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第10話 守護獣の暴走
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「止まれ! 人間が立ち入っていい場所ではない!」
門番のエルフたちが槍を構え、殺気立った声を上げた。 だが、その矛先は俺よりも、隣にいるセフィに向けられていた。
「それに、セフィ! 追放された忌み子が、なぜ戻ってきた! その首輪はどうした!?」
「……わたしは……」
セフィが何かを言いかけた時だった。 ズゥゥゥ……ン。 地鳴りのような振動が足元を揺らした。 直後、里の中心部から爆発音と共に、黒煙が立ち上る。
「な、なんだ!?」
「大変だ! 広場で『守護獣様』が暴れているぞ!」
奥から走ってきたエルフが叫んだ。 衛兵たちの顔色が変わる。彼らは俺たちへの警戒もそこそこに、慌てて里の中へと駆け出した。 俺とエレナは顔を見合わせた。
「……どうする? 無視して帰るか?」
「サガミ様、あの煙の量……ただ事ではありません。放っておけば里が壊滅するかもしれません」
「……」
セフィが、懇願するような瞳で俺の袖を引いた。 声は出ないが、その目は『助けて』と叫んでいた。 やれやれ。乗りかかった船だ。 俺はため息をつき、彼らの後を追った。
◇
里の中央広場は地獄絵図だった。 家屋がなぎ倒され、美しい花壇が踏み荒らされている。 その中心で暴れ回っているのは、体長五メートルはあろうかという巨大な白い鹿だった。 ただし、その瞳は血のように赤く、全身からバチバチと青白い放電現象を起こしている。
「放てェッ!」
エルフの魔術師部隊が、一斉に風の刃や炎の矢を放つ。 だが、魔法は鹿の身体に触れる直前で霧散していた。
「駄目です! 守護獣様は魔力を喰らう性質を持っています! 魔法攻撃は逆効果です!」
「ええい、ならどうすればいいのだ! このままでは御神木まで折られてしまうぞ!」
長老らしき老人が杖を握りしめ、絶望的な声を上げている。 物理的な矢や槍も放たれているが、鹿の纏う雷撃の障壁に弾かれ、皮膚にすら届いていない。
「魔法も、物理も通じない……。サガミ様、あれは上位の精霊獣です」
エレナが剣を構えるが、踏み込めずにいた。 あの雷撃の結界がある限り、近づけば感電死する。金属鎧のエレナには相性が最悪だ。
「魔力を喰らう、か」
俺は冷静に観察した。 あの雷撃の障壁は、高密度の魔力フィールドだ。魔法攻撃を吸収し、物理攻撃を弾く。 攻防一体の完璧な布陣に見える。 ……魔力が「ある」相手には、な。
俺は鞄から、以前店で買った『剛力の籠手』を取り出した。 赤黒い革製で、不気味な紋様が脈打っている。 装着すると、腕にピタリと吸着した。
「サガミ様、まさか……」
「ちょっと黙らせてくる」
俺は無防備に広場へと歩み出た。 エルフたちが俺に気づき、叫ぶ。
「おい人間! 自殺する気か!?」
「離れろ! 消し炭になるぞ!」
守護獣が俺を認識した。 赤い瞳が俺を捉え、鼻から激しい蒸気を吹き出す。 次の瞬間、巨体が突進してきた。 トラックが突っ込んでくるようなものだ。周囲の空気がビリビリと震え、雷撃が俺の全身を襲う――はずだった。
だが、俺の身体には魔力回路がない。 雷撃の正体である指向性魔力波は、俺の身体を「導体」として認識できず、ただ表面を滑っていくだけだ。 俺には、静電気のようなピリッとした刺激しか感じられない。
目の前に迫る巨大な角。
俺は逃げずに、左手を前に突き出した。 『剛力の籠手』の呪い――筋肉のリミッターを強制解除し、反動で使用者の骨を粉々に砕く自滅機能。 だが、俺の骨には魔力による破壊フィードバックが届かない。 残るのは、純粋な「出力増大」という物理現象だけだ。
ドォォォォン!!
