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97話
街に出るとたまにどこからか視線を感じるようになった。
じっと誰かに見られているような。
その視線の方へそっと探るように振り返ると誰もいない。悪意は感じない。でも誰かが私を見ている。
またこの紫の瞳を狙っている人が?
私はこの国でも瞳の色を変えている。オリソン国では茶色の瞳の人が多いので私も茶色にしているので、多分違和感なく過ごせていると思う。それにこの国は外国から移住している人も多く、私がこの国にいても自然と馴染んでいた。
「どうしたの?」
メルーさんとマーラさんと三人で孤児院の慰問の帰りにカフェでお茶をしている時。
私が変な顔をしていたらしい。
「あ……いえ、………ちょっと」
戸惑いつつ説明しにくいこの変な気分にどう答えようか悩んで言葉につまった。
またあのなんとも言えない視線を感じたから。カフェの中はたくさんの人で賑わっていたし、みんな楽しそうに会話が弾んでいた。その中に変な人は見当たらない。
それに二人に心配をかけたくない。
「レイン?何か悩みでもあるんじゃない?」
メルーさんが心配そうに訊いてきた。
「ううん、大丈夫です。ちょっと知人に似た人がいた気がして……でも違ったみたいです」
ニコリと笑って誤魔化した。
「カイがレインを探しに来る人がいるかもしれないと言っていたわ。その人ではないの?」
「探しに?私をですか?」
この国にいる私を探す人?……お腹の赤ちゃんのことを考えれば兄様はもう結婚して幸せに暮らしているだろう。だからアレックス兄様が探すことはないと思う。
ミシェルは私がこの国にいることを知っているし、養父母にはたまに手紙を書いているし。
キース兄様?は………またいつものように怒ってはいるだろうな。
最近は意地悪はしなくなったけど、『お前はいつも事後報告で俺には何も言わないからな!』とアレックス兄様との婚約が決まった時も渋い顔をしていた。
だけど『絶対幸せになれ!』と真剣な顔で私に言ってくれた。
なのに幸せになるどころか婚約パーティーから逃げ出した。キース兄様なら私を見たら『ふざけんな!』と怒るだろうな。
でも態々探しには来ないと思う。
他の友人達はミシェルが心配しないように伝えてくれているし。
レイモンド殿下?ううん、殿下が私を探すことはない。淡いほのかな気持ちは恋になることもなく消えてしまった。
そう考えると私ってグリス国で必要とされていなかったのかもと……落ち込んでしまった。逃げたのは自分自身なのに。
「ううん、私を探したい人はいないと思います。それに、心配かけないように必要な人には手紙で近況は伝えていますし」
苦笑しながらメルーさん達に「大丈夫です、心配しないで」と伝えた。
その日はもう誰かの視線は感じなかった。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
「兄上、レインはどこにいるのか分かりましたか?」
キースが俺に掴み掛かるような勢いで訊いてきた。
「いや、調べてはいるがわからない。両親も心配して探しているが見つからないと言っていた。カイ殿がオリソン国に連れて行ったのは確かなんだが、居場所がわからない」
キースは昔っからレインのことを気にかけている。本人には自覚はなかったみたいだけど、俺と同じでレインをとても大切に思っている。
俺はすぐにレインへの恋心を自覚したが、キースは拗らせて意地悪ばかりしてしまってレインとの関係があまりよくなかった。
何度となくレインにもっと優しくしないと嫌われるぞと注意はしたが、そう言えば言うほど拗らせてしまった。
俺とレインの婚約が決まった時、『レインを絶対に幸せにしてやってくれ』と言ってきたのに、ロレイナの件を知ったキースは俺に掴み掛かり殴ってきた。
「なんで、浮気するんだ!ふざけんな!レインを泣かせるな!」
俺は言い訳すらできず、キースに殴られた。誰かに殴って欲しかった。
仕事とはいえ何人もの女性とデートを重ね、体の関係はなかったとしてもキスくらいは普通にしていた。
レインを自分のものにはできないと諦め、ただレインを狙う奴らから守るだけのつもりだった。だから、女性との付き合いも軽いものだった。
自分のこれまでの浅はかな行動がロレイナを本気にさせてしまった。いろんな男と遊んでいるロレイナだから俺に執着しないだろうと、ロレイナのことは気にかけず関係を曖昧にして終わらせていた。
他の令嬢達は軽いデートしかしていなかったので本気にさせる前に情報だけ訊いてその都度終わらせていた。
ロレイナも聞き出すだけ訊いて「また会える?」と言われたので「仕事が忙しいから無理かな」で終わらせたつもりだった。
「兄上、俺は兄上を尊敬していました。だけど……兄上が誰にでも優しく接する態度はあまり好きではありません。そんな態度がレインを悲しませたんです。レインを愛しているならまず女性関係をきちんと終わらせるべきでは?」
「………仕事上、必要な行動だった。特別深い付き合いをした人はいない……」
キースに俺の仕事内容を伝えることは業務上できない。だけど、弟に言われたように俺の誰にでも優しくする態度がレインの信用を失くしていたんだと思う。
「キース、俺はオリソン国へ向かう。レインがどこにいるかわからないが見つかるまで探すつもりだ。騎士団には長期休暇を願いでた。侯爵家の俺の仕事をしばらくお前にも手伝ってほしい、頼む」
「わかった………きちんと誤解は解いたほうがいいと思う。だけどレインがもう兄上のことを嫌がるなら諦めてほしい」
「わかってる………キースにも負担をかけるがよろしく頼む」
もしレインが俺を拒むなら……諦める。でももし俺の手を取ってくれるなら……
もう二度と離したくない。
じっと誰かに見られているような。
その視線の方へそっと探るように振り返ると誰もいない。悪意は感じない。でも誰かが私を見ている。
またこの紫の瞳を狙っている人が?
私はこの国でも瞳の色を変えている。オリソン国では茶色の瞳の人が多いので私も茶色にしているので、多分違和感なく過ごせていると思う。それにこの国は外国から移住している人も多く、私がこの国にいても自然と馴染んでいた。
「どうしたの?」
メルーさんとマーラさんと三人で孤児院の慰問の帰りにカフェでお茶をしている時。
私が変な顔をしていたらしい。
「あ……いえ、………ちょっと」
戸惑いつつ説明しにくいこの変な気分にどう答えようか悩んで言葉につまった。
またあのなんとも言えない視線を感じたから。カフェの中はたくさんの人で賑わっていたし、みんな楽しそうに会話が弾んでいた。その中に変な人は見当たらない。
それに二人に心配をかけたくない。
「レイン?何か悩みでもあるんじゃない?」
メルーさんが心配そうに訊いてきた。
「ううん、大丈夫です。ちょっと知人に似た人がいた気がして……でも違ったみたいです」
ニコリと笑って誤魔化した。
「カイがレインを探しに来る人がいるかもしれないと言っていたわ。その人ではないの?」
「探しに?私をですか?」
この国にいる私を探す人?……お腹の赤ちゃんのことを考えれば兄様はもう結婚して幸せに暮らしているだろう。だからアレックス兄様が探すことはないと思う。
ミシェルは私がこの国にいることを知っているし、養父母にはたまに手紙を書いているし。
キース兄様?は………またいつものように怒ってはいるだろうな。
最近は意地悪はしなくなったけど、『お前はいつも事後報告で俺には何も言わないからな!』とアレックス兄様との婚約が決まった時も渋い顔をしていた。
だけど『絶対幸せになれ!』と真剣な顔で私に言ってくれた。
なのに幸せになるどころか婚約パーティーから逃げ出した。キース兄様なら私を見たら『ふざけんな!』と怒るだろうな。
でも態々探しには来ないと思う。
他の友人達はミシェルが心配しないように伝えてくれているし。
レイモンド殿下?ううん、殿下が私を探すことはない。淡いほのかな気持ちは恋になることもなく消えてしまった。
そう考えると私ってグリス国で必要とされていなかったのかもと……落ち込んでしまった。逃げたのは自分自身なのに。
「ううん、私を探したい人はいないと思います。それに、心配かけないように必要な人には手紙で近況は伝えていますし」
苦笑しながらメルーさん達に「大丈夫です、心配しないで」と伝えた。
その日はもう誰かの視線は感じなかった。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
「兄上、レインはどこにいるのか分かりましたか?」
キースが俺に掴み掛かるような勢いで訊いてきた。
「いや、調べてはいるがわからない。両親も心配して探しているが見つからないと言っていた。カイ殿がオリソン国に連れて行ったのは確かなんだが、居場所がわからない」
キースは昔っからレインのことを気にかけている。本人には自覚はなかったみたいだけど、俺と同じでレインをとても大切に思っている。
俺はすぐにレインへの恋心を自覚したが、キースは拗らせて意地悪ばかりしてしまってレインとの関係があまりよくなかった。
何度となくレインにもっと優しくしないと嫌われるぞと注意はしたが、そう言えば言うほど拗らせてしまった。
俺とレインの婚約が決まった時、『レインを絶対に幸せにしてやってくれ』と言ってきたのに、ロレイナの件を知ったキースは俺に掴み掛かり殴ってきた。
「なんで、浮気するんだ!ふざけんな!レインを泣かせるな!」
俺は言い訳すらできず、キースに殴られた。誰かに殴って欲しかった。
仕事とはいえ何人もの女性とデートを重ね、体の関係はなかったとしてもキスくらいは普通にしていた。
レインを自分のものにはできないと諦め、ただレインを狙う奴らから守るだけのつもりだった。だから、女性との付き合いも軽いものだった。
自分のこれまでの浅はかな行動がロレイナを本気にさせてしまった。いろんな男と遊んでいるロレイナだから俺に執着しないだろうと、ロレイナのことは気にかけず関係を曖昧にして終わらせていた。
他の令嬢達は軽いデートしかしていなかったので本気にさせる前に情報だけ訊いてその都度終わらせていた。
ロレイナも聞き出すだけ訊いて「また会える?」と言われたので「仕事が忙しいから無理かな」で終わらせたつもりだった。
「兄上、俺は兄上を尊敬していました。だけど……兄上が誰にでも優しく接する態度はあまり好きではありません。そんな態度がレインを悲しませたんです。レインを愛しているならまず女性関係をきちんと終わらせるべきでは?」
「………仕事上、必要な行動だった。特別深い付き合いをした人はいない……」
キースに俺の仕事内容を伝えることは業務上できない。だけど、弟に言われたように俺の誰にでも優しくする態度がレインの信用を失くしていたんだと思う。
「キース、俺はオリソン国へ向かう。レインがどこにいるかわからないが見つかるまで探すつもりだ。騎士団には長期休暇を願いでた。侯爵家の俺の仕事をしばらくお前にも手伝ってほしい、頼む」
「わかった………きちんと誤解は解いたほうがいいと思う。だけどレインがもう兄上のことを嫌がるなら諦めてほしい」
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もしレインが俺を拒むなら……諦める。でももし俺の手を取ってくれるなら……
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