異世界で俺の初級魔法が最強でした。無自覚に絶望から救った美女やエルフたちに溺愛されています

仙道

文字の大きさ
8 / 8

第8話

しおりを挟む
庭園の奥で、セリアは三匹の中級の魔物に完全に包囲されていた。

「はあっ、はあっ……!」

彼女の息は上がり、美しい顔が苦痛と疲労に歪んでいる。
いつもピカピカに磨き上げられていた銀色の鎧はひどく凹んで泥だらけになり、足元には真っ二つに折れた見事な装飾の剣が転がっている。
魔物の一匹が太い腕を振り上げ、セリアが咄嗟に掲げた盾がひしゃげて吹き飛ばされた。彼女は地面に無様に転がり、魔物たちが一気に距離を詰める。

それを見て、俺は全てを察し、そしてゲーマーとしての判断を下した。

「させない!」

俺は草むらから飛び出し、対象に向けて手をかざした。

「中級魔法――連鎖雷撃」

俺の掌から極太の青白い雷光が放たれた。
それは一匹目の魔物を貫くと、凄まじい轟音とともに枝分かれし、残りの二匹にも次々と連鎖して直撃した。
空気が焦げる強烈な匂い。三匹の巨大な魔物は、悲鳴を上げる暇もなく全身を黒焦げにして、ドスンと重い音を立てて崩れ落ちた。

「ふう……」

俺は急いで剣をしまい、地面にへたり込んでいるセリアに駆け寄った。

「セリア、大丈夫か! いきなり横殴りしてごめん!」

俺が声をかけると、セリアは目を大きく見開き、信じられないものを見るような目で、俺と黒焦げになった魔物たちを交互に見つめた。

「え……? あ、あなたは……渉、さん……?」
「ああ、本当にごめん!」

俺は彼女の泥だらけの鎧を見ながら、平謝りした。

「君は上級冒険者だから、わざとメイン武器の耐久値をゼロにして『武器破壊ボーナス』を発動させつつ、HPをギリギリまで減らしてレアドロップ率を跳ね上げる『背水バフ』のセットアップ中だったんだよな。俺でも倒せる程度の敵なんだから、君が負けるわけないのに……」

俺がそう言い訳をして早口で続けると、セリアはぽかんと口を開けたまま固まってしまった。

「でもさ、盾を弾かれて地面に転がった時点で『ダウン判定』になっちゃっただろ? あの魔物の最高レア素材は、ノーダメージじゃなくても『一度もダウンしないこと』が隠し条件なんだよ。だから、せっかくのレアエネミー三匹なのに、ダウンバフが消えたあのまま君が倒してもノーマルドロップしか出ないんだ。もったいないから、俺が横殴りしてキルして、一回リセットしてやった方がいいと思ってさ」

俺は完全に善意からの行動だったことを主張した。
しかし、トッププレイヤーからすれば、自分で苦労して集めたレアエネミーを素人に勝手に横入りされて倒されたのだから、不快に思うのも無理はない。

「無事ならよかった。俺、東門の防衛イベントでリナを置いてきちゃったから、急いで戻らないと。君の高度な狩りの邪魔をして本当にごめん! それじゃあ!」

俺は彼女からの説教が始まる前に、逃げるようにその場から立ち去った。
まずはリナと合流して、東門のゴブリンたちを片付けなければ。俺は全速力で庭園を駆け抜けた。



◇ セリア視点 ◇

私は、死と凌辱の恐怖に全身を震わせていた。
貴族としての誇りを胸に、館の敷地内に侵入してきた魔物を迎え撃ったものの、見たこともない巨大で恐ろしい化け物の前に、私の上級冒険者としての剣術は全く通用しなかった。

愛用の剣はへし折られ、盾は弾き飛ばされた。
泥水の中に無様に転がり、見上げれば、醜悪な笑みを浮かべた化け物たちが私を見下ろしている。
もう終わりだ。誇りも尊厳も、ここで全て泥に塗れて奪われるのだ。
そう覚悟して固く目を閉じた、その時だった。

鼓膜を揺らす凄まじい轟音とともに、目も眩むような青白い雷光が走った。
恐る恐る目を開けると、ついさっきまで私を蹂躙しようとしていた三匹の巨大な魔物が、全て黒焦げになって息絶えていたのだ。

「え……?」

呆然とする私の前に、一人の男が駆け寄ってきた。
先日、私の館にお茶を飲みに来た、安物の鉄の剣を下げた新人冒険者。渉さんだった。

彼が魔法を使ったのだ。詠唱すらなかった。
街で最強と言われる中級冒険者たちでさえ手も足も出ない未知の化け物を、たった一撃で、しかも三匹同時に灰にしてしまった。
どれほどの規格外の実力を持っていれば、あんな神話のような魔法が使えるというのか。

彼は私の前に立つと、心底ホッとしたような顔で私を気遣い、そして困ったように頭を下げた。

「わざとメイン武器の耐久値をゼロにして……HPをギリギリまで減らして……レアドロップ率を跳ね上げる『背水バフ』のセットアップ中だったんだよな。俺でも倒せる程度の敵なんだから、君が負けるわけないのに……」

彼が口にする聞き慣れない奇妙な言葉の数々を聞いて、私は息を呑んだ。
ハイコウバフ? レアドロップ? なんなの、それは。
それに、彼でも倒せる程度の敵? この世界を滅ぼしかねないほどの未知の化け物を前にして、彼は何を言っているの?

「でもさ、地面に転がった時点で『ダウン判定』になっちゃっただろ? せっかくのレアエネミー三匹なのに……俺が横殴りしてキルして、一回リセットしてやった方がいいと思ってさ」

その言葉で、私はすべてを理解した。
彼は気づいたのだ。私が貴族であり、何よりも冒険者としてのプライドを高く持っていることに。
無様に敗北し、絶望の中で助けを乞う惨めな姿を晒すことは、私にとって死ぬよりも辛い恥辱だ。

だから彼は、圧倒的な力で私を救いながらも、謎の専門用語を並べ立てて「きっと君なら余裕で勝てたはずだ」「高度な訓練の条件を失敗したから、私が代わりに片付けただけだ」という体裁を取り繕ってくれたのだ。
私の高いプライドと尊厳を、少しも傷つけないために、彼自身が「空気を読まずに横取りした悪者」を演じて。

しかも、彼は私を救うためだけにわざわざこの危険な貴族街まで駆けつけ、私を「上級冒険者」として心から尊敬し、対等に扱ってくれた。

「あんなに強くて……なんて優しくて、器の大きい方なの……」

私の瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
初対面の時に、あんなにも冷たくあしらってしまった男。彼からすれば、私なんてただの傲慢で嫌味な女だったはずだ。それなのに彼は、泥まみれになった私を救い出し、私のちっぽけなプライドを守るためにわざと不器用で優しい言い訳をして、去っていった。

頬が、みるみるうちに熱を帯びて赤く染まっていく。
私の胸の奥で、今まで感じたことのない激しい感情が燃え上がっていた。

「渉様……」

私は泥まみれの地面から立ち上がり、折れた剣の柄を自分の胸に強く抱きしめた。
あの優しい陽だまりのような彼の背中を追いかけるため。そして、彼が信じてくれている「上級冒険者」という名に恥じない、彼にふさわしい女になるため。
私は今日から生まれ変わるのだと、熱い涙を流しながら固く決意した。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

処理中です...