19 / 25
第19話
しおりを挟む
リシアが宿舎に滞在するようになって、数日が経った。彼女は依然として森の民としての誇りを胸に抱いているが、俺やエリス、ルナ、セシリア、リリアとの交流を通じて、少しずつ王都での生活にも慣れてきたようだった。特にルナは、リシアが森の話をしてくれると目を輝かせて聞き入っていた。
「姉様、あのね、ルナね、エリスお姉ちゃんの歌が大好き!」
ルナがエリスの歌に合わせて踊りながら、リシアにそう話しかける。リシアは優しく微笑み、ルナの頭を撫でた。
「そうか。エリスも歌が好きだったな」
◇
ある日、俺はギルドの依頼で、リシアと共に王都周辺の森へ行くことになった。採集クエストで、特定の珍しいキノコを見つけるというものだ。セシリアは他の依頼があるため同行できなかった。
「健太さん、このあたりは魔物の気配が薄いですが、念のため警戒を怠らないでください」
リシアは弓を構え、周囲を警戒しながら俺に注意を促す。彼女の森での生活で培われた感覚は、俺たちとは比べ物にならないほど鋭い。
「ありがとう、リシア。助かるよ」
俺たちは森の奥へと進んでいく。リシアは道中、様々な森の知識を教えてくれた。
「健太さん、この草は薬にも毒にもなる。使い方を間違えれば危険だ」
リシアはそう言って、足元の小さな草を指差した。俺がしゃがんで観察すると、確かにどこにでもありそうな草だが、彼女の説明を聞くとその奥深さに驚かされる。
「へぇ、そうなのか。森って奥が深いな」
「この森には、人間には計り知れない恵みと危険が共存している。私たちは、それを理解し、共に生きている」
リシアは静かにそう語った。その言葉には、森の民としての深い敬意と誇りが込められているのが感じられた。彼女は俺に、様々な薬草の種類や、動物の生態、天候の変化の兆候など、森で生きるための知恵を教えてくれた。彼女の知識は、俺の知る科学とは全く異なる、生命そのものと向き合うような智慧だった。
「健太さん、見てください。これです、探していたキノコは」
リシアが指差す先には、薄暗い森の中でぼんやりと光を放つキノコが生えていた。見た目は地味だが、確かにギルドで見た依頼書のイラストと同じだった。
「おお!すげえ、よく見つけたな!」
俺が感心すると、リシアは控えめに微笑んだ。
「この森のどこに何があるか、私は大体知っている」
採集を終え、帰り道。リシアはふと、エリスの話を切り出した。
「エリスは……あの子は、歌と踊りが好きでな。昔から、森の奥で一人で歌っていた」
リシアの表情は、優しい眼差しに変わっていた。
「森の民は、外の世界に出ることがあまりない。だが、あの子は……いつも外の世界を夢見ていた」
彼女の言葉から、エリスがどれほど歌と踊りを愛し、そしてどれほど外の世界に憧れていたかが伝わってきた。そして、リシアが、そんなエリスをどれほど大切に思っていたのかも。
「だから……あの子がこの王都で、ケンタさんのそばで歌い、踊れているのを見て、私は……」
リシアは言葉を選びながら、ゆっくりと続けた。
「……嬉しい。あの子が幸せなら、それでいいと思っている」
その言葉を聞いた瞬間、俺はリシアがエリスを深く、深く愛していることを確信した。姉妹の間に流れる、強く、温かい絆。森の民としての役目と、妹への深い愛情。リシアの心の中には、相反する感情が複雑に絡み合っていたが、それでも妹の幸せを願う気持ちが、何よりも優先されているのが分かった。
宿舎に戻り、エリスがリシアに駆け寄っていく姿を見た時、俺の心は温かいもので満たされた。二人の間に元々あった強い絆が、再会によってさらに輝きを増しているように思えた。
「姉様、あのね、ルナね、エリスお姉ちゃんの歌が大好き!」
ルナがエリスの歌に合わせて踊りながら、リシアにそう話しかける。リシアは優しく微笑み、ルナの頭を撫でた。
「そうか。エリスも歌が好きだったな」
◇
ある日、俺はギルドの依頼で、リシアと共に王都周辺の森へ行くことになった。採集クエストで、特定の珍しいキノコを見つけるというものだ。セシリアは他の依頼があるため同行できなかった。
「健太さん、このあたりは魔物の気配が薄いですが、念のため警戒を怠らないでください」
リシアは弓を構え、周囲を警戒しながら俺に注意を促す。彼女の森での生活で培われた感覚は、俺たちとは比べ物にならないほど鋭い。
「ありがとう、リシア。助かるよ」
俺たちは森の奥へと進んでいく。リシアは道中、様々な森の知識を教えてくれた。
「健太さん、この草は薬にも毒にもなる。使い方を間違えれば危険だ」
リシアはそう言って、足元の小さな草を指差した。俺がしゃがんで観察すると、確かにどこにでもありそうな草だが、彼女の説明を聞くとその奥深さに驚かされる。
「へぇ、そうなのか。森って奥が深いな」
「この森には、人間には計り知れない恵みと危険が共存している。私たちは、それを理解し、共に生きている」
リシアは静かにそう語った。その言葉には、森の民としての深い敬意と誇りが込められているのが感じられた。彼女は俺に、様々な薬草の種類や、動物の生態、天候の変化の兆候など、森で生きるための知恵を教えてくれた。彼女の知識は、俺の知る科学とは全く異なる、生命そのものと向き合うような智慧だった。
「健太さん、見てください。これです、探していたキノコは」
リシアが指差す先には、薄暗い森の中でぼんやりと光を放つキノコが生えていた。見た目は地味だが、確かにギルドで見た依頼書のイラストと同じだった。
「おお!すげえ、よく見つけたな!」
俺が感心すると、リシアは控えめに微笑んだ。
「この森のどこに何があるか、私は大体知っている」
採集を終え、帰り道。リシアはふと、エリスの話を切り出した。
「エリスは……あの子は、歌と踊りが好きでな。昔から、森の奥で一人で歌っていた」
リシアの表情は、優しい眼差しに変わっていた。
「森の民は、外の世界に出ることがあまりない。だが、あの子は……いつも外の世界を夢見ていた」
彼女の言葉から、エリスがどれほど歌と踊りを愛し、そしてどれほど外の世界に憧れていたかが伝わってきた。そして、リシアが、そんなエリスをどれほど大切に思っていたのかも。
「だから……あの子がこの王都で、ケンタさんのそばで歌い、踊れているのを見て、私は……」
リシアは言葉を選びながら、ゆっくりと続けた。
「……嬉しい。あの子が幸せなら、それでいいと思っている」
その言葉を聞いた瞬間、俺はリシアがエリスを深く、深く愛していることを確信した。姉妹の間に流れる、強く、温かい絆。森の民としての役目と、妹への深い愛情。リシアの心の中には、相反する感情が複雑に絡み合っていたが、それでも妹の幸せを願う気持ちが、何よりも優先されているのが分かった。
宿舎に戻り、エリスがリシアに駆け寄っていく姿を見た時、俺の心は温かいもので満たされた。二人の間に元々あった強い絆が、再会によってさらに輝きを増しているように思えた。
32
あなたにおすすめの小説
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない
仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。
トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。
しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。
先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる