時はわたしがわざと下手くそに踊っているのをわかっていてもなにも仰らない。
お互いエルザの機嫌が悪くなればクソ面倒なことになるから。
なのにほんの少しわたしが上手に踊ったから気に入らない。
泣いて縋るエルザにお母様はわたしの頬を叩いた。
「お前は姉なのに妹ができないと言って馬鹿にするの?」と。
「わたしそんなことしていません」
まだあの頃はお母様の愛情が欲しかった。馬鹿なわたしは必死で言い訳をした。
「お母様、エルザのこと笑ったりしていません!」
「お母様!お姉さまは嘘つきです!いつもわたしのことを馬鹿にして笑うんです!わたしはいつも一生懸命に頑張っているのに!」
ぐすんっと涙を溜めるエルザ。うるうるとした瞳にお母様はエルザを抱きしめる。
「シャルル、しばらく部屋にいなさい!わたしがいいと言うまで外には出ないで!あなたの顔を見るとほんとうんざりするわ。わたしの可愛いエルザを悲しませて!ほんとお義父様そっくり、ああ、気持ち悪い子だわ」
吐き捨てられ汚い汚物でも見るかのようなお母様の目。
そして、数時間食事すら出してもらえず空腹の中部屋に閉じ込められていた。
そこに現れたお父様がいきなり言ったのは、『お前のような可愛げのない娘は要らない、出ていけ!』だった。
次の日の朝馬小屋から一応助け出された。
父親はわたしのことなど忘れて仕事をしていた。お母様とエルザは二人仲良く朝食中。
わたしを助けたのは馬丁のジムだった。
朝、馬の世話に来たジムがわたしを見つけてくれた。
干し草の上でぐったりと横たわるわたしを見つけ慌てて屋敷へと連れ帰ってくれた。
寒い夜に薄着のまま馬小屋で一晩過ごしたわたしはその後高熱を出して死にかけた。
本当に死にかけた。
でもあの人達は一度たりとも会いに来てくれなかった。一応、お医者様は呼んでくれたけど。そりゃ、薄着で馬小屋に放り出し、死んだとなったら醜聞どころではない。殺人事件だわ!
で、わたしは悟った。
こいつらはわたしを産んだだけの人だと。
それからは関わらない。愛を求めない。そう決めて淡々と過ごした。
たまにお祖父様が会いにきてくれる。その時だけはわたしを目一杯愛してくれる。
ーーわたしを連れ帰って。
何度口に出そうになったか。
でもこの屋敷にはわたしを大切にしてくれる使用人たちがいた。
彼らはわたしの父であり母であり、家族。だからどうしても離れがたかった。
親の愛をもらえなかった分、使用人たちからの愛情を捨てることはできなかった。離れる方が辛かった。
「なにを黙っているんだ?」
思い出していたせいか、お父様が色々言っているのを聞いていなかった。
返事もしないので怒っているみたい。
ま、わたしの顔を見て不機嫌じゃない時の方が少ないから、あまり気にもならない。
「侯爵様、わたしの顔を見るのもお嫌ならここに呼ぶのはおやめください。わたしは使用人部屋でいつものように食事を摂りますので、お気になさらず。では夫人、エルザ様失礼いたしますわ」
わたしは美しい姿勢でカーテシーをしてにこりと微笑んだ。
「お前は!」
真っ赤な顔になったお父様がわたしに向かって持っていたフォークを投げてきた。
ひょいっと避けて、「侯爵ともあろうお方が人を殺すつもりですか?」と美しい笑顔で嘲笑ってやった。
ほんと、当たってたら結構痛いと思わないのかしら?実の娘にフォークを投げる?それも思いっきり狙って!
わたしは廊下に出ると執事のマックに「ノートに書いといてね」と伝えた。
あの三人がしたことは全てノートに書いてもらっている。もちろんわたし自身も書いている。
いつか何かあったら全てを曝け出してやるつもり。
もちろん何事もなくこの家を出られればそのノートは捨てるつもりだけど。
わたしはさっき言った言葉通り、使用人部屋に行きみんなとワイワイ言いながら夕食をいただいた。
どんな豪華なご馳走より質素でもみんなと楽しく話しながら食べる料理の方が美味しいに決まってる。
料理長は渋い顔をして「おれの料理はどっちも美味いはずだ」といつもわたしに言ってる。
「もちろん、料理長が作る料理は美味しいに決まってる。だけど一緒に食べる相手で美味しいものも美味しく感じないの。ごめんなさい」
「シャルル様、いつか俺の自慢の料理を美味しいと思ってくれる日が来るのを待ってます」
そう言ってくれる料理長。お祖父様たちが来てくれる時はもちろん家族揃って食事をするのだけど、あの人たちもいるからやはり美味しいとは思えない。まるで砂を食べているようで食べ終わったらどうしても吐いてしまう。
それをわかってる料理長はお祖父様が帰った後はいつもリゾットとか野菜たつぶりのスープを作ってわたしの体調を考えた料理を出してくれる。
早くこの屋敷から出たい。
だけど、大好きなみんなと暮らすこの日々も捨てられない。
わたしの顔を見てまず一言がそれ?
