魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道

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第8話 爆発しない首輪

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「サガミ様、離れてください! 臨界点です!」

 エレナの悲鳴が森に木霊する。  エルフの少女の首にある『沈黙の首輪』は、いまや直視できないほどの赤熱を放ち、ブウン、ブウンと不気味な振動音を響かせていた。  少女――セフィは、恐怖で瞳孔を開き、ガタガタと震えている。  彼女の華奢な首筋は、熱で赤くただれていた。

(騒がしいな)

 俺は冷静に首輪の構造を観察した。  表面に刻まれた幾何学的な紋様。そこを流れる光の脈動。  どうやらこの首輪は、着用者の魔力を感知して「装着状態」を維持し、外部からの魔力干渉を感知すると「不正解除」とみなして自爆する仕組みらしい。  高度なセキュリティだ。魔術師なら手も足も出ないだろう。

 だが、俺は魔術師ではない。

「……あ、あぁ……」

 セフィが絶望の声を漏らす。  俺は構わず、その熱せられた金属に指をかけた。  熱い。だが、火傷するほどではない。  俺の指が紋様に触れる。  本来なら、ここで防御魔法が発動し、俺の手を弾くか、あるいは即座に起爆シークエンスへ移行するはずだ。

 しかし、何も起きない。

 首輪のセンサーは、俺の指を検知できていなかった。  魔力を持たない俺の肉体は、この世界の魔法的なセキュリティシステムにとって、ただの「空気」や「風」と同じ無機質な現象として処理される。  俺はそのまま、首輪の留め具――物理的なロック機構を探り当てた。

「動くなよ」

 俺は指先に力を込めた。  留め具は、魔力による磁力のようなもので固定されている。  普通なら、外そうとする力に反発してさらに強く締まる構造だ。  だが、俺が力を込めても、首輪は反発してこない。  俺の力は「魔力的な干渉」ではないからだ。  システムは「何もされていない」と判断しているのに、物理的な圧力だけが留め具を押し込んでいく。

 パチン。

 乾いた音がした。  その瞬間、首輪の明滅がフッと消えた。  魔力供給のラインが物理的に遮断され、システムがダウンしたのだ。

「え……?」

 セフィが目を見開く。  俺が手を離すと、分厚い金属の輪は、重力に従ってゴトリと地面に落ちた。  爆発も、閃光もない。  ただの冷たい金属ゴミが、そこに転がっているだけだ。

「……馬鹿な」

 後ろで剣を構えていたエレナが、腰を抜かしたように膝をついた。

「解除コードの詠唱もなく、強制解除の術式も組まず……。ただ触れただけで、自爆術式を沈黙させたのですか? そ、それほどの解析速度と、制圧力……!」

 エレナがまた何かブツブツと俺の過大評価を更新しているが、無視する。  俺はポケットから軟膏(以前の街で買った、傷薬だ)を取り出し、セフィの首筋に塗った。

「っ……」

 冷たい薬の感触に、セフィが肩を震わせる。  彼女は自分の首を恐る恐る触った。  そこにあったはずの、重く、苦しい枷がない。  彼女は口をパクパクと動かし、そして、掠れた音を絞り出した。

「……ぁ……あ……」

 長い間、声を封じられていたのだろう。  声帯が上手く機能していない。  彼女は咳き込みながら、それでも必死に言葉を紡ごうとした。  涙が溢れ、白い頬を伝って落ちる。

「……あ、ありが、とう……ござい、ます……」

 枯れ木が擦れるような、しわがれた声だった。  だが、それは確かに彼女自身の意志による言葉だった。  彼女は地面に額を擦り付けるようにして、俺の足元にひれ伏した。

「サガミ様……。この子は、エルフ族ですね。恐らく、森の掟か何かで追放されたのでしょう」

 エレナが立ち上がり、複雑な表情でセフィを見る。  エルフにとって、沈黙の首輪は重罪人の証だ。関わることはトラブルの元になる。  だが、俺はしゃがみ込み、セフィの顔を覗き込んだ。  銀色の睫毛が濡れている。

「立てるか」 
「は、はい……」 
「名前は」 
「……セフィ……です」

 少しずつ、声が出るようになってきたようだ。  鈴を転がすような、とはいかないが、芯のある透き通った響きを含んでいる。

「いい声だ」

 俺は短くそう言った。  セフィの肩がビクリと跳ねた。  彼女は顔を上げ、信じられないものを見るように俺を見つめた。  その瞳に、急速に色が戻っていくのがわかった。  絶望の灰色から、鮮やかな碧色へ。

「……っ」

 彼女は俺の袖をギュッと掴んだ。  もう二度と離さないとでも言うように、指先が白くなるほど強く。

「連れて行くぞ、エレナ」 
「は、はい! サガミ様がそう仰るなら、たとえ世界の敵であろうと!」

 俺はセフィの手を引き、歩き出した。  後ろから、金属ゴミと化した首輪をエレナが蹴飛ばす音が聞こえた。  静寂の森に、俺たちの足音だけが響いていた。
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