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第18話 【ルネ視点】穢れなき抱擁
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私は、生まれた時から「籠の鳥」でした。 生まれつき膨大すぎる魔力を持ち、周囲に災厄を撒き散らす危険な存在。 教会の人々は、私を『聖女』と呼び、分厚い法衣の中に封印しました。 『聖女の法衣』。 それは神の加護であると同時に、私を世界から隔絶する冷たい檻でした。
法衣には、不純な者を焼き殺す結界が張られています。 だから、私は誰の手にも触れたことがありません。 両親でさえ、私に触れることを恐れました。 転んで膝を擦りむいても、誰も抱き起こしてくれません。遠巻きに「ああ、聖女様」「神のご加護を」と祈られるだけ。 私はずっと、人の体温を知らずに生きてきました。
疫病が街を襲った時、私は死を覚悟しました。 結界を維持するために、法衣が私の生命力を吸い上げていく感覚。 寒気がするのに、脂汗が止まらない。息ができない。 薄れゆく意識の中で、私は司祭様たちの顔を見ました。 彼らは心配していましたが、それは「私」の心配ではなく、「結界装置」が壊れることへの心配でした。 ああ、私はこのまま、誰にも触れられず、誰のぬくもりも知らずに、冷たい祭壇の上で干からびていくんだ。 そう諦めた時でした。
彼が、現れたのは。 相模登(さがみ のぼる)様。 彼は、司祭様たちの制止を無視して、まっすぐに私に歩み寄ってきました。 その瞳には、私を崇める色も、恐れる色もありませんでした。 ただ、道端の石ころや、修理が必要な道具を見るような、静かで透明な瞳。
彼が手を伸ばした時、法衣の防衛機能が作動しました。 白い炎が彼の手を包みます。 「だめ!」と私は心の中で叫びました。彼が黒焦げになって死んでしまう、と。 けれど、彼は顔色一つ変えませんでした。 炎を振り払うことすらせず、その手を私の背中と膝裏に回し、軽々と抱き上げたのです。
――え?
燃えない。 それどころか、法衣越しに伝わってくる彼の体温が、私の芯まで届きました。 生まれて初めて感じる、他人の熱。 ゴツゴツとした骨ばった感触。衣服から漂う、少し埃っぽい匂い。 神聖でも何でもない、生々しい「人間」の感覚。
彼は私を外へ連れ出し、躊躇なく法衣を脱がせました。 何重もの布が取り払われ、汗で濡れた肌が外気に晒されます。 恥ずかしい、と思う余裕もありませんでした。 彼の手が、私の首筋に触れ、水を飲ませてくれました。 その指先は、法衣の炎よりもずっと熱く、力強かった。 「聖女」という記号を剥ぎ取り、ただの「ルネ」として扱ってくれた。 その乱暴なまでの優しさが、私の胸を焦がしました。
極め付きは、彼が法衣を自ら纏った時です。 私を苦しめ、誰も寄せ付けなかった絶対の呪い。 それを、彼は「防寒着だ」と言って着こなし、最後はゴミのように投げ捨てました。 カラン、と音がして、私の中の常識が崩れ去りました。 教会の権威も、聖女の宿命も、彼にとっては意味のない布切れに過ぎなかったのです。
気がつけば、私は彼の手を握りしめていました。 司祭様たちは、彼を「不純な男だ」と言いました。 嘘です。 法衣の裁きを受けず、呪いを無効化できる彼こそが、この世界で最も清らかな存在に違いありません。 いいえ、たとえ彼が不純であったとしても、もうどうでもいいのです。
私に触れてくれた人。 私を「重い」と言って、人間として扱ってくれた人。
サガミ様。 私の命も、身体も、心も、すべてあなたのものです。 あなたが望むなら、聖女なんて辞めて、ただの女としてお側に侍りましょう。 あなたがくれたこの熱が冷めない限り、私は一生、あなただけのものです。
私は彼を見つめながら、熱い想いがこみ上げてくるのを抑えきれませんでした。 これが、恋というものなのでしょうか。 だとしたら、私は喜んでこの熱に溺れたいと思いました。
法衣には、不純な者を焼き殺す結界が張られています。 だから、私は誰の手にも触れたことがありません。 両親でさえ、私に触れることを恐れました。 転んで膝を擦りむいても、誰も抱き起こしてくれません。遠巻きに「ああ、聖女様」「神のご加護を」と祈られるだけ。 私はずっと、人の体温を知らずに生きてきました。
疫病が街を襲った時、私は死を覚悟しました。 結界を維持するために、法衣が私の生命力を吸い上げていく感覚。 寒気がするのに、脂汗が止まらない。息ができない。 薄れゆく意識の中で、私は司祭様たちの顔を見ました。 彼らは心配していましたが、それは「私」の心配ではなく、「結界装置」が壊れることへの心配でした。 ああ、私はこのまま、誰にも触れられず、誰のぬくもりも知らずに、冷たい祭壇の上で干からびていくんだ。 そう諦めた時でした。
彼が、現れたのは。 相模登(さがみ のぼる)様。 彼は、司祭様たちの制止を無視して、まっすぐに私に歩み寄ってきました。 その瞳には、私を崇める色も、恐れる色もありませんでした。 ただ、道端の石ころや、修理が必要な道具を見るような、静かで透明な瞳。
彼が手を伸ばした時、法衣の防衛機能が作動しました。 白い炎が彼の手を包みます。 「だめ!」と私は心の中で叫びました。彼が黒焦げになって死んでしまう、と。 けれど、彼は顔色一つ変えませんでした。 炎を振り払うことすらせず、その手を私の背中と膝裏に回し、軽々と抱き上げたのです。
――え?
燃えない。 それどころか、法衣越しに伝わってくる彼の体温が、私の芯まで届きました。 生まれて初めて感じる、他人の熱。 ゴツゴツとした骨ばった感触。衣服から漂う、少し埃っぽい匂い。 神聖でも何でもない、生々しい「人間」の感覚。
彼は私を外へ連れ出し、躊躇なく法衣を脱がせました。 何重もの布が取り払われ、汗で濡れた肌が外気に晒されます。 恥ずかしい、と思う余裕もありませんでした。 彼の手が、私の首筋に触れ、水を飲ませてくれました。 その指先は、法衣の炎よりもずっと熱く、力強かった。 「聖女」という記号を剥ぎ取り、ただの「ルネ」として扱ってくれた。 その乱暴なまでの優しさが、私の胸を焦がしました。
極め付きは、彼が法衣を自ら纏った時です。 私を苦しめ、誰も寄せ付けなかった絶対の呪い。 それを、彼は「防寒着だ」と言って着こなし、最後はゴミのように投げ捨てました。 カラン、と音がして、私の中の常識が崩れ去りました。 教会の権威も、聖女の宿命も、彼にとっては意味のない布切れに過ぎなかったのです。
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