偽りの告白─偽りから始まる恋─

海野すじこ

文字の大きさ
16 / 19

第15話 婚約(前編)

しおりを挟む



イザベル嬢の裁判が終わり平穏な日々が戻って来た。

私は、今までと変わらず王宮の書庫で働いている。

前と違うのは、偽りの恋人から本当の恋人に変わったことだろうか?

空いた時間は一緒に過ごし、休みの日は一緒に出かけたり...誤解が解けたのもあり、やっと私もこの恋人として一緒の時間を心から楽しめるようになったのだ。


しかし私は大事な事を忘れていた...。

父に、早めに恋人が出来たと伝えるべきだったのだ。



私はある日、父の執務室に呼ばれた。

「シルヴィア!婚約者候補が見つかったぞ。すごく誠実な方でお前を大事にしてくれそうな方だ。一週間後顔合わせの食事会をする。良かったな。相手は公爵家の方で、お前にすごく好意を持って下さっている。格上の方だから失礼のないようにな。」

私は父の言葉に血の気が引いた。

初恋が実った事に浮かれすぎていたのだ...。
こんな大事な事を忘れていただなんて。


どうしよう...。
今から嫌と言える状況じゃない。
お父様は私の為、家の為にこの婚約話をまとめてくれたのだから。

でも私は...ヘルムート様の事が本当に好き。
ヘルムート様とやっと本物の恋人になれたのに...。

投げやりに婚約者を探してもらうんじゃなかった。

まさか初恋が実るなんて思わなかったから...。
一生恋なんて無縁だと思っていた。

どうせ政略結婚するなら相手なんて誰だって変わらない...そう私は思っていた。

自分があまりに愚かだった事に今更気付く。
相手は公爵家...侯爵家の令嬢ごときが、今更嫌だ!なんて言えない。

でも、本当に好きな恋人がいるのに...婚約なんてできない。
ヘルムート様にも、お相手の方にも失礼だもの...。

お会いするだけして、本当の事を話そう。

もしかしたら...事情をお話したらお相手の方も理解してくれるかもしれない。婚約を辞退してくれるかもしれない。

でもダメだったら?お相手の方が怒るかもしれない...。

お相手の方は、私に好意を持ってくれているとお父様は言っていた。すごく怒らせてしまうかもしれない。

私はとても不誠実で傲慢すぎた。

婚約者なんて...結婚相手なんてどうでもいいだなんて...。
なんて愚かだったの?

お相手の方にとても失礼だ...。
いくら政略でも...お相手の方だって心を持った同じ人間なのだから。

政略結婚だって...ちゃんと相手と心を通わせ、愛を育んでいる夫婦もたくさんいる。 

中には仮面夫婦な家庭もあるだろう...けれど、それはほんの一部だ。

私はヘルムート様が好きだ。
一緒に未来を歩むならヘルムート様がいい。
ヘルムート様じゃなきゃ嫌だ...。

そんな私がお相手の方と心を通わせる?
出来る訳がない。すぐに私の気持ちなどお相手の方には伝わってしまうだろう。

でも...お会いしてハッキリお断りしよう。こんな気持ちを抱えたままじゃ...お相手の方にもヘルムート様にも失礼すぎるもの。

お相手の方はとても怒るかもしれない。
お父様もすごく怒るかもしれない。
その怒りはすべて受け止めよう。

もしかしたら...私は家を追い出されてしまうかもしれない。
それでも私は...自分の心をもう偽りたくない。

偽りなんて...相手も自分も傷つけるだけだ。
きっと偽りなんてすぐに見破られてしまうだろう。

お相手の方に嘘をつくなんて...私にはできない。
その痛みは...偽りの恋から始まった私が一番よく知っているから。

例えお断りする前提でもお相手の方にも誠実に接したい。
お相手の方の心の傷にならないように。

そして...こんな不誠実で愚かな女ではなく、もっと誠実で素敵な方と結ばれて、こんな愚かな女の事などすぐに忘れてくれたらいいなと思う。

ヘルムート様にこの事を話さないと...。

ヘルムート様は怒るかしら...?
怒るわよね...。

万が一貴族でなくなっても、ヘルムート様は私の事を愛してくれるだろうか?

ヘルムート様は公爵家の子息。
貴族でなくなった女なんてきっと無理だろう...。

この心はもう....ヘルムート様に捧げてしまった。
今更他の男性と婚約なんて...出来ない。

ヘルムート様を裏切るくらいなら...死んだ方がマシだ。
もう彼を悲しませたくない。

公爵家相手に婚約をお断りすれば...私はきっと勘当されてしまうだろう。
私だけが処罰されるならいい...家族は大丈夫だろうか?

次から次へと不安が過る。

一体どうしたら...。

父から婚約の話を聞かされて...不安と焦りと後悔で夜も眠れなかった。

「シルヴィア...顔色が真っ青だけど大丈夫?」

ヘルムート様の声にはっとした。

婚約の話をしなくちゃと思っていたのに。
でもいざ彼を前にするとなかなか話せない...。

でもどんどん婚約の顔合わせの日が近付いている。
言わないといけないのに...。彼の悲しむ顔を思い浮かべるとなかなか言い出せない。

「ごめんなさい。今日はちょっと調子が悪いみたいなので帰ります。せっかく誘って下さったのにごめんなさい...。」


ヘルムート様とせっかく出かける予定だったのに...。
心の準備がつかず逃げてしまった。言わないといけないのに...。彼の顔を見てしまうと言えなくなってしまう。

みっともなく...すがり付いて助けてと泣いてしまいそうになる。彼の優しさに甘えてしまいたくなる。

自分の失態なのに...。きっとこんな姿を見せたらヘルムート様は呆れて私を嫌いになってしまうだろう...。

私はいったいどうしたら...。



そして...あっという間に婚約の顔合わせの日が来てしまった。
結局、ヘルムート様には言い出すことができなかった。













 











しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

嫌いなあいつの婚約者

みー
恋愛
朝目が覚めると、見たことのない世界にいて?! 嫌いな幼馴染みが婚約者になっている世界に来てしまった。 どうにかして婚約を破棄しようとするけれど……?

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

よめかわ

ariya
恋愛
遊び人として名高い貴族・夏基は、不祥事の罰として「醜聞の姫」白川殿と政略結婚することに。 初夜、暗い印象しかなかった姫の顔を初めて見た瞬間――大きな黒目がちな瞳、薄桜色の頬、恥ずかしげに俯く仕草に、夏基は衝撃を受ける。 (可愛すぎる……こんな姫が俺の妻!?) 亡き恋人への想いを捨てきれず、夫を拒む白川殿。 それでも夏基は過去の女たちに別れを告げ、花を贈り、文を重ね、誠心誠意尽くして彼女の心を溶かしていく。 儚くて純粋で、泣き顔さえ愛らしい姫を、夏基はもう手放せない―― 平安貴族の切なく甘い、極上よめかわ恋物語。 ※縦読み推奨です。 ※過去に投稿した小説を加筆修正しました。 ※小説家になろう、カクヨム、NOVELDAYにも投稿しています。

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

処理中です...