魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道

文字の大きさ
7 / 25

第7話 森の拒絶

しおりを挟む
 ベルンを出て三日目。俺とエレナは、隣国へ抜けるための最短ルートである「静寂の森」に足を踏み入れていた。  鬱蒼と茂る巨木が空を覆い隠し、昼間でも薄暗い。  だが、何より異様なのはその「音」のなさだった。鳥のさえずりも、虫の音もしない。俺たちの足音が、不自然なほど大きく響く。

「サガミ様、足音を忍ばせてください」

 先行するエレナが、小声で警告してきた。彼女はすでに剣を抜き、殺気立っている。

「この森には『聴音獣(サウンドイーター)』が生息しています。音を立てた獲物に群がり、骨まで食らい尽くす厄介な魔獣です」 
「音に反応するのか」 
「はい。しかも彼らは、魔法の発動音や、魔力の流れる微細な振動音に特に敏感です。魔術師にとっては鬼門の森と言われています」

 なるほど。魔法を使うと即座に見つかるわけか。  俺は懐から『暗闇の兜』を取り出し、被った。  視界がサーモグラフィーに切り替わる。薄暗い森の奥まで、熱源反応がはっきりと見て取れた。  前方五十メートル。木々の枝上に、複数の赤い熱源がある。蝙蝠(こうもり)のような形だが、サイズは人間より大きい。

「いるな。前方に六体」 
「えっ? 気配は感じませんが……」 
「体温が見えるんだ」

 俺が指差した瞬間、森の奥から悲鳴のような音が響いた。  金属音と、何か硬いものが砕ける音。そして、微かなうめき声。

「……誰か襲われている?」 
「行ってみよう」

 俺たちは音のした方へ走った。  もちろん、足音は盛大に立ててしまうが、すでに獲物を見つけた聴音獣たちは俺たちの足音など気にしていないようだった。

 開けた場所に出ると、そこには一方的な蹂躙があった。  巨大な耳を持つ狼のような魔獣の群れが、一本の巨木を取り囲んでいる。  木の根元には、一人の少女が倒れ込んでいた。  長い耳、透き通るような銀髪。エルフだ。  彼女は必死に短剣を振るっているが、その動きは鈍い。何より異常なのは、彼女が首に嵌めている金属製の首輪だった。  首輪は赤く明滅し、ブーンという低い唸り声を上げている。

「あれは……『沈黙の首輪』!? 奴隷用の拘束具か!?」

 エレナが驚愕の声を上げる。  エルフの少女は、魔獣の爪を肩に受け、苦悶の表情で地面を転がった。  声を出そうとしているようだが、口を開いても空気が漏れる音しかしない。

「助けるぞ」

 俺は左手の『剛力の籠手』を強く握りしめた。  魔獣の一体が、少女の喉笛に食らいつこうと跳躍する。

 俺は地面を蹴り、その軌道上に割り込んだ。  兜のスリット越しに、魔獣の驚いたような目が見える。  空中で迎撃。  俺は左の拳を、魔獣の横っ面に叩き込んだ。

 ドゴォッ!!

 鈍い音と共に、魔獣の頭部がひしゃげる。  籠手のパワーアシストは強烈だ。車に衝突したような衝撃を受け、魔獣は木に叩きつけられて絶命した。

「グルルッ!?」

 残りの魔獣たちが一斉にこちらを向く。  だが、遅い。  エレナが飛び出し、魔剣グラムを一閃させた。  黒い刃が音もなく二体の首を刎ねる。

「サガミ様の御前である! 散れ、下等生物ども!」

 エレナの気迫と、仲間の瞬殺に恐れをなしたのか、残りの魔獣たちは尻尾を巻いて森の奥へと逃げ去っていった。  静寂が戻る。

「大丈夫か?」

 俺は兜を脱ぎ、うずくまるエルフの少女に近づいた。  彼女は肩で息をしながら、怯えた目で俺を見上げた。その手は、首の首輪を必死に掴んでいる。  近くで見ると、首輪の状態が異常なことがわかった。  赤熱しているのだ。金属が焼けつくような熱を発している。

「……あ、う……」

 彼女は口を動かすが、声にならない。  エレナが顔を青くして駆け寄ってきた。

「サガミ様、まずいです! その首輪は、着用者の魔力を燃料にして封印機能を維持するタイプです。ですが、今は魔力供給が不安定になって暴走しかけています!」 
「暴走するとどうなる?」 
「着用者の魔力を根こそぎ吸い尽くした挙句……爆発します」

 爆弾を首に巻いているようなものか。  少女の顔色が土気色に変わっていく。魔力欠乏によるショック症状だ。  彼女は涙を溜めた目で、諦めたように首を横に振った。  『逃げて』と言っているのだろう。

「構造は?」
「解除コードがないと無理です! 無理に外そうとすれば、防衛機構が働いて即座に起爆します!」

 エレナが叫ぶ。  なるほど。魔法的なセキュリティロックがかかっているわけだ。  俺は少女の前に片膝をつき、首輪を観察した。  複雑な紋様が刻まれた金属の輪。  魔力を感知し、吸い上げ、ロックを維持する。そして不正な魔力干渉があれば爆発する。  典型的な「対魔術師」用の罠だ。

 ……なら、関係ないな。

「じっとしてろ」

 俺は静かに手を伸ばした。  少女がビクリと身を竦め、目を閉じる。  俺の指先が、熱を帯びた首輪に触れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...