思わず「はあ」とため息が溢れた。
「なんだその態度は!」
「帰ってきてそうそう急いでここにきたのに、久しぶりの娘を見てその言葉こそ酷いとは思いませんか?侯爵様?」
わたしは両親には侯爵と夫人としか呼ばない。
だっていつだったか『お前のような可愛げのない娘は要らない、出ていけ!』と言われた。
もちろん10歳のわたしに出て行けるわけはなく、そこに固まったまま立っていると、引き摺られて馬小屋に入れられてその夜は一晩馬小屋の中で過ごすことになった。
反省して謝罪の一つでも言えば良かったのだろう。でも、怒られた理由がエルザより少しダンスが上手だったから。
家庭教師に二人でダンスを習っていて、わたしが先生に褒められたことが気に入らないエルザが泣いてお母様に訴えた。
「お姉様が意地悪く笑った」と。
いやいや笑ってないし、わたし出来るだけ下手くそにダンスを踊ったはずなのに?
先生だって、エルザがいる時はわたしがわざと下手くそに踊っているのをわかっていてもなにも仰らない。
お互いエルザの機嫌が悪くなればクソ面倒なことになるから。
なのにほんの少しわたしが上手に踊ったから気に入らない。
泣いて縋るエルザにお母様はわたしの頬を叩いた。
「お前は姉なのに妹ができないと言って馬鹿にするの?」と。
「わたしそんなことしていません」
まだあの頃はお母様の愛情が欲しかった。馬鹿なわたしは必死で言い訳をした。
「お母様、エルザのこと笑ったりしていません!」
「お母様!お姉さまは嘘つきです!いつもわたしのことを馬鹿にして笑うんです!わたしはいつも一生懸命に頑張っているのに!」
ぐすんっと涙を溜めるエルザ。うるうるとした瞳にお母様はエルザを抱きしめる。
「シャルル、しばらく部屋にいなさい!わたしがいいと言うまで外には出ないで!あなたの顔を見るとほんとうんざりするわ。わたしの可愛いエルザを悲しませて!ほんとお義父様そっくり、ああ、気持ち悪い子だわ」
吐き捨てられ汚い汚物でも見るかのようなお母様の目。
そして、数時間食事すら出してもらえず空腹の中部屋に閉じ込められていた。
そこに現れたお父様がいきなり言ったのは、『お前のような可愛げのない娘は要らない、出ていけ!』だった。
次の日の朝馬小屋から一応助け出された。
父親はわたしのことなど忘れて仕事をしていた。お母様とエルザは二人仲良く朝食中。
わたしを助けたのは馬丁のジムだった。
朝、馬の世話に来たジムがわたしを見つけてくれた。
干し草の上でぐったりと横たわるわたしを見つけ慌てて屋敷へと連れ帰ってくれた。
寒い夜に薄着のまま馬小屋で一晩過ごしたわたしはその後高熱を出して死にかけた。
本当に死にかけた。
でもあの人達は一度たりとも会いに来てくれなかった。一応、お医者様は呼んでくれたけど。そりゃ、薄着で馬小屋に放り出し、死んだとなったら醜聞どころではない。殺人事件だわ!
で、わたしは悟った。
こいつらはわたしを産んだだけの人だと。
それからは関わらない。愛を求めない。そう決めて淡々と過ごした。
たまにお祖父様が会いにきてくれる。その時だけはわたしを目一杯愛してくれる。
ーーわたしを連れ帰って。
何度口に出そうになったか。
でもこの屋敷にはわたしを大切にしてくれる使用人たちがいた。
彼らはわたしの父であり母であり、家族。だからどうしても離れがたかった。
親の愛をもらえなかった分、使用人たちからの愛情を捨てることはできなかった。離れる方が辛かった。
「なにを黙っているんだ?」
思い出していたせいか、お父様が色々言っているのを聞いていなかった。
返事もしないので怒っているみたい。
ま、わたしの顔を見て不機嫌じゃない時の方が少ないから、あまり気にもならない。
「侯爵様、わたしの顔を見るのもお嫌ならここに呼ぶのはおやめください。わたしは使用人部屋でいつものように食事を摂りますので、お気になさらず。では夫人、エルザ様失礼いたしますわ」
わたしは美しい姿勢でカーテシーをしてにこりと微笑んだ。
「お前は!」
真っ赤な顔になったお父様がわたしに向かって持っていたフォークを投げてきた。
ひょいっと避けて、「侯爵ともあろうお方が人を殺すつもりですか?」と美しい笑顔で嘲笑ってやった。
ほんと、当たってたら結構痛いと思わないのかしら?実の娘にフォークを投げる?それも思いっきり狙って!
わたしは廊下に出ると執事のマックに「ノートに書いといてね」と伝えた。
あの三人がしたことは全てノートに書いてもらっている。もちろんわたし自身も書いている。
いつか何かあったら全てを曝け出してやるつもり。
もちろん何事もなくこの家を出られればそのノートは捨てるつもりだけど。
わたしはさっき言った言葉通り、使用人部屋に行きみんなとワイワイ言いながら夕食をいただいた。
どんな豪華なご馳走より質素でもみんなと楽しく話しながら食べる料理の方が美味しいに決まってる。
料理長は渋い顔をして「おれの料理はどっちも美味いはずだ」といつもわたしに言ってる。
「もちろん、料理長が作る料理は美味しいに決まってる。だけど一緒に食べる相手で美味しいものも美味しく感じないの。ごめんなさい」
「シャルル様、いつか俺の自慢の料理を美味しいと思ってくれる日が来るのを待ってます」
そう言ってくれる料理長。お祖父様たちが来てくれる時はもちろん家族揃って食事をするのだけど、あの人たちもいるからやはり美味しいとは思えない。まるで砂を食べているようで食べ終わったらどうしても吐いてしまう。
それをわかってる料理長はお祖父様が帰った後はいつもリゾットとか野菜たつぶりのスープを作ってわたしの体調を考えた料理を出してくれる。
早くこの屋敷から出たい。
だけど、大好きなみんなと暮らすこの日々も捨てられない。
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