短編。

たろ

文字の大きさ
38 / 41
短編

愛していないから大丈夫です 中編

「お前は一体どこで遊んでいたんだ?」

 わたしの顔を見てまず一言がそれ?

 思わず「はあ」とため息が溢れた。

「なんだその態度は!」

「帰ってきてそうそう急いでここにきたのに、久しぶりの娘を見てその言葉こそ酷いとは思いませんか?侯爵様?」

 わたしは両親には侯爵と夫人としか呼ばない。

 だっていつだったか『お前のような可愛げのない娘は要らない、出ていけ!』と言われた。
 もちろん10歳のわたしに出て行けるわけはなく、そこに固まったまま立っていると、引き摺られて馬小屋に入れられてその夜は一晩馬小屋の中で過ごすことになった。

 反省して謝罪の一つでも言えば良かったのだろう。でも、怒られた理由がエルザより少しダンスが上手だったから。

 家庭教師に二人でダンスを習っていて、わたしが先生に褒められたことが気に入らないエルザが泣いてお母様に訴えた。

「お姉様が意地悪く笑った」と。

 いやいや笑ってないし、わたし出来るだけ下手くそにダンスを踊ったはずなのに?

 先生だって、エルザがいる時はわたしがわざと下手くそに踊っているのをわかっていてもなにも仰らない。

 お互いエルザの機嫌が悪くなればクソ面倒なことになるから。

 なのにほんの少しわたしが上手に踊ったから気に入らない。

 泣いて縋るエルザにお母様はわたしの頬を叩いた。

「お前は姉なのに妹ができないと言って馬鹿にするの?」と。

「わたしそんなことしていません」
 まだあの頃はお母様の愛情が欲しかった。馬鹿なわたしは必死で言い訳をした。

「お母様、エルザのこと笑ったりしていません!」

「お母様!お姉さまは嘘つきです!いつもわたしのことを馬鹿にして笑うんです!わたしはいつも一生懸命に頑張っているのに!」
 ぐすんっと涙を溜めるエルザ。うるうるとした瞳にお母様はエルザを抱きしめる。

「シャルル、しばらく部屋にいなさい!わたしがいいと言うまで外には出ないで!あなたの顔を見るとほんとうんざりするわ。わたしの可愛いエルザを悲しませて!ほんとお義父様そっくり、ああ、気持ち悪い子だわ」
 吐き捨てられ汚い汚物でも見るかのようなお母様の目。

 そして、数時間食事すら出してもらえず空腹の中部屋に閉じ込められていた。

 そこに現れたお父様がいきなり言ったのは、『お前のような可愛げのない娘は要らない、出ていけ!』だった。


 次の日の朝馬小屋から一応助け出された。

 父親はわたしのことなど忘れて仕事をしていた。お母様とエルザは二人仲良く朝食中。

 わたしを助けたのは馬丁のジムだった。
 朝、馬の世話に来たジムがわたしを見つけてくれた。

 干し草の上でぐったりと横たわるわたしを見つけ慌てて屋敷へと連れ帰ってくれた。

 寒い夜に薄着のまま馬小屋で一晩過ごしたわたしはその後高熱を出して死にかけた。

 本当に死にかけた。
 でもあの人達は一度たりとも会いに来てくれなかった。一応、お医者様は呼んでくれたけど。そりゃ、薄着で馬小屋に放り出し、死んだとなったら醜聞どころではない。殺人事件だわ!

 で、わたしは悟った。

 こいつらはわたしを産んだだけの人だと。

 それからは関わらない。愛を求めない。そう決めて淡々と過ごした。

 たまにお祖父様が会いにきてくれる。その時だけはわたしを目一杯愛してくれる。

 ーーわたしを連れ帰って。

 何度口に出そうになったか。

 でもこの屋敷にはわたしを大切にしてくれる使用人たちがいた。

 彼らはわたしの父であり母であり、家族。だからどうしても離れがたかった。

 親の愛をもらえなかった分、使用人たちからの愛情を捨てることはできなかった。離れる方が辛かった。



「なにを黙っているんだ?」

 思い出していたせいか、お父様が色々言っているのを聞いていなかった。

 返事もしないので怒っているみたい。

 ま、わたしの顔を見て不機嫌じゃない時の方が少ないから、あまり気にもならない。

「侯爵様、わたしの顔を見るのもお嫌ならここに呼ぶのはおやめください。わたしは使用人部屋でいつものように食事を摂りますので、お気になさらず。では夫人、エルザ様失礼いたしますわ」

 わたしは美しい姿勢でカーテシーをしてにこりと微笑んだ。

「お前は!」
 真っ赤な顔になったお父様がわたしに向かって持っていたフォークを投げてきた。

 ひょいっと避けて、「侯爵ともあろうお方が人を殺すつもりですか?」と美しい笑顔で嘲笑ってやった。

 ほんと、当たってたら結構痛いと思わないのかしら?実の娘にフォークを投げる?それも思いっきり狙って!

 わたしは廊下に出ると執事のマックに「ノートに書いといてね」と伝えた。

 あの三人がしたことは全てノートに書いてもらっている。もちろんわたし自身も書いている。

 いつか何かあったら全てを曝け出してやるつもり。
 もちろん何事もなくこの家を出られればそのノートは捨てるつもりだけど。

 わたしはさっき言った言葉通り、使用人部屋に行きみんなとワイワイ言いながら夕食をいただいた。

 どんな豪華なご馳走より質素でもみんなと楽しく話しながら食べる料理の方が美味しいに決まってる。

 料理長は渋い顔をして「おれの料理はどっちも美味いはずだ」といつもわたしに言ってる。

「もちろん、料理長が作る料理は美味しいに決まってる。だけど一緒に食べる相手で美味しいものも美味しく感じないの。ごめんなさい」

「シャルル様、いつか俺の自慢の料理を美味しいと思ってくれる日が来るのを待ってます」

 そう言ってくれる料理長。お祖父様たちが来てくれる時はもちろん家族揃って食事をするのだけど、あの人たちもいるからやはり美味しいとは思えない。まるで砂を食べているようで食べ終わったらどうしても吐いてしまう。

 それをわかってる料理長はお祖父様が帰った後はいつもリゾットとか野菜たつぶりのスープを作ってわたしの体調を考えた料理を出してくれる。

 早くこの屋敷から出たい。

 だけど、大好きなみんなと暮らすこの日々も捨てられない。




感想 35

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

私の弟なのに

あんど もあ
ファンタジー
パン屋の娘マリーゼの恋人は、自警団のリートさん。だけど、リートには超ブラコンの姉ミラがいる。ミラの妨害はエスカレートしてきて……。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。