衝撃音が広場に響き渡った。 俺の左手が、守護獣の角を正面から受け止めていた。 足元の石畳が蜘蛛の巣状に砕け散る。 だが、俺は一歩も退かなかった。
「……グルッ!?」
守護獣が驚愕に目を見開く。 己の突進が、人間一人に止められたことが信じられないようだ。 俺は籠手をはめた手に力を込めた。 ミシミシ、と硬質な音がする。 鋼鉄よりも硬いはずの守護獣の角に、ヒビが入っていく。
「お座り」
俺は短く告げ、その角を強引に地面へとねじ伏せた。 圧倒的な質量差など関係ない。 テコの原理と、呪いの馬鹿力があれば、支点が俺である限り相手はひっくり返る。
ズズズンッ!
巨大な鹿の頭が地面に叩きつけられた。 四肢が宙を浮き、巨体が横倒しになる。
「な……!?」
静まり返る広場。 長老が、衛兵が、そしてセフィが、口をあんぐりと開けてその光景を見つめていた。 魔法を無効化し、物理を弾く最強の守護獣を、人間が片手で押さえ込んでいる。 魔法もスキルも使った気配はない。 ただの「腕力」でねじ伏せたようにしか見えないのだ。
「う、嘘だろ……?」
「守護獣様を……素手で……?」
俺は暴れようとする鹿の首筋を膝で押さえ、冷淡に言った。
「大人しくしていろ。次に動いたら、この角をへし折るぞ」
言葉が通じたのか、あるいは生物としての格の違いを悟ったのか。 守護獣は「クゥーン」と情けない声を上げ、身体の雷撃を消滅させた。 完全降伏だ。
俺は息を一つ吐き、籠手の埃を払った。 骨は折れていない。筋肉痛すらなさそうだ。 やはり、この世界の呪いアイテムは、俺にとってはただの便利グッズでしかない。
門番のエルフたちが槍を構え、殺気立った声を上げた。 だが、その矛先は俺よりも、隣にいるセフィに向けられていた。
「それに、セフィ! 追放された忌み子が、なぜ戻ってきた! その首輪はどうした!?」
「……わたしは……」
セフィが何かを言いかけた時だった。 ズゥゥゥ……ン。 地鳴りのような振動が足元を揺らした。 直後、里の中心部から爆発音と共に、黒煙が立ち上る。
「な、なんだ!?」
「大変だ! 広場で『守護獣様』が暴れているぞ!」
奥から走ってきたエルフが叫んだ。 衛兵たちの顔色が変わる。彼らは俺たちへの警戒もそこそこに、慌てて里の中へと駆け出した。 俺とエレナは顔を見合わせた。
「……どうする? 無視して帰るか?」
「サガミ様、あの煙の量……ただ事ではありません。放っておけば里が壊滅するかもしれません」
「……」
セフィが、懇願するような瞳で俺の袖を引いた。 声は出ないが、その目は『助けて』と叫んでいた。 やれやれ。乗りかかった船だ。 俺はため息をつき、彼らの後を追った。
◇
里の中央広場は地獄絵図だった。 家屋がなぎ倒され、美しい花壇が踏み荒らされている。 その中心で暴れ回っているのは、体長五メートルはあろうかという巨大な白い鹿だった。 ただし、その瞳は血のように赤く、全身からバチバチと青白い放電現象を起こしている。
「放てェッ!」
エルフの魔術師部隊が、一斉に風の刃や炎の矢を放つ。 だが、魔法は鹿の身体に触れる直前で霧散していた。
「駄目です! 守護獣様は魔力を喰らう性質を持っています! 魔法攻撃は逆効果です!」
「ええい、ならどうすればいいのだ! このままでは御神木まで折られてしまうぞ!」
長老らしき老人が杖を握りしめ、絶望的な声を上げている。 物理的な矢や槍も放たれているが、鹿の纏う雷撃の障壁に弾かれ、皮膚にすら届いていない。
