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第一部: 終わりと始まりの日 - 第一章: 地方都市郊外の学園にて
第六話: 消えた少女と追う教師
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職員室に到着した僕と辻ヶ谷先生を出迎えたのは、ひっきりなしに響いている電話の着信音と複数人が怒鳴りあっているかのような大声だった。
「――他に何か分かったことはありますか? ええ、ええ……」
「あれだけ目立つ生徒が参加していれば誰かしらの記憶に留まらないはずがないでしょう。よくお聞き取りなさい!」
「十二時半頃、講堂のラウンジにいたという話ですが、それは――」
「寮に外泊届けが出ている? シズマユキコ? 違います、別人です。他には?」
「――今日明日のご予定の確認だけに留めてください。まだ事を大きくしないように」
幾人もの先生方が、内線で学園のあちこちとやり取りしているようだ。
この場を取り仕切って指示を出している様子の教頭先生が、入り口で立ちすくむ僕らに気付き、声を掛けてくる。
「辻ヶ谷先生、白埜先生。ようやく戻りましたか」
「あの、何があったんですか?」
「聞いておりませんか? 先ほど、白埜先生への連絡と呼び出しをお願いしたところなのですが、そのご様子では入れ違いになってしまったようですね。先生、お宅のクラスの美須磨月子さん、所在を把握していらっしゃいますか? 何かお心当たりがおありでしたら教えてくださいませ」
僕は辻ヶ谷先生と顔を見合わせ、お互いに首を傾げる。
「いえ、特には何も。終業式の後は一度も見ていません。まさか――」
「なるほど、ミスマの行方が分からなくなっているんですね」
僕らの言葉を聞いた教頭先生は、はぁ~っと落胆の溜息を吐いた後、眼鏡の位置擦れを直し、眉間に指を当て、首を軽く左右に振りながらゆっくりと話し出す。
「前々より伝えられていた大事な席に、予定の時刻を大幅に過ぎても現れていないとのことです。先ほどから学園各所に確認しつつ足取りを追い、先生方には手分けして学園内を捜してもらっておりますが……。まもなく全校放送も入ることでしょう」
なるほど、それは確かに結構な大事だろう。
話を聞くうちに一つ思い当たり、僕は軽く手を挙げながら「教頭先生」と呼びかける。
「十五時頃のことだったのですが、美須磨と親しくしている阿知波碧たちと舞踏会で会いまして、直前まで一緒に過ごしていたというような話を耳にしました」
「それは新しい情報ですね。藪柑子先生! 三年生の阿知波碧さんに至急連絡して話を――」
とりあえず、美須磨の個人端末に連絡を入れてみるが……うん、まったく繋がらない。
学級委員や情報通の生徒にメールし、クラスの連絡網へも情報提供を呼びかけるが……結果はあまり芳しくないな。確かに、人目を惹く彼女にしてはありえないことである。
詳細は伏せ、何か気付いたことがあれば副担任まで伝えてほしいとだけ皆には言っておく。
うーん、この場で僕ができることはあまりなさそうだ。他の先生方に任せて足を使うか。
と、横に目を向ければ、辻ヶ谷先生もどうやら同意見らしく、先ほどまで着用していなかった厚手のパーカーを羽織り、手袋を取り出している。
「「僕らも捜索に加わります」」
教頭先生に一声掛け、男二人、揃って職員室を飛び出すのだった。
「それじゃ、どっから回りましょうか」
「イベント会場とか生徒が集まっている場所はもうどなたか当たってるでしょうし、手分けして人気のない屋外を潰していきましょう」
「うへぇ、この寒い中。損な役っすねー」
「ぼやかないでくださいよ。なんだかますます寒くなってきそうで――」
「あぁ、白埜先生。ちょうど好かった」
職員室のある教職員棟から表に出たところで修道女の恰好をした若い女性が声を掛けてきた。
そのまま楚々とした足取りで僕のすぐ傍まで近付いてくる。
えっと、誰だったかな? 附属教会の人……とは縁がないしな。でも、顔には見覚えが。
