魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道

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第10話 守護獣の暴走

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「止まれ! 人間が立ち入っていい場所ではない!」

 門番のエルフたちが槍を構え、殺気立った声を上げた。  だが、その矛先は俺よりも、隣にいるセフィに向けられていた。

「それに、セフィ! 追放された忌み子が、なぜ戻ってきた! その首輪はどうした!?」 
「……わたしは……」

 セフィが何かを言いかけた時だった。  ズゥゥゥ……ン。  地鳴りのような振動が足元を揺らした。  直後、里の中心部から爆発音と共に、黒煙が立ち上る。

「な、なんだ!?」 
「大変だ! 広場で『守護獣様』が暴れているぞ!」

 奥から走ってきたエルフが叫んだ。  衛兵たちの顔色が変わる。彼らは俺たちへの警戒もそこそこに、慌てて里の中へと駆け出した。  俺とエレナは顔を見合わせた。

「……どうする? 無視して帰るか?」 
「サガミ様、あの煙の量……ただ事ではありません。放っておけば里が壊滅するかもしれません」 
「……」

 セフィが、懇願するような瞳で俺の袖を引いた。  声は出ないが、その目は『助けて』と叫んでいた。  やれやれ。乗りかかった船だ。  俺はため息をつき、彼らの後を追った。



 里の中央広場は地獄絵図だった。  家屋がなぎ倒され、美しい花壇が踏み荒らされている。  その中心で暴れ回っているのは、体長五メートルはあろうかという巨大な白い鹿だった。  ただし、その瞳は血のように赤く、全身からバチバチと青白い放電現象を起こしている。

「放てェッ!」

 エルフの魔術師部隊が、一斉に風の刃や炎の矢を放つ。  だが、魔法は鹿の身体に触れる直前で霧散していた。

「駄目です! 守護獣様は魔力を喰らう性質を持っています! 魔法攻撃は逆効果です!」 
「ええい、ならどうすればいいのだ! このままでは御神木まで折られてしまうぞ!」

 長老らしき老人が杖を握りしめ、絶望的な声を上げている。  物理的な矢や槍も放たれているが、鹿の纏う雷撃の障壁に弾かれ、皮膚にすら届いていない。

「魔法も、物理も通じない……。サガミ様、あれは上位の精霊獣です」

 エレナが剣を構えるが、踏み込めずにいた。  あの雷撃の結界がある限り、近づけば感電死する。金属鎧のエレナには相性が最悪だ。

「魔力を喰らう、か」

 俺は冷静に観察した。  あの雷撃の障壁は、高密度の魔力フィールドだ。魔法攻撃を吸収し、物理攻撃を弾く。  攻防一体の完璧な布陣に見える。  ……魔力が「ある」相手には、な。

 俺は鞄から、以前店で買った『剛力の籠手』を取り出した。  赤黒い革製で、不気味な紋様が脈打っている。  装着すると、腕にピタリと吸着した。

「サガミ様、まさか……」 
「ちょっと黙らせてくる」

 俺は無防備に広場へと歩み出た。  エルフたちが俺に気づき、叫ぶ。

「おい人間! 自殺する気か!?」 
「離れろ! 消し炭になるぞ!」

 守護獣が俺を認識した。  赤い瞳が俺を捉え、鼻から激しい蒸気を吹き出す。  次の瞬間、巨体が突進してきた。  トラックが突っ込んでくるようなものだ。周囲の空気がビリビリと震え、雷撃が俺の全身を襲う――はずだった。

 だが、俺の身体には魔力回路がない。  雷撃の正体である指向性魔力波は、俺の身体を「導体」として認識できず、ただ表面を滑っていくだけだ。  俺には、静電気のようなピリッとした刺激しか感じられない。

 目の前に迫る巨大な角。

 俺は逃げずに、左手を前に突き出した。  『剛力の籠手』の呪い――筋肉のリミッターを強制解除し、反動で使用者の骨を粉々に砕く自滅機能。  だが、俺の骨には魔力による破壊フィードバックが届かない。  残るのは、純粋な「出力増大」という物理現象だけだ。

 ドォォォォン!!

 衝撃音が広場に響き渡った。  俺の左手が、守護獣の角を正面から受け止めていた。  足元の石畳が蜘蛛の巣状に砕け散る。  だが、俺は一歩も退かなかった。

「……グルッ!?」

 守護獣が驚愕に目を見開く。  己の突進が、人間一人に止められたことが信じられないようだ。  俺は籠手をはめた手に力を込めた。  ミシミシ、と硬質な音がする。  鋼鉄よりも硬いはずの守護獣の角に、ヒビが入っていく。

「お座り」

 俺は短く告げ、その角を強引に地面へとねじ伏せた。  圧倒的な質量差など関係ない。  テコの原理と、呪いの馬鹿力があれば、支点が俺である限り相手はひっくり返る。

 ズズズンッ!

 巨大な鹿の頭が地面に叩きつけられた。  四肢が宙を浮き、巨体が横倒しになる。

「な……!?」

 静まり返る広場。  長老が、衛兵が、そしてセフィが、口をあんぐりと開けてその光景を見つめていた。  魔法を無効化し、物理を弾く最強の守護獣を、人間が片手で押さえ込んでいる。  魔法もスキルも使った気配はない。  ただの「腕力」でねじ伏せたようにしか見えないのだ。

「う、嘘だろ……?」 
「守護獣様を……素手で……?」

 俺は暴れようとする鹿の首筋を膝で押さえ、冷淡に言った。

「大人しくしていろ。次に動いたら、この角をへし折るぞ」

 言葉が通じたのか、あるいは生物としての格の違いを悟ったのか。  守護獣は「クゥーン」と情けない声を上げ、身体の雷撃を消滅させた。  完全降伏だ。

 俺は息を一つ吐き、籠手の埃を払った。  骨は折れていない。筋肉痛すらなさそうだ。  やはり、この世界の呪いアイテムは、俺にとってはただの便利グッズでしかない。
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