「魔法も、物理も通じない……。サガミ様、あれは上位の精霊獣です」
エレナが剣を構えるが、踏み込めずにいた。 あの雷撃の結界がある限り、近づけば感電死する。金属鎧のエレナには相性が最悪だ。
「魔力を喰らう、か」
俺は冷静に観察した。 あの雷撃の障壁は、高密度の魔力フィールドだ。魔法攻撃を吸収し、物理攻撃を弾く。 攻防一体の完璧な布陣に見える。 ……魔力が「ある」相手には、な。
俺は鞄から、以前店で買った『剛力の籠手』を取り出した。 赤黒い革製で、不気味な紋様が脈打っている。 装着すると、腕にピタリと吸着した。
「サガミ様、まさか……」
「ちょっと黙らせてくる」
俺は無防備に広場へと歩み出た。 エルフたちが俺に気づき、叫ぶ。
「おい人間! 自殺する気か!?」
「離れろ! 消し炭になるぞ!」
守護獣が俺を認識した。 赤い瞳が俺を捉え、鼻から激しい蒸気を吹き出す。 次の瞬間、巨体が突進してきた。 トラックが突っ込んでくるようなものだ。周囲の空気がビリビリと震え、雷撃が俺の全身を襲う――はずだった。
だが、俺の身体には魔力回路がない。 雷撃の正体である指向性魔力波は、俺の身体を「導体」として認識できず、ただ表面を滑っていくだけだ。 俺には、静電気のようなピリッとした刺激しか感じられない。
目の前に迫る巨大な角。
俺は逃げずに、左手を前に突き出した。 『剛力の籠手』の呪い――筋肉のリミッターを強制解除し、反動で使用者の骨を粉々に砕く自滅機能。 だが、俺の骨には魔力による破壊フィードバックが届かない。 残るのは、純粋な「出力増大」という物理現象だけだ。
ドォォォォン!!
衝撃音が広場に響き渡った。 俺の左手が、守護獣の角を正面から受け止めていた。 足元の石畳が蜘蛛の巣状に砕け散る。 だが、俺は一歩も退かなかった。
「……グルッ!?」
守護獣が驚愕に目を見開く。 己の突進が、人間一人に止められたことが信じられないようだ。 俺は籠手をはめた手に力を込めた。 ミシミシ、と硬質な音がする。 鋼鉄よりも硬いはずの守護獣の角に、ヒビが入っていく。
「お座り」
俺は短く告げ、その角を強引に地面へとねじ伏せた。 圧倒的な質量差など関係ない。 テコの原理と、呪いの馬鹿力があれば、支点が俺である限り相手はひっくり返る。
ズズズンッ!
巨大な鹿の頭が地面に叩きつけられた。 四肢が宙を浮き、巨体が横倒しになる。
「な……!?」
静まり返る広場。 長老が、衛兵が、そしてセフィが、口をあんぐりと開けてその光景を見つめていた。 魔法を無効化し、物理を弾く最強の守護獣を、人間が片手で押さえ込んでいる。 魔法もスキルも使った気配はない。 ただの「腕力」でねじ伏せたようにしか見えないのだ。
「う、嘘だろ……?」
「守護獣様を……素手で……?」
俺は暴れようとする鹿の首筋を膝で押さえ、冷淡に言った。
「大人しくしていろ。次に動いたら、この角をへし折るぞ」
言葉が通じたのか、あるいは生物としての格の違いを悟ったのか。 守護獣は「クゥーン」と情けない声を上げ、身体の雷撃を消滅させた。 完全降伏だ。
俺は息を一つ吐き、籠手の埃を払った。 骨は折れていない。筋肉痛すらなさそうだ。 やはり、この世界の呪いアイテムは、俺にとってはただの便利グッズでしかない。
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