「あー、確か、中等部の……」
「はい、高等部で所在が分からなくなっている生徒さんがいると伺い、こちらに参りました」
良かった。合ってた。名前は思い出せないが中等部の新任の先生だ。
シスターではなかったはずだが、教会の方でミサの手伝いでもしていたのだろうか。
「何か心当たりが? 美須磨月子という、とても目を惹く生徒なのですが」
「これくらいの背丈で『ザ・美少女』という印象の女の子ですよ?」
「ひっ、あ、あの……、その生徒さんかどうかははっきりしていないのですけれど、中等部寮に戻ってきた子たちより、どうもおかしなお話が上っておりまして」
「おかしな?」
「『高等部からの帰途、いつの間にやら共にいて、寮に着いたら消えていた、まるで此世のものとも思えないあの麗しのお方は、一体どこのどなただったのかしら』というような怪談が――」
「「美須磨だ!」」
本学園のキャンパスは、大学、高等部、中等部、小等部、幼稚舎で完全に敷地が分かれており、それぞれ壁で隔てられ、グラウンド、体育館、クラブ棟、教職員棟、学生寮といった主要施設も各校がそれぞれ専用で持っている。
とは言え、隣接する学部の敷地は通用門と専用通路で繋げられ、教師や学生であればID付き身分証を提示するだけで比較的自由に行き来が可能だ。
本来なら通行記録として足跡が残されてしまうそれも、全校合同行事が行われている本日は、かなりチェックが緩くなっていたはず。
小集団に紛れて行動していたのなら、内から外へは素通りできたかも知れない。
「あちゃー、撤収する中学生に紛れてたんすかね。なかなか見つからんわけだわ」
「彼女は中等部の方でも有名だとは思いますけど、ちゃんと顔までは知られてないでしょうし。この宵闇に、祭りの混乱。中等部寮から更に外門を出ていった可能性までありますね」
「ま、ガードが堅い高等部の門をわざわざ避けたんだとしたら狙いはソレですかね」
「あの……」
「あ、すいません、シスター? 貴女はこのことを職員室の捜索本部まで伝えてもらえますか。それから、僕……辻ヶ谷と白埜が校外へ捜索に行きました、と」
「よろしくお願いします。急ぎましょう、辻ヶ谷先生」
『美須磨、何があったのかは分からないが、早まった真似はしないでいてくれよ』
「――他に何か分かったことはありますか? ええ、ええ……」
「あれだけ目立つ生徒が参加していれば誰かしらの記憶に留まらないはずがないでしょう。よくお聞き取りなさい!」
「十二時半頃、講堂のラウンジにいたという話ですが、それは――」
「寮に外泊届けが出ている? シズマユキコ? 違います、別人です。他には?」
「――今日明日のご予定の確認だけに留めてください。まだ事を大きくしないように」
幾人もの先生方が、内線で学園のあちこちとやり取りしているようだ。
この場を取り仕切って指示を出している様子の教頭先生が、入り口で立ちすくむ僕らに気付き、声を掛けてくる。
「辻ヶ谷先生、白埜先生。ようやく戻りましたか」
「あの、何があったんですか?」
「聞いておりませんか? 先ほど、白埜先生への連絡と呼び出しをお願いしたところなのですが、そのご様子では入れ違いになってしまったようですね。先生、お宅のクラスの美須磨月子さん、所在を把握していらっしゃいますか? 何かお心当たりがおありでしたら教えてくださいませ」
僕は辻ヶ谷先生と顔を見合わせ、お互いに首を傾げる。
「いえ、特には何も。終業式の後は一度も見ていません。まさか――」
「なるほど、ミスマの行方が分からなくなっているんですね」
僕らの言葉を聞いた教頭先生は、はぁ~っと落胆の溜息を吐いた後、眼鏡の位置擦れを直し、眉間に指を当て、首を軽く左右に振りながらゆっくりと話し出す。
「前々より伝えられていた大事な席に、予定の時刻を大幅に過ぎても現れていないとのことです。先ほどから学園各所に確認しつつ足取りを追い、先生方には手分けして学園内を捜してもらっておりますが……。まもなく全校放送も入ることでしょう」
なるほど、それは確かに結構な大事だろう。
話を聞くうちに一つ思い当たり、僕は軽く手を挙げながら「教頭先生」と呼びかける。
