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96話
オリエ様と二人で街へ買い物へと向かった。
「レインを一度連れて行ってあげたかったの」
そう言って来たのは王城内にある許可を得た人しか入れない書庫だった。
国で発行された本だけではなくてなかなか手に入らない珍しい外国の本や古書も取り揃えられていて、もちろん貸出禁止で中に入るのも制限されていて、ここでしか読めない本がかなりある。
「私がここに入っても大丈夫なんですか?」
恐る恐る訊くと、オリエ様が困った顔で目を細めた。
「レインにはオリソン国のベルン侯爵が怖い思いをさせたじゃない?陛下がお詫びとしてこの国に滞在している間は出来るだけ丁重にもてなすように言われているのよ。カイさんがレインは努力家で勉強熱心だと伝えて許可してくれたの」
「………とても嬉しいです」
オリエ様は仕事の用事があるからと一旦別れた。
書庫の中に入る時に一人の見張り役の護衛騎士が一人ついて回るのが規則で、少し怖い顔をした騎士がそばにいて緊張するものの、読みたかった本を見てしまえば、騎士のことなんて忘れて本に夢中になった。
テーブルに数冊の本を置いてひたすら本を読む。騎士は後ろでその姿をじっと見つめていた。
本を盗もうなんて思わないのに。そう言いたいけど、盗んだ人がいたから今こういう規則になっているわけで、仕方がないのだと受け入れた。
騎士だってじっと立って本を読んでいる姿を見るのは疲れる仕事なのだろうと同情した。
数時間本を読んで「はあーー」と満足げにため息を吐いた。
オリエ様が時間になったので姿を現した。
「どう?面白かった?」
「はい、ずっと読んでみたかった他国の建築学について読めたのがとても嬉しくて」
「建築?」
「他国の建物ってその国独特で造られていて、とても興味があったんです。特に城はその国の風土、構造、災害時の安全性や敵からの攻撃の守りなど、それぞれ全く異なる建物で、絵を見て比べるのが大好きだったんです」
「そんなこと考えたこともなかったわ」
「私……割と部屋から出られない生活をしていて……本だけは与えてもらえたので、本を読んで想像しては暇つぶしをしていたんです、子供の頃なのでこの国では木をふんだんに使っているとか、石造りだとか、そんなことくらいですが」
思い出してつい笑ってしまう。
侯爵家で閉じ込められた日々。兄様達のお古の本が棚に並べられていたので暇つぶしに読んでは外の世界を夢見ていた。
「レイン、いろいろあったと訊いてるわ。この国は他の国よりも自由な国よ。貴女の好きなことを見つけられると思うわ」
「はい、みなさんの好意で経験したことがない楽しい日々を送らせてもらっています。まだ自分が何を出来るのか何をしたいのかわからないけど、新しいことにチャレンジできればと思っています」
「うん、わたしもそうだった。ずっと……王太子妃になることが決まっていて、期待されて……必死で努力したのに、でも愛されることもなく必要とされなくて……この国に来てやっと息ができるようになったの」
「オリエは最初と顔つきが変わったよ。とてもいい顔になった」
背後から騎士が優しい声で言った。
思わず驚き後ろを振り返った。
声だけでなく優しく微笑んで私に言った。
「レイン嬢、貴女が本を読む姿はとても真剣で見守っていてとても心地よかった。またぜひ貴女の護衛をさせてほしい」
護衛?監視だと思ったのに。
私の表情を読み取ってオリエ様が苦笑した。
「うん、本を盗む人がいるのは確かだけど、レインの場合はここに一人になって何かあったらいけないからと護衛に一人ついてもらっていたの。彼はわたしの先輩なの」
「あ……長い時間立たせてしまって申し訳ありませんでした」
「仕事だからね。これくらいいつものことだ」
「そうね。騎士は闘うだけではなく人を守るのも仕事だもの」
ふとアレックス兄様のことを思い出した。アレックス兄様も私が狙われていた時、いつも護衛としてそばにいてくれた。
もう兄様は結婚しただろう。
ロレイナ様がお腹が大きくなり始める頃だろうから、急いで籍を入れて、出産の準備も始まっているだろう。
そう思うと気が重くなる。
ずっと忘れられない恋で、何度も諦めようとして、やっとその想いを捨てなくてすむ、幸せになれると思ったのに。
