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第7話 森の拒絶
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ベルンを出て三日目。俺とエレナは、隣国へ抜けるための最短ルートである「静寂の森」に足を踏み入れていた。 鬱蒼と茂る巨木が空を覆い隠し、昼間でも薄暗い。 だが、何より異様なのはその「音」のなさだった。鳥のさえずりも、虫の音もしない。俺たちの足音が、不自然なほど大きく響く。
「サガミ様、足音を忍ばせてください」
先行するエレナが、小声で警告してきた。彼女はすでに剣を抜き、殺気立っている。
「この森には『聴音獣(サウンドイーター)』が生息しています。音を立てた獲物に群がり、骨まで食らい尽くす厄介な魔獣です」
「音に反応するのか」
「はい。しかも彼らは、魔法の発動音や、魔力の流れる微細な振動音に特に敏感です。魔術師にとっては鬼門の森と言われています」
なるほど。魔法を使うと即座に見つかるわけか。 俺は懐から『暗闇の兜』を取り出し、被った。 視界がサーモグラフィーに切り替わる。薄暗い森の奥まで、熱源反応がはっきりと見て取れた。 前方五十メートル。木々の枝上に、複数の赤い熱源がある。蝙蝠(こうもり)のような形だが、サイズは人間より大きい。
「いるな。前方に六体」
「えっ? 気配は感じませんが……」
「体温が見えるんだ」
俺が指差した瞬間、森の奥から悲鳴のような音が響いた。 金属音と、何か硬いものが砕ける音。そして、微かなうめき声。
「……誰か襲われている?」
「行ってみよう」
俺たちは音のした方へ走った。 もちろん、足音は盛大に立ててしまうが、すでに獲物を見つけた聴音獣たちは俺たちの足音など気にしていないようだった。
開けた場所に出ると、そこには一方的な蹂躙があった。 巨大な耳を持つ狼のような魔獣の群れが、一本の巨木を取り囲んでいる。 木の根元には、一人の少女が倒れ込んでいた。 長い耳、透き通るような銀髪。エルフだ。 彼女は必死に短剣を振るっているが、その動きは鈍い。何より異常なのは、彼女が首に嵌めている金属製の首輪だった。 首輪は赤く明滅し、ブーンという低い唸り声を上げている。
「あれは……『沈黙の首輪』!? 奴隷用の拘束具か!?」
エレナが驚愕の声を上げる。 エルフの少女は、魔獣の爪を肩に受け、苦悶の表情で地面を転がった。 声を出そうとしているようだが、口を開いても空気が漏れる音しかしない。
「助けるぞ」
俺は左手の『剛力の籠手』を強く握りしめた。 魔獣の一体が、少女の喉笛に食らいつこうと跳躍する。
俺は地面を蹴り、その軌道上に割り込んだ。 兜のスリット越しに、魔獣の驚いたような目が見える。 空中で迎撃。 俺は左の拳を、魔獣の横っ面に叩き込んだ。
ドゴォッ!!
鈍い音と共に、魔獣の頭部がひしゃげる。 籠手のパワーアシストは強烈だ。車に衝突したような衝撃を受け、魔獣は木に叩きつけられて絶命した。
「グルルッ!?」
残りの魔獣たちが一斉にこちらを向く。 だが、遅い。 エレナが飛び出し、魔剣グラムを一閃させた。 黒い刃が音もなく二体の首を刎ねる。
「サガミ様の御前である! 散れ、下等生物ども!」
エレナの気迫と、仲間の瞬殺に恐れをなしたのか、残りの魔獣たちは尻尾を巻いて森の奥へと逃げ去っていった。 静寂が戻る。
「大丈夫か?」
俺は兜を脱ぎ、うずくまるエルフの少女に近づいた。 彼女は肩で息をしながら、怯えた目で俺を見上げた。その手は、首の首輪を必死に掴んでいる。 近くで見ると、首輪の状態が異常なことがわかった。 赤熱しているのだ。金属が焼けつくような熱を発している。
「……あ、う……」
彼女は口を動かすが、声にならない。 エレナが顔を青くして駆け寄ってきた。
「サガミ様、まずいです! その首輪は、着用者の魔力を燃料にして封印機能を維持するタイプです。ですが、今は魔力供給が不安定になって暴走しかけています!」
「暴走するとどうなる?」
「着用者の魔力を根こそぎ吸い尽くした挙句……爆発します」
爆弾を首に巻いているようなものか。 少女の顔色が土気色に変わっていく。魔力欠乏によるショック症状だ。 彼女は涙を溜めた目で、諦めたように首を横に振った。 『逃げて』と言っているのだろう。
「構造は?」
「解除コードがないと無理です! 無理に外そうとすれば、防衛機構が働いて即座に起爆します!」
エレナが叫ぶ。 なるほど。魔法的なセキュリティロックがかかっているわけだ。 俺は少女の前に片膝をつき、首輪を観察した。 複雑な紋様が刻まれた金属の輪。 魔力を感知し、吸い上げ、ロックを維持する。そして不正な魔力干渉があれば爆発する。 典型的な「対魔術師」用の罠だ。
