スキル『吸収』で魔物の力を奪い尽くす ~人間がスキルを使えない異世界で俺だけが理外の強さを手に入れる~

仙道

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第1話 女神と森と粘液獣

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「……寒い」

目が覚めたとき、最初に感じたのは強烈な寒気だった。
背中にはゴツゴツとした土と草の感触がある。俺は上体を起こし、周囲を見渡した。
鬱蒼とした森の中だ。見たこともない巨大なシダ植物が生い茂り、空は木々の枝葉に遮られて薄暗い。

「ここは……」
「起きたのね、タケル」

鈴を転がしたような声が聞こえた。
振り返ると、一人の女が木の根元にうずくまっていた。
輝くような金髪に、透き通るほど白い肌。整いすぎた顔立ちは、作り物めいた美しさがある。
そして何より、彼女は全裸だった。
いや、正確には違う。薄い布切れのようなものが体に張り付いているが、それはほとんど意味を成していない。豊かな胸の膨らみも、腰のくびれも、滑らかな太腿も、すべてが露わになっていた。

「君は……誰だ?」
「私はルミナ。あなたをこの世界に招いた女神よ」

彼女は震える声でそう言った。女神? 俺を招いた?
記憶が混濁している。俺は確か、ブラック企業の残業を終えて帰宅し、泥のように眠っていたはずだ。

「招いたって、俺を異世界転移させたのか? よくある話だが」
「ええ。でも、少し手違いがあったの」

ルミナは自身の白い両腕をさすりながら、情けない顔で俺を見上げた。

「あなたを転移させる際、座標のズレが生じて……私までこちらの世界に落ちてしまったの。それも、ただの肉体を持った人間として」
「は?」
「神としての力は使えないわ。今の私は、ただの無力な女。寒さも感じるし、お腹も空く。信じられない……私がこんな下等生物の生理現象に悩まされるなんて」

彼女はブツブツと文句を言い始めた。状況は最悪だ。
俺は立ち上がり、自分の体を確認する。服装は寝間着のスウェットのままだ。スマホも財布もない。

「なあ、女神様。これからどうすればいい? 俺には何か特別なチカラとか、最強の剣とか用意されてるんだろ?」
「ないわよ」

ルミナは即答した。

「この世界は、人間にとって地獄よ。魔法もスキルも、この世界の人間には扱えない。あるのはただの肉体のみ。スキルを使えるのは魔物だけ」
「……なんだそれ」
「でも、あなたには特典としてスキルを一つだけ与えたわ。『吸収』というスキルを」
「吸収?」
「ええ。魔物を倒し、その魔石か肉体を取り込むことで、その魔物が持っていたスキルを奪い取る能力。それが唯一、この世界で人間がスキルを使う方法よ」

説明を聞いている最中だった。
ガサガサ、と近くの茂みが揺れた。

「ひっ!」

ルミナが短く悲鳴を上げ、俺の背後にしがみついてくる。柔らかい胸の感触が背中に押し付けられるが、それを堪能している余裕はない。
茂みから飛び出してきたのは、半透明の緑色をした塊だった。
大きさはバスケットボールほど。ゼリー状の体液を滴らせながら、不規則に脈打っている。

「スライム……か?」
「粘液獣(マクス)よ! 気をつけて、あれの消化液は服くらい簡単に溶かすわ!」

逃げる暇はない。粘液獣はバネのように体を収縮させると、一直線に俺たちへ飛びかかってきた。
俺は反射的に足元の手頃な石を掴んだ。
野球部だった学生時代の感覚が蘇る。

「らあッ!」

石を振り下ろす。
グチャリ、という鈍い音が響いた。
石は粘液獣の中心にある赤い核を直撃し、その体を弾き飛ばした。
粘液獣は地面に転がり、痙攣したあとに動かなくなった。

その瞬間だ。
俺の体の中を、熱い何かが駆け巡った。

『――対象の沈黙を確認。スキル《粘着》を獲得しました』

頭の中に直接響く声ではない。もっと直感的な、脳の奥に情報が書き込まれるような感覚。
俺は呆然と自分の手を見つめた。
倒した粘液獣の死体から、淡い光の粒子が立ち上り、俺の右手に吸い込まれていく。

「これが……吸収か」

俺は試しに、近くの木の幹に手を触れてみた。
意識して力を込めると、掌から汗のようにネバついた液体が染み出すのがわかる。
手を引くと、樹皮がバリバリと音を立てて剥がれそうになった。強力な接着剤のようだ。

「倒した魔物の能力が、本当に使えるのか」
「す、すご……本当に成功していたのね」

ルミナが俺の背後から顔を出し、安堵のため息をついた。
その拍子に、彼女の豊満な肢体が再び俺の視界に入る。
恐怖が去ったことで、彼女の無防備な姿がより鮮明に意識された。
白い肌には土汚れがつき、寒さで薄っすらと鳥肌が立っている。女神としての威厳など欠片もない、ただのか弱い女だ。

「おい、離れろ。汚れるぞ」
「だ、だって怖かったんだもの……」

ルミナは頬を赤らめ、慌てて俺から身を離した。
しかし、その動きは鈍い。彼女の足元には、先ほどの粘液獣が飛び散らせた粘液が付着していたのだ。

「きゃっ!」

足を取られたルミナが、無様に尻餅をつく。
彼女の太腿の内側に、緑色の粘液がべっとりと張り付いていた。

「最悪……! 取れないわ、これ!」

彼女は涙目で粘液を拭おうとするが、こすればこするほど広がり、肌に絡みついていく。
俺はため息をつき、彼女の前にしゃがみ込んだ。

「じっとしてろ。俺のスキルで中和できるかもしれない」
「え……?」

俺は彼女の太腿に手を伸ばした。
滑らかな肌の感触。そして、不快な粘液のヌメリ。
俺は先ほど手に入れたばかりの『粘着』の感覚を逆転させ、剥離をイメージする。
すると、あんなに頑固だった粘液が、俺の手に吸い寄せられるようにして彼女の肌から離れていった。

「あ……取れた」
「ああ。どうやら、自分の出した粘液以外も制御できるらしいな」

俺は手に残った粘液を地面に払い落とした。
ルミナは顔を真っ赤にして、スカート代わりの布切れで股間を隠している。
その姿を見て、俺は確信した。

この世界には、俺たち以外にスキルを使える人間はいない。
そして目の前には、世界について知っているが、役立たずの女神がいる。
魔物を倒し、その能力を奪い続ければ、俺はこの世界で誰よりも強くなれる。

「行くぞ、ルミナ」
「え? どこへ?」
「まずは安全な場所の確保だ。それと、服と食料。お前、その格好で歩き回るつもりか?」
「う……」

ルミナは恥ずかしそうに身を縮こまらせた。
俺は彼女の手を引き、立ち上がらせる。
その手は驚くほど冷たく、そして柔らかかった。

不安がないと言えば嘘になる。
だが、退屈な日常に戻るよりは、この危険な森の方がマシな気がした。
俺は女神を連れて、道なき森へと歩き出した。
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