5 / 25
第5話 騎士の誇りと汚名
しおりを挟む
宿での休息は短かった。 翌朝、俺とエレナは市場で食料を調達していた。この街を出て、次の目的地へ向かう準備だ。 だが、その平和な時間は不快な声によって遮られた。
「おや? 誰かと思えば、落ちこぼれのエレナじゃないか」
振り返ると、銀色の鎧に身を包んだ男たちが三人、ニヤニヤしながらこちらを見ていた。 胸には騎士団の紋章。エレナの元同僚たちだ。
「……バルガス」
エレナの肩が強張る。 中央の男、バルガスと呼ばれた男が一歩前に出た。
「騎士団をクビになって、野垂れ死んだかと思っていたが……。なんだ、今はそんな怪しい男の情婦にでも落ちぶれたか?」
男たちの視線が俺に向く。 スーツの上に『暗闇の兜』を抱え、片手に『剛力の籠手』をつけた俺の姿は、確かに怪しい。 だが、それ以上に彼らの目は侮蔑に満ちていた。
「言葉を慎め!」
エレナが叫んだ。
「この方は、私など足元にも及ばないお力を持った、偉大なお方だ! 無礼な口を利けば、タダでは済まないぞ!」
「偉大なお方ぁ? 魔力も感じねえヒョロガリがか?」
バルガスたちが爆笑する。 周囲の野次馬が集まり始めた。 バルガスは芝居がかった仕草で俺を指差した。
「おいおい、エレナ。お前が魔力なしの欠陥品だからって、男まで欠陥品を選ぶことはねえだろ? そいつ、ちゃんと魔法の一つも使えるのか?」
挑発は続く。 エレナが剣の柄に手をかけたが、俺はそれを手で制した。 こんな街中で抜刀騒ぎを起こせば、衛兵が飛んでくる。そして、俺に魔力がないことが公になれば面倒だ。 俺は冷静にバルガスを見据えた。
「俺の能力を試したいなら、場所を変えようか。それとも、ここで恥をかきたいか?」
俺の言葉に、バルガスの顔から笑みが消えた。 彼は鼻を鳴らし、路地裏を指差した。
「いいだろう。少し躾(しつけ)をしてやる。ついて来い」
人気のない路地裏。 バルガスたちはニヤつきながら、懐から何かを取り出した。 小さな水晶玉だ。
「魔法使い相手に剣で勝負なんて野暮なことはしねえ。俺たち騎士団特製の『幻惑の罠』だ」
彼らが水晶を地面に転がすと、薄い霧が発生した。 魔法の罠。視界を惑わせ、方向感覚を狂わせる簡易結界のようなものらしい。 エレナが顔色を変える。
「卑怯な! 市街地で魔法具を使うなど!」
「へへっ、文句があるなら抜け出してみろよ。この霧の中じゃ、魔力感知が狂って、一歩も動けなくなる。泣いて詫びれば許してやるよ」
バルガスたちが霧の外で笑っている。 エレナはすでに霧の影響を受けているのか、ふらふらと足元を覚束なくさせていた。 なるほど。魔力を持つ者の感覚器官に干渉し、平衡感覚を奪う仕組みか。
俺はため息をつき、小脇に抱えていた『暗闇の兜』を被った。
スリット越しの視界に、サーモグラフィーの映像が重なる。 霧? 俺にはただの薄い煙にしか見えない。魔力による幻覚効果は、魔力を持たない俺の脳には届かないからだ。 そして、兜の熱源探知が、霧の向こうでニヤついているバルガスたちの位置を正確に捉えていた。
「サ、サガミ様……どこですか……目が回って……」
エレナがうずくまる。 俺は彼女の肩を軽く叩き、「ここにいる」と告げてから、霧の中を真っ直ぐに歩き出した。 迷いはない。 最短距離で、バルガスの目の前まで。
「なっ!?」
霧の中から突然現れた俺に、バルガスが目を見開いた。
「ば、馬鹿な! 幻惑の霧の中で、なぜ正確に俺の位置がわかる!?」
