魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道

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第4話 ギルドの魔道具

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 森を抜け、俺たちは城塞都市ベルンに到着した。  巨大な石壁に囲まれた街は、活気に満ちていた。石畳の道を馬車が行き交い、市場からは肉を焼く匂いと、威勢のいい呼び込みの声が聞こえる。  俺のスーツ姿は浮いていたが、隣にボロボロとはいえ騎士鎧を着たエレナがいるおかげで、奇異な目で見られるだけで済んだ。

「まずは冒険者ギルドへ向かいましょう。魔石の換金と、サガミ様の登録が必要です」

 エレナの案内で、街の中心部にある大きな木造建築へ入る。  中は荒っぽい男たちで溢れかえっていた。昼間から酒を飲んでいる者、依頼書の貼られた掲示板を睨む者。  俺たちがカウンターに進むと、受付の女性が愛想よく対応した。

「新規登録ですね。では、こちらの水晶に手を触れてください。魔力量を測定し、初期ランクを決定します」

 出されたのは、バスケットボール大の透明な水晶玉だ。  俺は眉をひそめた。  魔力測定。一番避けたかった事態だ。俺に魔力がないことが露見すれば、「ただの一般人」として門前払いされる可能性がある。

「……触れるだけでいいのか?」 
「はい。体内の魔力回路に反応して発光しますので」

 俺はチラリとエレナを見た。彼女は「伝説の大賢者の力を見せてやってください」と言わんばかりの期待の眼差しを送ってくる。  ため息をつきながら、俺は水晶に右手を置いた。

 ……シーン。

 何も起きない。  光るどころか、曇りもしない。ただのガラス玉を触っているだけだ。  受付嬢が首を傾げ、水晶をペチペチと叩く。

「あれ? 故障でしょうか。反応が……一切ありません」

 周囲の冒険者たちが

「なんだ、魔力なしか?」
「一般人が紛れ込んだか」

 とクスクス笑い始める。  やはりこうなるか。俺が口を開きかけた時、ドン! とエレナがカウンターを叩いた。

「無礼な! この方の魔力は、そんな安物の水晶で測れるような底の浅いものではない!」 
「えっ、あ、いえ、でも……」 
「サガミ様は、魔力を完全に『制御』されているのだ。一滴の漏出も許さぬほど完璧に! その証拠に、これを見ろ!」

 エレナは、俺たちが持ってきたガーゴイルの核と、リビングアーマーの破片をカウンターにぶちまけた。  切断面が鏡のように滑らかな、高純度の金属片だ。  ざわめきが止まる。  物理攻撃無効のガーゴイルを一刀両断し、鋼鉄の鎧をバターのように斬った痕跡。

「こ、これを……剣一本で?」 
「そうだ。魔法による強化なしで、これほどの芸当ができるか? 全ては、身体能力すら凌駕する圧縮された魔力制御の賜物だ!」

 エレナの強引な理屈に、周囲の空気が変わった。  「反応がない」のではなく「凄すぎて反応させない」。  未知の現象を前にした時、人はより劇的な解釈を好む。

「し、失礼しました! 特例として、実力行使枠での登録をさせていただきます!」

 受付嬢が慌てて書類を作成し始めた。  俺はエレナに小声で「助かった」と告げる。彼女は誇らしげに胸を張った。

 登録を終え、素材の換金でそれなりの大金を手に入れた俺たちは、そのまま魔道具屋へ向かった。  身を守る装備が必要だ。だが、俺には普通の魔道具は使えない可能性がある(魔力がないため起動しない)。  逆に言えば、「起動に魔力を必要とせず、常時発動しているタイプ」なら使えるかもしれない。

「いらっしゃい。うちは一級品しか置いてないよ」

 店主の好々爺が並べたのは、炎を纏う剣や、自動防御の指輪など、高価な品ばかりだ。  俺はそれらを無視して、店の隅にある埃をかぶった木箱を指差した。

「あっちの在庫処分品を見せてくれ」 
「え? お客さん、あそこにあるのは『訳あり品』ばかりだぞ。副作用が強すぎて、誰も使えないガラクタだ」 
「構わない」

 俺は木箱を漁った。  俺の仮説が正しければ、この世界の「副作用」や「代償」は、すべて魔力的なプロセスを経て発生する。  ならば、俺には関係ない。

 最初に取り出したのは、黒鉄のフルフェイス兜だった。

「それは『暗闇の兜』だ。被ると視力を奪われる。脱いでもしばらく目が霞む、厄介な代物だ」

 俺は迷わず兜を被った。  ガチャン、と視界が閉ざされる――ことはなかった。  スリットの隙間から、店の風景が普通に見える。そして、その視界に重なるように、ぼんやりと生物の体温が赤く浮かび上がって見えた。サーモグラフィーだ。

(なるほど。視覚神経への魔力干渉による視界遮断は、俺には効かない。だが、レンズに付与された熱源感知の効果だけは、光学的に機能している)

 ただの「高性能な暗視スコープ付きヘルメット」になったわけだ。

「おいおい、被っちまったよ。前が見えないだろう? 外すのに苦労するぞ」 
「いや、これはいいな。もらうよ」 
「は?」 
「いくらだ?」 
「い、いや、銀貨三枚でいいが……」

 俺は兜を被ったまま、正確に財布から銀貨を取り出し、カウンターに並べてみせた。  店主が口をパクパクさせている。  隣でエレナが「サガミ様にかかれば、視覚への呪詛など児戯に等しい」と勝手に解説を入れている。

 俺はさらに箱を漁った。  次に手に取ったのは、赤黒い皮でできた不気味な籠手(こて)だった。

「それは『剛力の籠手』。岩をも砕く怪力を得られるが、反動で使用者の腕の骨を内側から砕く呪いがかかっている」

 物理的な反作用ではなく、呪いによる破壊か。  俺は左手にそれを装着し、試しに近くにあった鉄の廃材を握りしめた。  グシャリ。  粘土のように鉄がひしゃげる。  俺の腕には、何の痛みもない。筋肉への電気信号的なアシストだけが働き、骨を砕くための魔力フィードバックは発生しなかった。

「これも買おう」 
「……あんた、一体何者なんだ」

 店主の戦慄をよそに、俺は満足げに買い物を終えた。  市場価値ゼロのゴミ山は、俺にとって宝の山だった。  これで、攻撃、防御、探知の手段が揃った。  俺は兜を小脇に抱え、店を出た。

「さて、次は宿だな。疲れただろう、エレナ」 
「いえ! サガミ様の深淵なるお力の一端を拝見し、疲れも吹き飛びました!」

 エレナの目がキラキラしすぎているのが気になるが、まあ、頼りにはなる。  俺たちは夕暮れの街を、宿屋に向かって歩き出した。
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