鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道

文字の大きさ
14 / 25

第14話 清貧の誓いと、高カロリービスケット

しおりを挟む
「聖女様、お食事の時間です。こちらをどうぞ」

 昼休憩の時、侍女が恭しく差し出したのは、硬そうな黒パンと水だけだった。
 ルナは微笑んで首を振る。

「いいえ。私は断食の祈りを捧げていますから。皆様でお食べなさい」
「ですが、昨日も召し上がっていないのでは……?」
「心配いりません。神の愛が私を満たしてくれていますから」

 彼女はそう言って、木陰で瞑想を始めた。
 周囲の信者たちは「なんて慈悲深い」「自分を犠牲にして祈りを捧げている」と感動している。

 だが、俺の目は誤魔化せない。
 瞑想している彼女の腹のあたりを「鑑定」する。

 【聖女ルナ】
 【状態:極度の空腹、低血糖、めまい】
 【胃袋の内容物:水のみ】
 【注記:あと一時間で昏倒する。清貧の誓い(人前で食事をしない)のせいで、隠れて食べる機会を逃し続けている】

 アホなのか。
 彼女は教会の広告塔として、「清貧で霞を食って生きている聖女」を演じさせられている。
 だが、実際は成長期の少女だ。食わなきゃ死ぬ。
 昨日の法衣軽量化で歩く速度は上がったが、エネルギー切れで倒れられたら元も子もない。

「おい、あの聖女、顔色悪くないか?」

 エルザが干し肉を齧りながら囁く。

「青白いな。貧血だろう」

 俺は適当に答えつつ、自分の荷物を探る。
 普通の食事を差し入れても、彼女は誓いの手前、受け取れないだろう。
 ならば、食事に見えないものを食わせるしかない。

 俺が取り出したのは、親指ほどの大きさの茶色い塊だ。
 見た目はただの木片か、失敗したクッキーに見える。
 だが、その正体は俺特製の『圧縮レーション』だ。

 【高密度ナッツバー】
 【材料:粉砕した木の実、ラード、蜂蜜、乾燥肉の粉末】
 【カロリー:このひとかけらで成人男性の一食分に相当】
 【味:濃厚すぎて喉が焼ける】

 遭難した時用に作っておいた非常食だ。
 これをどう渡すか。

 俺は水筒を持って、瞑想(という名の空腹への耐え忍び)をしているルナに近づいた。

「聖女様、お水のお代わりはいかがですか」
「……ええ、ありがとう」

 ルナが薄目を開ける。
 焦点が合っていない。限界寸前だ。
 俺は彼女の死角になる位置に立ち、水筒を渡すふりをして、手の中のビスケットを彼女の掌に押し付けた。
 そして、小声で囁く。

「祈りの触媒として使われる『聖なる木の根』です。口に含んで念じれば、力が湧くと言われています」
「え……?」

 ルナが手の中を見る。
 茶色い塊だ。
 彼女は一瞬、怪訝な顔をしたが、そこから漂う強烈な脂と糖分の匂いに、鼻がピクリと反応した。
 本能が理解したのだ。これは「食べ物」だと。

「……神の、恵み?」
「ええ。周囲には内緒にしてください。秘儀ですから」

 俺はウィンクもしないで事務的に告げ、離れた。
 ルナは周囲をキョロキョロと見回した。
 誰も見ていない。
 彼女は震える手で、その塊を口に放り込んだ。

 モグッ。

 彼女の目がカッと見開かれる。
 口いっぱいに広がる、暴力的なまでのカロリー。
 ラードのコクと蜂蜜の甘さ、ナッツの香ばしさが、飢餓状態の脳髄を直撃する。
 普通の人間なら胸焼けするレベルの濃厚さだが、今の彼女にとっては至上の甘露だろう。

 ゴクリ。

 彼女はそれを飲み込んだ。
 とたん、蒼白だった頬に赤みが差す。
 胃袋に落ちた塊が、即座に熱となり、手足の末端まで血液を送り出し始めたのだ。

「はぁ……っ!」

 ルナが熱い息を吐く。
 瞳に力が戻っている。
 彼女は自分の手を見つめ、握りしめた。
 力が入る。指先の震えが止まっている。

「……すごい。これが聖なる根の力……」

 彼女は俺の方を見た。
 俺は知らんぷりをしてエルザと話している。
 ルナは胸の前で十字を切った。

「(神よ、感謝します。この卑しい身に、これほどの活力を与えてくださるとは……)」

 彼女は立ち上がった。
 その立ち姿は、さっきまでの幽霊のような儚さが消え、大地に根を張る大木のように力強い。

「皆様! 祈りは届きました! 出発しましょう!」

 ルナの声が朗々と響き渡る。
 信者たちはどよめいた。
 「断食の果てに、神気を纏われた!」「なんと神々しい!」
 いや、ただのカロリー摂取だ。
 ナッツとラードの力だ。

 歩き出したルナは、時折俺の方をチラチラと見てくる。
 その視線は「もっと欲しい」と言っているように見えた。
 ……やれやれ。
 あのレーションはまだ在庫があるが、あまり与えすぎると太るぞ。
 この法衣はウエストの調整ができないんだからな。

 俺は次回の「おやつ」のタイミングを計算しながら、元気になった聖女の後ろを歩いた。
 とりあえず、餓死の危機は去った。
 俺の仕事は順調だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

処理中です...