魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道

文字の大きさ
6 / 25

第6話 【エレナ視点】英雄の背中

しおりを挟む
 この世界において、魔力は絶対的な階級そのものだ。  生まれ持った魔力量の多寡が、その者の人生を決める。騎士の家に生まれながら魔力が少なかった私は、幼い頃から「出来損ない」の烙印を押され続けてきた。  努力で剣術を磨いても、身体強化魔法を使える凡夫にあっさりと力負けする。  家宝である聖剣に拒絶され、騎士団を追放されたあの日、私の心は完全に折れていた。

 死に場所を探して迷宮に入った。  目の前には、伝説の『魔剣グラム』。触れただけで人の命を啜り尽くす、悪意の塊。  あれを使って怪物と刺し違えれば、せめて騎士として死ねると思った。  けれど、いざその時になると、私は震えて動けなかった。死への恐怖と、魔剣が放つ冷気にあてられ、無様に涙を流していた。

 そんな私の前に、彼は現れた。  相模登(さがみ のぼる)。  彼は、私が触れることすらできなかった魔剣を、まるで落ちていた枝でも拾うように無造作に掴み取った。  血を吸われ、干からびて死ぬはずの彼が、平然と剣を振るう。  鋼鉄の巨人が紙細工のように切り裂かれる光景を、私は息をするのも忘れて見つめていた。

 魔力という理(ことわり)を、彼は嘲笑うかのように踏み越えていく。  その背中は、私が絵物語で憧れたどんな英雄よりも大きく、そして鮮烈だった。



 宿屋の一室。窓から差し込む月明かりが、ベッドで眠るサガミ様の顔を照らしている。  私は椅子に座り、彼が「予備のナイフ」として腰に差している魔剣グラムの手入れをしていた。  かつてあれほど恐ろしかった魔剣が、今は不思議と愛おしく感じる。彼が握る剣だからだ。

 昼間の出来事を思い出す。  私を嘲笑った元同僚のバルガスたち。彼らは騎士団自慢の魔法の罠で私たちを嵌めようとした。  けれど、サガミ様は魔法など意に介さなかった。  『暗闇の兜』。視力を奪う呪いの装備を、彼は平然と使いこなし、霧の中で正確に敵を追い詰めた。  そして『剛力の籠手』による、圧倒的な暴力。  魔法に頼りきっていたバルガスたちが、物理的な力でねじ伏せられ、無様に逃げ惑う姿。

 胸がすくような思いだった。  だが、それ以上に嬉しかったのは、その後のサガミ様の言葉だ。

『道具なんてのは、使える奴が使えばいい。お前にはお前の使い道があるはずだ』

 森で言われたその言葉が、私の胸に深く刻まれている。  彼は私の魔力量など気にしなかった。  「魔力が少ないから無価値」だと切り捨てられた私に、「使い道がある」と言ってくれた。  重い荷物を持ち、道案内をし、夜の見張りをする。そんな雑用のようなことでも、彼が任せてくれるなら、それは私にとって至上の任務となる。

 サガミ様は、魔力を持たないふりをしている。  ご自身を「ただの人間」だと言う。  だが、そんなはずがない。呪いの装備を全身に纏い、副作用を微塵も感じさせないその姿。それは、魔力という概念を超越した、神域の領域にいる証拠だ。  彼はきっと、人の世の常識に合わせて力を抑えているのだ。  そして、その「抑えた状態」では、彼は無防備な人間に見える。  今だってそうだ。無防備に寝息を立てている。

 ――私が守らなければ。

 強い使命感が、胸の奥から湧き上がる。  彼は呪いを無効化できるが、背後から刺されれば血を流す(と、彼は演技をしているのかもしれないが)。  ならば、その背中を守るのは私の役目だ。  魔力なんていらない。  この身と、剣技と、命のすべてを賭けて、彼の盾となろう。

 私は手入れを終えた魔剣を鞘に収め、そっと彼の枕元に置いた。  そして、衝動に駆られるまま、眠る彼の手の甲に、唇を寄せる。  音を立てないように。起こさないように。

「……おやすみなさい、私の主」

 騎士の誓いではない。一人の女としての、愛の誓い。  彼が目覚めた時、一番に役立つ道具でありたい。  そう願いながら、私は剣を抱き、朝まで彼の寝顔を見守り続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...