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第17話 奇跡の代行者
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中庭の空気は凍りついていた。 俺が投げ捨てた『聖女の法衣』を、司祭たちが慌てて拾い上げ、埃を払っている。 彼らにとって、それは神そのものと同義らしい。
「なんという罰当たりな……! これは教団の象徴であり、聖女様の生命維持装置でもあるのだぞ!」
恰幅の良い高位の司祭が、顔を真っ赤にして唾を飛ばした。
「生命維持装置?」
俺は眉をひそめた。 あの服が生命力を吸っているのは明白だ。何を根拠にそんなことを言っている?
「そうだ! 聖女様は生まれつき魔力が強すぎて、肉体が耐えきれないのだ。この法衣が余剰な魔力を吸収し、結界に変えることで、彼女は生かされている。これを着なければ、彼女は自身の魔力に食い破られて死ぬ!」
……なるほど。 そういう理屈か。 確かに一理あるかもしれない。放射能漏れを起こしている原子炉(ルネ)から、エネルギーを強制的に抜き取る冷却装置(法衣)という関係。 だが、今のルネを見る限り、その設定は破綻している。 彼女は法衣を脱いだことで呼吸が楽になり、顔色も戻りつつある。 逆に、司祭が法衣を持って近づくと、彼女の身体が拒絶反応のように震え出し、肌が青ざめていくのが見えた。
「いや、違うな」
俺は冷静に分析した。 かつてはその理屈で機能していたのかもしれない。だが、長年の使用で法衣の吸収効率がバグっている。あるいは、ルネが弱ったことで、「余剰魔力」だけでなく「生命維持に必要な魔力」まで根こそぎ吸い上げている状態だ。 過剰冷却だ。このまま着せれば、彼女は確実に凍死(魔力枯渇死)する。
「お召しください、聖女様。さあ、早く!」
司祭たちが、嫌がるルネに法衣を押し付けようとする。 ルネが恐怖に目を潤ませ、俺に助けを求める視線を送ってくる。 やれやれ。
「貸せ」
俺は司祭の手から、強引に法衣を奪い取った。
「ああっ! 貴様、また!」
「そんなにこれが大事なら、俺が着てやる」
俺は分厚いマントを翻し、自分の肩に羽織った。 周囲から悲鳴が上がる。
「き、狂ったか!?」
「不純な男が身に纏えば、骨まで残さず焼かれるぞ!」
「聖女様の魔力を吸うための器に、一般人が耐えられるわけがない!」
司祭たちが目を覆い、ルネが「だめぇっ!」と叫ぶ。 全員が、俺が火だるまになる瞬間を予想した。
……シーン。
数秒が経過。 俺は法衣の袖に腕を通し、襟元を整えた。 重い。布団を背負っているようだ。 だが、それだけだ。
「……え?」
指の隙間から見ていた司祭が、間の抜けた声を出す。 炎は出ない。 吸血のような魔力吸収も起きない。 法衣のシステムは、俺という着用者をスキャンしようとして、エラーを吐き続けている状態だ。 『対象が見つかりません』『燃料がありません』『スタンバイモードに移行します』。 そんなログが見えるようだ。 結果、これはただの分厚い、悪趣味な金刺繍の布切れに成り下がった。
「な、なぜだ……? なぜ燃えない!?」
「聖なる炎が……彼を受け入れているというのか……?」
司祭たちがガタガタと震え出す。 彼らの教義では、この法衣を着られるのは「神に選ばれた清らかな乙女」だけ。 それを、どこの馬の骨とも知れない男が、平然と着こなしている。 これは彼らにとって、天地がひっくり返るほどの異常事態だ。
「ふむ。冬場なら悪くない防寒着だな」
俺はわざとらしく裾を払ってみせた。 そして、法衣に残っていた「残留魔力」――これまでルネから吸い上げ、蓄積されていたエネルギーが、行き場を失って霧散していくのを感じた。 俺という「絶縁体」に着せられたことで、回路がショートし、溜め込まれていた呪い(魔力)がリセットされたのだ。
シュゥゥゥ……。 法衣から黒い煙のようなものが抜け、空気に溶けていく。 同時に、ルネの顔色が劇的に良くなった。 遠隔で繋がっていたパス(魔力経路)が切断された証拠だ。
「身体が……軽い……」
ルネが自分の手を見つめ、驚いたように立ち上がった。 今度はふらつきもしない。 彼女は、黄金の法衣を纏って立つ俺を見上げ、感極まったように口元を押さえた。
「ああ……。法衣の呪いが、浄化されていく……」
彼女には、俺が身を挺して呪いを引き受け、その聖なる魂(?)で法衣を浄化したように見えたらしい。 実際は、ただのガス抜きだ。
「ば、馬鹿な……。男が、聖女の代行者になったとでも言うのか……」
司祭長が膝から崩れ落ちる。 教団の権威は、今ここで粉々に砕け散った。 俺は重たい法衣を脱ぎ捨て、司祭長に放ってやった。
「返してやるよ。もう、魔力を吸う機能は壊れたみたいだがな」
ドサッ。 地面に落ちた法衣は、かつての神々しい輝きを失い、ただの古びた布になっていた。 魔力を蓄積する回路(バッテリー)が放電しきって、ただの布に戻ったのだ。
「もう彼女に着せる必要はない。……というか、着せても無駄だ。ただ重いだけだからな」
俺はそう言い捨て、ルネに向き直った。 彼女はもう、死にかけの病人ではない。 頬に薔薇色の血色が戻り、瞳には生気が満ち溢れている。 そして、その瞳は熱烈な光を宿して、俺を捉えて離さなかった。
「……サガミ様」
彼女が、祈るように両手を組む。 教団の象徴である法衣を無力化し、自らの身で奇跡を証明した男。 彼女の中で、信仰の対象が「見えない神」から「目の前の現実」へと完全にシフトした瞬間だった。
「なんという罰当たりな……! これは教団の象徴であり、聖女様の生命維持装置でもあるのだぞ!」
恰幅の良い高位の司祭が、顔を真っ赤にして唾を飛ばした。
「生命維持装置?」
俺は眉をひそめた。 あの服が生命力を吸っているのは明白だ。何を根拠にそんなことを言っている?