俺は答えず、左手の『剛力の籠手』で、近くにあった木箱を掴んだ。 ミシミシと音がして、木箱が粉砕される。 その圧倒的な握力を見せつけながら、俺はバルガスの胸倉を掴み上げた。
「ひっ……!」
籠手のパワーアシストで、成人男性の身体がいとも簡単に持ち上がる。 俺は兜のスリット越しに、冷ややかな視線を彼に浴びせた。
「幻術など、俺には通じない」
ドスの効いた声ではない。ただの事実としての言葉だ。 バルガスは恐怖に顔を引きつらせ、足をバタつかせた。
「わ、わかった! 俺たちの負けだ! 離せ、腕が折れる!」
俺は手を離した。 バルガスは尻餅をつき、仲間たちと共に蜘蛛の子を散らすように逃げていった。 霧が晴れていく。 うずくまっていたエレナが、よろめきながら立ち上がった。
「サガミ様……」
彼女は、逃げていく元同僚たちの背中と、仁王立ちする俺を交互に見た。 そして、込み上げてくる感情を抑えきれないように、瞳を潤ませた。
「あの『幻惑の罠』は、騎士団の入団試験でも使われる難関……。それを、一瞥もくれずに突破するなんて……」
「視界が悪かったから、兜を使っただけだ」
俺は兜を脱ぎ、何食わぬ顔で言った。 エレナは俺の手を取り、その場に跪いた。
「私を追放した彼らが、あんなに怯えて逃げ帰るなんて……。私の目は間違っていなかった。サガミ様こそ、真の強者です」
彼女の手が震えている。 長年のコンプレックスが、俺の行動によって間接的にだが、粉砕されたのだ。 俺は彼女の手を引き、立たせた。
「行くぞ。馬車が待っている」
エレナは涙を拭い、満面の笑みで頷いた。
「はい! どこまでも!」
俺たちは街を後にした。 背後には、俺の「武勇伝」がまた一つ、勝手に語り継がれようとしていた。
「おや? 誰かと思えば、落ちこぼれのエレナじゃないか」
振り返ると、銀色の鎧に身を包んだ男たちが三人、ニヤニヤしながらこちらを見ていた。 胸には騎士団の紋章。エレナの元同僚たちだ。
「……バルガス」
エレナの肩が強張る。 中央の男、バルガスと呼ばれた男が一歩前に出た。
「騎士団をクビになって、野垂れ死んだかと思っていたが……。なんだ、今はそんな怪しい男の情婦にでも落ちぶれたか?」
男たちの視線が俺に向く。 スーツの上に『暗闇の兜』を抱え、片手に『剛力の籠手』をつけた俺の姿は、確かに怪しい。 だが、それ以上に彼らの目は侮蔑に満ちていた。
「言葉を慎め!」
エレナが叫んだ。
「この方は、私など足元にも及ばないお力を持った、偉大なお方だ! 無礼な口を利けば、タダでは済まないぞ!」
「偉大なお方ぁ? 魔力も感じねえヒョロガリがか?」
バルガスたちが爆笑する。 周囲の野次馬が集まり始めた。 バルガスは芝居がかった仕草で俺を指差した。
「おいおい、エレナ。お前が魔力なしの欠陥品だからって、男まで欠陥品を選ぶことはねえだろ? そいつ、ちゃんと魔法の一つも使えるのか?」
挑発は続く。 エレナが剣の柄に手をかけたが、俺はそれを手で制した。 こんな街中で抜刀騒ぎを起こせば、衛兵が飛んでくる。そして、俺に魔力がないことが公になれば面倒だ。 俺は冷静にバルガスを見据えた。
「俺の能力を試したいなら、場所を変えようか。それとも、ここで恥をかきたいか?」
俺の言葉に、バルガスの顔から笑みが消えた。 彼は鼻を鳴らし、路地裏を指差した。
「いいだろう。少し躾(しつけ)をしてやる。ついて来い」
