短編。

たろ

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短編

愛していないから大丈夫です 中編


 今日は少し早めに屋敷を出た。

 妹と馬車に乗るのもなんだか疲れるし、用事があるからと歩いて学校へ向かう。

「おはようございます」
 街の中を歩けばお店の人たちが開店前の準備で掃除をしていたり、出勤中ですれ違ったりするので顔見知りになり挨拶をしながら歩く。

「あら、シャルルちゃんおはよう!今日も歩きなの?」

「はい!」

「焼きたてのパンあげるから待ってて」
「りんご1個持っていきなさい」
「パイがあるから、ほら持っていきな」

 みんな心優しい方達でこうしていつも何かくださったり声をかけてくれる。

「帳簿とかお困りの時は声をかけて下さい。いつでもお手伝いします」

 お礼に書類整理の苦手なおじさんやおばさんのお手伝いもしている。
 平民は簡単な計算はできるけど、大きな数字になると苦手だったり難しい文字が苦手だったりもするので役場に出す書類の相談をされることもある。

 おかげで街のみんなと仲良くなれて朝早く歩いてもあまり怖いと感じない。ついでだからと、馬車に乗せてくれるおじさんもいたりして結構助かっている。

 でもわたしが侯爵令嬢だとはみんな思っていない。制服だし、よく歩いて学校へ行ってるし、帰りはほぼ歩き出し。

 エルザと学校へ行くくらいなら歩いたほうが健康にも心にもいい気がするのよね。

 たくさんの差し入れをもらいホクホクしながら学校へ行くと、ちょうどエルザが馬車を降りるところに出会した。

 ーーまずい

 慌てて目を逸らしたけどエルザはしっかりわたしをの姿をとらえていた。

「お姉様!早く登校したはずなのに今頃着いたんですか?だったら一緒に馬車になったらいいのに」

 うるうるさせながらわたしに「どうして?わたしのことが嫌いなの?」と周りに聞こえよがしに大きめの声で話しかけてきた。

「エルザ、あなたに早く学校へ行こうなんて可哀想で言えなかったの。今日は早く学校に着くつもりだったのよ?でも歩くとどうしても40分以上かかってしまって……馬車だと10分で着くのに。あなたの馬車なのに先に一度送って欲しいなんて我儘は言えないわ。だって馬車はあなたのためだけにしか用意されていないのだもの。あなたに迷惑はかけられないわ」

 わたしもとりあえず目をうるうるさせてエルザのことを思って頑張って歩いたのだと強調した。

 わたしの乗る馬車はないのだとみんなにわかってもらうために。

「お姉様……」

 顔をヒクヒクと引き攣らせながらエルザは顔を真っ赤にして「わたしがお姉様に意地悪でもしていると言うの?わたしが体が弱くてただみんなが心配してくれているだけなのに」と泣き出した。

「エルザ!どうしたんだ!」

 はい!出た!ここでヒーロー参上ですね?
 ダディアンがエルザの肩を抱き、わたしを睨む。

「君はエルザに何をしたんだ?エルザが泣いてるだろう?」

「はああー……何も」

 大きなため息を聞こえるように吐く。

「ダディアン……いいの、わたしが我慢すればいいのだから。お姉さまにどんな酷いことを言われてもわたしは耐えてみせるわ」

「エルザ、こんなに震えて。シャルル!君は一体何をしたんだ!可愛い妹に対してその態度はなんだ?」

「………」

 怒鳴り始めたダディアンを周囲は驚いた顔をして見ていた。そりゃそうだ、婚約者はわたしでエルザは婚約者の妹でしかないのに。エルザの肩を抱き、理由も知らないくせに怒鳴っているんだもの。

 スーーーっと大きく息を吸ってフーーっと吐いた。

「ダディアン、理由は聞かないのかしら?」

「理由?見ればわかるじゃないか!シャルルがエルザに意地悪をしたんだろう?いつもいつもエルザを目の敵にして!君は本当に性格が悪いんだな!」

「わたしが何をしたというのかしら?教えて欲しいわ」

「それは、エルザに対して意地悪をしたんだろう?」

「うん?それで何を?」

「たがらいつもエルザは君に意地悪をされたと言っているんだ!」

「うん!それで何を?」

 だって何もしていないのだからわたしは堂々と聞ける!

「エルザ、はっきりと言ってご覧。今まで何をされたのか」
 何をと聞かれても言えない困ったダディアンはエルザに振った。

「え?い、意地悪?お姉様に?あ、あの、わたし……」

 言えるわけないわよね。

 わたしの目の前で。

 だってエルザがわたしのドレスを奪ったり誕生日プレゼントを欲しがって無理やり盗ったりしたことはあるけどわたしは基本的にエルザには関わらないもの。

 ついでに言うと弟のエリックなんてわたしのこと全く興味すら示さないわ。

 わたしは空気か幽霊だと思ってるのかしら?おかげでエリックにはよく蹴られる。
 あれ痛いのよね。

 今はお母様の実家に遊びに行ってるらしく(わたしは知らないけど)屋敷は静かだけど、あの怪獣が帰ってきたら、屋敷は泣き叫んで我儘放題でうるさくて仕方ない。

 ほんと、エルザもエリックもまともに躾をしてこなかったから我儘放題に育ってしまった。
 親が悪いわ!

 わたしはとっても優しい笑顔でエルザに聞いた。

「わたしがエルザに何かしたのかしら?エルザにドレスが欲しいと言われれば全てあげたわ。
 お父様もお母様もわたしには何もプレゼントはくれないし何も買ってくださらないわ。
 わたしは使用人部屋を与えられているし、プレゼントも何か必要で買わなければいけない時も全てお祖父様が用意して下さるわ。それを全て奪っていこうとするエルザに『それだけは盗らないで』といつもお願いするのはわたしよね?
 その度に土下座してお願いしなさいと言うのはエルザだものね?」

 わたしがニコリと微笑めばエルザの顔が真っ青になった。

「わ、わたしは、そんなことしないわ!酷い!」

 わたしは常に持ち歩くカバンの中からノートを取り出した。

「これは書き写したものだからダディアンとエルザにあげるわ。破っても捨ててもきちんとした物は書類として保管されているから無駄よ」

 二人にノートを渡すといつものようにカーテシーをして、周囲へふわっと優しく微笑み「お騒がせ致しましたわ」と言ってその場を後にした。

 わたしの背中に「おい!さっさと行くな!」とダディアンが叫んでいるけど聞こえなかったことにした。


 お昼は、街でいただいた差し入れと料理長の作ってくれたお弁当をリランと二人で美味しくいただいた。

 朝の騒ぎを聞いたリランが昼休み心配して顔を見にきてくれた。

「大丈夫?君の婚約者、すごかったんだろう?」

「ふふふっ、ダディアンって馬鹿なのかしら?エルザが意地悪をすると聞かされそう思い込んでいたけど、何をされたのか聞いても答えられないの。だってわたし何もされていないもの。逆にエルザに今までされてきたことを書いたノートをダディアンにプレゼントしたわ、おかげでしばらくはわたしに絡んでこないと思うの」

「でも大丈夫?君の両親がまた怒り出して君に酷いことをしないだろうか?」

「心配してくれてありがとう」

 以前、リランはわたしの頬が腫れているのを見て何かあったんじゃないかとしつこく聞いてきたことがあった。

 誤魔化したけどわたしやダディアン、エルザの関係を見ていたら、わたしが誰かに叩かれたのだと思っているみたいで今回も心配してくれてる。

「わたしは大丈夫よ。ずっと悩んでいたけどやっと気持ちに決着がついたの」

「決着?」

「ええ、屋敷の使用人達はわたしの家族みたいなものなの。とても大切な人たち。だから離れたくなくてあそこに固執していたんだけど、決めたの」

「決めた?」

「うん、大好きな使用人達だけ連れてあの屋敷を出ていこうと思って」

「くくくっ、君、おもしろいね?奨学金を受けるくらいお金に困ってるのに、使用人達を連れて出て行って養えるの?」

「あら?無計画じゃないわよ?ちゃんと考えているもの」








 
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