……なら、関係ないな。
「じっとしてろ」
俺は静かに手を伸ばした。 少女がビクリと身を竦め、目を閉じる。 俺の指先が、熱を帯びた首輪に触れた。
「サガミ様、足音を忍ばせてください」
先行するエレナが、小声で警告してきた。彼女はすでに剣を抜き、殺気立っている。
「この森には『聴音獣(サウンドイーター)』が生息しています。音を立てた獲物に群がり、骨まで食らい尽くす厄介な魔獣です」
「音に反応するのか」
「はい。しかも彼らは、魔法の発動音や、魔力の流れる微細な振動音に特に敏感です。魔術師にとっては鬼門の森と言われています」
なるほど。魔法を使うと即座に見つかるわけか。 俺は懐から『暗闇の兜』を取り出し、被った。 視界がサーモグラフィーに切り替わる。薄暗い森の奥まで、熱源反応がはっきりと見て取れた。 前方五十メートル。木々の枝上に、複数の赤い熱源がある。蝙蝠(こうもり)のような形だが、サイズは人間より大きい。
「いるな。前方に六体」
「えっ? 気配は感じませんが……」
「体温が見えるんだ」
俺が指差した瞬間、森の奥から悲鳴のような音が響いた。 金属音と、何か硬いものが砕ける音。そして、微かなうめき声。
「……誰か襲われている?」
「行ってみよう」
俺たちは音のした方へ走った。 もちろん、足音は盛大に立ててしまうが、すでに獲物を見つけた聴音獣たちは俺たちの足音など気にしていないようだった。
開けた場所に出ると、そこには一方的な蹂躙があった。 巨大な耳を持つ狼のような魔獣の群れが、一本の巨木を取り囲んでいる。 木の根元には、一人の少女が倒れ込んでいた。 長い耳、透き通るような銀髪。エルフだ。 彼女は必死に短剣を振るっているが、その動きは鈍い。何より異常なのは、彼女が首に嵌めている金属製の首輪だった。 首輪は赤く明滅し、ブーンという低い唸り声を上げている。
「あれは……『沈黙の首輪』!? 奴隷用の拘束具か!?」
エレナが驚愕の声を上げる。 エルフの少女は、魔獣の爪を肩に受け、苦悶の表情で地面を転がった。 声を出そうとしているようだが、口を開いても空気が漏れる音しかしない。
「助けるぞ」
俺は左手の『剛力の籠手』を強く握りしめた。 魔獣の一体が、少女の喉笛に食らいつこうと跳躍する。
俺は地面を蹴り、その軌道上に割り込んだ。 兜のスリット越しに、魔獣の驚いたような目が見える。 空中で迎撃。 俺は左の拳を、魔獣の横っ面に叩き込んだ。
ドゴォッ!!
鈍い音と共に、魔獣の頭部がひしゃげる。 籠手のパワーアシストは強烈だ。車に衝突したような衝撃を受け、魔獣は木に叩きつけられて絶命した。
「グルルッ!?」
残りの魔獣たちが一斉にこちらを向く。 だが、遅い。 エレナが飛び出し、魔剣グラムを一閃させた。 黒い刃が音もなく二体の首を刎ねる。
「サガミ様の御前である! 散れ、下等生物ども!」
エレナの気迫と、仲間の瞬殺に恐れをなしたのか、残りの魔獣たちは尻尾を巻いて森の奥へと逃げ去っていった。 静寂が戻る。
「大丈夫か?」
俺は兜を脱ぎ、うずくまるエルフの少女に近づいた。 彼女は肩で息をしながら、怯えた目で俺を見上げた。その手は、首の首輪を必死に掴んでいる。 近くで見ると、首輪の状態が異常なことがわかった。 赤熱しているのだ。金属が焼けつくような熱を発している。
「……あ、う……」
彼女は口を動かすが、声にならない。 エレナが顔を青くして駆け寄ってきた。
「サガミ様、まずいです! その首輪は、着用者の魔力を燃料にして封印機能を維持するタイプです。ですが、今は魔力供給が不安定になって暴走しかけています!」
「暴走するとどうなる?」
「着用者の魔力を根こそぎ吸い尽くした挙句……爆発します」
爆弾を首に巻いているようなものか。 少女の顔色が土気色に変わっていく。魔力欠乏によるショック症状だ。 彼女は涙を溜めた目で、諦めたように首を横に振った。 『逃げて』と言っているのだろう。
「構造は?」
「解除コードがないと無理です! 無理に外そうとすれば、防衛機構が働いて即座に起爆します!」
エレナが叫ぶ。 なるほど。魔法的なセキュリティロックがかかっているわけだ。 俺は少女の前に片膝をつき、首輪を観察した。 複雑な紋様が刻まれた金属の輪。 魔力を感知し、吸い上げ、ロックを維持する。そして不正な魔力干渉があれば爆発する。 典型的な「対魔術師」用の罠だ。
……なら、関係ないな。
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