ロレイナ様から頬を叩かれた時、とても惨めだった。自分の居場所が侯爵家にはないことを改めて感じた。
それでも、勝手に出て行かずきちんと養父母には手紙を書き、今も元気で過ごしていることを知らせてはいるので、後悔することはない。
いつでも力になるからと言ってくださる養父母。心配させたくないので今の現状をきちんと伝えている。
アレックス様のことはお互い手紙には書いていない。わたしも聞きたくないし、向こうも話づらいだろう。
こうして時が経てば、いつかこの辛かった気持ちも少しずつ消えて……新しい生活が始まっていくのかもしれない。
オリエ様のように。生き生きとした日々を送りたい。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
「アレックスには絶対レインの居場所は教えない」
侯爵はいまだにレインを傷つけた息子のアレックスに対して怒りを抑えられなかった。
「でも貴方、レインは誤解しているのよ?」
妻は二人が幸せに結ばれることを祈っていた。
「誤解されるようなことをしたのはあいつだ。元々誰にでも優しくして軽い付き合いを繰り返してきたアレックスが悪い。また他の令嬢が現れてレインが傷つくかもしれないだろう。だったら新しい幸せを掴む方がいいかもしれない」
「アレックスが悪いのはわかってるわ。でも……そうね、本当にレインを愛しているなら探し出してもう一度愛を乞うしかないものね」
妻は大きなため息を吐いた。
「レインには幸せになってほしい。わたし達がレインの幸せを壊してきたんだ。アレックスに居場所を知らせてほしくないと望んでいるのなら私は教えるつもりはない。たとえアレックスがあの令嬢と何もなかったとしてもレインは傷ついたんだ。無理やり会わせて無理強いはしたくない。レインが会いたいと言ってるならもちろん伝えるが今は気持ちが受け入れないだろう」
「………ええ、わかってるわ」
レインの手紙には一切アレックスのことは書かれていない。ただ、オリソン国で楽しく過ごす日々が書かれていた。
今、レインが幸せなら、それでいい。
「レインを一度連れて行ってあげたかったの」
そう言って来たのは王城内にある許可を得た人しか入れない書庫だった。
国で発行された本だけではなくてなかなか手に入らない珍しい外国の本や古書も取り揃えられていて、もちろん貸出禁止で中に入るのも制限されていて、ここでしか読めない本がかなりある。
「私がここに入っても大丈夫なんですか?」
恐る恐る訊くと、オリエ様が困った顔で目を細めた。
「レインにはオリソン国のベルン侯爵が怖い思いをさせたじゃない?陛下がお詫びとしてこの国に滞在している間は出来るだけ丁重にもてなすように言われているのよ。カイさんがレインは努力家で勉強熱心だと伝えて許可してくれたの」
「………とても嬉しいです」
オリエ様は仕事の用事があるからと一旦別れた。
書庫の中に入る時に一人の見張り役の護衛騎士が一人ついて回るのが規則で、少し怖い顔をした騎士がそばにいて緊張するものの、読みたかった本を見てしまえば、騎士のことなんて忘れて本に夢中になった。
テーブルに数冊の本を置いてひたすら本を読む。騎士は後ろでその姿をじっと見つめていた。
本を盗もうなんて思わないのに。そう言いたいけど、盗んだ人がいたから今こういう規則になっているわけで、仕方がないのだと受け入れた。
騎士だってじっと立って本を読んでいる姿を見るのは疲れる仕事なのだろうと同情した。
数時間本を読んで「はあーー」と満足げにため息を吐いた。
オリエ様が時間になったので姿を現した。
「どう?面白かった?」
「はい、ずっと読んでみたかった他国の建築学について読めたのがとても嬉しくて」
「建築?」
「他国の建物ってその国独特で造られていて、とても興味があったんです。特に城はその国の風土、構造、災害時の安全性や敵からの攻撃の守りなど、それぞれ全く異なる建物で、絵を見て比べるのが大好きだったんです」
「そんなこと考えたこともなかったわ」
「私……割と部屋から出られない生活をしていて……本だけは与えてもらえたので、本を読んで想像しては暇つぶしをしていたんです、子供の頃なのでこの国では木をふんだんに使っているとか、石造りだとか、そんなことくらいですが」
思い出してつい笑ってしまう。
侯爵家で閉じ込められた日々。兄様達のお古の本が棚に並べられていたので暇つぶしに読んでは外の世界を夢見ていた。
「レイン、いろいろあったと訊いてるわ。この国は他の国よりも自由な国よ。貴女の好きなことを見つけられると思うわ」
「はい、みなさんの好意で経験したことがない楽しい日々を送らせてもらっています。まだ自分が何を出来るのか何をしたいのかわからないけど、新しいことにチャレンジできればと思っています」
「うん、わたしもそうだった。ずっと……王太子妃になることが決まっていて、期待されて……必死で努力したのに、でも愛されることもなく必要とされなくて……この国に来てやっと息ができるようになったの」
「オリエは最初と顔つきが変わったよ。とてもいい顔になった」
背後から騎士が優しい声で言った。
思わず驚き後ろを振り返った。
声だけでなく優しく微笑んで私に言った。
「レイン嬢、貴女が本を読む姿はとても真剣で見守っていてとても心地よかった。またぜひ貴女の護衛をさせてほしい」
護衛?監視だと思ったのに。
私の表情を読み取ってオリエ様が苦笑した。
「うん、本を盗む人がいるのは確かだけど、レインの場合はここに一人になって何かあったらいけないからと護衛に一人ついてもらっていたの。彼はわたしの先輩なの」
「あ……長い時間立たせてしまって申し訳ありませんでした」
「仕事だからね。これくらいいつものことだ」
「そうね。騎士は闘うだけではなく人を守るのも仕事だもの」
ふとアレックス兄様のことを思い出した。アレックス兄様も私が狙われていた時、いつも護衛としてそばにいてくれた。
もう兄様は結婚しただろう。
ロレイナ様がお腹が大きくなり始める頃だろうから、急いで籍を入れて、出産の準備も始まっているだろう。
そう思うと気が重くなる。
ずっと忘れられない恋で、何度も諦めようとして、やっとその想いを捨てなくてすむ、幸せになれると思ったのに。
ロレイナ様から頬を叩かれた時、とても惨めだった。自分の居場所が侯爵家にはないことを改めて感じた。
それでも、勝手に出て行かずきちんと養父母には手紙を書き、今も元気で過ごしていることを知らせてはいるので、後悔することはない。
いつでも力になるからと言ってくださる養父母。心配させたくないので今の現状をきちんと伝えている。
アレックス様のことはお互い手紙には書いていない。わたしも聞きたくないし、向こうも話づらいだろう。
こうして時が経てば、いつかこの辛かった気持ちも少しずつ消えて……新しい生活が始まっていくのかもしれない。
オリエ様のように。生き生きとした日々を送りたい。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
「アレックスには絶対レインの居場所は教えない」
侯爵はいまだにレインを傷つけた息子のアレックスに対して怒りを抑えられなかった。
「でも貴方、レインは誤解しているのよ?」
妻は二人が幸せに結ばれることを祈っていた。
「誤解されるようなことをしたのはあいつだ。元々誰にでも優しくして軽い付き合いを繰り返してきたアレックスが悪い。また他の令嬢が現れてレインが傷つくかもしれないだろう。だったら新しい幸せを掴む方がいいかもしれない」
「アレックスが悪いのはわかってるわ。でも……そうね、本当にレインを愛しているなら探し出してもう一度愛を乞うしかないものね」
妻は大きなため息を吐いた。
「レインには幸せになってほしい。わたし達がレインの幸せを壊してきたんだ。アレックスに居場所を知らせてほしくないと望んでいるのなら私は教えるつもりはない。たとえアレックスがあの令嬢と何もなかったとしてもレインは傷ついたんだ。無理やり会わせて無理強いはしたくない。レインが会いたいと言ってるならもちろん伝えるが今は気持ちが受け入れないだろう」
「………ええ、わかってるわ」
レインの手紙には一切アレックスのことは書かれていない。ただ、オリソン国で楽しく過ごす日々が書かれていた。
今、レインが幸せなら、それでいい。
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