【完結】裏切られた私はあなたを捨てます。

たろ

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35話

 文官の仕事が始まった。まだ不慣れでいつも精一杯で他のことを考える暇がない。

 でもやはりカリーナ様のことを思い出す時はある。部屋に一人でいる時にふとアレックス兄様の笑顔を思い出す。
 事実を伝えるべきではと何度も思いながらもその勇気が出ずにいた。

 それは王城内で兄様とすれ違うことがあるからかもしれない。

 兄様は騎士になり同じ王城の敷地内で仕事をしている。外務部に所属した私は、まだまだ下っ端で調べ物のため図書館に通ったり、他の部に打ち合わせの打診や書類を持ってに行ったりと王城内を駆け回る。

 その時に騎士団の訓練場の前を通ることも度々あって兄様の姿を目にすることがある。

 キース兄様は高等部に進み、騎士科にいる。アレックス兄様のように騎士学校に入学し寄宿舎には入らなかった。同じ騎士を目指すのにも進路は異なった。

 そしてカリーナ様は兄様のお嫁さんになるため、侯爵家に通い花嫁修行中のはず。

 私はたまにそんな話を耳にするだけで実際どうなっているのかはわからないけど、アレックス兄様とは仲睦まじいのではないかと思う。

 なのに……どうして、先生とあんなことを……

 思い出すだけでなんとも胸が苦しいし…悔しいし腹が立つ。

 兄様に全てを話してしまおう。何度もそう思ったのに……初恋は終わっているのに、やはり兄様が傷つくと思うとどうしていいのかわからない。誰にも相談もできずモヤモヤとしながらも忙しさにかまけて日々を送る。

 そんなある日アレックス兄様と王城内の廊下ですれ違った。

「レイン」

 仕事中に兄様が声をかけてきて思わず驚いて足を止めた。
 いつもなら頭をお互い下げるだけだ。兄様は騎士だ。仕事中はとても厳格で厳しいので話などできない。

 いくら身内とはいえ仕事中に気軽に話してはいけないはず。
 私はいつも飛び回っているので、『あ、ちょっと外務部の子だったよね?』とよく呼び止められるので割と仕事中でも立ち話をする。
 ほとんど上司への伝言が多いのだけど。

「アレックス兄様?」

「元気に頑張ってるみたいだね」

「……はい、なんとか」

 少し気まずくて兄様の目を真っ直ぐに見れない。

「兄様も騎士になられて……あの……夢を叶えられて、その………「レイン、どうしたんだい?」

「あ……ごめんなさい」

 どうしよう……カリーナ様のことを……でも……キース兄様にはいつも強気なのにアレックス兄様にはどうしても言えない。

 だってずっと優しくしてくれた大切な人だから、やっぱり傷ついてほしくない。
 でも言わない方がもっと傷つくのもわかっている。

「アレックス様ぁ!」

 私達に向かって声をかけてきたのはカリーナ様だった。

 アレックス兄様の腕に手を絡ませて甘えた声で「こんな所でお会いできるなんて嬉しいです」とニコリと微笑んだ。

 兄様も優しく微笑み返す。

 二人の幸せそうな顔を見た私は喉の奥に言葉を飲み込んだまま「失礼します」と言った。

「レイン、待ってくれ」

 兄様が何故か引き留めた。

「俺は今休憩中なんだ。少し話せないか?」

「でも……」チラッとカリーナ様の方へ視線を向けた。
 私を睨みつける目にビクッとした。

 この人はこんな目で人を見るんだ。いつも笑顔の仮面を被っていただけなんだ。
 なんて冷たい目をしているんだろう、そう思った瞬間、背の高いアレックス兄様の方へ顔をあげて「私お邪魔みたい、ごめんなさい」としゅんとした顔をして寂しそうに兄様を見た。

 ああ、こんなふうに甘えるような声で男の人に話しかければ私も少しは可愛げがあるのかな。

「カリーナ、すまない。妹とはなかなか時間が合わずに話せないでいたんだ。たまには話をしたい。君とはまた後日連絡をするよ」
 そう言ってカリーナ様の額にキスを落とした兄様。カリーナ様はキスを当たり前のように受け取ると「では、待っていますわ」と寂しそうにどこかへ行ってしまった。

「カリーナ様……宜しかったのですか?」
 今なら追いかけられますよ?

 そう言いたいんだけど、カリーナ様に負けるみたいで言わなかった。でも負けてるんだけど。だって政略なはずなのにずっと二人はとても仲が良いのだもの。

 私が何を言っても……
 愛する人の悪口にしか思われない。

 だから今はまだ見守ろう。

「兄様はカリーナ様をとても大切にされているのですね?」

「うん?」
 少し驚いた声で笑みを浮かべた。

「あーー、うん、カリーナは婚約者だからね」

「ああ」
 ーーそんなことはわかってるわ。

「それよりもレイン、君は侯爵家に帰っていないらしいね?卒業式のドレスも受け取ろうとしなかったと訊いた、何かあったのかい?」

「ドレス?私は最初から要らないと断っていたので送られてはいません」

「母上はそれでも君に着て欲しいと送ったはずだ」

「淡い水色のドレスを」

「それって………」
 私は言葉を失った。
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