「十五時頃のことだったのですが、美須磨と親しくしている阿知波碧たちと舞踏会で会いまして、直前まで一緒に過ごしていたというような話を耳にしました」
「それは新しい情報ですね。藪柑子先生! 三年生の阿知波碧さんに至急連絡して話を――」
とりあえず、美須磨の個人端末に連絡を入れてみるが……うん、まったく繋がらない。
学級委員や情報通の生徒にメールし、クラスの連絡網へも情報提供を呼びかけるが……結果はあまり芳しくないな。確かに、人目を惹く彼女にしてはありえないことである。
詳細は伏せ、何か気付いたことがあれば副担任まで伝えてほしいとだけ皆には言っておく。
うーん、この場で僕ができることはあまりなさそうだ。他の先生方に任せて足を使うか。
と、横に目を向ければ、辻ヶ谷先生もどうやら同意見らしく、先ほどまで着用していなかった厚手のパーカーを羽織り、手袋を取り出している。
「「僕らも捜索に加わります」」
教頭先生に一声掛け、男二人、揃って職員室を飛び出すのだった。
「それじゃ、どっから回りましょうか」
「イベント会場とか生徒が集まっている場所はもうどなたか当たってるでしょうし、手分けして人気のない屋外を潰していきましょう」
「うへぇ、この寒い中。損な役っすねー」
「ぼやかないでくださいよ。なんだかますます寒くなってきそうで――」
「あぁ、白埜先生。ちょうど好かった」
職員室のある教職員棟から表に出たところで修道女の恰好をした若い女性が声を掛けてきた。
そのまま楚々とした足取りで僕のすぐ傍まで近付いてくる。
えっと、誰だったかな? 附属教会の人……とは縁がないしな。でも、顔には見覚えが。
「あー、確か、中等部の……」
「はい、高等部で所在が分からなくなっている生徒さんがいると伺い、こちらに参りました」
良かった。合ってた。名前は思い出せないが中等部の新任の先生だ。
シスターではなかったはずだが、教会の方でミサの手伝いでもしていたのだろうか。
「何か心当たりが? 美須磨月子という、とても目を惹く生徒なのですが」
「これくらいの背丈で『ザ・美少女』という印象の女の子ですよ?」
「ひっ、あ、あの……、その生徒さんかどうかははっきりしていないのですけれど、中等部寮に戻ってきた子たちより、どうもおかしなお話が上っておりまして」
「おかしな?」
「『高等部からの帰途、いつの間にやら共にいて、寮に着いたら消えていた、まるで此世のものとも思えないあの麗しのお方は、一体どこのどなただったのかしら』というような怪談が――」
「「美須磨だ!」」
本学園のキャンパスは、大学、高等部、中等部、小等部、幼稚舎で完全に敷地が分かれており、それぞれ壁で隔てられ、グラウンド、体育館、クラブ棟、教職員棟、学生寮といった主要施設も各校がそれぞれ専用で持っている。
とは言え、隣接する学部の敷地は通用門と専用通路で繋げられ、教師や学生であればID付き身分証を提示するだけで比較的自由に行き来が可能だ。
本来なら通行記録として足跡が残されてしまうそれも、全校合同行事が行われている本日は、かなりチェックが緩くなっていたはず。
小集団に紛れて行動していたのなら、内から外へは素通りできたかも知れない。
「あちゃー、撤収する中学生に紛れてたんすかね。なかなか見つからんわけだわ」
「彼女は中等部の方でも有名だとは思いますけど、ちゃんと顔までは知られてないでしょうし。この宵闇に、祭りの混乱。中等部寮から更に外門を出ていった可能性までありますね」
「ま、ガードが堅い高等部の門をわざわざ避けたんだとしたら狙いはソレですかね」
「あの……」
「あ、すいません、シスター? 貴女はこのことを職員室の捜索本部まで伝えてもらえますか。それから、僕……辻ヶ谷と白埜が校外へ捜索に行きました、と」
「よろしくお願いします。急ぎましょう、辻ヶ谷先生」
『美須磨、何があったのかは分からないが、早まった真似はしないでいてくれよ』
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