「そうだ! 聖女様は生まれつき魔力が強すぎて、肉体が耐えきれないのだ。この法衣が余剰な魔力を吸収し、結界に変えることで、彼女は生かされている。これを着なければ、彼女は自身の魔力に食い破られて死ぬ!」
……なるほど。 そういう理屈か。 確かに一理あるかもしれない。放射能漏れを起こしている原子炉(ルネ)から、エネルギーを強制的に抜き取る冷却装置(法衣)という関係。 だが、今のルネを見る限り、その設定は破綻している。 彼女は法衣を脱いだことで呼吸が楽になり、顔色も戻りつつある。 逆に、司祭が法衣を持って近づくと、彼女の身体が拒絶反応のように震え出し、肌が青ざめていくのが見えた。
「いや、違うな」
俺は冷静に分析した。 かつてはその理屈で機能していたのかもしれない。だが、長年の使用で法衣の吸収効率がバグっている。あるいは、ルネが弱ったことで、「余剰魔力」だけでなく「生命維持に必要な魔力」まで根こそぎ吸い上げている状態だ。 過剰冷却だ。このまま着せれば、彼女は確実に凍死(魔力枯渇死)する。
「お召しください、聖女様。さあ、早く!」
司祭たちが、嫌がるルネに法衣を押し付けようとする。 ルネが恐怖に目を潤ませ、俺に助けを求める視線を送ってくる。 やれやれ。
「貸せ」
俺は司祭の手から、強引に法衣を奪い取った。
「ああっ! 貴様、また!」
「そんなにこれが大事なら、俺が着てやる」
俺は分厚いマントを翻し、自分の肩に羽織った。 周囲から悲鳴が上がる。
「き、狂ったか!?」
「不純な男が身に纏えば、骨まで残さず焼かれるぞ!」
「聖女様の魔力を吸うための器に、一般人が耐えられるわけがない!」
司祭たちが目を覆い、ルネが「だめぇっ!」と叫ぶ。 全員が、俺が火だるまになる瞬間を予想した。
……シーン。
数秒が経過。 俺は法衣の袖に腕を通し、襟元を整えた。 重い。布団を背負っているようだ。 だが、それだけだ。
「……え?」
指の隙間から見ていた司祭が、間の抜けた声を出す。 炎は出ない。 吸血のような魔力吸収も起きない。 法衣のシステムは、俺という着用者をスキャンしようとして、エラーを吐き続けている状態だ。 『対象が見つかりません』『燃料がありません』『スタンバイモードに移行します』。 そんなログが見えるようだ。 結果、これはただの分厚い、悪趣味な金刺繍の布切れに成り下がった。
「な、なぜだ……? なぜ燃えない!?」
「聖なる炎が……彼を受け入れているというのか……?」
司祭たちがガタガタと震え出す。 彼らの教義では、この法衣を着られるのは「神に選ばれた清らかな乙女」だけ。 それを、どこの馬の骨とも知れない男が、平然と着こなしている。 これは彼らにとって、天地がひっくり返るほどの異常事態だ。
「ふむ。冬場なら悪くない防寒着だな」
俺はわざとらしく裾を払ってみせた。 そして、法衣に残っていた「残留魔力」――これまでルネから吸い上げ、蓄積されていたエネルギーが、行き場を失って霧散していくのを感じた。 俺という「絶縁体」に着せられたことで、回路がショートし、溜め込まれていた呪い(魔力)がリセットされたのだ。
シュゥゥゥ……。 法衣から黒い煙のようなものが抜け、空気に溶けていく。 同時に、ルネの顔色が劇的に良くなった。 遠隔で繋がっていたパス(魔力経路)が切断された証拠だ。
「身体が……軽い……」
ルネが自分の手を見つめ、驚いたように立ち上がった。 今度はふらつきもしない。 彼女は、黄金の法衣を纏って立つ俺を見上げ、感極まったように口元を押さえた。
「ああ……。法衣の呪いが、浄化されていく……」
彼女には、俺が身を挺して呪いを引き受け、その聖なる魂(?)で法衣を浄化したように見えたらしい。 実際は、ただのガス抜きだ。
「ば、馬鹿な……。男が、聖女の代行者になったとでも言うのか……」
司祭長が膝から崩れ落ちる。 教団の権威は、今ここで粉々に砕け散った。 俺は重たい法衣を脱ぎ捨て、司祭長に放ってやった。
「返してやるよ。もう、魔力を吸う機能は壊れたみたいだがな」
ドサッ。 地面に落ちた法衣は、かつての神々しい輝きを失い、ただの古びた布になっていた。 魔力を蓄積する回路(バッテリー)が放電しきって、ただの布に戻ったのだ。
「もう彼女に着せる必要はない。……というか、着せても無駄だ。ただ重いだけだからな」
俺はそう言い捨て、ルネに向き直った。 彼女はもう、死にかけの病人ではない。 頬に薔薇色の血色が戻り、瞳には生気が満ち溢れている。 そして、その瞳は熱烈な光を宿して、俺を捉えて離さなかった。
「……サガミ様」
彼女が、祈るように両手を組む。 教団の象徴である法衣を無力化し、自らの身で奇跡を証明した男。 彼女の中で、信仰の対象が「見えない神」から「目の前の現実」へと完全にシフトした瞬間だった。
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