人気のない路地裏。 バルガスたちはニヤつきながら、懐から何かを取り出した。 小さな水晶玉だ。
「魔法使い相手に剣で勝負なんて野暮なことはしねえ。俺たち騎士団特製の『幻惑の罠』だ」
彼らが水晶を地面に転がすと、薄い霧が発生した。 魔法の罠。視界を惑わせ、方向感覚を狂わせる簡易結界のようなものらしい。 エレナが顔色を変える。
「卑怯な! 市街地で魔法具を使うなど!」
「へへっ、文句があるなら抜け出してみろよ。この霧の中じゃ、魔力感知が狂って、一歩も動けなくなる。泣いて詫びれば許してやるよ」
バルガスたちが霧の外で笑っている。 エレナはすでに霧の影響を受けているのか、ふらふらと足元を覚束なくさせていた。 なるほど。魔力を持つ者の感覚器官に干渉し、平衡感覚を奪う仕組みか。
俺はため息をつき、小脇に抱えていた『暗闇の兜』を被った。
スリット越しの視界に、サーモグラフィーの映像が重なる。 霧? 俺にはただの薄い煙にしか見えない。魔力による幻覚効果は、魔力を持たない俺の脳には届かないからだ。 そして、兜の熱源探知が、霧の向こうでニヤついているバルガスたちの位置を正確に捉えていた。
「サ、サガミ様……どこですか……目が回って……」
エレナがうずくまる。 俺は彼女の肩を軽く叩き、「ここにいる」と告げてから、霧の中を真っ直ぐに歩き出した。 迷いはない。 最短距離で、バルガスの目の前まで。
「なっ!?」
霧の中から突然現れた俺に、バルガスが目を見開いた。
「ば、馬鹿な! 幻惑の霧の中で、なぜ正確に俺の位置がわかる!?」
俺は答えず、左手の『剛力の籠手』で、近くにあった木箱を掴んだ。 ミシミシと音がして、木箱が粉砕される。 その圧倒的な握力を見せつけながら、俺はバルガスの胸倉を掴み上げた。
「ひっ……!」
籠手のパワーアシストで、成人男性の身体がいとも簡単に持ち上がる。 俺は兜のスリット越しに、冷ややかな視線を彼に浴びせた。
「幻術など、俺には通じない」
ドスの効いた声ではない。ただの事実としての言葉だ。 バルガスは恐怖に顔を引きつらせ、足をバタつかせた。
「わ、わかった! 俺たちの負けだ! 離せ、腕が折れる!」
俺は手を離した。 バルガスは尻餅をつき、仲間たちと共に蜘蛛の子を散らすように逃げていった。 霧が晴れていく。 うずくまっていたエレナが、よろめきながら立ち上がった。
「サガミ様……」
彼女は、逃げていく元同僚たちの背中と、仁王立ちする俺を交互に見た。 そして、込み上げてくる感情を抑えきれないように、瞳を潤ませた。
「あの『幻惑の罠』は、騎士団の入団試験でも使われる難関……。それを、一瞥もくれずに突破するなんて……」
「視界が悪かったから、兜を使っただけだ」
俺は兜を脱ぎ、何食わぬ顔で言った。 エレナは俺の手を取り、その場に跪いた。
「私を追放した彼らが、あんなに怯えて逃げ帰るなんて……。私の目は間違っていなかった。サガミ様こそ、真の強者です」
彼女の手が震えている。 長年のコンプレックスが、俺の行動によって間接的にだが、粉砕されたのだ。 俺は彼女の手を引き、立たせた。
「行くぞ。馬車が待っている」
エレナは涙を拭い、満面の笑みで頷いた。
「はい! どこまでも!」
俺たちは街を後にした。 背後には、俺の「武勇伝」がまた一つ、勝手に語り継がれようとしていた。
98
あなたにおすすめの小説
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる